(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマーは、アクリル酸系のモノマーに炭素数10〜30の長い側鎖を持つアルキルアクリレートを共重合させ、スクロースまたはペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋した合成ポリマーにあたる(出典: CIR 2018)。粉を水に分散させただけの段階では、pHは約3で粘度はほとんど立たない。ここにアルカリを加えて中和すると、その瞬間に増粘する(出典: Lubrizol TDS-297)。つまりこの成分は、水に入れれば増粘する多糖類とは違い、中和というスイッチを入れて初めてゲルになる。そしてもう1つ、医薬部外品の成分表示名称としては別の名前で収載されているという特徴がある。本記事は、この中和というスイッチと名前の割れ方を軸に、成分の正体・働き・安全性を中立に整理する。

1. (アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマーの基本

1.1 何の成分か

CIRの2018年報告書は、この成分を次のように定義している。アクリル酸・メタクリル酸またはそれらの単純なエステルのモノマー1種以上と、炭素数10〜30のアルキルアクリレートとの共重合体で、スクロースのアリルエーテルまたはペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋したもの(出典: CIR 2018)。機能は乳化安定剤、水系の増粘剤、非水系の増粘剤の3つが挙げられている。増粘剤としてだけでなく、乳化安定剤が先頭に置かれている点は後で効いてくる。

この定義をカルボマーと並べると、違いが1点に絞れる。カルボマーはアクリル酸を主鎖とし、アリルエーテル類で架橋した水溶性の合成高分子で、架橋剤は同じくスクロースやペンタエリスリトールのアリルエーテルにあたる。つまり主鎖の骨格も架橋のやり方も共通していて、違うのは炭素数10〜30という長い炭化水素の側鎖が共重合で組み込まれているかどうかになる。この長い側鎖が油になじむ疎水基として働き、増粘一本槍のカルボマーには無い性質を足している(出典: 住友精化 / CIR 2018)。名前の中の「アルキル(C10-30)」という部分が、そのまま両者の差分を指している。

原料としての供給のされ方にも、その二面性が出ている。同じ INCI名 Acrylates/C10-30 Alkyl Acrylate Crosspolymer を持つ原料が、増粘剤の商品系列であるCarbopolシリーズと、ポリマー乳化剤の商品系列であるPemulenシリーズという2通りで流通している(出典: Lubrizol TDS-297 / 原料メーカー製品情報)。前者は透明ジェルをつくる増粘剤として、後者は水中油型の乳化物をつくる乳化剤として売られる。成分表に載る名前は同じでも、処方の中で期待されている仕事は製品によって違いうる。

ここから本記事の1つ目の軸に入る。この成分は、医薬部外品の成分表示名称としては別の名前で収載されている。日本化粧品工業連合会の医薬部外品の成分表示名称リストを引くと、連番30・成分コード532004に次の名称がある(出典: 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』)。

アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体(連番30)

本質: 本品は,アクリル酸とメタクリル酸アルキル(C10〜C30)の共重合体である.

炭素数10〜30という数字がそのまま残っているのが手がかりになる。この名称と化粧品表示名称が同じ原料を指すことは、原料メーカー側が明示している。住友精化は自社の医薬部外品向け製品ページで、化粧品表示名称として「(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー」、INCI名として「Acrylates/C10-30 Alkyl Acrylate Crosspolymer」を並記している(出典: 住友精化)。製品区分が変わると名前が変わるが、瓶の中身は同じという関係になる。

ただし、名称の対応を厳密に読むと完全な一致ではない点も書いておきたい。リストの本質欄はアクリル酸とメタクリル酸アルキルの共重合体と述べているのに対し、CIRの定義はメタクリレートではなくアルキルアクリレートとの共重合体で、しかも架橋の記載がある。本質欄には架橋という語が出てこない。医薬部外品の成分表示名称は原料の規格の側から名前を与えるもので、化粧品表示名称のように分子構造を細かく刻む書き方をしない。同じ原料に2つの制度が別の粒度で名前を付けた結果として、語の上では食い違いが残っている、と読むのが実態に近い。

なお同じリストには、連番11から23にかけて「アクリル酸アルキル共重合体」「アクリル酸アルキルエステル・メタクリル酸アルキルエステル共重合体」「アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体」といった名称がずらりと並んでいる(出典: 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』)。いずれも本成分とは別項の、別のアクリル酸系ポリマーになる。名前が似ているだけで同じ成分と決めつけられないのは、このリストの中でも同じにあたる。ちなみに近縁のカルボマーは、連番586・成分コード101243に「カルボキシビニルポリマー」として、本品は酸性高分子化合物で主としてアクリル酸の重合したものである、という本質で収載されている。

規制上の位置づけは、化粧品にも医薬部外品にも使われる添加成分にあたる。医薬部外品の有効成分として承認された効能を持つ成分ではなく、薬用化粧品の中ではその他成分として、増粘・ゲル化・乳化安定の役割を担う(出典: 厚生労働省『化粧品の効能の範囲』)。参照した名称リストは平成20年3月25日版のため、最新版で収載状況が変わっている可能性は残る。

1.2 どんな製品に配合されるか

Lubrizolの技術資料は、この成分の用途としてヘアスタイリングジェル、ハンド・ボディローション、手指消毒剤、保湿ジェル、日焼け止めローション、バスジェル、シャンプーを挙げている(出典: Lubrizol TDS-297)。CIRが集計した2018年時点の米国での使用件数は3135件で、内訳はリーブオン2577件・リンスオフ546件・入浴時に希釈して使うもの12件になる(出典: CIR 2018)。8割方が洗い流さない製品に入っている分布にあたる。

