酸化チタンは、INCI名 Titanium Dioxide、医薬部外品表示名称も「酸化チタン」、CAS番号13463-67-7の無機の白い粉体で、化学式はTiO2(二酸化チタン)にあたる(出典: Cosmetic-Info.jp / 医薬部外品の成分表示名称リスト)。この成分には2つの顔がある。粒子が可視光を強く散乱すると「白さをつくる顔料」になり、粒子を細かくして可視光を通しやすくすると「紫外線を散乱・遮蔽する成分」になる。どちらの顔で入っているかは、主に粒子の大きさと製品の種類で決まる。読者の関心が集まる「酸化チタンは危険?」という問いについては、国際がん研究機関IARCの Group 2B も、EUで作られて裁判で取り消された発がん性の分類も、どちらも粉じんを吸い込む経路の評価で、肌に塗る・洗い流す使い方の評価ではない。本記事では、兄弟成分の水酸化Al・イライトと並べ、「白い粉が製品の中で担う仕事=白くする/覆う/吸う」という軸で成分表の「酸化チタン」を読み解く。
1. 酸化チタンの基本
1.1 何の成分か
化粧品表示名称「酸化チタン」の定義は、「本品は、チタンの酸化物であり、次の化学式で表される。」とされ、化学式はTiO2にあたる(出典: Cosmetic-Info.jp jcln)。医薬部外品原料規格2021(外原規)の「酸化チタン」は、乾燥したものを定量するとき酸化チタン(TiO2:79.87)90.0%以上を含む白色の粉末で、純度試験として鉛50ppm以下・ヒ素10ppm以下の規格がある(出典: 医薬部外品原料規格2021)。
結晶の形は1つではない。IARCのモノグラフは、天然に存在する酸化チタンの多形としてルチル・アナターゼ・ブルッカイトなどを挙げ、ルチルが最も密な構造だと記載する(出典: IARC Monographs Vol.93)。化粧品の成分表ではどの結晶形でも「酸化チタン」1語で書かれ、結晶形は表示からは分からない。ただし原料の側では違いが意識されていて、EUの化粧品規則はナノ形態の酸化チタンに「ルチル型、またはアナターゼ5%までのルチル」という条件を付けている(出典: CosIng Annex VI/27a)。石原産業も化粧品向けの超微粒子酸化チタンをルチル型結晶と説明している(出典: 石原産業 超微粒子酸化チタン製品頁)。
名前の対応を整理すると、化粧品と医薬部外品で被覆品・表面処理品の書き方が違う。
| 呼び名 | 化粧品表示名称(jcln) | 医薬部外品表示名称(平成20年版) |
|---|---|---|
| 酸化チタン | 「酸化チタン」 | 「酸化チタン」(簡略名 酸化Ti) |
| 細かくした酸化チタン | 単独の名前はなく「酸化チタン」 | 「微粒子酸化チタン」(別品目) |
| 水酸化アルミニウム等で表面処理したもの | 単独の名前はなく構成成分を並記(例:「酸化チタン、水酸化Al」) | 「酸化アルミニウム水和物・ケイ酸処理酸化チタン」など処理ごとに別品目 |
| 雲母などの表面を酸化チタンで覆ったもの | 構成成分を並記(例:「マイカ、酸化チタン」) | 「雲母チタン」「酸化チタン被覆セリサイト」など別品目 |
(出典: Cosmetic-Info.jp jcln / 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版 / 原料メーカー各社の製品頁)
医薬部外品の表示名称リストには、「酸化チタン」とは別に「微粒子酸化チタン」(「酸化チタン」を更に微粉状にしたもの)や、「酸化アルミニウム水和物・ケイ酸処理酸化チタン」(「酸化チタン」を湿式法により酸化アルミニウムの水和物及びケイ酸で表面処理したもの)が独立した品目として並ぶ(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。化粧品ではこうした加工品に単独の名前がなく、「酸化チタン」と処理剤の名前が成分表に並ぶ。この書き方の違いが、§4.1で扱う「酸化チタンと水酸化Alがそろって現れる」理由の手がかりになる。
なお、EUのCosIngは、着色剤としての酸化チタンを表示する際の名前に色素番号「CI 77891」を当てている(出典: CosIng)。これはEUの表示ルールの番号で、日本の表示名称ではない。
1.2 どんな製品に配合されるか
