メチルグルセス-10は、INCI名 Methyl Gluceth-10、ブドウ糖のメチルグリコシド(メチルグルコシド)に酸化エチレンを平均10モル付加したポリエチレングリコールエーテルにあたる(出典: CIR 2013 / 化粧品成分オンライン)。糖の骨格とPEG鎖を1つの分子に併せ持つ保湿剤で、角層の水分量を上げる働きと、水溶性の薄い皮膜感による感触の調整を担う。この記事の中心は、この成分が制度をまたいだときに名前の刻み方が反転する点にある。化粧品では -10 と -20 が別の表示名で書き分けられるのに、医薬部外品の成分表示名称ではその両方が「ポリオキシエチレンメチルグルコシド」という1つの名称に束ねられる。同じ酸化エチレン付加体でも PEG-8 は逆に、部外品側でこそ平均分子量ごとに細かく刻まれる。本記事ではこの非対称を一次資料で確かめ、自社の商品マスター集計と合わせて、成分表の「メチルグルセス-10」から何が読めるかを整理する。
1. メチルグルセス-10の基本
1.1 何の成分か
メチルグルセス-10の骨格はメチルグルコシド(メチル α-D-グルコピラノシド)にある。これはメタノール1モルとグルコース1モルから生じる環状の完全アセタールで、CIRの報告書は「α型とβ型として存在する非常に安定なグルコシド」と特徴づけている(出典: CIR 2013)。この糖の環に残る水酸基へ、所定量の酸化エチレンを反応させて付加重合させたものがメチルグルセス類にあたる。CIRの定義では、メチルグルセス-10は「エチレングリコール繰り返し単位の平均値が10であるメチルグルコースのポリエチレングリコールエーテル」で、機能分類は皮膚コンディショニング剤(保湿剤)に置かれている(出典: CIR 2013)。分子量は634ダルトンと報告されており、平均20モル付加のメチルグルセス-20は1074ダルトンになる。
ここで押さえておきたいのが、この成分が「糖」と「PEG」のどちらか一方ではないという点になる。グルコース由来の環が水になじむ土台を作り、そこから伸びたPEG鎖がさらに水を抱える。グリセリンやジグリセリンのように多価アルコールだけでできた保湿剤とも、PEG-8のようにエチレンオキシド鎖そのものでできた保湿剤とも、骨格の成り立ちが違う。糖側だけを見て天然由来と読むのも、PEG側だけを見て合成物と切り捨てるのも、半分しか見ていないことになる。
規制上の位置づけは医薬部外品の添加成分にあたる。日本化粧品工業連合会の医薬部外品の成分表示名称リストには、連番2146・成分コード503136として「ポリオキシエチレンメチルグルコシド」が収載されている。本質の記載は「本品は,メチルグルコシドに酸化エチレンを付加重合したものである.酸化エチレンの平均付加モル数は 10〜20 である.」で、簡略名として「POEメチルグルコシド」も認められている(出典: 日本化粧品工業連合会 医薬部外品の成分表示名称リスト)。つまり部外品側の名称は付加モル数10から20までを幅として1つの名前に含んでおり、化粧品表示名の -10 と -20 はどちらもこの1名称に収まる。化粧品成分オンラインも、医薬部外品原料規格の定義では平均付加モル数10〜20であり、このうち平均10のものがメチルグルセス-10と称される、と整理している(出典: 化粧品成分オンライン)。
ただしこれは、薬用化粧水・薬用洗顔等に保湿・感触調整を担う「その他成分(添加物)」として配合されうるという意味であって、有効成分として承認されているわけではない。この成分そのものに承認された効能はなく、化粧品でも基剤側にあたる。
1.2 どんな製品に配合されるか
化粧品成分オンラインは、適用製品をスキンケア・ボディケア・ハンドケア・マスク・洗顔料・クレンジング・シャンプー・ボディソープ等と整理していて、剤型を問わず汎用される保湿剤という位置づけになる(出典: 化粧品成分オンライン)。
米国側の使用実態も同じ方向を指す。CIRの報告書が参照する2013年のVCRP(米FDAの化粧品届出制度)では、メチルグルセス-10の届出件数は計73件で、内訳は顔・首用製品が30件と突出し、次いで保湿製品10件、ヘアグルーミング剤8件、浴用石けん・洗浄剤6件、洗顔・クレンジング4件と続く(出典: CIR 2013)。リーブオン(洗い流さない)が60件、リンスオフが13件になる。