DappNotes の商品マスター全132製品を機械集計すると、この成分の配合は11製品で、11製品すべてがスキンケアになる(出典: DappNotes 商品マスター集計)。ヘアケア78製品での配合はゼロだった。

製品ID配合位置区分成分表での表示名併記されたアルカリ剤製品
P08116位/18医薬部外品アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体水酸化K(17位)オルビス ミスター エッセンスローション
P08319位/25化粧品(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー水酸化Na(22位)オルビス ミスター ドライタッチ UVジェル
P0868位/26化粧品同上水酸化K(13位)ギャツビー EXパーフェクトローション
P08816位/28医薬部外品アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体水酸化カリウム(17位)ルシード 薬用パーフェクトスキンクリームEX
P09412位/28化粧品(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー水酸化Na(22位)マニフィーク モイスチュアライジング ジェル
P09722位/36化粧品同上水酸化K(32位)マニフィーク オールインワン ジェル UV
P10014位/22化粧品同上水酸化Na(19位)ニベアメン UVプロテクトジェル
P10718位/25化粧品同上TEA(16位)VARON オールインワンセラム ORIGINAL
P10822位/31化粧品同上水酸化Na(28位)アスタリフト メン モノム モイスチャライザー
P11339位/51化粧品同上アルギニン(31位)+水酸化Na(48位)DISM オールインワンジェル モイスト
P11533位/37医薬部外品アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体水酸化ナトリウム(35位)murphy 薬用オールインワンジェル

この表から読み取れることが2つある。

1つ目は、11製品が11製品ともアルカリ剤を併記していることになる。内訳は水酸化K系が5製品、水酸化Na系が5製品、TEAが1製品で、P113だけはアルギニンと水酸化Naの両方を持つ。中和剤を伴わずにこの成分だけが載っている製品は、132製品のマスターの中に1件も無かった。§2.1 で見るとおり、この成分は中和して初めて増粘するため、処方には必ず中和剤が要る。その処方上の必然が、成分表の上でそのまま観察できる形になる。ただし念のため書いておくと、これは配合実態の観察であって、併記されたアルカリ剤が必ずこの成分の中和に使われていると証明したものではない。アルカリ剤は石けん基剤の鹸化や他のポリマーの中和にも使われる。中和が要るという性質そのものの根拠は、後述する原料メーカーの技術資料の側にある。

2つ目は、表示名が製品区分で割れていることになる。医薬部外品の3製品(P081・P088・P115)はいずれも「アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体」、化粧品の8製品はいずれも「(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー」系の表記だった。§1.1 で見た制度の違いが、同じ棚に並ぶ製品の成分表の上で実際に分かれている。しかも医薬部外品の3製品では、アルカリ剤が本成分の直後または近い位置に並ぶ(P081は16位→17位、P088も16位→17位、P115は33位→35位)。化粧品の8製品ではもう少し離れて置かれる傾向があった。

ここで成分表を読むときの注意も1つ付け加えておきたい。「クロスポリマー」という語で終わる化粧品成分は本成分だけではない。同じ製品の中に別のクロスポリマーが同居している例が、集計した11製品のうち2製品にあった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。P083にはメタクリル酸メチルクロスポリマー、P097には(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマーが、本成分とは別行で入っている。前者は球状の粉体、後者はシリコーン系で、増粘の仕組みも役割も本成分とは違う。成分表で「〜クロスポリマー」を見つけたときは、カッコの中まで読まないと本成分かどうかは決まらない。

なお全成分表示は原則として配合量の多い順だが、1%以下の成分は順不同で書いてよい決まりになっている。上の順位は表示上の位置であって、順位が低いことがそのまま配合量の少なさを意味するとは限らない。§3.2 で見るとおり、この成分の最大使用濃度は3%程度で、実際の配合はもっと低い水準に収まることが多い。

1.3 メンズ視点での見方

メンズの棚でこの成分に出会う場面は、上の集計どおりオールインワンジェル・ジェル状のUV製品・化粧水に集中する。11製品のうち、商品名にジェルを含むものが6製品を占めた(出典: DappNotes 商品マスター集計)。男性は皮脂分泌量が女性の約2倍とされ、ベタつきを嫌って軽い使用感を好む傾向があるため、みずみずしいジェル剤型が選ばれやすい(出典: メンズスキンケア専門メディア各種)。その剤型を成立させている骨格の1つが、この成分になる。

もう1つ、美顔器と併用するジェルを選ぶ場面でもこの成分の名前は出てくる。DappNotes が調査したオールインワンジェル9品のうち8品がポリマー系の増粘剤を配合していて、その一群にこの成分が含まれる。詳しくは美顔器にオールインワンジェルは使えるか美顔器に化粧水だけで足りるかで扱っている。美顔器で問題になるのは、肌と電極のあいだに水分のある層が保たれるかどうかで、その層をつくるのが増粘剤にあたる。成分表で本成分やカルボマーを見つけたら、少なくとも粘度は設計されている製品だと読める。

成分表を読むときの実用的な視点としては、次の2点になる。第一に、この成分の近くに水酸化Na・水酸化K・TEA・アルギニンといったアルカリ剤が立っていても、それは製品がアルカリ性という意味ではない。中和の到達点は§2.1 のとおりpH6〜7付近で、肌に近い領域にあたる。第二に、医薬部外品の薬用ジェルで「アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体」という見慣れない名前を見つけても、化粧品の「〜クロスポリマー」と別物ではない。名前の違いは制度の違いであって、処方思想の違いではない。

