ジグリセリンは、グリセリン2分子が脱水縮合してできた二量体で、INCI名 Diglycerin、化粧品表示名称も医薬部外品表示名称も同じ「ジグリセリン」という保湿剤にあたる(出典: 化粧品成分オンライン)。この記事の中心は、その「名前が変わらない」という一点にある。同じ保湿の役割を担う成分でも、PEG-8は医薬部外品では「ポリエチレングリコール400」と分子量の名前に変わり、メチルグルセス-10は-20と束ねられて「ポリオキシエチレンメチルグルコシド」の1名称に収まり、グリコシルトレハロースにいたっては単独名の収載がない(出典: 日本化粧品工業連合会 医薬部外品の成分表示名称リスト)。ジグリセリンは、この4本のなかで唯一、制度をまたいでも呼び名が動かない側に立つ。そして自社の商品マスター集計では、化粧水から乳液・ジェル・洗顔・シャンプーまで剤型を選ばずに現れる唯一の1本でもある。名前の残り方と使われ方、その両面から中立に整理する。

1. ジグリセリンの基本

1.1 何の成分か

ジグリセリンは、グリセリンの二量体にあたる多価アルコールで、1分子あたり4個のヒドロキシ基(-OH)を持つ(出典: 化粧品成分オンライン)。グリセリンはヒドロキシ基を3個持つ炭素3個の分子で、その2分子の間で水1分子が取れてエーテル結合ができると、炭素6個・ヒドロキシ基4個のジグリセリンになる。CIRの安全性評価書は、ジグリセリンを Diglycerin is a dimer of glycerin と定義し、CAS番号は成分固有の 59113-36-9、総称としては 25618-55-7 を挙げている(出典: CIR 2023)。

物性は「グリセリンをもう一段だけ重くした液体」と考えると分かりやすい。CIRの表に載る値では、分子量 166.17 g/mol、20℃での密度 1.28 g/ml、粘度 15,400 mPa/s、沸点は274℃以上、外観は無色〜わずかに黄色の粘稠な液体になる(出典: CIR 2023)。グリセリン(分子量約92)のおよそ1.8倍の大きさで、粘度も高い。この「大きくなった分だけ動きが鈍い」という性質が、後述する使用感の違いにつながる。

日本の制度上の位置づけは医薬部外品の添加成分にあたる。日本化粧品工業連合会の『医薬部外品の成分表示名称リスト』には、連番1003・成分コード500201 として「ジグリセリン」がそのままの名前で収載されており、本質欄は「本品は,主としてグリセリンの二量体であり,ジグリセリン(C6H14O5:116.17)からなる.」と記す(出典: 日本化粧品工業連合会 医薬部外品の成分表示名称リスト)。化粧品成分オンラインの整理でも、化粧品表示名称・医薬部外品表示名称ともに「ジグリセリン」で、医薬部外品原料規格2021にも収載されている(出典: 化粧品成分オンライン)。つまり薬用化粧水・薬用乳液・薬用洗顔などの医薬部外品に、有効成分ではない「その他成分」として保湿の役割で配合されうる。ジグリセリン自体に承認された効能はない。

なお、上のリスト本質欄にある分子量の値には注意がいる。C6H14O5 という分子式から計算される分子量は166前後で、CIRの表が示す 166.17 g/mol と一致する。本記事では原本の記載を原文どおり引用したうえで、分子量そのものはCIRの 166.17 を採る(出典: 日本化粧品工業連合会 / CIR 2023)。

もうひとつ、成分表の「ジグリセリン」が単一の化合物名として読めてしまう点も補っておきたい。グリセリンの重合体は、線状・環状・分岐(デンドリック)のいずれの形もとりうる。CIRの報告書は、化粧品原料として扱われるポリグリセリン類は線状のものと見られるとしたうえで、ジグリセリンやポリグリセリン-3 には単量体・オリゴマー・環状成分・分岐成分が含まれうると記す。工業的な製法の記述では、蒸留を経た製品が線状ジグリセリン90%程度で、残りにグリセリンとポリグリセリン-3 が混じるとされる一方、純度99.8%との報告もある(出典: CIR 2023)。成分表の1行は、実務上はこうした幅を持った原料を指している。

1.2 どんな製品に配合されるか

化粧品成分オンラインは、ジグリセリンの適用製品としてスキンケア・ボディケア・ハンドケア・マスク・洗顔料・メイクアップ・シャンプー・クレンジング・アウトバストリートメント・洗顔石鹸・ボディソープを挙げている(出典: 化粧品成分オンライン)。ほぼ全カテゴリで、剤型の縛りが見当たらない。