ここから先が本記事の中核データにあたる。DappNotes の商品マスターを機械集計すると、メチルグルセス-10を配合するのは7製品で、そのすべてがスキンケアだった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。ヘアケア78製品には1件も出ない。米国のVCRPではヘアグルーミング剤に8件の届出があったのに対し、本集計ではこの成分はスキンケアの側にきれいに寄っている。
さらに際立つのが配合位置になる。
| 製品ID | 製品 | 位置 | 直前に並ぶ成分 |
|---|---|---|---|
| P094 | マニフィーク モイスチュアライジング ジェル | 4位/28 | 水・BG・グリセリン |
| P108 | アスタリフト メン モノム モイスチャライザー | 4位/31 | 水・グリセリン・BG |
| P126 | 麗白 ハトムギ化粧水 | 4位/17 | 水・グリセリン・DPG |
| P130 | ファンケル メン オールインワン ウォーター | 4位/27 | 水・グリセリン・BG |
| P131 | ファンケル メン フェイス ウォッシュ | 7位/18 | ─ |
| P128 | カネボウ スクラビング マッド ウォッシュ | 9位/21 | ─ |
| P119 | クワトロボタニコ ボタニカル オイルコントロール & スキンコンディショナー S | 23位/44 | ─ |
(出典: DappNotes 商品マスター集計)
7製品のうち4製品が成分表の4番目に来ていて、しかもその直前に並ぶ3成分は、いずれも水とグリセリンとBGまたはDPGという組み合わせで一致する。剤型はジェル・乳液・化粧水・オールインワンとばらけているのに、定位置だけが揃う。メチルグルセス-10が「あとから少し足す」成分ではなく、水と定番の多価アルコールに続けて処方の保湿骨格を組む主要成分として使われている、ということになる。残る3製品のうち2製品は洗顔料で、洗い流す処方では位置が下がる。
なお、全成分表示は原則として配合量の多い順に並ぶが、1%以下の成分は順不同で書いてよい。順位が低いことをそのまま「効いていない」とは読めない点は、どの成分でも共通の前提になる。
もう1つ、この成分の名前の問題を実データで確かめられる材料がある。商品マスターにはメチルグルセス-20を配合する製品も2つあり、片方はヘアケアのチャップアップシャンプー(25位/57)、もう片方はスキンケアのギャツビー EXパーフェクトローション(5位/26)だった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。化粧品の成分表では -10 と -20 が別の名前で書き分けられているので、この9製品は9件の別々の情報として読める。ところが、仮に同じ処方が医薬部外品として申請されたなら、9製品はすべて「ポリオキシエチレンメチルグルコシド」の1名称に集約される。
そして実際には、この9製品は分類上すべて化粧品で、医薬部外品は1つもない(出典: DappNotes 商品マスター集計)。全132製品のうち35製品は医薬部外品なので、部外品自体が珍しいわけではない。名前は2通り用意されているのに、この集計の範囲で消費者が目にするのは化粧品側の「メチルグルセス-10」という表記だけになる。
1.3 メンズ視点での見方
配合7製品の顔ぶれは、ファンケル メンが2製品、アスタリフト メン、クワトロボタニコ、マニフィークと、メンズブランドやユニセックスの日常品に寄っている(出典: DappNotes 商品マスター集計)。剤型では化粧水・オールインワン・ジェル・乳液といった洗い流さない側が5製品、洗顔料が2製品で、リーブオンが主戦場という点は米国のVCRP届出の比重とも合う。
男性の肌は、皮脂の分泌量が女性の約2倍とされる一方、肌内部の水分量は女性の約半分ともいわれ、表面はテカるのに内側は乾くという状態に振れやすい(出典: メンズスキンケア専門メディア各種)。加えて毎日の髭剃りで角質と皮脂膜が削られ、洗浄後のpHの戻りも遅れやすい。この条件下で続けにくいのが、べたつく処方になる。塗った直後の重さが気になると、そもそもスキンケア自体をやめてしまう。
メチルグルセス-10の性格はここに噛み合う。化粧品成分オンラインは、この成分の特徴を水溶性の皮膜感にあると整理し、吸湿性そのものは他の保湿剤に比べて高くないと明記している(出典: 化粧品成分オンライン)。言い換えると、水をがぶ飲みするタイプの保湿剤ではなく、薄い水の膜を張って感触を整える方向の成分にあたる。実際、4位に配置される4製品はいずれも水・グリセリン・BG/DPGという吸湿力の高い成分群のすぐ後ろに置かれていて、役割分担が読み取れる。水を抱える仕事は前の3成分が担い、メチルグルセス-10は仕上がりの軽さと伸びを受け持つ構図になる。