2. 期待される働き・効果

2.1 メカニズム

この成分の増粘は、中和というスイッチを入れて初めて立ち上がる。ここが本記事の核にあたる。

原料メーカーの技術資料が、その挙動を工程の順序で書いている。Lubrizolの Carbopol Ultrez 21 Polymer の技術資料(TDS-297)は、粉体を水に振り入れて分散させた段階について、pHは約3で粘度はごく低いと記す。そして中和という見出しを立て、中和すると直ちに増粘すると続ける(出典: Lubrizol TDS-297)。同じ資料は、粘度を測るための標準サンプルであるムシラージを、水に分散させたポリマーを塩基(好ましくは水酸化ナトリウム)でpH6.3〜7.5に中和したもの、と定義している。中和前と中和後で、同じ濃度の同じポリマーが別物のように振る舞う。

なぜそうなるのかは、分子の側から説明できる。この成分の主鎖にはカルボキシ基が多数ぶら下がっていて、酸性のままではこれが電離せず、分子鎖は丸まったままになる。アルカリを加えて中和するとカルボキシ基が電離してマイナスの電荷を帯び、同じマイナスどうしが電気的に反発しあう。その反発で丸まっていた鎖がほどけて大きく広がり、水を抱え込んで膨潤する。住友精化は自社の製品ページで、この機構をカルボキシレートイオンが増加してマイナスイオン同士の反発が増えることによる増粘、と記述している(出典: 住友精化)。

必要な中和剤の量は、感覚的に思うより多い。技術資料の表には、pH7に到達させるために必要な中和剤とポリマーの重量比が並んでいる(出典: Lubrizol TDS-297)。

中和剤pH7到達に必要な重量比(中和剤:ポリマー)
トリエタノールアミン(TEA・99%)1.5 : 1.0
アミノメチルプロパノール(AMP-95)0.9 : 1.0
テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン2.3 : 1.0
水酸化ナトリウム(18%水溶液)2.3 : 1.0
ジイソプロパノールアミン1.2 : 1.0

TEAならポリマーの1.5倍、18%の水酸化ナトリウム水溶液なら2.3倍が要る。増粘剤と同等かそれ以上の重量の中和剤が処方に入る計算になる。§1.2 の集計で、11製品すべてにアルカリ剤が併記され、しかも医薬部外品の3製品では本成分の直後に並んでいたのは、この必然の反映として読める。

ここまではカルボマーと共通の話にあたる。この成分に固有なのは、増粘の仕組みがもう1つ乗っている点になる。住友精化は増粘機構を2つ挙げていて、上のカルボキシレートイオンの反発に加えて、炭素数10から30のアルキル基による疎水基同士の会合による増粘を挙げる(出典: 住友精化)。水になじまない長い側鎖どうしが水中で寄り集まり、分子鎖のあいだに物理的な結び目をつくる。電荷による反発と、疎水基による会合の2本立てになる。

この疎水基は、増粘以外の仕事もする。水と油の境目に吸着して界面を安定させる、つまり界面活性剤に似た働きにあたる。住友精化は、界面活性剤としての働きも期待でき、乳化物の安定化、界面活性剤の低減、洗浄効果の向上などに利用されている、と記す(出典: 住友精化)。CIRが挙げる機能の並びでも、乳化安定剤が水系増粘剤より先に置かれていた(出典: CIR 2018)。そして§1.1 で触れたとおり、同じINCI名の原料が Pemulen という商品名で、増粘剤ではなくポリマー乳化剤として売られている(出典: 原料メーカー製品情報)。増粘剤の顔と乳化剤の顔の両方を持つのが、この成分の性格になる。

疎水基は塩への耐性にも効いている。技術資料は、この系統のポリマーが従来のカルボマー類より電解質への耐性が改良されていると述べる一方で、粘度はなお中程度にイオンの影響を受けるとも書いている(出典: Lubrizol TDS-297)。ナトリウムのような一価イオンが増えると粘度は下がるが、カリウム塩やアミン系の中和剤を使えば影響を抑えられる。カルシウム・マグネシウムのような二価以上のイオンはポリマーを沈殿させるため、脱イオン水での処方が強く推奨される。電荷の反発だけに増粘を頼っていないぶん、塩に完全に丸腰ではないが、強いわけでもない、という位置になる。

最後に、この成分は肌に働きかける成分ではない。分子量の大きな架橋高分子で、角層を通過して体内に吸収されるものではなく、製品の側でとろみとゲル構造をつくり、乳化を安定させる基剤にあたる。承認された効能を持つ有効成分ではない(出典: 厚生労働省『化粧品の効能の範囲』)。

2.2 一般的な効能範囲

この成分は基剤側の成分で、承認された効能を持つ有効成分ではない。したがって語れる範囲は、配合された製品の区分で決まる。

化粧品に配合された場合、言えるのは「肌にうるおいを与える」「皮膚の乾燥を防ぐ」「皮膚をすこやかに保つ」といった化粧品の効能の範囲にとどまる(出典: 厚生労働省『化粧品の効能の範囲』)。「シワを治す」「シミが消える」といった医薬品的な表現は化粧品では標榜できない。これは成分の優劣ではなく、化粧品という区分に与えられた効能の範囲の問題になる。

医薬部外品に配合された場合も、この成分が効能の担い手になるわけではない。§1.1 のとおり、医薬部外品の成分表示名称リストに名前があるのは、その他成分として使える名前が用意されているという意味であって、有効成分としての承認を意味しない。薬用製品の効能効果は、承認された有効成分と承認内容の範囲に従う(出典: 厚生労働省『化粧品の効能の範囲』)。§1.2 に出た医薬部外品の3製品でも、薬用としての効能を支えているのは別に承認された有効成分の側になる。P081ならグリチルリチン酸2Kがそれにあたる。