酸化チタンの配合目的は、表示名称の側で「着色剤、褪色防止剤、不透明化剤、紫外線吸収剤・散乱剤」の4つが挙げられている(出典: Cosmetic-Info.jp jcln)。EUのCosIngも着色・不透明化・紫外線吸収・紫外線フィルターの4つを挙げる(出典: CosIng)。白さと隠ぺい力が要るファンデーション・コンシーラー・下地、白さや不透明感を足したいクリームや洗顔料、そして紫外線防止をうたう日焼け止めやUVベースと、顔ごとに入る製品が分かれる。
原料メーカーの製品の分け方にも、この2つの顔がそのまま表れている。石原産業は、ファンデーション向けの顔料級の銘柄を「光散乱効果が効率的となるように平均粒子径を250nmに設計」し高い白色度と隠ぺい力をもたせたと説明し、別に日焼け止め向けの超微粒子の銘柄を並べている(出典: 石原産業 化粧品用酸化チタン製品頁)。テイカは化粧品用の微粒子酸化チタンを、一般の白色顔料用酸化チタンに比べてはるかに小さい10〜50nmの粒子と説明する(出典: テイカ 微粒子酸化チタン製品頁)。
ここで本記事の中核データにあたるのが、DappNotes の自社商品マスターの集計になる。全132製品(スキンケア54・ヘアケア78)を機械集計すると、酸化チタンを含むのは2製品だった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。ヘアケアには1件もない。
| 製品タイプ | 酸化チタンの順位 | 全成分数 | 同じ製品の水酸化Al |
|---|---|---|---|
| オールインワンジェル(洗い流さない・SPF50+/PA++++) | 36位 | 36 | 31位 |
| 洗顔料(洗い流す) | 19位 | 24 | 20位 |
(出典: DappNotes 商品マスター集計)
読み取れることは3つある。1つ目は、2製品とも成分表の中〜後半に置かれていること。全成分表示は原則として配合量の多い順に並ぶが、1%以下の成分は順不同で書いてよいため、位置から言えるのは「配合量は多くない側」までにあたる。2つ目は、UVジェルのほうは紫外線を防ぐ主力が紫外線吸収剤4種(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル・ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル・ポリシリコーン-15・ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン)で組まれ、酸化チタンは成分表の最後のほうにあること。3つ目は、酸化チタンを含む2製品が、水酸化Alを含む2製品とぴったり同じだったこと。これは §4.1 で扱う。
⚠️ 洗顔料は洗い流す製品で、肌の上に成分がとどまらない。商品マスターの役割欄には「紫外線散乱剤・着色(白色顔料)」と両方が書かれているが、洗い流す製品で紫外線防止の役割は期待しにくく、洗顔料の酸化チタンは泡やペーストの白さ・不透明感をつくる顔料として読むのが自然になる。どの目的で配合したかは成分表からは確定できない。
1.3 メンズ視点での見方
スキンケア中心で日焼け止めをあまり使わない人が酸化チタンに出会うのは、オールインワンのUVジェルや洗顔料の成分表の後半になる。自社集計の2製品もこの形だった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。実用上の読み方は、製品の種類で役割を読み分けることに尽きる。洗い流さないUV製品なら紫外線散乱剤の顔、洗顔料なら白さをつくる顔料の顔、と読むのが自然で、同じ「酸化チタン」でも期待すべき仕事が違う。
日焼け止め選びでよく目にする「ノンケミカル」「紫外線散乱剤タイプ」という言葉は、紫外線吸収剤を使わず、酸化チタンや酸化亜鉛のような無機の粉体で紫外線を防ぐ設計を指すことが多い。ただしこれは紫外線を防ぐ仕組みの違いで、「散乱剤だから安全・吸収剤だから危険」という序列を示す言葉ではない。紫外線吸収剤も国ごとの基準で上限と条件を定めて使われている(詳しくは各吸収剤の記事)。どちらのタイプが合うかは、使用感(白浮き・きしみ・なじみ)と肌との相性で選ぶのが現実的な判断軸になる。
白浮きが気になる場合は、成分表から読み取れることに限界がある点も押さえておきたい。白浮きのしやすさは粒子の大きさ・表面処理・配合量・処方全体で決まり、成分表の「酸化チタン」という1語からは粒子の大きさも表面処理の有無も読み取れない。実際に手に取って確かめるのがいちばん確実になる。
2. 期待される働き・効果
2.1 メカニズム