使用実態の数字としては、CIRが参照した2023年のVCRP(米FDAの化粧品届出制度)で、ジグリセリンの届出は222製剤、ポリグリセリン-3 は221製剤だった。2022年の使用濃度調査では、評価対象4成分のなかでジグリセリンの最大使用濃度が最も高く、洗浄料で28%まで、洗い流さない皮膚適用では顔・首用製品で5%まで報告されている(出典: CIR 2023)。

ここで本記事の中核データにあたるのが、DappNotes の自社商品マスターの集計になる。スキンケア54製品・ヘアケア78製品を機械集計すると、ジグリセリンの配合は9製品(スキンケア8・ヘアケア1)だった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。

製品配合位置剤型
NILE 濃密泡スカルプシャンプー13番目/全64成分シャンプー
無印良品 敏感肌用化粧水 高保湿4番目/全24成分化粧水
DISM オールインワンジェル モイスト6番目/全51成分ジェル
メラノCC ディープクリア酵素洗顔7番目/全24成分洗顔
ウーノ バイタルクリームパーフェクション fA8番目/全35成分クリーム
肌ラボ 極潤ヒアルロン液10番目/全15成分化粧水
マニフィーク モイスチュアライジング ローション15番目/全20成分化粧水
&GINO プレミアムフェイスエッセンス アクアモイス17番目/全73成分美容液
murphy 薬用オールインワンジェル31番目/全37成分ジェル

この分布は、本クラスタの他の3成分と並べたときに際立つ。メチルグルセス-10 は7製品すべてがスキンケアで、そのうち4製品が「4番目」という前寄りの定位置に入る。PEG-8 は6製品すべてがスキンケアで、うち4製品が洗顔フォームに集中する。グリコシルトレハロースはスキンケア6製品のうち4製品が洗顔料と、洗浄系に寄る。メチルグルセス-10 と PEG-8 にいたっては、ヘアケア78製品に1件も出てこない(出典: DappNotes 商品マスター集計)。

対してジグリセリンは、化粧水・乳液/クリーム・ジェル・美容液・洗顔・シャンプーのすべてに現れる。4本のうち剤型を選ばないのはジグリセリンだけで、配合位置も4番目から31番目までと最も散らばる。前寄りに置かれれば処方の骨格を担う保湿剤、後ろに置かれれば感触の微調整、という両方の使われ方をしていることになる。実際、成分数15の肌ラボ 極潤ヒアルロン液では10番目(全体の3分の2の位置)、成分数73の &GINO では17番目(4分の1の位置)と、同じ順位でも処方内の意味が変わる。

なお全成分表示は原則として配合量の多い順に並ぶが、1%以下の成分は順不同で書いてよい決まりになっている。後ろのほうに書かれているからといって、その成分が仕事をしていないとは読めない。

同じ製品に本クラスタの成分が2本同居する例もある。無印良品 敏感肌用化粧水 高保湿では、ジグリセリンが4番目、グリコシルトレハロースが5番目と隣り合っている(出典: DappNotes 商品マスター集計)。この点は §4.1 で扱う。

1.3 メンズ視点での見方

メンズスキンケアで保湿剤を見るときに、いちばん現実的な争点は「保湿力」より「べたつき」にある。男性は皮脂分泌量が女性の約2倍とされる一方で、肌内部の水分量は女性の約半分ともいわれ、皮脂は多いのに内側は乾くという状態に陥りやすい(出典: メンズスキンケア専門メディア各種)。ここで高濃度のグリセリン主体の製品を使うと、保湿は効いてもぬるつく感触が残り、続かない理由になりやすい。

ジグリセリンが原料メーカーの提案で使われる文脈は、まさにここにある。国内のグリセリン専業メーカーである阪本薬品工業は、ジグリセリンS(表示名称 ジグリセリン)を高保湿剤のラインナップに置き、0.5%の少量配合でグリセリンのべたつきを抑制すると説明している。同社は重合度の違いでエモリエント感やハリ(被膜)感といった使用感を作り分けられるとし、ジグリセリンやポリグリセリンを感触調整剤としても位置づけている(出典: 週刊粧業オンライン 2024年6月)。

自社集計の分布も、この用途と整合する。ジグリセリンが4番目に入る無印良品 敏感肌用化粧水 高保湿、10番目に入る肌ラボ 極潤ヒアルロン液は、いずれもさっぱりした使用感の化粧水にあたる。一方でウーノのクリームやDISMのオールインワンジェルのような、しっとり側の剤型にも入る(出典: DappNotes 商品マスター集計)。この両側への展開が、剤型を選ばない分布の実態になる。