まとめると、この成分について語れるのは、増粘・ゲル化と乳化安定という処方上の役割になる。使用感が軽い、みずみずしい、透明感がある、乳化物が分離しにくい、といった製品の性質にはこの成分が寄与するが、それは肌への効能とは別の層の話にあたる。

2.3 限界・誤解されやすい点

誤解されやすい点は4つある。

第一に、成分表で「クロスポリマー」という語だけを拾って本成分と判断してしまう読み方になる。§1.2 で見たとおり、集計した11製品のうち2製品には、メタクリル酸メチルクロスポリマーや(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマーという別のクロスポリマーが同居していた(出典: DappNotes 商品マスター集計)。クロスポリマーは架橋した共重合体という一般名詞にすぎず、それだけでは何の成分かは決まらない。カッコの中身まで読む必要がある。

第二に、アルカリ剤が併記されているのを見て、製品がアルカリ性だと読む向きになる。中和の到達点はpH6.3〜7.5あたりで、これは肌に近い弱酸性から中性の領域にあたる(出典: Lubrizol TDS-297)。中和剤は残っているのではなく、ポリマーの酸を打ち消すために計算された量が入っている。むしろ中和剤が足りなければ処方は酸性のまま増粘せず、製品として成立しない。アルカリ剤の存在は刺激の指標にはならない。

第三に、この成分が入っていれば乳化剤(界面活性剤)が要らない、という読み方になる。住友精化が挙げるのは界面活性剤の低減であって、ゼロにできるという記述ではない(出典: 住友精化)。ポリマー乳化剤として使う設計は実在するが、その場合でもポリマー自体が界面で働く成分であることに変わりはない。界面活性剤フリーという表現と、この成分の存在は直結しない。

第四に、逆方向の話で、とろみが強い製品ほど効くという読み方になる。粘度とゲルの透明感は使用感と安定性の設計であって、効果の指標ではない。§3.2 で見るとおりこの成分は0.1%程度でも十分な粘度と懸濁力を出すため、成分表の位置が後ろでも製品の質感への寄与は大きい。逆に言えば、粘度の高さから配合量や効果の大きさを推し量ることはできない。

3. 安全性・注意点

3.1 既知の刺激性・アレルギー報告

この成分は、CIR(米国の化粧品成分レビュー)が名指しで評価している。2018年10月5日に公開された暫定改訂報告書『Amended Safety Assessment of Acrylates Copolymers as Used in Cosmetics』は、アクリレーツ系コポリマー126成分を対象とし、本成分をその1つとして含む(出典: CIR 2018)。結論は、126成分は本報告書で述べられた現行の使用実態と使用濃度において、刺激を生じないように処方される限り化粧品において安全、というものになる。刺激を生じないように処方される限りという条件が付いている点は、そのまま押さえておきたい。

ここに、この成分に固有の重要な留保が付く。CIRは2017年の架橋アルキルアクリレートの評価において、本成分がベンゼン中で重合されうること、そしてベンゼン中で重合された場合の安全性を判断するにはデータが不十分であることを述べた。これを受けて2018年の報告書は、本成分についてはベンゼン以外の溶媒で重合されたものだけを評価対象とすると明記している(出典: CIR 2018)。つまりCIRの安全という結論は、この成分の全部に一律に及んでいるわけではない。同報告書は、ベンゼンの残存に関する発がんエンドポイントのリスク評価が2件実施され、一方は10のマイナス6乗の発がんリスクの範囲内、もう一方はその20倍高いリスクという食い違う結論に至ったことも記録している。この論点は §3.3 で改めて中立に整理する。

刺激性の実測については、次のように整理される(出典: CIR 2018)。ウサギの眼刺激試験では、未希釈の本成分が最小から中等度の刺激を生じ、洗眼しない条件では境界域の刺激物と判定された。ヒトの試験では、未希釈の本成分を用いた強化版のシェランスキーHRIPTで弱い刺激反応が出たのが唯一の例外で、それ以外の試験では皮膚刺激性も感作性も示されていない。

この2つの記述の読み方には注意が要る。刺激が観察されたのはいずれも未希釈の原料そのもの、つまり粉体や高濃度の状態にあたる。製品に配合される濃度は §3.2 のとおり最大で3%程度、目の周りの製品では0.12〜0.9%の範囲になる(出典: CIR 2018)。原料の未希釈品で境界域の刺激が出ることと、製品を使った人に刺激が出ることは、別の話にあたる。CIRの結論が刺激を生じないように処方される限りという条件付きなのは、この濃度と処方の設計に安全性の一部を委ねているためになる。

体内への吸収については、この成分が分子量の大きな架橋高分子であることが前提になる。角層のバリアを通過して吸収されるものではなく、肌の表面で物理的にゲルをつくり、乳化を安定させる基剤にあたる。塗った後のぴたっとした感触は肌表面の使用感で、肌内部への吸収や蓄積とは別物になる。

なお、これはあらゆる化粧品成分に共通する話だが、体質による個別の相性の問題がゼロになるわけではない。とくにこの成分を含む製品には必ず中和剤が併記されており、製品全体では防腐剤・香料・紫外線吸収剤・有効成分など多くの成分が同居する。敏感肌や初回使用では、この成分に限らず製品全体でパッチテストを行うのが無難になる。

