ポリシリコーン-15は、シリコーン(ポリシロキサン)の骨格に、紫外線を吸収する発色団を側鎖としてつないだポリマー型の紫外線吸収剤で、主にUVB領域を吸収する。INCI名はPolysilicone-15、化粧品表示名称は「ポリシリコーン-15」。化粧品基準の紫外線吸収剤リストでは化学名「ジメチコジエチルベンザルマロネート」で収載され、100g中10.0gまで配合できる(出典: 厚生労働省『化粧品基準』別表第4 / SCCS/1346/10)。
本記事では、日焼け止めの成分表に有機系フィルターが3〜4種並ぶ理由を「担当波長の分業」で読み解くクラスタの1本として、3点を整理する。1点目は、兄弟成分のなかでただ1つのポリマー型であること。2点目は、名前に「シリコーン」と付くが、ジメチコンのような感触改良・皮膜のシリコーンとは役割が別であること。3点目は、兄弟成分のなかでただ1つ、粘膜に使用されることがある化粧品にも同じ10.0まで配合できる区分であることにある。
1. ポリシリコーン-15の基本
1.1 何の成分か
ポリシリコーン-15は、ケイ素と酸素が交互につながったポリシロキサン鎖に、ベンザルマロネート型の発色団(光を吸収する部分)を結合させたポリマーである。EUの消費者安全科学委員会(SCCS)の意見書は、組成を「ポリシロキサンの約60ユニットあたり4か所に発色団の官能基が結合したもの」と記し、そのため組成と分子量は一定しないとしている(出典: SCCS/1346/10)。
同じ意見書が挙げる物性は次のとおり(出典: SCCS/1346/10)。
| 項目 | SCCS意見書の記載 |
|---|---|
| 化学名 | Dimethicodiethylbenzalmalonate / Benzylidene malonate polysiloxane |
| CAS番号 | 207574-74-1 |
| 分子量 | 5987(主成分となる同族体の値) |
| 性状 | 透明でわずかに黄色い粘性の液体 |
| 水への溶解度 | 0.1mg/L以下(20℃) |
| オクタノール/水分配係数(log Pow) | 6超 |
水にほとんど溶けず、油になじむ性質であることが数値から読める。原料メーカーのdsm-firmenichは、本成分を「シリコーンベースのUV-B吸収剤」「ポリマー型のUVBフィルター」と紹介し、原料の商品名PARSOL SLXとして供給している(出典: dsm-firmenich『PARSOL SLX』『UV filters』)。PARSOL SLXは成分名ではなく原料の商品名で、成分表示には出てこない。
名前の読み方を整理しておく。INCI名のPolysilicone-15は、シリコーン系ポリマーに番号を付けた命名で、番号は構造の特徴を表すものではない。日本の化粧品表示名称はこれを訳した「ポリシリコーン-15」になる。一方、化粧品基準の別表第4に載っている「ジメチコジエチルベンザルマロネート」は、ジメチコン(ジメチルポリシロキサン)にジエチルベンザルマロネート基が結合した構造を表す化学名で、表示名称とは別の体系にあたる(出典: 厚生労働省『化粧品基準』)。
日本で化粧品に配合できるようになったのは2005年である。平成17年10月18日の厚生労働省告示第465号で化粧品基準が改正され、紫外線吸収剤として「2-[4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾイル]安息香酸ヘキシルエステル」(兄弟成分のジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル)とともに追加された(出典: 薬食発第1018006号)。
規制上の区分は、有効成分ではない添加成分である。紫外線吸収剤は化粧品基準で配合上限つきで許可される成分で、医薬部外品の有効成分として効能が承認された成分ではない。
1.2 どんな製品に配合されるか