もうひとつ押さえておきたいのが、髭剃り後の肌にあたる。毎日の髭剃りで角質と皮脂膜が削られるとバリア機能が下がり、洗浄後のpHの戻りも遅れやすい(出典: メンズスキンケア専門メディア各種)。刺激の少ない保湿剤で水分を戻すこと自体は理にかなうが、ジグリセリンは「傷んだバリアを修復する」成分ではない。この線引きは §2.3 で改めて整理する。

2. 期待される働き・効果

2.1 メカニズム

ジグリセリンが保湿剤として働く仕組みは、分子が持つ4個のヒドロキシ基にある。ヒドロキシ基は水分子と水素結合を作るため、多価アルコールは空気中や角層中の水を引き寄せて手放しにくい。これがヒューメクタント(湿潤剤)と呼ばれる働きにあたる。

グリセリンとの差は、ヒドロキシ基の数と分子の大きさの両方から出る。グリセリンはヒドロキシ基3個・分子量約92、ジグリセリンはヒドロキシ基4個・分子量166.17 になる(出典: CIR 2023)。ヒドロキシ基の絶対数は増えるが、分子量あたりで見るとグリセリンのほうが密度が高い。化粧品成分オンラインが引く試験では、ジグリセリンは湿度に比例して高い吸湿性を示すものの、グリセリンほどではないと報告されている。角層水分量についても、塗布直後から高い増加を示すが、やはりグリセリンほどではないとされる(出典: 化粧品成分オンライン)。

つまり吸湿の強さそのものはグリセリンに一歩譲る。にもかかわらず処方に採られるのは、感触の側で得るものがあるからにあたる。分子が大きく粘度も高いぶん肌の上での挙動が変わり、原料メーカーはこれを「べたつきの抑制」と説明する(出典: 週刊粧業オンライン 2024年6月)。保湿力を最大化するのではなく、保湿力と使用感の折り合いをつける位置に置かれる成分になる。

もう一段、処方の内側での役割もある。化粧品成分オンラインは、ジグリセリンの配合目的として「角層水分量増加による保湿作用」と並んで「製品自体の保水」を挙げている(出典: 化粧品成分オンライン)。肌の上での働きと、ボトルの中での働きの2つを担っていることになる。

なお皮膚への吸収については、CIRのパネルがこれらのポリグリセリン類を「大きな分子で皮膚に吸収されにくい」と評価している(出典: CIR 2023)。角層の表面側で水を保つ成分であって、深部に入り込んで何かをする成分ではない。

2.2 一般的な効能範囲

日本の制度で言えることは、はっきりしている。ジグリセリンは化粧品にも医薬部外品にも配合できるが、医薬部外品の有効成分ではない。成分表示名称リストに「ジグリセリン」として収載されているのは、薬用化粧水・薬用乳液・薬用洗顔などに「その他成分」として配合されうるという意味であって、承認された効能があるわけではない(出典: 日本化粧品工業連合会 医薬部外品の成分表示名称リスト / 化粧品成分オンライン)。

したがって、ジグリセリンについて言える範囲は化粧品の効能効果の枠内にとどまる。「肌にうるおいを与える」「肌をなめらかにする」といった表現がその範囲にあたり、逆に「シミが消える」「シワを治す」「ニキビを治す」「育毛する」は化粧品では標榜できない。医薬部外品でも、標榜できるのは承認を受けた有効成分と効能の組み合わせに限られ、ジグリセリンはその主体にならない。

CIRが用いる成分辞書の分類でも、ジグリセリンの機能はヒューメクタント(湿潤剤)と、湿潤による皮膚コンディショニング剤の2つに整理されている(出典: CIR 2023)。裏を返せば、抗炎症・抗酸化・美白・抗菌といった機能は割り当てられていない。

製品全体としての訴求と、ジグリセリン単体でできることも分けて読みたい。「高保湿」と書かれた化粧水にジグリセリンが4番目に入っていれば、その保湿感の一部を担っているとは言える。ただし製品の保湿感は、水・BG・グリセリン・油分・増粘剤・エモリエントの総体で決まる。

2.3 限界・誤解されやすい点

誤解されやすい点を4つ挙げておく。

第一に、「ジグリセリンはグリセリンの上位互換」ではない。二量体という響きから、グリセリンを強化した成分と読まれることがある。しかし吸湿性でも角層水分量の増加でも、報告されているのはグリセリンほどではないという結果にあたる(出典: 化粧品成分オンライン)。実際、原料メーカーの処方例でもジグリセリンはグリセリンを置き換えるのではなく、グリセリンのべたつきを抑える相方として少量使う提案がなされている(出典: 週刊粧業オンライン 2024年6月)。