3.2 推奨配合量と過剰配合時のリスク

日本の化粧品基準にこの成分の配合上限は置かれていない。目安になる数値は、CIRが集計した使用実態と、原料メーカーの技術資料の2方向から取れる。

CIRが2018年に集計した米国での最大使用濃度は、0.000045〜3%の範囲になる(出典: CIR 2018)。用途別では、皮膚に接触する製品が0.000045〜3%で2992件、目の周りの製品が0.12〜0.9%で215件、洗い流す製品が0.1〜1.8%で546件になる。使用件数の合計は3135件で、Carbomer の6434件、Acrylates Copolymer の3177件に次いで3番目に多い(出典: CIR 2018)。カルボマーが本成分のおよそ2倍使われている、という関係にあたる。なお2011年時点の集計では1696件だったので、7年で倍近くに増えている。

ここで自社集計との差も見ておきたい。CIRの集計では、髪用(染毛以外)95件・染毛35件と、ヘアケアでの使用も一定数ある(出典: CIR 2018)。一方 DappNotes の商品マスターのヘアケア78製品では、この成分の配合はゼロだった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。米国全体の使用実態と、国内のメンズ向けヘアケアの棚とでは分布が違う。自社集計はメンズ向け製品を中心に集めたマスターであって、市場全体の分布を示すものではない。

原料メーカー側の数値は、少量で効くことを示している。Lubrizolの技術資料によれば、0.1%の配合で粘度6,800・降伏値200が得られ、懸濁力は永続的と評価されている(出典: Lubrizol TDS-297)。同資料が比較対象に置いたローカストビーンガムは、2.5%配合で粘度22,800・降伏値80・懸濁の持続は8時間だった。粘度そのものは多糖類のほうが高いが、粒子を沈ませない力である降伏値と、その持続の点で桁が違う。0.5%のムシラージでは粘度55,000 mPa·s、透明度は透過率で約95%に達する。

つまり実際の処方では、0.1〜1%程度の低い配合帯で使われることが多い。§1.2 の集計で本成分の表示位置が中位から後方に集まっていたのも、この配合帯と方向が合っている。

過剰配合のリスクは、皮膚刺激の側ではなく使用感の側に出る。増粘剤を入れすぎると、ゲルが硬くなりすぎたり、塗った後に肌の上でよれて白いカスが出たり、つっぱり感が強くなったりする。これは安全性の問題ではなく、質感の設計のバランスの問題にあたる。加えて処方側の制約もある。中和剤の量が増粘剤の量に連動して増えるため(§2.1 の重量比の表を参照)、本成分を増やせば中和剤も増える。処方全体のpHと電解質のバランスを崩さずに増やせる範囲には限りがある。

もう1つ、この成分に固有の処方上の制約が水質になる。技術資料は、カルシウム・マグネシウムのような二価以上のイオンがポリマーを沈殿させるため、脱イオン水あるいは少なくとも軟水での処方を強く推奨している(出典: Lubrizol TDS-297)。これは製造側の話で、使う側が意識する必要はないが、この成分の増粘がイオン環境に左右されるという性格をよく表している。

3.3 「危険性」と言われる根拠と実態の整理

この成分が名指しで危険視される場面は多くないが、検討に値する論点が1つと、成分表の読み手が引っかかりやすい点が3つある。順に整理する。

1つ目は、§3.1 で触れたベンゼンの論点になる。これは印象論ではなく、CIRが自ら報告書に書き込んだ実質的な留保にあたる。整理すると次のようになる(出典: CIR 2018)。この種のポリマーは溶媒中で重合してつくられ、溶媒としては酢酸エチルとシクロヘキサンの混合物、水、n-ヘキサン、そしてベンゼンが挙げられている。ベンゼンは発がん性が知られる物質で、重合の過程で一部は揮発するが、ポリマーの網目の中に閉じ込められて残る可能性がある。どれだけ残り、使用時にどれだけ出てくるかを確実には予測できない、というのがCIRの判断だった。そこでCIRは、ベンゼン中で重合されたものについては安全性の判断ができないとし、2018年の評価をベンゼン以外の溶媒で重合されたものに限定した。ベンゼンの残存に関する2件のリスク評価が20倍食い違ったという記録も残っている。

この論点をどう読むかは2つの側から見る必要がある。一方で、これは架空の懸念ではなく、公的な評価機関が判断を保留した実在の論点にあたる。他方で、CIRは近縁のカルボマーについても、報告された不純物にベンゼンが含まれることに注意を促しつつ、業界がカルボマーからベンゼンを除去している実務を認めている(出典: CIR 2018)。溶媒を変える、あるいは残留溶媒を除去するという対応は業界側で取られている。消費者の立場で成分表から重合溶媒を知る方法は無いため、この点を製品選びの基準にするのは現実的ではない。この成分に固有の留保が公的評価に書かれている、という事実として押さえておくのが正確な扱いになる。同じ論点は、同じアクリル酸系のカルボマーにも程度の差はあれ共通する。

2つ目は、合成ポリマーだから肌に悪い、という連想になる。増粘剤の安全性は合成か天然かという由来で決まるものではなく、その成分自体の刺激性・感作性・配合量・分子の大きさで評価される。この成分は分子量の大きな架橋高分子で経皮吸収されず、製品に配合される濃度での皮膚刺激性・感作性は §3.1 のとおり示されていない。合成であることを危険の根拠に読み替えるのは、成分の実態と合わない。逆に、天然由来でもアレルゲンを含む成分は存在する。

3つ目は、ポリマーが肌に残って蓄積するという言説になる。塗った後のぴたっとした感触や、こすったときに出るよれを、ポリマーが肌に残っている証拠と読む向きがあるが、これは肌表面の使用感の話にあたる。高分子は角層を通過しないため、肌の内部に蓄積するという機序は成り立たない。よれが気になるなら、それは安全性ではなく質感の好みの問題で、増粘剤の設計が違う製品を選べばよい。

