PEG-8は、エチレンオキシド(酸化エチレン)が平均8モル重合したポリエチレングリコールで、化粧品では保水と溶剤を目的に配合される水溶性の液状基剤にあたる(出典: 化粧品成分オンライン)。この記事の中心は、1つの同じ物質が制度をまたぐと別の軸の名前で呼ばれる、という点にある。化粧品表示名は重合度で刻んで「PEG-8」、医薬部外品表示名は平均分子量で刻んで「ポリエチレングリコール400」、医薬品では「マクロゴール400」。しかも医薬部外品の成分表示名称リストは200から20000まで分子量ごとに個別に名前を立てる一方、同じエチレンオキシド付加体でもメチルグルセス-10は付加モル数10〜20をまとめて1名称に束ねる。刻み方が正反対になるこの現象と、PEGで最も誤解されやすい1,4-ジオキサン残留の論点を、過剰評価も過剰否定もせずに整理する。

1. PEG-8の基本

1.1 何の成分か

PEG-8は、エチレンオキシドが鎖状につながったポリエチレングリコール(PEG)の一種で、化粧品表示名称・INCI名ともに「PEG-8」にあたる(出典: 化粧品成分オンライン)。名前の数字8は、つながったエチレンオキシド単位の平均の個数、つまり平均重合度を指す。平均分子量は380〜420、水酸基価は267〜295、粘度は6.0〜8.0mm2/sで、吸湿性は高いと整理される。無色の液体で、PEGのなかでは低重合側に入る。CAS番号は5117-19-1、PEG類全体をまとめて指す総称のCAS番号は25322-68-3にあたる(出典: CIR 2010)。

規制上の位置づけは医薬部外品の添加成分にあたる。PEG-8は医薬部外品の成分表示名称リストに「ポリエチレングリコール400」(連番1934・成分コード110357)として収載され、医薬部外品原料規格2021にも収載されている(出典: 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』/ 化粧品成分オンライン)。さらに日本薬局方にも収載され、医薬品の分野では「マクロゴール400」の名で軟膏基剤・溶剤として使われる。PEG類の国際一般名(INN)は macrogol にあたる(出典: CIR 2010)。ただしリストへの収載は「薬用化粧品に添加物として配合できる」という意味であって、PEG-8が医薬部外品の有効成分として承認されているわけではない。配合された製品の訴求は「うるおいを与える」「皮膚をすこやかに保つ」といった化粧品の標準効能の範囲にとどまり、PEG-8そのものに承認された効能はない。

ここで本記事の軸になるのが、名前の付き方の違いにある。化粧品表示名の数字はエチレンオキシドの平均付加モル数(平均重合度)を表すのに対し、医薬部外品表示名の数字は平均分子量を表す(出典: 化粧品成分オンライン『PEGの基本情報』)。同じ物質でも、化粧品の成分表では重合度という軸で「PEG-8」、薬用化粧品の成分表では分子量という軸で「ポリエチレングリコール400」と書かれる。数字が8と400で桁違いに見えるのは、別物だからではなく、測っている物差しが違うからにあたる。

この400という数字の性格も押さえておきたい。CIRが2010年の報告書に載せた対応表では、国際化粧品成分辞典に基づく分子量呼称(molecular weight name)としてPEG-8に「polyethylene glycol 400」が当てられている一方、重合度から機械的に算出した平均分子量(n×44+18)は370と記されている(出典: CIR 2010)。日本の規格側で示される平均分子量は380〜420で、こちらは実測の幅を持った規格値にあたる(出典: 化粧品成分オンライン)。つまり「400」は計算値そのものではなく、キリのよい数字を当てた呼称に近い。PEG-6が「300」(計算値282)、PEG-32が「1540」(計算値1426)と呼ばれるのも同じ構図で、名前の数字を分子量の実測値としてそのまま読まないのが正確な扱いになる。

1.2 どんな製品に配合されるか

化粧品成分オンラインはPEG-8の配合目的を保水と溶剤の2つに整理している(出典: 化粧品成分オンライン)。水にもエタノールにもよく溶ける低重合PEGなので、水系の処方で使いやすい。CIRが2010年の報告書に載せたFDAのVCRP(米国の化粧品届出制度)2007年の集計では、PEG-8の届出使用件数は288件、使用濃度の範囲は0.0002〜85%と報告されている(出典: CIR 2010)。同じ表でPEG-6は140件・0.01〜51%、PEG-32は127件・0.03〜15%なので、この3本のなかではPEG-8が件数でも濃度幅でも最も広く使われていることになる。