酸化チタンの2つの顔は、光と粒子の大きさの関係から説明できる。原料メーカーの説明を並べると、仕組みの骨格が見える。
- 顔料級(数百nm)=白くする: 石原産業は、顔料級の銘柄を光散乱が効率的になるよう平均粒子径250nmに設計し、高い白色度と隠ぺい力を得ていると説明する(出典: 石原産業 化粧品用酸化チタン製品頁)。可視光の波長(おおむね400〜700nm)と同じくらいの大きさの粒子が可視光を強く散乱するため、塗ると白く見え、下の色を覆い隠す。同社は粒子径を少し小さくした銘柄で隠ぺい力を下げて青みの色調にできる、とも書いており、粒子径の設計で見た目が変わることが分かる。
- 微粒子(数十nm)=紫外線を防ぐ: テイカは、10〜50nmの微粒子酸化チタンは可視光線部での光透過性と紫外部での光遮蔽性が大きいと説明する(出典: テイカ 微粒子酸化チタン製品頁)。粒子を細かくすると可視光は散乱されにくくなって透明に近づき、紫外線は遮られる。石原産業も、粒子が小さいほど透明性が高く白浮きを抑えられるとしたうえで、粒子サイズが小さいとUVBの遮蔽に優れ、大きいとUVA〜UVBを幅広く遮蔽すると整理している(出典: 石原産業 化粧品用酸化チタン製品頁)。
- 褪色防止: 表示名称の配合目的には褪色防止剤も入っている(出典: Cosmetic-Info.jp jcln)。製品そのものの色や見た目が光で変わるのを抑える、処方の側の役割にあたる。
つまり「白さ」と「透明な紫外線防止」は、同じ物質の中でトレードオフの関係にある。微粒子にするほど白浮きは減るが、紫外線を遮る波長の範囲や、粉体として扱いやすさ(分散のしやすさ)は変わる。石原産業は、微粒子になるほど凝集力が増して分散が難しくなるとも説明している(出典: 石原産業 超微粒子酸化チタン製品頁)。
もう1つ押さえておきたい性質が光触媒活性で、酸化チタンは紫外線を受けると表面で周囲の物質を酸化させうる。EUの化粧品規則はナノ形態の酸化チタンに「光触媒活性が、被覆していない対照品の10%以下」という条件を付けており(出典: CosIng Annex VI/27a)、原料メーカーは表面処理でこの活性を抑えると説明する(§4.1)。
2.2 一般的な効能範囲
酸化チタンは日本では医薬部外品の有効成分ではなく、厚生労働省の『いわゆる薬用化粧品中の有効成分リスト』にも名前はない(同じ無機の粉体でも酸化亜鉛は収載されている)。化粧品における仕事は、表示名称の配合目的どおり「着色剤、褪色防止剤、不透明化剤、紫外線吸収剤・散乱剤」の範囲にとどまる(出典: Cosmetic-Info.jp jcln)。医薬部外品に配合される場合も、表示名称「酸化チタン」で入る添加成分(その他の成分)の扱いになる(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。
日焼け止めでの紫外線防止は、化粧品の効能の範囲(日やけを防ぐ)の中で表示される製品全体の機能で、酸化チタン1成分の効果として表示が決まるわけではない。SPFやPAの値は製品として測定される数値で、成分表の順位や「酸化チタン配合」の有無から読み取ることはできない。
国によって扱いの枠組みも違う。米国では酸化チタンは化粧品用の色素として、目の周りに使う化粧品も含めて適正製造規範の範囲で使用が認められている(出典: 21 CFR 73.2575)。同時に、日焼け止めはOTC医薬品の扱いで、FDAは2021年の提案命令で酸化亜鉛と酸化チタンを濃度25%までGRASE(安全かつ有効と一般に認められる)と提案している(出典: FDA OTC sunscreen Q&A)。
2.3 限界・誤解されやすい点
誤解されやすい点は3つある。
1つ目は「酸化チタンが入っている=紫外線を防ぐ製品」という読み方。酸化チタンは白色顔料としても広く使われ、配合目的には着色・不透明化も入っている(出典: Cosmetic-Info.jp jcln)。自社集計の洗顔料のように、洗い流す製品に入る酸化チタンを紫外線対策の根拠として読むことはできない。
2つ目は「成分表の酸化チタンは全部同じもの」という読み方。化粧品の表示名称「酸化チタン」は、顔料級も微粒子も、ルチル型もアナターゼ型も、表面処理の有無も区別しない。石原産業・テイカ・堺化学工業はいずれも粒子径と表面処理の組み合わせで多数の銘柄を並べており(出典: 各社製品頁)、同じ1語の裏に性質の違う原料がありうる。