第二に、「グリセリンフリー」との関係にあたる。グリセリンで肌荒れを感じる人が代わりにジグリセリン配合品を選ぶという話は見かけるが、ジグリセリンはグリセリンの重合体で、CIRのパネルはこれらのポリグリセリン類が分解して単量体のグリセリンを含む混合物として存在しうると指摘しており、原料そのものにも残留グリセリンが含まれうる(出典: CIR 2023)。「グリセリンとは無縁の成分」と考えるのは実態に合わない。

第三に、配合位置から効き目を逆算できない点にあたる。自社集計でジグリセリンの配合位置は4番目から31番目まで散らばるが、これは製品ごとの設計の違いであって、順位が低い製品の保湿が弱いという話ではない(出典: DappNotes 商品マスター集計)。

第四に、バリア機能そのものへの働きかけを期待しすぎないことにあたる。ジグリセリンは角層に水を引き寄せて保つ成分で、細胞間脂質やタンパクを補う成分ではない。髭剃りや洗いすぎでバリアが落ちている肌では、油分でふたをする設計や、刺激そのものを減らす見直しが同時に要る。ヒューメクタント単独で解決する種類の問題ではない。

3. 安全性・注意点

3.1 既知の刺激性・アレルギー報告

ジグリセリンの安全性について、まとまった公的評価にあたるのが CIR(Cosmetic Ingredient Review)の報告書『Safety Assessment of Diglycerin and Polyglycerin-3, -6, and -10 as Used in Cosmetics』になる。2023年8月18日公開、同年9月11〜12日のパネル会合に提出された Draft Final Report for Panel Review というステータスの文書で、ジグリセリン・ポリグリセリン-3・ポリグリセリン-6・ポリグリセリン-10 の4成分を扱う。結論は4成分とも safe in cosmetics in the present practices of use and concentration described in this safety assessment、すなわち本評価書に記載された現行の使用実態と使用濃度において安全、というものにあたる(出典: CIR 2023)。以下、皮膚刺激・感作・眼刺激の順に試験の内訳を見ておく。

皮膚刺激については、ジグリセリンを希釈せずウサギ皮膚に4時間適用した急性刺激性試験2件(OECD TG 404)で、いずれも刺激性なしと判定されている。ヒトでは、50%水溶液を50名に24時間適用して刺激なし、原液を33名に24時間閉塞適用して刺激なし、という結果がある。ただし原液を34名に48時間適用した試験では、5名に疑わしい紅斑が観察された。この48時間の試験と先の24時間の試験については、方法論上の不備を理由に信頼性が高くないと ECHA の登録資料で位置づけられている(出典: CIR 2023)。

皮膚感作については、マウスを用いた局所リンパ節試験(LLNA・OECD TG 429)で、25%・50%・100% の刺激指数がそれぞれ 1.4・2.1・1.9 と算出され、非感作性と判定された。モルモット最大化試験は4件あり、3件が非感作性、1件のみが感作性ありという判定になっている。感作性ありとされた1件は、20%の皮内注射に続けて原液を塗布した条件で、チャレンジ後に24時間評価で2匹、48時間評価で3匹に陽性反応が出たものにあたる(出典: CIR 2023)。

眼刺激については、原液を点眼した急性試験で眼刺激指数の平均が0だった例がある一方、別の試験では虹彩の炎症と軽度〜中等度の結膜の発赤が見られ、48時間で可逆的に回復している(出典: CIR 2023)。

日本側の情報は、これらより粗い。化粧品成分オンラインは、ジグリセリンの皮膚刺激性・眼刺激性について詳細な試験データが見当たらずデータ不足としつつ、重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告は見当たらないと整理し、40年以上の使用実績があると記す(出典: 化粧品成分オンライン)。CIRの報告書と合わせると、試験のレベルでは概ね刺激性が低く、市販製品での重篤な報告も目立たない、という理解になる。

3.2 推奨配合量と過剰配合時のリスク

日本の化粧品基準に、ジグリセリンの配合上限規定はない(配合可能成分)。医薬部外品でも、原料規格2021に収載された「その他成分」として、処方の目的に応じて配合される。「何%以上で効く」「何%を超えると危ない」という閾値が公的に定められている種類の成分ではない。

実際に使われている濃度の目安としては、CIRが参照した2022年の業界団体調査の数字が手がかりになる。ジグリセリンの最大使用濃度は、洗浄料で28%、洗い流さない皮膚適用の顔・首用製品で5%、アイローションで3%、口紅で3.6% と報告されている(出典: CIR 2023)。パネルはこの実態を前提に安全と結論しているので、裏を返せば、担保されるのは報告された使用実態と濃度の範囲までになる。