ここで本記事の中核データにあたるのが、DappNotes の自社商品マスターの集計になる。スキンケア54製品・ヘアケア78製品を機械集計すると、PEG-8を配合するのは6製品で、そのすべてがスキンケアだった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。ヘアケア78製品には1件も出てこない。

製品剤型配合位置
ギャツビー フェイシャルウォッシュ パーフェクトスクラブ洗顔フォーム9位/全18成分
ルシード オイルクリア洗顔フォーム洗顔フォーム7位/全17成分
ウーノ ホイップウォッシュ(ブラック)f洗顔フォーム7位/全18成分
ニベアメン アクティブエイジローション化粧水5位/全22成分
ニベアメン フェイスウォッシュ フレッシュ洗顔フォーム5位/全26成分
クワトロボタニコ ボタニカル オイルコントロール & スキンコンディショナー S化粧水34位/全44成分

(出典: DappNotes 商品マスター集計。全成分表示は原則として配合量の多い順だが、1%以下の成分は順不同のため、順位が低い=働いていないとは読めない)

この6製品の顔ぶれには偏りがある。6製品のうち5製品がギャツビー・ルシード・ウーノ・ニベアメンというマス系のメンズブランドで、しかもそのうち4製品が洗顔フォームだった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。配合位置も5〜9位に集中していて、水・グリセリン・界面活性剤といった土台の成分に続く前寄りの定位置に入っている。例外は最後の1製品で、こちらはブランドの性格も価格帯も違い、44成分中34位と後方に置かれていた。

同じ保湿の枠でも、この分布は兄弟成分と対照的にあたる。メチルグルセス-10は7製品中4製品が4位という前寄りの定位置に入り、ジグリセリンは化粧水から洗顔・シャンプーまで剤型を選ばずに散らばる。グリコシルトレハロースは洗浄系に寄る。PEG-8はそのなかで、ドラッグストアで売られる価格帯のメンズ洗顔フォームに集中するという、ブランド階層に紐づいた分布を見せている。

1.3 メンズ視点での見方

メンズの製品を成分表から読む立場では、PEG-8は「量販店で買えるメンズ洗顔フォームの前寄りに入っている、水になじむ保水・溶剤の基剤」という読み方ができる。

洗顔フォームでこの位置に入る理由は、剤型の事情から説明がつく。練り状の洗顔フォームは石けん系の界面活性剤と水と多価アルコールで骨格ができていて、放っておくと乾いて硬くなる。ここに吸湿性の高い液状PEGを入れると、中身の水分が保たれてチューブから出したときの伸びや泡立ちが安定する(出典: 化粧品成分オンライン)。肌の上で何かをするというより、製品の側の状態を保つ仕事にあたる。自社集計でPEG-8が洗顔フォームに偏り、配合位置も骨格成分のすぐ後ろに来るのは、この仕事の性格と方向が合う。

もう1つ、メンズが押さえておきたいのがPEGという名前に対する強い俗説にある。成分を調べると「PEGは石油由来だから経皮毒」「1,4-ジオキサンが残っていて発がん性がある」という主張に行き当たることが多い。結論を先に書くと、これらは成分そのものの毒性・原料の不純物管理・分子量と経皮吸収・用量と経路という4つの別々の話を1つに混ぜたもので、PEGは50年以上の使用実績があり公的な安全性評価を受けている成分群にあたる(出典: CIR 2010 / 化粧品成分オンライン)。ただし「だから何も気にしなくていい」でもない。低重合のPEGについては、皮膚炎のある肌でごくまれに感作を起こす可能性が指摘されている。この2つを同時に押さえるのが等身大の理解になる(詳細は §3.1 と §3.3)。

2. 期待される働き・効果

2.1 メカニズム

PEG-8の働きは、保水と溶剤の2つに集約される(出典: 化粧品成分オンライン)。どちらも分子の骨格から素直に説明がつく。

保水のほうは、分子の両端と鎖の途中に水と結びつく部位を持つことに由来する。PEG-8の水酸基価は267〜295と高く、吸湿性も高いと整理されている(出典: 化粧品成分オンライン)。水分子を引き寄せて手放しにくいので、処方の中の水が保たれる。PEG全体を見ると、この性質は分子量が上がるほど弱まる。化粧品成分オンラインの整理では、PEGは分子量の増加とともに水酸基価と吸湿性が下がり、代わりに粘度が上がっていき、分子量4000以上では吸湿性はほとんどなくなる。PEG-8は分子量400前後の低重合側なので、吸湿性の高いグループに入る。