3つ目は「ノンナノ表示があれば安心、ナノは危ない」という二分法。EUはナノ形態の酸化チタンに対して、結晶形・粒子径・被覆剤・光触媒活性などの条件と、吸入のおそれがある用途に使わないという条件を付けたうえで、紫外線防止剤として25%まで認めている(出典: CosIng Annex VI/27a)。ナノかどうかは規制の条件の付け方を変える要素で、それだけで安全性の序列が決まるわけではない。評価の中身は §3.3 で整理する。
3. 安全性・注意点
3.1 既知の刺激性・アレルギー報告
皮膚に塗る使い方について、最もまとまった公的評価はEUの消費者安全科学委員会(SCCS)の意見になる。SCCSは2014年のナノ形態の酸化チタンについての改訂意見で、日焼け止めに配合されたナノの酸化チタンは、健常な皮膚に(繰り返し)塗った場合に皮膚刺激・眼刺激・皮膚感作を起こしにくいと整理した(出典: SCCS/1516/13)。ただし例外として、被覆が不十分なナノ材料での光毒性の可能性を挙げている。表面処理(被覆)が、見た目や使用感だけでなく安全性評価の前提にもなっていることが分かる。
経皮吸収については、SCCSは同じ意見で、ナノの酸化チタンが健常な皮膚を通過して表皮・真皮の生きた細胞やほかの臓器に届く全身曝露は起こりにくいとし、皮膚に塗る化粧品での使用は消費者に重大なリスクをもたらさないと結論した(出典: SCCS/1516/13)。IARCのモノグラフも、微粒子酸化チタン入りの日焼け止めを健常な皮膚に塗った試験で、粒子は角層の最外層にとどまったと記載している(傷んだ皮膚についての試験はなかったとも書く)(出典: IARC Monographs Vol.93)。SCCSは2024年の科学的助言でも、皮膚に塗る製品についての過去の結論は評価した原料と被覆の範囲で変わらないとした(出典: SCCS/1661/23)。
合わない可能性がゼロの成分はないので、使用後に赤み・かゆみなどが出た場合は使用をやめる、という一般原則は酸化チタンにも当てはまる。日焼け止めでは紫外線吸収剤・香料・保存料など多くの成分が一緒に入っており、刺激を感じた場合に酸化チタンが原因かどうかは成分表だけでは切り分けられない。
3.2 推奨配合量と過剰配合時のリスク
日本の化粧品基準には、配合禁止(別表第1)・配合制限(別表第2)・防腐剤(別表第3)・紫外線吸収剤(別表第4)のどのリストにも酸化チタンの名前はない(出典: 化粧品基準)。化粧品基準の紫外線吸収剤は「紫外線を特異的に吸収する物」と定義されたリスト方式で、酸化チタンはこのリストの対象ではなく、配合上限の定めもない。
EUでは用途ごとに条件が細かく分かれる(出典: CosIng)。
| EUでの枠 | 内容 |
|---|---|
| 紫外線防止剤(Annex VI/27) | 最大25%(ナノ形態と併用する場合は合計25%) |
| ナノ形態の紫外線防止剤(Annex VI/27a) | 最大25%。純度・結晶形(ルチル型、またはアナターゼ5%まで)・粒子径・被覆剤・光触媒活性の条件つき。吸入により使用者の肺が曝露するおそれのある用途には使わない |
| 着色剤(Annex IV/143) | 色素 CI 77891。純度基準の条件つき |
| 粉末状の酸化チタン(Annex III/321) | 粒子径10μm以下を1%以上含む粉末について、顔用ルースパウダー25%まで、ヘアエアゾールスプレーは一般消費者向け1.4%・プロ用1.1%まで、その他の吸入のおそれがある用途には使わない |
(出典: CosIng Annex III/321・IV/143・VI/27・VI/27a)
このうち Annex III/321 の数値は、SCCSの2020年意見に対応している。SCCSは、顔料級の酸化チタンを25%まで配合した典型的な顔用ルースパウダーは一般消費者に安全、同じく25%の典型的なヘアスタイリング用エアゾールスプレーは一般消費者にも美容師にも安全ではなく、安全な上限は一般消費者1.4%・美容師1.1%とした(出典: SCCS/1617/20)。この意見は、吸入による発がん性区分2に分類される可能性を前提に、吸入経路の曝露がありうる製品(エアゾール・スプレー・パウダー)について評価したもので、評価に使われたのは顔料級(アナターゼ型・表面処理品)の1種類だった。
「過剰配合時のリスク」として実際に意味があるのは、配合量そのものより剤型の側、つまり「吸い込む形の製品かどうか」になる。洗い流す洗顔料や、液状・ジェル状の製品に入る酸化チタンでは、この論点は当てはまらない。