もう1つメンズ視点で実用的なのは、この成分が洗顔料にも入る点になる。7製品のうち2製品は洗顔料で、ファンケル メン フェイス ウォッシュではグリコシルトレハロース(6位)とメチルグルセス-10(7位)が隣り合って並ぶ(出典: DappNotes 商品マスター集計)。洗い流す製品に保湿剤を入れるのは、洗浄後のつっぱりを和らげるための設計にあたる。ただし洗顔料に保湿剤が入っていることは、洗顔後の保湿を省いてよい理由にはならない。
2. 期待される働き・効果
2.1 メカニズム
保湿の仕組みは、水と結びつける手がかりを分子にいくつ持っているかで決まる。メチルグルセス-10の場合、手がかりは2系統ある。1つはメチルグルコシドの環に残る水酸基で、糖類が水になじむのと同じ理屈にあたる。もう1つは、そこから伸びるPEG鎖のエーテル酸素で、PEG-8のようなポリエチレングリコール系の保湿剤が水を保つときの担い手と同じになる。両方を1分子に持つ点が、この成分の構造上の個性にあたる。
ただし、手がかりの数が多いことは、そのまま吸湿力の強さを意味しない。化粧品成分オンラインは、メチルグルセス-10の吸湿性は他の保湿剤に比べて高くないとしたうえで、この成分の特徴を水溶性の皮膜感に置いている(出典: 化粧品成分オンライン)。空気中や角層内の水を強く引き寄せるより、肌の上に薄い水溶性の膜として残り、そこで水分の逃げ方をなだらかにする、という働き方になる。潤滑性が上がることで、伸びやすさ・なめらかさといった感触面の改良も担う。
平均付加モル数の違いは、この皮膜の性格に出る。PEG鎖が10と短いメチルグルセス-10は、20のメチルグルセス-20と比べてしっとりした質感で、皮膜は薄い側にあたるとされる(出典: 化粧品成分オンライン)。どちらが優れているという話ではなく、目指す仕上がりで選び分ける関係になる。
もう1つ、CIRの評価から読み取れる重要な点がある。CIRの専門家パネルは、この成分群の分子量とlogKowを検討したうえで、化粧品としての使用では皮膚から実質的な全身曝露は生じないと判断している(出典: CIR 2013)。メチルグルセス-10の分子量は634ダルトンで、角層を越えて体内へ入っていく大きさではない。保湿剤が働く場所は角層の表層側にとどまる、という前提はここから来る。
パネルはさらに、糖骨格を持つこの成分群が糖代謝へ影響しうるかも議論していて、皮膚に塗ることによる影響は非常に考えにくいと結論している(出典: CIR 2013)。詳細は Q4 で扱う。
2.2 一般的な効能範囲
日本の化粧品でメチルグルセス-10に与えられる仕事は、配合目的として書ける範囲に限られる。化粧品成分オンラインの整理では、角層の水分量を増やすことによる保湿と、潤滑性および皮膜感による感触の改良の2つになる(出典: 化粧品成分オンライン)。CIRの機能分類でも、皮膚コンディショニング剤(保湿剤)に置かれている(出典: CIR 2013)。
規制の面では、医薬部外品の成分表示名称リストに「ポリオキシエチレンメチルグルコシド」として収載されているため、薬用製品でも添加成分として使える。ただし収載されていることと、有効成分として承認されていることは別になる。この成分は薬用化粧水や薬用洗顔で保湿・感触調整を担う「その他成分」であって、部外品の効能を背負う側ではない。
したがって、この成分名を根拠に語れる範囲は「配合目的」までにとどまる。化粧品の表現として、シミが消える、シワを治す、育毛する、といった言い方は、そもそも化粧品では標榜できない。メチルグルセス-10が保湿剤である以上、期待できるのは肌を乾燥から守る、うるおいを与える、といった化粧品の効能の範囲内で、しかもそれは処方全体で達成されるものにあたる。成分表に名前があることと、その製品が何をしてくれるかは、直結しない。
同じ整理は部外品の名前にも当てはまる。「ポリオキシエチレンメチルグルコシド」がリストに載っているのは表示できる名前が用意されているという手続き上の話であって、医薬品的な働きを認められた証ではない。
2.3 限界・誤解されやすい点
誤解が生まれやすい箇所が4つある。