溶剤のほうは、水にもエタノールにも溶けやすく、油側ともある程度なじむという両にらみの性質に由来する。化粧品成分オンラインの整理では、PEG-32以下のPEGは水やエタノールに溶けやすく、水に溶けない薬剤を分散させる用途に向くとされる(出典: 化粧品成分オンライン『PEGの基本情報』)。香料や油性の成分を水系の処方に均一に散らす場面で、この性質が効く。ちなみにPEG-32を境に上の側では役割が変わり、粉体を圧縮成型するときの結合剤、さらに分子量が上がると水系の増粘・乳化安定へと移っていく。同じPEGでも数字が変われば担当が変わる、というのがこの成分群の基本になる。

洗顔フォームでの働きは、この2つの合わせ技として読める。界面活性剤と水でできた練り状の中身に対して、水分を保って硬化やひび割れを防ぎ、香料などを均一に溶かし込み、結果として泡立ちと伸びを安定させる。肌に対して直接何かを与える主役ではなく、製品を成り立たせる側の成分にあたる。

なお、PEG-8の保水は肌の上でも働きうるが、洗い流す洗顔料では肌に残る量が限られる。洗顔料に入ったPEG-8を「肌の保湿成分」として読むより、「製品の状態を保つ成分」として読むほうが実態に近い。同じPEG-8でも、化粧水のように肌に残す製品では話が変わってくる。

2.2 一般的な効能範囲

PEG-8の効能をどこまで語れるかは、この成分が製品の中で何として入っているかで決まる。

化粧品に配合されたPEG-8は、保水と溶剤を担う基剤成分にあたる。製品として訴求できるのは「うるおいを与える」「皮膚をすこやかに保つ」といった化粧品の効能の範囲で、成分単体の話として「シミが消える」「シワを治す」「育毛する」といった表現を取ることはできない(出典: 化粧品成分オンライン)。これらは医薬品・医薬部外品の領域にあたる。

薬用化粧品(医薬部外品)に配合された場合も、PEG-8の立ち位置は変わらない。医薬部外品の成分表示名称リストに「ポリエチレングリコール400」として収載されているのは、その他成分(添加物)として配合できるという意味であって、有効成分として承認されているという意味ではない(出典: 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』)。薬用洗顔料の効能はそこに入っている有効成分の承認内容に従うもので、PEG-8はその効能を担う側ではない。

つまりPEG-8の価値は、効能の主体になることではなく、効能を担う成分が働ける状態を保つところにある。水分が抜けて硬くなった洗顔料、香料が分離した化粧水では、そもそも設計どおりの使われ方をしない。保水と溶剤という2つの役割は、その手前を支える仕事にあたる。成分表でPEG-8を見つけたときに読み取れるのは、この処方が水系で、保水と溶かし込みを液状PEGに任せている、という設計上の選択になる。

2.3 限界・誤解されやすい点

PEG-8をめぐって行き違いが起きやすい点は3つある。

1つ目は、名前の数字を分子量だと思い込むケースにある。PEG-8の8は平均重合度で、分子量はおよそ400にあたる(出典: 化粧品成分オンライン)。この誤読が起きると、成分表の「PEG-8」と薬用製品の「ポリエチレングリコール400」が別物に見え、逆に医薬品の「マクロゴール400」とPEG-40のような別成分を取り違えることも起きる。数字が何を測っているかを先に確かめるのが、この成分群を読むときの前提になる。

2つ目は、PEGを1つのかたまりとして評価してしまうケースにある。PEGは重合度によって液状から固形まで性状が変わり、担当する仕事も保水・溶剤から結合剤、増粘へと移っていく(出典: 化粧品成分オンライン『PEGの基本情報』)。安全性の議論でも、低重合PEGについて言われていることと高分子PEGについて言われていることは別で、後述する感作の留保は主に低重合側の話にあたる。さらにPEG付加油脂のような誘導体まで含めると、界面活性という別の性格が加わる。「PEGが入っている」の一言でまとめられる範囲は、実はかなり狭い。

3つ目は、保水成分だから乾燥が根本的に解決すると受け取るケースにある。PEG-8の保水は吸湿によって水分を保つ働きで、肌のバリア機能そのものを立て直すものではない(出典: 化粧品成分オンライン)。まして洗顔フォームに入ったPEG-8の主な仕事は、前述のとおり製品の側の水分を保つことにある。乾燥が気になる場合に動かすべきは、洗浄力の強さ、洗う頻度、洗顔後に何をどれだけ補うかであって、成分表にPEG-8があるかどうかではない。