3.3 「危険性」と言われる根拠と実態の整理
酸化チタンが不安視されるときの根拠は、おおむね4つに整理できる。どれも「どの経路の評価か」を確かめると、肌に塗る・洗い流す使い方との距離が見えてくる。
① IARCの Group 2B(発がん性がある可能性)
IARCはモノグラフ第93巻(2010年刊行、評価会議は2006年)で、酸化チタンを Group 2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)に分類した(出典: IARC Monographs Vol.93)。内訳は、ヒトでの証拠が「不十分」、実験動物での証拠が「十分」。動物の根拠は、ラットの吸入試験2件で肺腫瘍が増えたことと、ラットへの気管内投与で肺腫瘍が増えたことで、経口・皮下・腹腔内の投与では腫瘍の増加は見られなかった。ヒトについては、酸化チタン製造の労働者を対象とした疫学研究が評価され、欧州の研究で一般集団と比べた肺がんのわずかな増加が見られたものの、全体としては職業上の曝露とがんとの関連を示唆しないとまとめられている。
ここで押さえるべき点は2つある。1つ目は、IARCの分類は「がんを起こしうるか」というハザードの証拠の確からしさを示すもので、実際の使用でどのくらいの危険があるか(リスクの大きさ)を示すものではないこと。2つ目は、評価の中心が粉じんを吸い込む経路だったこと。IARC自身も同じ巻で、皮膚に塗った試験では粒子が角層の最外層にとどまったと記載している。この分類を、肌に塗る製品や洗い流す製品の安全性にそのまま当てはめることはできない。
② EUの「吸入による発がん性区分2」とその取り消し
EUでは、フランスの提案と欧州化学品庁の委員会の意見を受けて、欧州委員会が委任規則2020/217で、粒子径10μm以下の粒子を1%以上含む粉末状の酸化チタンを「吸入による発がん性の疑い(区分2)」に分類した(出典: CJEU Press Release No 99/25)。これに対して製造・輸入・利用事業者が提訴し、EU一般裁判所は2022年11月23日、分類の根拠となった科学的研究の評価に明白な誤りがあるとして分類を取り消した。欧州委員会とフランスは上訴したが、欧州司法裁判所は2025年8月1日に上訴を棄却し、取り消しが維持された(出典: CJEU Press Release No 99/25)。
つまり、この分類は現在は効力を失っている。ただし、この分類をきっかけに化粧品の側で設けられた用途別の条件(§3.2 の Annex III/321)は、SCCSの意見に基づく化粧品規則の規定として別に存在する(出典: CosIng)。「分類が取り消された=化粧品での条件もなくなった」とは読めない点に注意が要る。
③ 食品添加物E171の禁止
EUは2022年、食品添加物としての酸化チタン(E171)の使用承認を取りやめた。欧州食品安全機関(EFSA)が2021年5月の意見で、遺伝毒性の懸念を否定できないとしてE171を食品添加物として安全とはもう考えられないと結論したことを受けたもので、規則2022/63により2022年8月7日までの経過期間を経て食品への使用ができなくなった(出典: European Commission Food Safety)。これは食品の規制で、化粧品の規制ではない。
そのうえで、化粧品側でもこの判断を受けた評価が行われている。SCCSは2024年5月の科学的助言で、口に入りうる化粧品(歯みがきや口唇用品など)に使われる酸化チタンについて、評価した原料のほぼすべてで遺伝毒性の可能性を否定するには証拠が十分でないとした(出典: SCCS/1661/23)。同時にSCCSは、化粧品は食べることを目的としていないため、口から入る量は食品添加物より大幅に少ないと見込まれ、評価の考え方が食品とは違うことも明記している。そして皮膚に塗る製品についての過去の結論は変わらないとした。食品の規制を化粧品全般に広げて読むのも、口に入りうる化粧品の評価を肌に塗る製品に広げて読むのも、どちらも正確ではない。
④ 「CIRの評価がない」
米国の化粧品成分評価機関CIRの評価一覧(2022年9月版)に酸化チタンの行はない(出典: CIR Quick Reference Table 2022)。これは評価の抜けではなく、CIRの手続き規程が、色素(米国の連邦規則で安全性が判断される)と、OTC医薬品の有効成分を兼ねる成分を評価から除外しうると定めているためで(出典: CIR Procedures 2019)、酸化チタンは化粧品用色素(21 CFR 73.2575)と日焼け止めの有効成分の両方に当たる。「CIRの評価がない=安全性データが乏しい」とは読めない。