第一に、名前の「10」が効果の強さを表すという読み方になる。この数字は酸化エチレンの平均付加モル数で、鎖の長さの指標にすぎない。20のほうが強い、10のほうが優しい、といった上下関係はなく、質感の違いとして現れる(出典: 化粧品成分オンライン)。同じことはPEG-8の8にも、ジグリセリンが二量体であることにも当てはまる。数字は序列ではなく仕様にあたる。
第二に、糖由来という響きから天然成分だと受け取る読み方になる。骨格のメチルグルコシドはグルコースとメタノールから作られる化合物で、そこへ酸化エチレンを付加重合させる工程を経て初めてメチルグルセス-10になる(出典: CIR 2013)。天然物をそのまま使っているわけではない。ただし、合成工程を経ることが安全性を下げる根拠にもならない。この点は §3.3 で整理する。
第三に、吸湿力の期待になる。メチルグルセス-10の吸湿性は他の保湿剤に比べて高くないと明記されているので、この成分1つで乾燥対策が完結するとは考えにくい(出典: 化粧品成分オンライン)。自社集計で4位に置かれる4製品がいずれも水・グリセリン・BG/DPGの後ろに続いていたのは、吸湿の主役を別の成分が担っている裏返しとも読める(出典: DappNotes 商品マスター集計)。
第四に、部外品の名前を成分表で見かけないことを「使われていない」と読む誤解になる。部外品として作られた製品でメチルグルセス-10相当の原料が使われていれば、成分表には「ポリオキシエチレンメチルグルコシド」と書かれ、その表記だけを見ても -10 か -20 かは判別できない。名前の見え方は制度で決まるのであって、中身の有無を意味しない。
3. 安全性・注意点
3.1 既知の刺激性・アレルギー報告
メチルグルセス-10については、ヒトを対象にした皮膚刺激性・感作性試験の結果がCIRの報告書に収載されている。試験では、原液(11名)と、水で20%(10名)・40%(12名)・60%(10名)・80%(10名)に希釈した検体を用い、計53名の健常者に対して1日24時間の閉塞貼付を週4回・3週間繰り返した。4回目の貼付までどの群にも刺激の所見が出なかったため、以降の誘導期とチャレンジ期は原液で実施している。2週間の休止をはさんだチャレンジでは新しい部位に24時間の閉塞貼付を行い、除去後24・48・72時間で判定した。結果は、試験を通じて皮膚刺激および感作の視認できる所見なし、というものだった(出典: CIR 2013)。
メチルグルセス-20についても同じ手順で計56名に試験が行われ、こちらも刺激・感作の所見はなく、いずれの被験者にも皮膚障害の視認できる所見は認められなかったと結論されている(出典: CIR 2013)。化粧品成分オンラインも、皮膚刺激性・皮膚感作性はともにほとんどなしと整理している(出典: 化粧品成分オンライン)。
一方で、データが揃っていない領域もある。眼刺激性については、この成分を名指しで評価した試験データが不足しており、詳細は不明という扱いになる(出典: 化粧品成分オンライン)。CIRの報告書でも、眼刺激性の項に挙がっているのはメチルグルコースジオレアートやPEG-120メチルグルコースジオレアート等のエステル体で、メチルグルセス-10の記載はない(出典: CIR 2013)。洗顔料・クレンジングに配合される以上、目に入らないよう扱うという一般的な注意は当てはまる。
なお、CIRの評価は成分群としての読み替えを前提にしている。パネルは、報告書にデータの空白があるものの、分子構造と物理化学的・生物学的特性の関係、および化粧品での機能と配合濃度を踏まえれば、25成分をひとまとまりとして扱い、得られた毒性データを群全体の裏づけに広げてよいと述べている(出典: CIR 2013)。個々の成分すべてに全項目の試験があるわけではない。
3.2 推奨配合量と過剰配合時のリスク
日本の化粧品基準に、メチルグルセス-10の配合上限を定めた規定はない(配合可能成分)。したがって参考になるのは、実際にどのくらいの濃度で使われているかという使用実態のデータになる。
CIRの報告書が収載する2013年の業界調査では、メチルグルセス-10の使用濃度は全体で0.0003〜15%の範囲にある。内訳は、リーブオン製品が60件で0.02〜15%、リンスオフ製品が13件で0.0003〜15%だった(出典: CIR 2013)。上限の15%が具体的に何を指すかも報告書に書かれていて、リンスオフ側の15%はメチルグルセス-10とメチルグルセス-20の皮膚洗浄製品、リーブオン側の15%はメチルグルセス-10の顔・首用のクリーム、ローション、およびパウダー(スプレーを除く)にあたる(出典: CIR 2013)。