3. 安全性・注意点

3.1 既知の刺激性・アレルギー報告

PEG-8そのものの刺激性は、化粧品成分オンラインの整理では次のようにまとめられている(出典: 化粧品成分オンライン)。皮膚刺激性は軽度〜非刺激、眼刺激性はほとんどなし、皮膚感作性は健常な皮膚ではほとんどなし。ただし皮膚炎を有する場合には、ごくまれに感作の可能性がある。PEG全体の整理でも、この留保が付くのはPEG-8以下の低重合PEGで、PEG-20以上ではほとんどなしとされる(出典: 化粧品成分オンライン『PEGの基本情報』)。PEG-8はちょうどこの境目に位置する成分にあたる。

公的な安全性評価としては、CIR(米国の化粧品成分安全性評価機関)の報告書がPEG-8を名指しで扱っている。1993年の最終報告書はPEG-6・PEG-8・PEG-32・PEG-75・PEG-150・PEG-14M・PEG-20Mの7成分を対象としていて、PEG-8はその当初からの評価対象にあたる(出典: CIR 2010 が引用する J. Am. Coll. Toxicol. 12(5):429-457)。2010年にはこの報告書が改訂され、トリエチレングリコールとPEG-4からPEG-180Mまでの40成分以上を対象とする最終改訂版として、これらの成分は本安全性評価に記載された使用実態と使用濃度において化粧品成分として安全(safe as cosmetic ingredients in the practices of use and concentration as described in this safety assessment)と結論されている(出典: CIR 2010)。

この2010年の改訂で最も大きく変わったのが、損傷皮膚に関する但し書きの扱いにある。1993年の結論には「これらのPEGを含む化粧品は損傷した皮膚に使用すべきでない」という条件が付いていた。2010年の改訂ではこの damaged skin caveat が撤回され、同じ但し書きが書かれていたPEG誘導体の各報告書からも同時に削除された(出典: CIR 2010)。撤回の根拠になったのは、テープストリッピングで角層を取り除いた皮膚での経皮吸収データと、そこから90パーセンタイルの使用量を前提に計算した安全マージンで、報告書には113から2600超という値が示されている。専門委員会は、角層が失われた状態はアトピー性皮膚炎などで見られる皮膚の状態と大きく違わないとしたうえで、それでも十分な余裕があると判断した。

ただし撤回には明確な線引きが残っている。同じ報告書は、三度熱傷や一部の二度熱傷のように角層と表皮の双方が失われた皮膚では、PEGが真皮まで達して全身曝露と腎毒性につながりうるとし、そうした皮膚に高濃度のPEGを含む化粧品を塗ることは不適切だと明記している(出典: CIR 2010)。つまり「バリアが弱っている肌は問題ない/皮膚が欠損している状態は別」という区別が付いた形にあたる。日常のスキンケアで扱う範囲は前者に入る一方、化粧品成分オンラインが挙げる皮膚炎時のごくまれな感作の可能性は残るため、肌荒れがある部位に新しい製品を使うときは、初回にパッチテストで相性を確かめるのが無難になる。

3.2 推奨配合量と過剰配合時のリスク

PEG-8は「何%配合すると効く」というタイプの成分ではなく、担わせる役割によって配合量が大きく動く。CIRの2010年報告書が載せたFDAのVCRP 2007年集計では、PEG-8の使用濃度は0.0002〜85%という極端に広い範囲で報告されている(出典: CIR 2010)。同じ表のPEG-6が0.01〜51%、PEG-32が0.03〜15%なので、この3本のなかでPEG-8の幅が突出して広い。溶剤・基剤として処方の骨格に使う場合と、香料を溶かす程度の補助に使う場合とで、桁がいくつも変わることになる。日本の化粧品基準にPEG-8の配合上限が定められているという記述は確認できなかったため、本記事では一律の上限を断定せず、役割に応じた配合として扱う。

過剰配合という観点で言えば、PEG-8は刺激が軽度〜非刺激の穏やかな成分で、量が増えたからといって刺激が急に立ち上がる性格ではない(出典: 化粧品成分オンライン)。実際に効いてくるのは使用感の側で、吸湿性の高い液状PEGを多く入れれば、しっとりするのと引き換えにべたつきや重さが出やすくなる。皮脂が多くさっぱりした使い心地を好む場合、これは安全性ではなく好みの問題として現れる。