原料メーカー側の処方提案では、もっと控えめな数字が出てくる。阪本薬品工業は、ジグリセリンS を0.5%配合するだけでグリセリンのべたつきを抑制できるとし、濃厚ローションの処方例ではジグリセリンS 5% を軸にポリグリセリン-3 3%・ポリグリセリン-10 1.5% を組み合わせている(出典: 週刊粧業オンライン 2024年6月)。感触調整として少量、保湿の骨格として数%、という2通りの使い分けが想定されていることになる。

過剰配合のリスクは、毒性というより処方バランスの問題として現れる。多価アルコールは吸湿性を持つため、高濃度で配合すると、湿度の低い環境ではかえって肌側から水を引いてしまうという指摘があり、これはグリセリンでも同じく言われる。またジグリセリンは粘度15,400 mPa/s の粘稠な液体で(出典: CIR 2023)、入れれば入れるほど製品のテクスチャーが重くなる。べたつきを抑える目的で選ばれた成分が、量を増やしすぎれば重さの原因になるという逆転が起きうる。この意味で「多いほど良い」タイプの成分ではない。

CIRが評価の外に置いた領域も明記しておく。エアブラシ送達系(airbrush delivery system)で適用される化粧品成分については、曝露を評価するデータが公開されていないためデータ不十分と結論されている(出典: CIR 2023)。これはジグリセリン固有の懸念ではなく、CIRが化粧品成分全般に共通して付す注記にあたる。

3.3 「危険性」と言われる根拠と実態の整理

ジグリセリンについて「危険」と語られるときの根拠は、おおむね次の3つに整理できる。順に、根拠と実態を突き合わせる。

1つ目は「石油由来の合成成分だから」という理由。 製法としては、エピクロロヒドリンの加水分解でグリシドールを作り、これをグリセリンと反応させてジグリセリンを得る経路がある。エピクロロヒドリンは反応性の高い化合物で、この名前だけを見て危険視されることがある。ただしCIRの報告書自体、これらは一般的なポリグリセリン製造の記述であって化粧品原料の製造に実際に使われているかは不明だと断っており、製品としては蒸留を経て残留グリセリンや水を除いたもの、純度99.8%との報告もあるとしている(出典: CIR 2023)。原料の反応性と、精製後に配合される成分の安全性は別の話にあたる。判断材料になるのは実際に行われた試験の結果になる。

2つ目は「感作性ありという試験結果が存在する」という理由。 これは事実にあたる。モルモット最大化試験4件のうち1件で、チャレンジ後に陽性反応が観察され、感作性ありと判定されている(出典: CIR 2023)。ただし同じ報告書には、残り3件の最大化試験が非感作性、マウスのLLNAも非感作性という結果が並ぶ。CIRのパネルはこれらを総合したうえで、陰性の皮膚刺激・感作データが安全性を裏づけると評価し、4成分とも安全と結論した(出典: CIR 2023)。1件だけ異なる結果が出たことを隠す必要はないが、それが結論を覆す扱いにはならなかった、というのが実際の経緯になる。もちろん、どんな成分でも個々人で合わないことはある。

3つ目は「発がん性試験がない」という理由。 これも事実で、CIRの報告書はこれら4成分について発がん性試験が存在しないと明記している。パネルはこの欠落を、遺伝毒性試験がいずれも陰性であったことで懸念が緩和されると判断した。さらに、反復投与毒性・生殖発生毒性・発がん性というデータのない項目については、2019年に安全と結論済みのグリセリンのデータをリードアクロス(類推)で用いることが妥当だと考えた(出典: CIR 2023)。ジグリセリンがグリセリンの重合体であり、分解すればグリセリンを含む混合物として存在しうる、という化学的な連続性がその根拠にあたる。「試験がない=危険」ではなく、「試験がない項目を、別のデータでどう埋めたか」を読むのが評価書の正しい読み方になる。

規制の面でも、ジグリセリンに制限はかかっていない。CIRの報告書は、これらの成分がEUの化粧品規則のもとで一切の使用制限を受けていないと記す(出典: CIR 2023)。日本でも化粧品基準の配合上限規定はなく、医薬部外品原料規格2021に収載されている(出典: 化粧品成分オンライン)。

最後に、本記事が参照した CIR の文書は Draft Final Report for Panel Review、すなわちパネル会合に提出された最終報告書案にあたる。同内容の結論がそれ以前の Tentative Report の段階でも示されていたことは報告書の経緯欄から読み取れるが、記事作成時点で最終公表版として確認できたわけではない(出典: CIR 2023)。