つまり、洗い流す製品でも洗い流さない製品でも、上は15%程度まで使われている実績がある。下限が0.0003%まで伸びているのは、感触の微調整だけを狙って極少量入れる処方も存在するためになる。
自社集計の配合位置は、この幅のなかで上側の使われ方に対応する。成分表の4番目という位置は、水と多価アルコール2種に次ぐ量が入っていることを意味するので、少なくとも1%を大きく上回る配合と考えるのが自然になる(出典: DappNotes 商品マスター集計)。一方、洗顔料の7位・9位や、クワトロボタニコの23位はもっと下の帯にあたる。
過剰配合時のリスクという観点では、毒性の面から特定の上限を設ける根拠は示されていない。CIRのパネルは分子量とlogKowから皮膚を越える実質的な全身曝露は生じないと判断しており、反復投与毒性・生殖発生毒性・発がん性のデータがなくても安全性の評価は可能と整理している(出典: CIR 2013)。現実的に問題になるのは処方設計の側で、水溶性の皮膜を作る成分を増やしすぎれば、べたつきや重さ、他の成分とのなじみの悪さとして仕上がりに出る。安全性の上限ではなく、使用感の上限が先に来る成分にあたる。
3.3 「危険性」と言われる根拠と実態の整理
メチルグルセス-10が危険視される文脈は、この成分そのものの毒性ではなく、酸化エチレンを付加重合して作る成分に共通する話として持ち出されることが多い。論点は2つに整理できる。
第一が、1,4-ジオキサンの残留になる。これは製造工程の副生成物で、意図的に配合されるものではない。米FDAは、名前に PEG、Polyethylene、Polyethylene glycol、Polyoxyethylene、-eth-、-oxynol- 等を含む成分に伴いうると説明していて、メチルグルセス-10も酸化エチレンを使う以上この枠に入る(出典: FDA 1,4-Dioxane in Cosmetics)。ここで重要なのは、実測値の推移になる。FDAは1980年代から、重合工程の最後に真空ストリッピングで除去する手法を推奨してきた。同機関のモニタリングでは、1981年に平均50ppm(範囲2〜279ppm)だった検出量が、1997年には平均19ppm(範囲6〜34ppm)まで下がり、検出限界1ppmで行った2008年の調査では80%の製品で不検出、最も高い検出値でも11.6ppmだった(出典: FDA 1,4-Dioxane in Cosmetics)。欧州のSCCSは、化粧品中の1,4-ジオキサンについて10ppm以下の微量であれば消費者にとって安全と結論している。40年かけて桁が2つ下がった、というのが実態になる。
第二が、未反応の酸化エチレンそのものの残留になる。酸化エチレンは反応性が高く工程中に消費される物質で、こちらも精製で管理される対象にあたる。
ここで正直に書いておくべきことがある。CIRのこの報告書が不純物として実際に数値を収載しているのは、灰分(0.5%以下)、ヒ素(2ppm未満)、重金属(20ppm未満)の3項目で、1,4-ジオキサンや酸化エチレンの残留量については記載がない(出典: CIR 2013)。つまり、メチルグルセス-10について残留ジオキサンを名指しで測った公表データを本記事は確認できていない。この論点は、あくまでエトキシル化成分全般に共通する管理課題として扱うのが正確な立て方になる。
そのうえでCIRの結論はこうなる。専門家パネルは、審議の途中でPEG-20メチルグルコースセスキステアレート等3成分の口紅用途についてデータ不十分とする例外付きの結論を出したが、ECHAに登録された関連物質(isostearic acid, esters with methyl α-D-glucoside)の反復投与毒性および生殖発生毒性データを読み替えに使えると判断し、例外を解消した。最終的な結論は「これらの化粧品成分は、本安全性評価に記載された現行の使用実態と使用濃度において安全である」という、例外なしの1文になる(出典: CIR 2013)。メチルグルセス-10はこの25成分の1つに含まれる。
まとめると、この成分に固有の毒性所見は報告されておらず、ヒト試験でも刺激・感作の所見はなく、公的評価も安全と結論している。一方で、エトキシル化成分に共通する不純物の管理という論点は残り、それは原料の精製工程と製品ごとの品質管理に属する話になる。
4. 相性の良い・悪い成分
4.1 併用推奨