自社集計の6製品を見ると、PEG-8の配合位置は5〜9位に集中し、1製品だけが44成分中34位だった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。前寄りに入っている製品では保水・溶剤の主要な担い手として、後方の製品では補助的な役割として使われていると読むのが現実的にあたる。ただし全成分表示は1%以下の成分が順不同になるため、順位から配合量を精密に読むことはできない。

安全性の面で実際に注意が要るのは、量よりも肌の状態のほうにある。§3.1 のとおり、低重合PEGは皮膚炎のある肌でごくまれに感作を起こす可能性が指摘されている(出典: 化粧品成分オンライン)。荒れている部位に使う製品では、PEG-8の配合量を気にするより、その製品全体の洗浄力や刺激になりうる成分との組み合わせを見るほうが実用的になる。

3.3 「危険性」と言われる根拠と実態の整理

PEGを危険視する主張は、たいてい1,4-ジオキサンとエチレンオキシドという2つの物質の名前を経由してくる。この論点は避けずに、どこで生まれてどこで消える話なのかという順番で追うと整理しやすい。

出発点は製造工程にある。PEGはエチレンオキシドを重合してつくるため、原料のエチレンオキシドと、その副生物である1,4-ジオキサンが、ごく微量ながら生成物に残りうる。CIRの専門委員会も2010年の報告書で、これらが不純物として存在しうることに懸念を示し、化粧品業界は化粧品処方に配合する前に必要な精製工程でこれらの不純物を除去し続けるべきだと述べている(出典: CIR 2010)。懸念そのものは実在するし、評価機関も無視していない。

問題は、この記述がどの層の話なのかにある。CIRが求めているのは、PEGという分子の使用をやめることではなく、原料段階での精製を続けることにあたる。裏を返せば、これは成分そのものの性質ではなく、原料をどう精製し残留をどう管理するかという工程の話になる。同じ報告書の結論はPEG-8を含む40成分以上を安全と結論しており、不純物への言及はその結論と両立している。「不純物への懸念が書かれている」ことと「成分が危険と結論された」ことは、同じ文書の中でも別の段にあたる。

次に効いてくるのが分子の大きさになる。PEGは分子量が大きいほど皮膚を通りにくく、健常な皮膚では全身に入りにくい。CIRが2010年に損傷皮膚の但し書きを外したときの根拠も、角層を除いた皮膚での吸収量を実測したうえで安全マージンが113から2600超という値になったことにあった(出典: CIR 2010)。PEG-8は低重合側で、この群のなかでは通りやすい部類に入るが、それでも安全マージンは確保されているという整理になる。分子量が大きいPEG-32ではさらに通りにくい。「皮膚から毒が入る」という一般化は、この分子量依存を飛ばしている。

最後に、量と入り口の話が残る。1,4-ジオキサンやエチレンオキシドの毒性が問題になるのは、高い濃度でくり返し吸い込んだり飲み込んだりする状況にあたる。精製されたPEGを配合した化粧品を肌に塗る場面とは、体に入る量も入り口も違う。物質の名前が共通しているだけで同じリスクとして扱うと、この差が消えてしまう。

まとめると、この論点で読み分けるべきは3つある。原料の精製・残留管理という工程の話と、成分そのものの安全性評価は層が違う。経皮吸収は分子量で変わるので、PEGとひとまとめにできない。毒性の話は量と経路とセットでないと意味を持たない。そのうえで、PEGを全面的に安全と言い切るのも正確ではなく、低重合PEGでは皮膚炎のある肌での感作という留保が残る(出典: 化粧品成分オンライン)。避けるか避けないかの二択ではなく、健常な肌では穏やかな基剤として扱い、荒れている肌では慎重に使う。それがPEG-8に対する等身大の距離の取り方になる。

4. 相性の良い・悪い成分

4.1 併用推奨

PEG-8は水系の処方に幅広く組み込める基剤で、特定の成分と組み合わせて初めて働くタイプではない。実際の処方では、役割の近い保湿剤と並べて使われる。

多価アルコール系の保湿剤との組み合わせが最も一般的にあたる。グリセリンBG(ブチレングリコール)DPG(ジプロピレングリコール)プロパンジオールといった成分と並ぶと、吸湿の担い手が複数になり、湿度が変わっても保水の効き方が急に落ちにくくなる。PEG-8は溶剤としても働くので、これらの保湿剤より溶かし込みの守備範囲が広い点で役割が分かれる。