SCCSの意見書は、本成分が日焼け止め製品のほか、その他の化粧品にも最大10%の紫外線吸収剤として使われると記している。申請資料によれば、スキンケア製品での典型的な濃度は3〜5%、ガスで噴射するヘアスプレーでは0.05%、ポンプ式スプレーでは最大1%とされる(出典: SCCS/1346/10)。
原料メーカーは用途として日焼け止め・スキンケア・ヘアケアを挙げ、ヘアケア向けには、髪を光によるダメージから守り、カラーの色あせを防ぎ、軽い感触を保つポリマー型UVBフィルターとして紹介している(出典: dsm-firmenich『UV filters』)。日焼け止めの油相になじみやすい粘性液体である点も、同社の説明に含まれる。
DappNotesの商品マスターで本成分の配合を確認できた商品は2本ある。
| 商品 | 剤形 | マスター上の表記 | 配合順位/全成分数 |
|---|---|---|---|
| マニフィーク オールインワン ジェル UV | ジェル | ポリシリコーン-15 | 9/36 |
| ニベアメン UVプロテクトジェル | ジェル | ポリシリコーン-15 | 12/22 |
(出典: 各社公式サイトの全成分表示)
2本ともジェル状の製品で、同じ処方にメトキシケイヒ酸エチルヘキシルなどほかの有機系フィルターが並ぶ(§3.4)。表記は、ダッシュが全角か半角か、数字が全角か半角かで揺れているが、同じ成分を指す。
配合順位は、1%を超える成分は多い順・1%以下は順不同という表示ルールに従う目安にとどまる。順位から配合量%は推定できない。
1.3 メンズ視点での見方
メンズの日焼け止めは、べたつかず白くならないジェルタイプが選ばれやすい。そうした製品の成分表を見ると、読み慣れない長い化学名が上から数個並び、その中に「ポリシリコーン-15」が混じる。
ここでの読み方の要点は2つある。1つは、名前に「シリコーン」とあっても、さらさら感を出すためのシリコーン油と同じ扱いをしないこと。本成分は紫外線吸収剤の枠で配合上限つきで許可された成分で、役割はUVBの吸収にある(§3.5)。もう1つは、本成分1つで紫外線対策が完結すると考えないこと。守備範囲はUVBで、UVAは別の成分が受け持つ(§3.3)。
2. 期待される働き・効果
2.1 メカニズム
ポリシリコーン-15の働きは、側鎖のベンザルマロネート型発色団がUVB領域の光を吸収することにある。有機系の紫外線吸収剤は、吸収した光のエネルギーを主に熱として放出し、肌に届くUVBを減らす。吸収の極大は312nm付近と整理されている(出典: 化粧品成分オンライン・二次資料)。SCCSの意見書にも吸収スペクトルの図は載っているが、極大波長の数値は本文に書かれていない(出典: SCCS/1346/10)。
本成分の特徴は、発色団が1つずつ独立した小分子ではなく、シリコーン鎖にぶら下がった形でまとまっている点にある。SCCSの記載では約60ユニットに4か所の割合で発色団が付く(出典: SCCS/1346/10)。骨格の大部分はジメチコンと同じポリシロキサンで、そこに紫外線を吸う部分が点在するイメージになる。
原料メーカーは、ポリマーであることから塗膜を作りやすく、均一で目立たない膜で紫外線を防ぐと説明している(出典: dsm-firmenich『PARSOL SLX』)。同社はまた、ポリマーという性質上、試験管内(in vitro)のSPF測定では本成分の性能が低く見積もられるため、配合製品のSPFは人の肌を使う方法(in vivo)で確認すべきだと注意書きを付けている。これはメーカーの技術的な説明で、本成分の効果の大きさを示すデータではない。
2.2 一般的な効能範囲
紫外線防御は、製品全体として評価される機能である。日焼け止めのUVB防御はSPF、UVA防御はPAで表示され、その数値は配合された紫外線防御成分の組み合わせ・量・処方全体で決まる。本成分を配合した化粧品で表現できるのは、化粧品の効能の範囲にある「日やけを防ぐ」といった製品としての効能にとどまる。