実際の処方が答えを出している。メチルグルセス-10が4位に来る4製品では、その手前に必ず水・グリセリン・BGまたはDPGが並んでいた(出典: DappNotes 商品マスター集計)。吸湿力の高い小さな多価アルコールで水を抱え、その上にメチルグルセス-10が薄い水溶性の膜を作る、という重ね方になる。骨格の違う保湿剤を組み合わせるのは、1つの成分ですべてを賄えないことの裏返しにあたる。
同居する成分にも傾向が出る。ファンケル メン オールインワン ウォーターにはトレハロース(7位)と加水分解ヒアルロン酸が、麗白 ハトムギ化粧水にはヒアルロン酸Naが、ファンケル メン フェイス ウォッシュにはソルビトールとグリコシルトレハロースが入る(出典: DappNotes 商品マスター集計)。糖系・多価アルコール系・高分子系と、水の抱え方が違う成分を層のように重ねる設計になっている。
感触面では、この成分の薄い皮膜は油分と衝突しにくい。マニフィーク モイスチュアライジング ジェルではメチルグルセス-10の直後にジメチコンが来ていて、水側の膜とシリコーン側の膜を続けて置く構成になっている(出典: DappNotes 商品マスター集計)。べたつきを嫌う一方で乾燥も避けたい層には、この組み立てが合いやすい。
4.2 併用注意
メチルグルセス-10について、特定の成分との併用を避けるべきとする報告は確認できない。反応性は低く、pHや電荷で相手を選ぶ成分でもなく、CIRの報告書にも他成分との相互作用を問題にした記載はない(出典: CIR 2013)。そのうえで、処方の文脈として気に留めておく点が2つある。
1つは、乾燥対策をこの成分に期待しすぎないことになる。吸湿性が高くない以上、空気が乾いた冬場や、エアコンの効いた室内で長時間過ごす条件では、水溶性の膜だけでは水分の逃げ方を十分に抑えきれないことがある。クワトロボタニコのように、成分表の上位にエタノールが来る処方(4位)では、揮発によるさっぱり感と保湿の綱引きになるので、乾燥しやすい肌では使用後の状態を見て判断したい(出典: DappNotes 商品マスター集計)。
もう1つは、洗顔料での位置づけになる。カネボウ スクラビング マッド ウォッシュのように、PEG-32(6位)やPEG-6(7位)、モロッコ溶岩クレイと同居する処方では、メチルグルセス-10は9位で、洗浄と吸着が主役の設計にあたる(出典: DappNotes 商品マスター集計)。髭剃り直後のようにバリアが下がっている状態では、洗顔後に補う工程を省かないほうが安全になる。
4.3 類似成分
メチルグルセス-10に近い成分は、「同じ骨格の別成分」と「同じ保湿だが骨格が違う成分」の2系統に分かれる。
まず同じ骨格の側になる。CIRが1つの報告書でまとめて評価した25成分は、メチルグルコシドを共通の土台に持つ仲間で、エステル体10成分、ポリエーテル体5成分、両方の性質を併せ持つもの10成分に分かれる(出典: CIR 2013)。メチルグルセス-10とメチルグルセス-20はポリエーテル体の側にあたり、糖の環に酸化エチレン鎖だけが付いた形になる。これに脂肪酸のエステル結合が加わると、性格が保湿剤から界面活性剤・増粘剤の側へ移る。ジオレイン酸PEG-120メチルグルコースはメチルグルコースとオレイン酸のジエステルに平均120モルの酸化エチレンを付加したもので、CIRの機能分類は洗浄剤にあたる。トリイソステアリン酸PEG-120メチルグルコースは同じく平均120モル付加のトリエステルで、こちらは増粘の側に置かれる。同じメチルグルコース骨格から、保湿剤にも洗浄剤にも増粘剤にもなる、という広がり方をする。
次に、保湿という目的で並ぶが骨格が違う側になる。ここが本記事の軸にあたる。
| 成分 | 骨格 | 化粧品表示名の刻み方 | 部外品表示名称リストでの残り方 |
|---|---|---|---|
| メチルグルセス-10(本成分) | メチルグルコシド+EO鎖 | EO付加モル数 | -10と-20が1名称に束ねられる(ポリオキシエチレンメチルグルコシド・連番2146) |
| ジグリセリン | グリセリンの二量体 | 重合度そのもの | 同名でそのまま収載(連番1003) |
| PEG-8 | EO鎖 | EO付加モル数 | 別の軸の名前で収載(ポリエチレングリコール400・連番1934) |
| グリコシルトレハロース | 糖(トレハロース由来) | 糖の名前 | 単独名では存在せず、混合溶液名でのみ収載(連番689) |
(出典: 日本化粧品工業連合会 医薬部外品の成分表示名称リスト)