骨格の違う保湿剤との組み合わせも実際に見られる。自社集計では、PEG-8とメチルグルセス-10が同じ化粧水に同居する例があった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。前者はエチレンオキシド鎖そのもの、後者はメチルグルコシドという糖の誘導体にエチレンオキシド鎖を付けたもので、水の抱え方も感触も違う。ジグリセリングリコシルトレハロースを含め、保湿剤は骨格の違うものを組み合わせて使うのが処方設計の定石にあたる。

洗顔フォームでは、界面活性剤との組み合わせが基本になる。石けん系の洗浄成分でできた練り状の中身に対して、PEG-8は水分を保ち、香料などを均一に溶かし込む側に回る。自社集計でPEG-8が洗顔フォームに集中していたのは、この分担が成り立ちやすいためと読める。

4.2 併用注意

PEG-8について、特定の成分と一緒に使ってはいけないという禁忌の組み合わせが広く知られているわけではない(出典: 化粧品成分オンライン)。水・エタノール・多価アルコール・界面活性剤・各種の油分と幅広くなじむので、処方上の相性で悩む場面は多くない。

注意が向くのは成分同士より肌の状態のほうにある。§3.1 のとおり、低重合PEGは皮膚炎のある肌でごくまれに感作を起こす可能性が指摘されている(出典: 化粧品成分オンライン)。すでに荒れている部位に、洗浄力の強い洗顔料やアルコール分の多い化粧水を重ねると、PEG-8がどうこうという以前にバリアがさらに削られる。荒れているときに見直すべきは、製品全体の設計と使う頻度になる。

使用感の面でも1つ触れておきたい。PEG-8は吸湿性が高いため、多めに入った製品はしっとりする代わりに重くなりやすい。同じ処方の中に他の吸湿性の高い保湿剤が何本も並んでいると、この傾向が足し合わさる。皮脂が多くべたつきを嫌う場合、成分表の前半に吸湿系の保湿剤が集中している製品は、テクスチャーの好みが合わない可能性がある。これは安全性の話ではなく、選び方の目安にあたる。

原料の品質に関わる点は §3.3 のとおりで、精製と残留管理の問題にあたる。特定の成分と組み合わせたときに不純物が増えるという性質のものではないため、組み合わせの禁忌として身構える必要はない。

4.3 類似成分

PEG-8に近い成分は2種類ある。1つは同じPEGの重合度違い、もう1つは同じ「保湿」の枠に入る骨格違いの成分になる。

まず同族から。PEG-6は平均重合度6・分子量およそ300の液状PEGで、PEG-8のすぐ下に位置する。PEG-32は平均重合度32・分子量およそ1500の中重合PEGで、常温では半固形に近く、保水より基剤・感触の調整に寄る。3本とも医薬部外品の成分表示名称リストに収載され、規制上の区分はいずれも医薬部外品の添加成分にあたる。呼ばれ方だけが軸を変えて並ぶ。

化粧品表示名医薬部外品表示名医薬品名平均分子量の目安
PEG-6ポリエチレングリコール300マクロゴール300285〜315
PEG-8(本成分)ポリエチレングリコール400マクロゴール400380〜420
PEG-32ポリエチレングリコール1540マクロゴール15401300〜1600

(出典: 化粧品成分オンライン / 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』。なお医薬品の「ポリエチレングリコール1500」はPEG-6とPEG-32の等量混合物とされるため、PEG-32と単純に同一視はできない)

次に骨格違いの側になる。保湿という同じ目的の成分でも、分子の成り立ちは何通りにも分かれ、それに応じて名前の付き方も変わる。ここが本記事の軸にあたる。

成分骨格化粧品表示名の刻み方医薬部外品の成分表示名称リストでの残り方
PEG-8(本成分)エチレンオキシド鎖そのものEO付加モル数別の軸の名前で収載(平均分子量表記のポリエチレングリコール400・連番1934)
ジグリセリングリセリンの二量体重合度そのもの同名でそのまま収載(連番1003)
メチルグルセス-10メチルグルコシド+EO鎖EO付加モル数-10と-20が1名称に束ねられて収載(ポリオキシエチレンメチルグルコシド・連番2146)
グリコシルトレハロース糖(トレハロース由来)糖の名前単独名では存在せず、混合溶液名でのみ収載(連番689)

(出典: 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』平成20年3月25日版)