4つ目は、名前が製品区分で変わることを別物と読む向きになる。§1.1・§1.2 のとおり、医薬部外品の「アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体」と化粧品の「(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー」は、原料メーカーが同一の原料として扱っているものにあたる。名前の残り方は制度がどこを見て名前を付けたかの記録であって、成分の格付けでも品質の差でもない。この論点は §4.3 で、増粘のスイッチが違う他の成分と並べて整理する。

4. 相性の良い・悪い成分

4.1 併用推奨

最も密接な相手はアルカリ剤になる。§2.1 のとおり、この成分は中和して初めて増粘するため、水酸化Na・水酸化K・TEA・アルギニンといった中和剤との組み合わせは選択ではなく必須にあたる。自社集計でも11製品が11製品ともアルカリ剤を併記していた(出典: DappNotes 商品マスター集計)。どの中和剤を選ぶかには意味がある。技術資料は、ナトリウムのような一価イオンで粘度が落ちる影響を、カリウム塩やアミン系の中和剤で抑えられると記す(出典: Lubrizol TDS-297)。自社集計で水酸化Kが5製品・水酸化Naが5製品と拮抗し、TEAやアルギニンを使う製品もあったのは、この選択肢の幅と方向が合っている。

次に近いのがカルボマーになる。両者は代替関係にも見えるが、実際には併用もされる。自社集計では、カルボマーまたはカルボキシビニルポリマーを配合する製品が全132製品中22製品あり、そのうち本成分と両方を配合するのは3製品(P094・P097・P115)だった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。本成分だけを持つ製品が8、カルボマー系だけを持つ製品が19、両方が3、という分布になる。増粘一本槍のカルボマーで粘度の骨格をつくり、乳化安定も担える本成分でエマルションを支える、といった役割分担が読める組み合わせにあたる。

増粘の仕組みが違うポリマーとの組み合わせも標準的になる。キサンタンガムは微生物由来の多糖で、水に溶けるだけで増粘し、塩やpHの変化に比較的強い。本成分の弱点である電解質への感受性を補う相手にあたる。実際、自社集計のP081では、キサンタンガム(15位)の直後に本成分(16位)、その次に水酸化K(17位)という並びになっていた。ヒドロキシエチルセルロースは非イオン性のセルロース誘導体で、こちらも塩やpHに左右されにくい。

油分・粉体との組み合わせでは、この成分の乳化安定剤としての顔が効く。§2.1 のとおり疎水基が界面に吸着するため、水中油型の乳化物を安定させ、紫外線散乱剤のような粉体を沈まないよう保つ働きがある。§3.2 で見たとおり0.1%配合でも懸濁力は永続的と評価されていた(出典: Lubrizol TDS-297)。自社集計で本成分を含む11製品のうち3製品がUV製品だったのは、この性質と方向が合っている。

保湿剤との関係は、土台と中身の関係になる。グリセリンBGヒアルロン酸Naといった保湿剤が肌側の仕事をし、本成分はそれらが均一に分散し、分離せず、塗りやすい形で肌に乗るための土台をつくる。役割が重ならないため、同居して問題になることはない。

4.2 併用注意

肌への安全性の面で避けるべき組み合わせは特に知られていない。注意点はいずれも、処方が成立するかどうかという設計側の話になる。

1つ目はカチオン性の成分になる。技術資料は、アニオン性であるがゆえにカチオン性の処方材料との適合性が限られる、と明記している(出典: Lubrizol TDS-297)。中和したこの成分はマイナスに帯電しているため、プラスに帯電したカチオン界面活性剤やカチオンポリマーと出会うと、電気的に引き合って複合体をつくり、粘度が崩れたり濁ったり沈殿したりする。ポリクオタニウム-7ポリクオタニウム-10のようなカチオンポリマーとは、同じ処方に入れるなら配合順序と量に配慮が要る。§4.3 で見るとおり、この電荷の違いは増粘のスイッチの違いとも連動している。

2つ目は電解質になる。ナトリウム塩のような一価イオンが増えると粘度が下がり、カルシウム・マグネシウムのような二価以上のイオンはポリマーを沈殿させる(出典: Lubrizol TDS-297)。§2.1 のとおり、この成分は従来のカルボマー類より電解質への耐性が改良されているが、影響を受けないわけではない。塩を多く含む処方で安定した粘度が必要なら、キサンタンガムヒドロキシエチルセルロースと組む設計になる。

3つ目は酸性の成分になる。増粘がカルボキシ基の電離に支えられている以上、ビタミンC(アスコルビン酸)やAHAのような酸を高濃度に配合してpHが下がると、カルボキシ基がプロトン化して反発が消え、粘度が落ちる。ただし本成分には疎水基の会合による増粘がもう1本あるため、電荷だけに頼るカルボマーよりは崩れ方が緩やかになると考えられる。低pHでどこまで持つかは処方ごとの設計になる。

使う側の実用的な注意としては、手持ちの製品どうしを自分で混ぜないことになる。とくにビタミンC美容液や、電解質を含む化粧品を、この成分でとろみを付けたジェルに混ぜると、ゲルがゆるんで水っぽくなることがある。これは肌に害があるという話ではなく、処方が壊れるだけの話にあたる。美顔器用の導電ジェルを自作しようとする場合も同じ落とし穴があり、詳しくは美顔器用ジェルの手作りは成立するかで扱っている。

最後に、この成分の有無で製品を評価しないことも実用的な注意になる。増粘・ゲル化と乳化安定を担う基剤であって、肌への効果を担う成分ではない。評価すべきは製品全体の設計と、自分の肌での相性にあたる。