本クラスタ3成分の公的評価の出方を並べると、ばらつきがよく分かる。
| 成分 | 仕事 | 主な公的評価の出方 |
|---|---|---|
| 酸化チタン(本成分) | 白くする | IARC 2B(吸入)・EUの吸入発がん性分類は取り消し確定・EU化粧品規則で用途別の条件・CIRは規程上の除外枠 |
| 水酸化Al | 覆う | CIRの2014年最終報告で現行の使用実態と濃度で安全・アルミニウム全体の曝露はEUのSCCSが製品分類ごとに評価 |
| イライト | 吸う | CIRの2023年最終改訂報告(天然クレイ8成分)で安全、ただし偶発的に吸入されうる製品はデータ不十分 |
(出典: 本記事の各出典。水酸化Al・イライトの評価の詳細と出典は各記事を参照)
3成分を並べると、評価機関がそろって注意を向けているのが「吸い込みうる剤型」だという共通点も見えてくる。「評価がない」ことと「危ない」ことは別で、「評価がある」ことも、その評価がどの経路・どの製品を対象にしているかを見ないと意味が変わる。酸化チタンは、評価が多く出ているぶん、経路の取り違えが起きやすい成分にあたる。
4. 相性の良い・悪い成分
4.1 併用推奨
酸化チタンには、特定の成分と組み合わせないと働かない、という性質はない。そのうえで自社集計から見える組み合わせが1つある。
酸化チタンと水酸化Alは、自社マスターでは同じ2商品にだけそろって現れる(出典: DappNotes 商品マスター集計)。酸化チタンを含む2製品(UVジェル・洗顔料)はどちらも水酸化Alを含み、逆に水酸化Alだけを含む製品、酸化チタンだけを含む製品はない。
原料メーカーからは、酸化チタンの表面を水酸化Al等で覆った原料が出ている。堺化学工業の超微粒子酸化チタン「STR-100C-LF」は化粧品表示名称が「酸化チタン、水酸化Al、ステアリン酸」で、同社カタログの組成は酸化チタン84%・水酸化Al 9%・ステアリン酸7%とされる。同じシリーズには「酸化チタン、水酸化Al、ハイドロゲンジメチコン」(STR-100C-LP、組成89/7/4%)や「酸化チタン、水酸化Al」(STR-100C)の銘柄も並ぶ(出典: 堺化学工業 化粧品材料製品頁・化粧品原料カタログ)。表面処理後も酸化チタンが8〜9割を占め、水酸化Alは1割に満たない「薄い覆い」にあたる。テイカの微粒子酸化チタン「MT-100TV」は、同社資料で「水酸化Al+ステアリン酸処理15nm微粒子酸化チタン」と説明されている(出典: テイカ 用途別製品仕様一覧・製品資料)。石原産業も、化粧品用の銘柄の表面処理にAl(OH)3(水酸化アルミニウム)やAl(OH)3とステアリン酸の組み合わせを示している(出典: 石原産業 化粧品用酸化チタン製品頁)。
表面処理の目的について、原料メーカーは次のように説明する。石原産業は「表面処理により光活性を抑制し、安定した品質の処方設計が可能」「表面処理により、扱いやすい分散性を実現」と書き、堺化学工業は「緻密な表面処理により表面活性抑制も実現」と書く(出典: 石原産業 / 堺化学工業 各製品頁)。テイカは2023年の製品資料で「光活性を抑制するには水酸化Al処理が必要」という従来の考え方を示したうえで、粒子の形を制御して表面処理を緻密にし、アルミニウムを使わずに光活性を抑えたとする銘柄(表示名称「酸化チタン、ステアリン酸」)を紹介している(出典: テイカ 製品資料2023)。水酸化Alでの処理が定番である一方、それ以外の方法も原料メーカーは開発している、という位置づけになる。規制の側でも、EUはナノ形態の酸化チタンの被覆剤として水酸化アルミニウム(Aluminium Hydroxide)・シリカ・ステアリン酸・ジメチコン等を列挙し、光触媒活性を被覆していない対照品の10%以下とする条件を付けている(出典: CosIng Annex VI/27a)。医薬部外品の表示名称にも「酸化アルミニウム水和物・ケイ酸処理酸化チタン」という表面処理品が独立した品目として載っている(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。