この表で目を引くのが、PEG-8とメチルグルセス-10の対比になる。どちらも化粧品表示名は「骨格+EOの付加モル数」という同じ形式で刻まれる。ところが医薬部外品の表示名称リストに移ると、扱いが正反対になる。PEG-8の側は200・300・400・600・1000・1500・1540・2000・4000・6000・11000・20000と、分子量ごとに12個の名前が連番1932から1943まで個別に立てられている。一方メチルグルセス-10の側は、リストの本質の項が「酸化エチレンの平均付加モル数は10〜20である」と幅を持たせて定義していて、-10も-20も1つの名前に収まる。同じエチレンオキシド付加体でありながら、片方は細かく割られ、片方はまとめられている。

刻み方が違う理由は、成分の危険度や品質の差ではなく、その名前がどの規格に紐づいているかにある。ポリエチレングリコールは医薬品として分子量ごとに規格が立っている歴史が長く、その粒度が部外品側の名称にも引き継がれた形になる。ジグリセリンのように化粧品名がそのまま残る例も、グリコシルトレハロースのように単独名が存在せず混合溶液名でしか出てこない例もあり、残り方は4本4通りにあたる。

そして、この残り方の違いは規制区分の違いを意味しない。4本とも医薬部外品の添加成分として扱われる。名前が変わっていても別物ではないし、単独名で載っていないから部外品に使えないわけでもない。成分表を読むときは、名前の一致ではなく、その名前がどの制度のどの物差しで付けられたものかを見るのが正確な読み方になる。

5. よくある質問

Q1. PEG-8とポリエチレングリコール400・マクロゴール400は別の成分ですか

同じ物質を、制度ごとに違う物差しで呼んだものです。化粧品の成分表示ではエチレンオキシドの平均付加モル数(平均重合度)を数字にするため「PEG-8」、医薬部外品の成分表示名称では平均分子量を数字にするため「ポリエチレングリコール400」、医薬品では同じものを「マクロゴール400」と呼びます(出典: 化粧品成分オンライン / 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』)。8と400という数字の差は、別成分だからではなく、重合度で数えるか分子量で数えるかの違いによるものです。なお400という数字自体もキリのよい呼称に近く、重合度から機械的に計算した平均分子量は370、日本の規格で示される平均分子量は380〜420の幅を持ちます(出典: CIR 2010 / 化粧品成分オンライン)。薬用洗顔料の成分表に「ポリエチレングリコール400」とあり、化粧品の成分表に「PEG-8」とあっても、中身は同じものだと考えて差し支えありません。

Q2. PEG-8とPEG-6・PEG-32はどう使い分けられていますか

重合度が上がるほど分子量が大きくなり、性状と担当する役割が移っていきます。PEG-6は分子量およそ300の液状で保水と溶剤、PEG-8は分子量およそ400の液状で同じく保水と溶剤、PEG-32は分子量およそ1500で常温では半固形に近く、基剤や感触の調整に寄ります(出典: 化粧品成分オンライン)。PEG全体では、分子量が上がるほど吸湿性が落ちて粘度が上がり、4000以上になると吸湿性はほとんどなくなります。使われ方の広さにも差があり、CIRの2010年報告書に載るFDAのVCRP 2007年集計では、届出件数と使用濃度がPEG-6は140件・0.01〜51%、PEG-8は288件・0.0002〜85%、PEG-32は127件・0.03〜15%と報告されています(出典: CIR 2010)。この3本のなかではPEG-8が最も広く、最も幅のある使われ方をしていることになります。詳しくはPEG-6PEG-32の各記事もあわせてご覧ください。

Q3. PEGに1,4-ジオキサンが残っていて発がん性があると聞きましたが大丈夫ですか

懸念の出どころは実在しますが、それはPEGという分子の毒性ではなく、原料の精製工程の話です。PEGはエチレンオキシドを重合してつくるため、原料のエチレンオキシドと副生物の1,4-ジオキサンがごく微量残りうります。CIRの専門委員会も2010年の報告書でこの点に懸念を示し、化粧品業界は化粧品処方に配合する前の精製工程でこれらを除去し続けるべきだと述べています(出典: CIR 2010)。ただし同じ報告書は、PEG-8を含む40成分以上を、記載された使用実態と使用濃度において安全と結論しています。不純物への注意喚起と成分自体の安全性の結論は、同じ文書のなかで別の層の話として並んでいます。加えて、これらの物質の毒性が問題になるのは高濃度でくり返し吸入・経口摂取する場面で、精製されたPEGを配合した化粧品を肌に塗る場面とは、体に入る量も入り口も違います。物質名が同じというだけで同列に扱うと、この差が見えなくなります。詳しくは §3.3 をご覧ください。