4. 相性の良い・悪い成分

4.1 併用推奨

ジグリセリンは、単独で使われるより組み合わせて使われる成分にあたる。実際の処方で相性がよいとされる組み合わせを3つの方向で挙げる。

同じヒューメクタント同士の組み合わせ。 最も典型的なのが グリセリン との併用になる。原料メーカーの提案は、グリセリンで保湿の土台を作り、ジグリセリンでそのべたつきを抑えるという役割分担にあたる(出典: 週刊粧業オンライン 2024年6月)。BG(ブチレングリコール)DPG(ジプロピレングリコール)プロパンジオール といったグリコール類も、保湿と同時に溶剤の役割を持つため、多価アルコールを何種類か重ねて感触と保湿を調整する設計はごく一般的になる。

骨格の違う保湿剤との組み合わせ。 分子量の大きな ヒアルロン酸Na加水分解ヒアルロン酸 は、肌の表面で水を抱えた膜を作るタイプにあたる。グリコシルトレハローストレハロース のような糖系、ベタインPCA-Na のような天然保湿因子系も、水の抱え方が多価アルコールとは違う。実例として、無印良品 敏感肌用化粧水 高保湿ではジグリセリン(4番目)とグリコシルトレハロース(5番目)が隣り合って配合されている(出典: DappNotes 商品マスター集計)。骨格の違う保湿剤を並べるのは、保湿力を足し算するというより、湿度や時間帯によって効き方の違う成分を重ねるという発想にあたる。

油分・エモリエントとの組み合わせ。 ヒューメクタントは水を引き寄せるが、引き寄せた水を逃がさないためには油分によるふたが要る。髭剃り後や乾燥期の肌では、ジグリセリン配合の化粧水だけで終えるより、乳液やクリームで油分を重ねるほうが結果につながりやすい。

4.2 併用注意

ジグリセリンに、特定成分との配合禁忌として公的に示されているものは見当たらない。CIRの報告書にも、EUの規制情報にも、併用制限に関する記載はない(出典: CIR 2023)。そのうえで、実用上の注意点として押さえておきたい点を3つ挙げる。

多価アルコールの重ねすぎ。 ジグリセリン単体の問題ではなく、グリセリン・BG・DPG・ジグリセリンといった多価アルコールを高濃度で重ねると、製品全体としてぬめりや重さが出やすくなる。成分表の上位に多価アルコールがいくつ並んでいるかを見るほうが、ジグリセリンの有無より実用的な手がかりになる。

低湿度環境での使い方。 ヒューメクタント全般に言えることだが、周囲の湿度が極端に低い環境では空気中から水を得にくくなる。冬場の屋内で化粧水だけ済ませて油分を重ねないと、かえって乾いた感じが強まることがある。成分の相性というより使い方の問題にあたる。

グリセリンで不調が出る人。 グリセリンで肌荒れやニキビの悪化を感じる人が一定数いる。ジグリセリンはグリセリンの重合体で、原料に残留グリセリンが含まれうるうえ、パネルもこれらのポリグリセリン類が分解して単量体のグリセリンを含む混合物として存在しうると指摘している(出典: CIR 2023)。グリセリンを避けたい人にとって、ジグリセリンが確実な回避先になるとは言えない。実際に不調が出ているなら、成分名で置き換えるより、パッチテストや皮膚科での相談を挟むほうが確実にあたる。

4.3 類似成分

重合度が名前になる系列

まず、ジグリセリンと同じ発想で名づけられた成分から見ていく。グリセリンをさらにつなげると、ポリグリセリン-3、ポリグリセリン-6、ポリグリセリン-10 と続き、CIRの安全性評価書がジグリセリンと一緒に扱っているのもこの3成分にあたる。名前の数字はグリセリン残基の数を示していて、ジグリセリンは n=2 の位置に立つ。報告書は、最大でも重合度10なので「ポリマー」より「オリゴマー」と呼ぶほうが適切だとも注記している(出典: CIR 2023)。

ジグリセリンを骨格として別の鎖を足した成分もある。PPG-9ジグリセリル は、ジグリセリンにプロピレングリコールの鎖を平均9モル付加した誘導体にあたる。母体はジグリセリンだが、付加された鎖の分だけ性質は別物になる。名前に「ジグリセリル」が残っているので、成分表を見れば骨格の親戚だと分かる。

そして、比較の起点にあるのが グリセリン になる。単量体・二量体という関係で、化学的にはいちばん近い。吸湿性・角層水分量の増加ではグリセリンが上回り、感触の面ではジグリセリンに分がある、というのが報告されている差にあたる(出典: 化粧品成分オンライン / 週刊粧業オンライン 2024年6月)。