ただし最も大事な点として、各商品がどの原料を使っているかは成分表示からは分からない。化粧品の全成分表示は1%以下の成分を順不同で書けるため、洗顔料で酸化チタンと水酸化Alが19位・20位と隣り合っていることも、同じ原料から来ている根拠にはならない。また、洗顔料には9位にステアリン酸もあるが、洗顔料ではステアリン酸は石けんの原料として配合される量が主と考えられ、表面処理のステアリン酸と結びつけることはできない。ここから言えるのは「酸化チタンを水酸化Alで覆った原料が市場にあり、自社マスターでは2成分が同じ2商品にだけそろう」までになる。
4.2 併用注意
酸化チタンと特定の成分を一緒に使うと危険になる、という公的な記述は、本記事の調査範囲では見当たらない。処方の側で意識されているのは光触媒活性で、表面処理が不十分な酸化チタンは紫外線を受けて周囲の成分に影響しうるため、原料メーカーは表面処理で活性を抑えた銘柄を用意している(出典: 石原産業 / 堺化学工業 / テイカ 各製品頁)。これは処方設計者が原料を選ぶ段階の話で、使う側が成分表から判断できる事項ではない。
使う側の実用上の注意は、組み合わせより剤型の側にある。ルースパウダーやスプレーのように吸い込みうる形の製品では、粉や霧を吸い込まないように使うという一般的な注意が当てはまる(EUでは用途別の条件も設けられている=§3.2)。
4.3 類似成分
酸化チタンに近い成分は、本クラスタの「白くする/覆う/吸う」という軸と、紫外線散乱剤の仲間という軸の2本で並べると位置関係が分かりやすい。
| 成分 | 仕事 | 物質 | 立ち位置 |
|---|---|---|---|
| 酸化チタン(本成分) | 白くする | TiO2 | 顔料級は白色顔料、微粒子は紫外線散乱剤。化粧品用は表面処理品が多い |
| 水酸化Al | 覆う | Al(OH)3 | 酸化チタン等の表面処理剤として裏方で働くことが多い |
| イライト | 吸う | 雲母に近い層状ケイ酸塩の粘土鉱物 | 洗顔料で使われるクレイの1つ |
| 酸化亜鉛 | 白くする・紫外線を防ぐ | ZnO | もう1つの無機の紫外線散乱剤。日本では薬用化粧品の有効成分リストにも収載 |
| マイカ | すべり・光沢 | 層状ケイ酸塩 | 表面を酸化チタンで覆うとパール顔料の芯になる |
(出典: Cosmetic-Info.jp jcln / 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版 / 各社製品頁。各成分の詳細は各記事を参照)
最も近いのは酸化亜鉛で、どちらも無機の白い粉体で、白色顔料と紫外線散乱剤の2つの顔を持つ。違いは規制上の扱いにあり、酸化亜鉛は厚生労働省の『いわゆる薬用化粧品中の有効成分リスト』に収載されているのに対し、酸化チタンは収載されていない。紫外線を防ぐ波長の特徴や白浮きのしやすさの比較は酸化亜鉛の記事で扱っている。日焼け止めではこの2つが一緒に使われることも多い。
マイカとの関係は「覆う側・覆われる側」が逆になる組み合わせで、雲母の表面を酸化チタンの薄膜で覆うとパール光沢の顔料になる(医薬部外品の表示名称「雲母チタン」)(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。成分表に「マイカ」と「酸化チタン」が並んでいたら、こうした被覆顔料の構成成分である可能性もある。同じく白い粉体のタルクやカオリンは、白さより感触や吸着が主な仕事で、光を強く散乱させて白さや紫外線防止をつくる酸化チタンとは役割の軸が違う。
5. よくある質問
Q1. 酸化チタンは発がん性があると聞きました。日焼け止めに入っていても大丈夫ですか
IARCが酸化チタンを Group 2B(ヒトに対して発がん性がある可能性)に分類しているのは事実ですが、根拠はラットに粉じんを吸入させた試験などでの肺腫瘍で、評価は吸い込む経路についてのものです(出典: IARC Monographs Vol.93)。IARCの分類はハザードの確からしさを示すもので、実際の使用でのリスクの大きさを示すものではありません。EUで作られた「吸入による発がん性区分2」の分類は、2025年8月に欧州司法裁判所で取り消しが確定しています(出典: CJEU Press Release No 99/25)。皮膚に塗る使い方については、EUのSCCSが、ナノの酸化チタンは健常な皮膚を通過して全身に届くとは考えにくく、皮膚に塗る化粧品での使用は重大なリスクをもたらさないとしています(出典: SCCS/1516/13)。スプレーやルースパウダーのような吸い込みうる製品には、EUでは別に用途別の条件が設けられています。