4.3 類似成分

最も近い成分はカルボマーになる。§1.1 のとおり、主鎖の骨格も架橋剤も共通で、違うのは炭素数10〜30の疎水基を持つかどうかだけにあたる。この1点の差が、できることの差になって現れる。

カルボマー(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー(本成分)
主鎖アクリル酸系アクリル酸系
架橋剤スクロース・ペンタエリスリトール等のアリルエーテル同左
疎水基無し炭素数10〜30のアルキル基
増粘の仕組みカルボキシ基の電離による静電反発静電反発+疎水基同士の会合の2本立て
増粘以外の役割乳化物の安定化(水相の構造化による)界面に吸着する乳化安定。ポリマー乳化剤としても供給される
電解質への耐性低い従来のカルボマー類より改良されているが影響は受ける
医薬部外品での名前カルボキシビニルポリマー(連番586)アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体(連番30)
米国での使用件数(2018)6434件3135件

(出典: CIR 2018 / Lubrizol TDS-297 / 住友精化 / 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』)

疎水基が1つ増えただけで、増粘剤の枠に留まらず乳化剤の枠にも足がかかる。§1.1 で触れた Pemulen という商品系列が成立するのはこのためになる。

ここからが本記事の2つ目の軸になる。とろみを付ける成分として一括りにされがちな増粘剤も、ゲルを立ち上げるスイッチが何かで分かれる。そしてそのスイッチの違いが、増粘以外に何ができるかと、医薬部外品としての名前の残り方にまで連動している。

成分増粘のスイッチ主鎖・電荷増粘以外の役割医薬部外品リストでの名前の残り方
(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー(本成分)アルカリで中和してカルボキシ基をイオン化し、静電反発で膨潤する。中和しなければゲルにならない合成のカルボキシビニル系・アニオン乳化安定。C10-30の疎水基が界面に吸着して界面活性剤的に働く別名で収載(連番30・アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体)
(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー中和不要。Na塩としてあらかじめ中和済みで、水に入れた時点で立ち上がる。スルホン酸基由来の耐塩性も持つ合成・アニオン(カルボキシ+スルホン酸)分散・乳化安定(逆相エマルションの原料として供給される)収載なし。それでも医薬部外品で現に使われている
ヒドロキシプロピルメチルセルロース水和のみ。非イオンでpHにも塩にも左右されにくい。ただし加熱するとゲル化する逆転の挙動を持つセルロース誘導体・非イオン皮膜・保護コロイド・泡質の改善同名で収載(連番1730)
ポリクオタニウム-39電荷。カチオン部位が毛髪・皮膚に吸着する。そもそも増粘が主目的ではない合成の3元共重合体・カチオンとアニオンの両方を持つコンディショニング・帯電防止。むしろこちらが本業混合物の液体名で収載(連番3・アクリルアミド・アクリル酸・塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体液)

(出典: 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』 / 各成分の記事を参照)

4段の並びは、増粘のスイッチが段階的に外れていく順になっている。本成分は中和というスイッチを必要とする。AMPS系のコポリマーはあらかじめ中和されているのでスイッチが要らない。ヒドロキシプロピルメチルセルロースはそもそもイオンで増粘していない。ポリクオタニウム-39にいたっては増粘が本業ですらない。

そして注目したいのが、この並びと医薬部外品リストでの名前の残り方が対応していないことになる。本成分は別名で、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは同名で、ポリクオタニウム-39は混合物の液体名で収載され、AMPS系のコポリマーは収載そのものが無い。にもかかわらず、4成分はいずれも医薬部外品の有効成分ではなく、その他成分として配合される添加成分という点で揃う。名前が変わっていようと、束ねられていようと、そもそも無かろうと、その位置づけは変わらない。

とくに押さえておきたいのが、収載が無いことは使えないことを意味しない、という点になる。AMPS系のコポリマーはリストに名前が無いが、医薬部外品の製品に現に配合されている。参照しているリストが平成20年3月25日版で止まっていることの現れにあたる。収載の有無は、その名前が2008年時点で登録されていたかどうかの記録であって、成分の性質でも規制上の格付けでもない。本成分の名前が化粧品と医薬部外品で割れているのも、同じ性質の現象になる。

このほか、増粘の対照として並べられる成分としては、微生物由来の多糖であるキサンタンガム、非イオン性のセルロース誘導体であるヒドロキシエチルセルロース、植物種子由来のタマリンドガム、高分子量のポリエチレングリコールであるPEG-90Mがある。いずれも水和と絡み合いで増粘する系統で、中和というスイッチを持たない点で本成分と対照的にあたる。

5. よくある質問

Q1. 成分表の「アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体」と「(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー」は別の成分ですか

同じ原料を、制度の違う2つの名称リストに沿って書き分けたものにあたります。前者は医薬部外品の成分表示名称(連番30)、後者は化粧品の表示名称で、原料メーカーは自社の製品ページで両方の名前とINCI名 Acrylates/C10-30 Alkyl Acrylate Crosspolymer を並記しています(出典: 住友精化 / 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』)。DappNotes の商品マスターでも、医薬部外品の3製品はすべて前者、化粧品の8製品はすべて後者という形で表示がきれいに割れていました(出典: DappNotes 商品マスター集計)。名前の長さや見慣れなさは中身の差ではなく、どの名称リストに沿って書いたかの差になります。