骨格が違う4つの保湿剤

ここからが本記事の主題になる。同じ「保湿剤」のくくりの中でも骨格の作り方は複数あり、本クラスタで扱う4成分はその4通りの代表にあたる。

成分骨格化粧品表示名の刻み方
ジグリセリングリセリンの二量体重合度そのもの(ジ=2)
PEG-8エチレンオキシド鎖そのものEO付加モル数(8)
メチルグルセス-10メチルグルコシド+EO鎖EO付加モル数(10)
グリコシルトレハロース糖(トレハロース由来)糖の名前

PEG-8 はエチレンオキシドがつながった鎖そのもので、同族に PEG-6PEG-32 がある。メチルグルセス-10 は、メチルグルコシドという糖の誘導体を核にEO鎖を付けたもので、同じ骨格から派生する成分に ジオレイン酸PEG-120メチルグルコーストリイソステアリン酸PEG-120メチルグルコース がある。グリコシルトレハロースは二糖の トレハロース に糖が付いたもので、加水分解水添デンプン と組み合わせて使われることが多い。

名前は制度をまたぐと変わる

ここで本記事の力点に入る。化粧品の全成分表示では、上の表のとおり4成分がそれぞれの流儀で刻まれている。ところが医薬部外品の成分表示名称に移ると、その刻み方が保存されない。

成分医薬部外品の成分表示名称リストでの残り方
ジグリセリン同名でそのまま収載(連番1003・成分コード500201)
PEG-8別の軸の名前に変わる。平均分子量表記の「ポリエチレングリコール400」(連番1934・110357)
メチルグルセス-10-20と束ねられて1名称。「ポリオキシエチレンメチルグルコシド」(連番2146・503136)
グリコシルトレハロース単独名では存在せず、「グリコシルトレハロース・水添デンプン分解物混合溶液」(連番689)としてのみ収載

(出典: 日本化粧品工業連合会 医薬部外品の成分表示名称リスト)

4本とも違う残り方をしている。ジグリセリンは名前が動かない。PEG-8 は、化粧品ではEO付加モル数の8で刻まれるのに対し、医薬部外品では平均分子量の400で刻まれる。同じリストには、ポリエチレングリコール200・300・400・600・1000・1500・1540・2000・4000・6000・11000・20000 が連番1932〜1943 に個別収載されており、分子量ごとに別の名称が立っている。メチルグルセス-10 は逆に、幅を持たせた1つの名称にまとめられる。リストの本質欄は酸化エチレンの平均付加モル数を10〜20と記すので、メチルグルセス-10 も -20 も部外品では同じ名前で書かれる。グリコシルトレハロースは、単独の収載自体が見当たらない。

ここで押さえておきたいのが、この名前の違いが規制区分の違いを意味しない点にあたる。4成分とも、DappNotes の分類では同じ 医薬部外品の添加成分(医薬部外品の添加成分)に置いている。名前がそのまま残るジグリセリンも、名前が変わる PEG-8 も、束ねられるメチルグルセス-10 も、単独名を持たないグリコシルトレハロースも、「医薬部外品に有効成分ではないその他成分として配合されうる」という立場は同じになる。

したがって、次の2つはどちらも成り立たない。「名前が違うから別物」ではない。 医薬部外品の薬用化粧水で「ポリエチレングリコール400」と書かれていても、化粧品の全成分表示で「PEG-8」と書かれる成分と同じものを指す。「名前が残っていないから部外品では使えない」でもない。 グリコシルトレハロースは、混合溶液の名称でリストに収載されている。実際、自社集計でも同じ原料が単独名と混合溶液名の2通りで表示されている製品が並存する(出典: DappNotes 商品マスター集計)。

表示名の刻み方は、制度ごとの慣行に従っただけの違いにあたる。化粧品の表示名称は成分の構造がわかるように刻まれ、医薬部外品の表示名称は原料規格の単位に沿って刻まれる。優劣ではなく、読み取れる情報の粒度が変わるだけと理解していい。ジグリセリンはたまたま両方の刻み方が一致した成分で、それゆえ制度をまたいでも名前が動かない。

なお本記事が参照した『医薬部外品の成分表示名称リスト』は平成20年(2008年)3月25日版で、その後の改訂で収載状況が変わっている可能性はある。上の対応関係は、あくまでこの版に基づく整理になる。

5. よくある質問

Q1. ジグリセリンとグリセリンは何が違いますか

グリセリン2分子が脱水縮合してつながったものがジグリセリンです。ヒドロキシ基はグリセリンの3個に対してジグリセリンは4個、分子量は約92に対して166.17 g/mol で、およそ1.8倍の大きさになります(出典: CIR 2023 / 化粧品成分オンライン)。保湿の実力という点では、吸湿性も角層水分量の増加も、ジグリセリンは「グリセリンほどではないものの高い」と報告されており、グリセリンを上回るわけではありません(出典: 化粧品成分オンライン)。違いが出るのは使用感の側で、原料メーカーはジグリセリンを0.5%加えるだけでグリセリンのべたつきが抑えられると説明しています(出典: 週刊粧業オンライン 2024年6月)。上位互換ではなく、保湿力と感触の折り合いを別の点に置いた成分と考えるのが実態に近いです。