4成分とも「保湿」でくくられるのに、骨格は4通りに分かれる。そして注目したいのは、化粧品表示名の刻み方と、部外品表示名称での名前の残り方が一致しないことになる。
メチルグルセス-10とPEG-8は、化粧品側では同じ流儀で名前が付いている。どちらも酸化エチレンの付加モル数を数字にした表示名にあたる。ところが部外品側では、両者の扱いが正反対に振れる。PEG-8は平均分子量400に対応する「ポリエチレングリコール400」という別の軸の名前で収載され、しかも同リストには200・300・400・600・1000・1500・1540・2000・4000・6000・11000・20000が連番1932〜1943として個別に並ぶ(出典: 日本化粧品工業連合会 医薬部外品の成分表示名称リスト)。分子量ごとに12個の名前へ細かく刻まれている。一方のメチルグルセス-10は、平均付加モル数10〜20という幅を持つ「ポリオキシエチレンメチルグルコシド」1名称に、メチルグルセス-20ごと束ねられる。同じ酸化エチレン付加体でありながら、刻み方が逆を向いている。
ジグリセリンは、化粧品表示名がそのまま部外品表示名称としても収載されている素直なケースにあたる。グリコシルトレハロースは逆に、単独の名前ではリストに存在せず、「グリコシルトレハロース・水添デンプン分解物混合溶液」という混合物の名前でしか登場しない。
つまり、名前の残り方は4通りすべて違う。にもかかわらず、4成分の規制区分はいずれも医薬部外品の添加成分で同じになる。名前が束ねられていても、別の軸で刻まれていても、単独名が無くても、それは区分の違いを意味しない。「名前が違うから別物」でも「名前が残っていないから部外品では使えない」でもない、というのが正確な読み方にあたる。
なお、同じメチルグルコース骨格の話に戻ると、名前が束ねられる現象はCAS番号にも表れる。CIRの報告書がメチルグルセス-10とメチルグルセス-20の両方に与えているCAS番号は68239-42-9で、これは「PEG鎖の長さを問わない汎用の番号」と但し書きされている(出典: CIR 2013)。化粧品表示名だけが -10 と -20 を区別していて、部外品表示名称もCAS番号も区別しない。日本の成分表で両者を見分けられるのは、化粧品として販売されている場合に限られる、ということになる。
5. よくある質問
Q1. メチルグルセス-10とメチルグルセス-20は何が違いますか
違いは、メチルグルコシドの骨格に付いた酸化エチレンの平均付加モル数だけです。10モルのものがメチルグルセス-10、20モルのものがメチルグルセス-20で、CIRの定義でもエチレングリコール繰り返し単位の平均値が10か20かという書き分けになっています(出典: CIR 2013)。分子量は634ダルトンと1074ダルトンで、鎖が長いぶん-20のほうが大きくなります。使用感の差としては、PEG鎖が短い-10のほうがしっとりした質感で皮膜は薄い側にあたるとされます(出典: 化粧品成分オンライン)。効果の優劣ではなく、仕上がりの設計で選び分ける関係です。なお、医薬部外品の成分表示名称ではこの2つが「ポリオキシエチレンメチルグルコシド」という1名称に束ねられ、CAS番号も68239-42-9で共通なので、両者を区別できるのは化粧品の成分表示名だけになります(出典: 日本化粧品工業連合会 医薬部外品の成分表示名称リスト / CIR 2013)。
Q2. 成分表で「ポリオキシエチレンメチルグルコシド」を見かけないのはなぜですか
その表記は医薬部外品の成分表示に使われる名前だからです。日本では、化粧品と医薬部外品で成分表示に使う名称の体系が別々に運用されていて、化粧品なら「メチルグルセス-10」、医薬部外品なら「ポリオキシエチレンメチルグルコシド」(簡略名はPOEメチルグルコシド)と書かれます(出典: 日本化粧品工業連合会 医薬部外品の成分表示名称リスト)。DappNotes の商品マスターでこの成分を含む9製品を調べたところ、すべてが化粧品で医薬部外品は1つもありませんでした(出典: DappNotes 商品マスター集計)。全132製品のうち35製品は医薬部外品なので、部外品そのものが珍しいわけではありません。つまり、名前は2通り用意されているのに、この成分に関しては化粧品側の表記に出会う機会のほうが圧倒的に多い、という状況です。見かけないことは、使われていないことを意味しません。
Q3. PEGが付いている成分は避けたほうがいいですか