Q4. 昔はPEGを傷んだ肌に使わないよう書かれていたと聞きました。今はどうですか

その但し書きは2010年に撤回されています。CIRが1993年に出したPEG-6・PEG-8・PEG-32・PEG-75・PEG-150・PEG-14M・PEG-20Mの報告書には、これらのPEGを含む化粧品を損傷した皮膚に使用すべきでない、という条件が付いていました。2010年の最終改訂版でこの damaged skin caveat は取り下げられ、同じ但し書きを載せていたPEG誘導体の各報告書からも削除されています(出典: CIR 2010)。根拠になったのは、テープストリッピングで角層を取り除いた皮膚での経皮吸収データと、90パーセンタイルの使用量を前提にした安全マージンの計算で、報告書には113から2600超という値が示されています。専門委員会は、角層がほぼ失われた状態はアトピー性皮膚炎などで見られる皮膚と大きく違わないとしたうえで、それでも余裕があると判断しました。ただし線引きは残っていて、三度熱傷のように角層と表皮の双方が失われた皮膚に高濃度のPEGを塗ることは不適切だと同じ報告書に明記されています。また日本の資料では、皮膚炎を有する場合にPEG-8以下の低重合PEGがごくまれに感作を起こす可能性が指摘されています(出典: 化粧品成分オンライン)。肌荒れがある部位では、慎重に使うという扱いが引き続き妥当です。

Q5. メンズの洗顔フォームにPEG-8が入っているのはなぜですか

練り状の洗顔フォームという剤型と、PEG-8の性質が噛み合うためです。洗顔フォームは石けん系の界面活性剤と水と多価アルコールでできていて、水分が抜けると硬くなったり泡立ちが変わったりします。吸湿性の高い液状PEGを入れると中身の水分が保たれ、伸びと泡立ちが安定します(出典: 化粧品成分オンライン)。香料など水に溶けにくい成分を均一に散らす溶剤としても働きます。DappNotes の商品マスター集計では、PEG-8を配合する6製品のうち5製品がギャツビー・ルシード・ウーノ・ニベアメンといったマス系のメンズブランドで、そのうち4製品が洗顔フォームでした。配合位置も5〜9位と前寄りに集中しています(出典: DappNotes 商品マスター集計)。ヘアケア78製品には1件も出てきません。ただしこれは自社マスターの範囲での分布であり、市場全体の傾向を示すものではありません。また洗い流す洗顔料では肌に残る量が限られるため、成分表のPEG-8を肌の保湿成分として読むより、製品の状態を保つ成分として読むほうが実態に近くなります。

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本記事に関する注記

  • 本記事は特定商品の効果を保証するものではありません。成分の働きには個人差があり、体質・肌質により合わない場合があります。
  • 肌に赤み・かゆみ・刺激等の異常が出た場合は使用を中止し、症状が続く・悪化する場合は皮膚科等の医療機関にご相談ください。傷・炎症のある肌への使用は避けてください。
  • 本記事が参照する『医薬部外品の成分表示名称リスト』は平成20年3月25日版であり、最新版では収載状況が変わっている可能性があります。連番・成分コードも同版に基づきます。
  • 本記事が参照するCIRの報告書は2010年6月の最終改訂版(Final Amended Safety Assessment)です。損傷皮膚に関する但し書きの撤回は、これ以前の1993年の結論に付いていた条件についての記述にあたります。
  • PEG-8の平均分子量として本記事に挙げた380〜420は日本の規格に基づく値、370はCIR報告書に載る重合度からの計算値で、由来の異なる数字です。
  • 本記事に含まれる製品数の集計は DappNotes 商品マスター(2026年9月時点・スキンケア54製品/ヘアケア78製品)に基づく自社集計であり、市場全体の分布を示すものではありません。全成分表示は原則として配合量の多い順ですが、1%以下の成分は順不同のため、配合順位から配合量を精密に読むことはできません。
  • 本記事は成分の一般的な解説であり、化粧品・医薬部外品の効能効果は配合製品の承認・表示の範囲に従います。PEG-8は医薬部外品の有効成分ではなく、承認された効能はありません。
  • 外部の安全性評価(CIR等)は出典明記の参考値であり、絶対的な安全性を保証するものではありません。