Q2. 医薬部外品の成分表示に「ジグリセリン」と書いてあるのは化粧品と同じものですか

同じです。ジグリセリンは、化粧品の全成分表示でも医薬部外品の成分表示名称でも、同じ「ジグリセリン」という名前で書かれます(出典: 化粧品成分オンライン / 日本化粧品工業連合会 医薬部外品の成分表示名称リスト)。実はこれは当たり前のことではありません。同じように保湿の役割を担う成分でも、PEG-8 は医薬部外品では平均分子量表記の「ポリエチレングリコール400」に変わり、メチルグルセス-10 は -20 と一緒に「ポリオキシエチレンメチルグルコシド」という1つの名称にまとめられ、グリコシルトレハロース は単独名の収載がなく混合溶液の名前でしか登場しません。名前が変わったり束ねられたりしていても、規制上の扱いが変わるわけではありません。詳しくは §4.3 で整理しています。

Q3. ジグリセリンは医薬部外品の有効成分ですか

いいえ。ジグリセリンは医薬部外品の成分表示名称リストに収載されていますが、これは薬用化粧水・薬用乳液・薬用洗顔などに「その他成分」として配合されうるという意味であって、承認された効能を持つ有効成分ではありません(出典: 日本化粧品工業連合会 医薬部外品の成分表示名称リスト / 化粧品成分オンライン)。したがって「シミが消える」「ニキビを治す」といった効果をジグリセリンに結びつけることはできません。言えるのは、肌にうるおいを与える保湿剤として、また製品自体の保水を助ける成分として配合されている、という範囲までです。

Q4. グリセリンが肌に合いません。ジグリセリンなら大丈夫ですか

確実に大丈夫とは言えません。ジグリセリンはグリセリンの重合体で、CIRのパネルはこれらのポリグリセリン類が分解してグリセリンを含む混合物として存在しうると指摘しており、原料そのものにも残留グリセリンが含まれうると報告されています(出典: CIR 2023)。「グリセリンとは無関係の成分」と考えるのは実態に合いません。すでに不調が出ているなら、成分名を置き換えて試すより、パッチテストを挟むか皮膚科で相談するほうが確実です。

Q5. 成分表の後ろのほうにジグリセリンがあると、あまり入っていないということですか

そうとは限りません。全成分表示は原則として配合量の多い順に並びますが、1%以下の成分は順不同で書いてよい決まりのため、後半の並びから配合量を読み取ることはできません。自社の商品マスター集計でも、ジグリセリンの配合位置は4番目から31番目まで散らばっています(出典: DappNotes 商品マスター集計)。加えてジグリセリンは、0.5%程度の少量でも感触の調整役として使われる成分です(出典: 週刊粧業オンライン 2024年6月)。順位が低い=仕事をしていない、とは読めません。

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本記事に関する注記

  • 本記事は特定商品の効果を保証するものではありません。成分の働きには個人差があり、体質・肌質により合わない場合があります。
  • 肌に赤み・かゆみ・刺激等の異常が出た場合は使用を中止し、症状が続く・悪化する場合は皮膚科等の医療機関にご相談ください。傷・炎症のある肌への使用は避けてください。
  • 本記事で扱うジグリセリンは、日本の化粧品および医薬部外品に保湿剤(その他成分)として配合される状態を前提としています。食品添加物・工業用途としての規格は本記事の対象外です。
  • 本記事が参照する日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』は平成20年(2008年)3月25日版であり、その後の改訂で収載状況が変わっている可能性があります。
  • 本記事が参照するCIRの報告書は2023年8月18日公開の Draft Final Report for Panel Review(同年9月のパネル会合に提出された最終報告書案)であり、記事作成時点で公表版の最終報告書として確認できたものではありません。
  • 本記事に含まれる製品数の集計は DappNotes 商品マスター(2026年9月時点・スキンケア54製品/ヘアケア78製品)に基づく自社集計であり、市場全体の分布を示すものではありません。
  • 本記事は成分の一般的な解説であり、化粧品・医薬部外品の効能効果は配合製品の承認・表示の範囲に従います。
  • 外部の安全性指標(CIR等)は出典明記の参考値であり、絶対的な安全性を保証するものではありません。
  • 本記事はAIによる下書きを編集部がレビュー・再構成して作成しています。
  • 編集部レビュー済み・AI下書き活用