Q2. この成分の近くに必ず水酸化Naや水酸化Kが書いてあるのはなぜですか

この成分が中和して初めて増粘するからです。原料メーカーの技術資料は、粉体を水に分散させた段階ではpHが約3で粘度がごく低いこと、中和すると直ちに増粘することを記しています(出典: Lubrizol TDS-297)。同じ資料の表によれば、pH7に到達させるにはトリエタノールアミンでポリマーの1.5倍、18%の水酸化ナトリウム水溶液で2.3倍の重量が必要です。増粘剤と同程度以上の中和剤が処方に入るため、成分表でも近い位置に並びやすくなります。DappNotes の商品マスターでも、この成分を配合する11製品すべてにアルカリ剤が併記されていました(出典: DappNotes 商品マスター集計)。中和の到達点はpH6.3〜7.5あたりで、製品がアルカリ性になるという意味ではありません。

Q3. カルボマーとは何が違いますか

主鎖の骨格も架橋のやり方も同じで、違うのは炭素数10〜30の疎水基を持つかどうかの1点です(出典: CIR 2018 / 住友精化)。この疎水基があることで、カルボキシ基の静電反発による増粘に加えて、疎水基同士が水中で寄り集まることによる増粘という2本目の仕組みが乗ります。さらにこの疎水基は水と油の境目に吸着するため、界面活性剤に似た働きをして乳化物を安定させます。同じINCI名の原料が、増粘剤の商品系列とポリマー乳化剤の商品系列の2通りで流通しているのはこのためです(出典: 原料メーカー製品情報)。塩への耐性も、従来のカルボマー類より改良されているとされます(出典: Lubrizol TDS-297)。両者は代替関係とは限らず、DappNotes の商品マスターでは3製品が両方を配合していました(出典: DappNotes 商品マスター集計)。

Q4. 成分表に「〜クロスポリマー」とあれば、この成分だと考えてよいですか

いいえ。クロスポリマーは架橋した共重合体という一般名詞で、それだけでは成分は特定できません。DappNotes の商品マスターでも、本成分を配合する11製品のうち2製品には、メタクリル酸メチルクロスポリマーや(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマーという別のクロスポリマーが同じ成分表の中に同居していました(出典: DappNotes 商品マスター集計)。前者は球状の粉体、後者はシリコーン系で、役割も増粘の仕組みも本成分とは違います。カッコの中身まで読んで、アクリレーツとアルキル(C10-30)という語があるかどうかで見分けるのが正確な読み方になります。

Q5. 安全性はどう評価されていますか。気をつける点はありますか

CIRは2018年の暫定改訂報告書で、本成分を含むアクリレーツ系コポリマー126成分について、報告書に記載された現行の使用実態と使用濃度において、刺激を生じないように処方される限り化粧品において安全と結論しています(出典: CIR 2018)。ただし本成分には固有の留保が付きます。CIRは、本成分がベンゼン中で重合されうること、その場合の安全性を判断するデータが不十分であることを述べ、評価対象をベンゼン以外の溶媒で重合されたものに限定しました。これは公的な評価機関が自ら書き込んだ実在の留保です。一方で、近縁のカルボマーについても不純物としてのベンゼンに注意が促され、業界が除去に取り組んでいる実務が認められています。成分表から重合溶媒を知る方法は無いため、この点を製品選びの基準にはできません。刺激性については、未希釈の原料でウサギの眼に境界域の刺激、ヒトの強化版パッチテストで弱い刺激反応が報告されていますが、いずれも未希釈の原料での結果で、製品に配合される濃度は最大3%程度です(出典: CIR 2018)。分子量の大きな高分子で経皮吸収もされないため、通常の製品で警戒が必要な成分ではありませんが、製品全体としてのパッチテストは初回使用時の一般的な留意点になります。

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本記事に関する注記

  • 本記事は特定商品の効果を保証するものではありません。成分の働きには個人差があり、体質・肌質により合わない場合があります。
  • 肌に赤み・かゆみ・刺激等の異常が出た場合は使用を中止し、症状が続く・悪化する場合は皮膚科等の医療機関にご相談ください。傷・炎症のある肌への使用は避けてください。
  • 本記事で扱う(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマーは、化粧品および医薬部外品にその他成分(添加物)として配合される状態を前提としています。この成分自体に承認された効能はなく、医薬部外品の効能効果は承認された有効成分と承認内容の範囲に従います。
  • 本記事が参照する医薬部外品の成分表示名称リストは平成20年3月25日版です。最新版で収載状況が変わっている可能性があります。
  • 本記事が引用するCIRの報告書は、2018年10月5日公開の暫定改訂報告書(Tentative Amended Report for Public Comment)です。最終報告書で結論や記述が変わっている可能性があります。また同報告書は、ベンゼン中で重合された本成分については安全性の判断ができないとして評価対象から外しています。
  • 中和に関する数値(分散時のpH、中和後の到達pH、中和剤の重量比、粘度)は、Lubrizol の Carbopol Ultrez 21 Polymer の技術資料(TDS-297・2002年版)に基づく特定の原料グレードの値です。同じINCI名の他の原料グレードでは値が異なります。
  • 本記事に含まれる製品数・配合位置の集計は DappNotes 商品マスター(2026年9月時点・全132製品/スキンケア54製品・ヘアケア78製品)に基づく自社集計であり、市場全体の分布を示すものではありません。全成分表示は原則配合量の多い順ですが、1%以下の成分は順不同のため、表示順位から配合量を断定することはできません。
  • 自社集計における「配合11製品すべてにアルカリ剤が併記されている」という観察は、配合実態の記録であって、併記されたアルカリ剤が本成分の中和に使われていることを直接証明するものではありません。中和が必要であるという性質の根拠は、本文に示した原料メーカーの技術資料にあります。
  • 外部の安全性指標(CIR等)は出典明記の参考値であり、絶対的な安全性を保証するものではありません。
  • 本記事はAIによる下書きを編集部がレビュー・再構成して作成しています。
  • 編集部レビュー済み・AI下書き活用