Q2. EUで酸化チタンが禁止されたと聞きました。化粧品も使えなくなったのですか
EUで2022年に使えなくなったのは食品添加物としての酸化チタン(E171)で、これは食品の規制です(出典: European Commission Food Safety)。化粧品では、EUの化粧品規則で紫外線防止剤(最大25%)・着色剤として引き続き認められており、ナノ形態や粉末状の吸入用途などに条件が付いています(出典: CosIng)。なお、EUのSCCSは2024年に、歯みがきや口唇用品のように口に入りうる化粧品に使われる酸化チタンについて、遺伝毒性の可能性を否定するには証拠が十分でないとする科学的助言を出しましたが、皮膚に塗る製品についての過去の結論は変わらないとしています(出典: SCCS/1661/23)。
Q3. 洗顔料に酸化チタンが入っているのは、日焼け止めの効果のためですか
表示名称の配合目的には着色・不透明化と紫外線吸収・散乱の両方が入っていて、どの目的で配合したかは成分表からは分かりません(出典: Cosmetic-Info.jp jcln)。ただ、洗顔料は洗い流す製品で肌の上に成分がとどまらないため、紫外線防止の役割は期待しにくく、泡やペーストの白さ・不透明感をつくる顔料として入っていると読むのが自然です。日焼け対策は、洗い流さない日焼け止めやUV表示のある製品で行うのが確実です。
Q4. 成分表で酸化チタンと水酸化Alが並んでいるのはなぜですか
化粧品用の酸化チタンは、表面を水酸化Alなどで覆った原料として流通しているものが多く、化粧品ではこうした加工品に単独の表示名称がないため、構成成分が並んで書かれます。堺化学工業の「STR-100C」のように表示名称が「酸化チタン、水酸化Al」の原料があり、原料メーカーは表面処理で光活性を抑え、分散しやすくすると説明しています(出典: 堺化学工業 / 石原産業 各製品頁)。ただし、個々の商品がこうした原料を使っているかどうかは成分表示からは分かりません。成分表で2つが隣り合っていても、1%以下の成分は順不同で書けるため、同じ原料の根拠にはなりません。詳しくは水酸化Alの記事もご覧ください。
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本記事に関する注記
- 本記事は特定商品の効果を保証するものではありません。成分の働きには個人差があり、体質・肌質により合わない場合があります。
- 肌に赤み・かゆみ・刺激等の異常が出た場合は使用を中止し、症状が続く・悪化する場合は皮膚科等の医療機関にご相談ください。傷・炎症のある肌への使用は避けてください。
- 本記事で扱う酸化チタンは、日本の化粧品表示名称「酸化チタン」(INCI Titanium Dioxide)として配合される無機の粉体を前提としています。成分表の表示からは、粒子の大きさ(顔料級か微粒子か)・結晶形・表面処理の有無は読み取れません。
- IARCの分類はハザード(がんを起こしうるか)の証拠の確からしさを示すもので、リスクの大きさを示すものではありません。本記事で紹介したIARC・EUの発がん性分類・SCCSの吸入や経口に関する評価は、それぞれの経路・製品を対象にしたもので、肌に塗る製品や洗い流す製品の安全性に当てはめるものではありません。
- EUの食品添加物E171の使用取りやめは食品の規制で、化粧品の規制ではありません。
- 「CIRの評価がない」は、CIRの評価一覧(Quick Reference Table 2022年9月版)にこの名前が載っていないという意味で、CIRの手続き規程上の除外枠によるものです。安全性データが乏しいことを意味するものではありません。
- 本記事に含まれる製品数の集計は DappNotes 商品マスター(2026年9月時点・スキンケア54製品/ヘアケア78製品)に基づく自社集計であり、市場全体の分布を示すものではありません。
- 原料メーカーの製品説明は製造元の記述として紹介したもので、特定の商品にその原料が使われていることを示すものではありません。
- 規制の内容は本記事執筆時点で確認できた範囲のもので、今後改正される可能性があります。
- 本記事は成分の一般的な解説であり、化粧品・医薬部外品の効能効果は配合製品の承認・表示の範囲に従います。
- 本記事はAIによる下書きを編集部がレビュー・再構成して作成しています。
- 編集部レビュー済み・AI下書き活用