一律に避ける根拠は見当たりません。メチルグルセス-10については、原液から80%希釈まで用いた計53名のヒト試験で皮膚刺激・感作の所見がなく、CIRの専門家パネルも、この成分を含む25成分について現行の使用実態と使用濃度において安全と結論しています(出典: CIR 2013)。よく持ち出される懸念は成分そのものの毒性ではなく、酸化エチレンを使う製法に伴う1,4-ジオキサンの残留です。これは副生成物で、米FDAは1980年代から真空ストリッピングによる除去を推奨しており、同機関のモニタリングでは1981年に平均50ppmだった検出量が1997年には平均19ppm、2008年の調査では80%の製品で不検出、最高値でも11.6ppmまで下がっています(出典: FDA 1,4-Dioxane in Cosmetics)。欧州のSCCSは10ppm以下の微量であれば消費者にとって安全と結論しています。ただし、メチルグルセス-10について残留量を名指しで測った公表データを本記事は確認できていないため、原料の精製と品質管理に属する論点として押さえておく、という距離感が適切です。
Q4. 糖由来と書かれていますが天然成分ですか
そのまま天然成分とは言えません。骨格にあたるメチルグルコシドは、グルコース1モルとメタノール1モルから生じる環状のアセタールで、CIRの報告書はこれを非常に安定なグルコシドと説明しています(出典: CIR 2013)。メチルグルセス-10は、このメチルグルコシドに所定量の酸化エチレンを反応させて作られます。出発点にブドウ糖があるという意味で糖由来ではありますが、工程としては合成にあたります。逆に、合成であることが安全性を下げる理由にもなりません。判断材料になるのは由来ではなく、実際の試験データと使用実態のほうです。なお、糖の骨格を持つことから体の糖代謝への影響を心配する声もありますが、CIRのパネルは、皮膚からの実質的な全身曝露が生じないこと、完全に脱エステル化してメチルグルコースを生じる可能性は無視できること、メチルグルコース自体が糖代謝に干渉しないことを踏まえ、皮膚に塗ることによる糖代謝への影響は非常に考えにくいと結論しています(出典: CIR 2013)。
Q5. グリセリンがあればメチルグルセス-10はいりませんか
役割が違うので、置き換えの関係にはなりません。メチルグルセス-10は、吸湿性そのものは他の保湿剤に比べて高くなく、特徴は水溶性の皮膜感と潤滑性による感触の改良にあるとされています(出典: 化粧品成分オンライン)。水を強く抱える仕事はグリセリンやBG、DPGのほうが得意で、メチルグルセス-10はその上に薄い膜を重ねて、伸びと仕上がりの軽さを整える側にあたります。実際の処方もそう組まれていて、DappNotes の商品マスターでメチルグルセス-10が成分表の4番目に来る4製品では、その直前の3つがいずれも水・グリセリン・BGまたはDPGでした(出典: DappNotes 商品マスター集計)。吸湿の主役を先に置き、その後ろにメチルグルセス-10を重ねる構成です。骨格の違う保湿剤を組み合わせるのは、1つの成分ですべてを賄えないことの裏返しになります。骨格の違いについてはジグリセリン・PEG-8・グリコシルトレハロースの各記事も合わせてご覧ください。
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本記事に関する注記
- 本記事は特定商品の効果を保証するものではありません。成分の働きには個人差があり、体質・肌質により合わない場合もあります。
- 肌に赤み・かゆみ等の異常が出た場合は使用を中止し、症状が続く・悪化する場合は皮膚科等の医療機関にご相談ください。
- 本記事が参照する医薬部外品の成分表示名称リストは平成20年3月25日版です。最新版では収載状況や記載が変わっている可能性があります。
- 本記事が引用するCIRの詳細な数値は、2013年8月16日公開の Draft Final Report for Panel Review(2013年9月9〜10日パネル会議用)に基づきます。同評価は最終的に International Journal of Toxicology 2016 として公表されています(DOI: 10.1177/1091581816670322)。
- CIRの評価は米国の使用実態(VCRP届出および業界調査)に基づくもので、日本の配合規制を直接定めるものではありません。
- メチルグルセス-10は医薬部外品の有効成分ではなく、承認された効能はありません。本記事の記述は配合目的の説明にとどまります。