成分単位で言えるのは「UVBを吸収する」までである。本成分は医薬部外品の有効成分ではなく、本成分の働きとして肌の状態を改善する効能を示すことはできない。成分表に本成分が入っているかどうかで、製品のSPFやPAの高さを判断することもできない。
2.3 限界・誤解されやすい点
誤解されやすい点は3つある。
1. 「シリコーン」だから感触改良剤の一種、という誤解。 名前が似ていても、ジメチコンやシクロペンタシロキサンは感触や基剤を担うシリコーンで、紫外線吸収剤ではない。本成分はシリコーン骨格を持つが、化粧品基準では紫外線吸収剤として配合上限つきで扱われる。両者の違いは§3.5で表にする。
2. ポリマーで分子が大きいから、肌には一切入らない、という誤解。 SCCSの意見書に引用された試験では、条件下で透過液からは検出されなかったが、角層や皮膚内には一部がとどまり、角層を剥がした皮膚では透過液側にも検出された(出典: SCCS/1346/10)。「大きいから入らない」と一般化せず、確認できた試験条件の範囲で読む必要がある(§3.6)。
3. 成分表の順位や種類から、フィルター同士の強さを比べられる、という誤解。 本成分を含む有機系フィルターは担当する波長が違い、同じ処方の中で役割を分け合っている。どれが一番強いかは、成分の系統や順位からは読めない(§3.3)。
3. 安全性・注意点
3.1 既知の刺激性・アレルギー報告
SCCSの2010年の意見書は、1999年の前身委員会(SCCNFP)の評価に使われた試験を再掲している(出典: SCCS/1346/10)。主な内容は次のとおり。
- 皮膚刺激性・感作性(ヒト): 103人を対象に、流動パラフィンに10%で溶かした本成分を繰り返し閉塞貼付する試験(RIPT)で、有害な反応は見られなかった。11人は試験と無関係な理由で途中離脱している
- 皮膚感作性(モルモット): マキシマイゼーション試験で、感作性は認められなかった
- 光毒性(モルモット): UVA照射を組み合わせた試験で、光毒性を示す反応は見られなかった
- 光感作性(ヒト): 30人に10%の試料を用いた試験で、刺激性・光感作性を示す証拠はなかった
SCCNFPは1999年、皮膚に塗る使い方について、紫外線吸収剤として最大10%までの化粧品配合は安全と結論した(出典: SCCS/1346/10)。
一方で、実際の使用でのアレルギー性接触皮膚炎の症例報告もある。2022年には日本の研究者が、日焼け止めクリームによるアレルギー性接触皮膚炎の原因成分として、本成分と兄弟成分のビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンを挙げた報告を『Contact Dermatitis』誌に掲載している(出典: Suzuki K ほか, Contact Dermatitis 2022)。国内の皮膚科誌『皮膚病診療』にも「紫外線吸収剤ポリシリコーン-15による接触皮膚炎」と題する症例報告がある(出典: 皮膚病診療 39巻7号)。本稿ではいずれも書誌情報までを確認しており、症例の詳細は扱わない。
以上から、試験データ上は刺激性・感作性が低い成分と整理される一方、まれに接触皮膚炎の原因になった報告がある、というのが中立な読み方になる。日焼け止めで赤み・かゆみが出た場合は使用を中止し、原因を調べるときは本成分だけでなく、同じ処方に入るほかの紫外線吸収剤も含めて皮膚科でパッチテストを受けるのが確実である。
吸入についても評価がある。ラットの急性吸入試験で死亡例が出たことから、本成分は吸入による毒性の分類対象となり、SCCSがスプレー製品への影響を改めて評価した。結論は、加圧式ヘアスプレーに0.1%で配合する使い方は消費者へのリスクにならず、ポンプ式スプレーも吸入されうる細かい粒子(15μm以下)ができなければリスクは想定されない、というものである(出典: SCCS/1346/10)。塗るタイプのクリームやジェルでは、そもそも吸入される霧が生じない。
3.2 配合上限と規制上の位置づけ
日本の化粧品基準では、本成分は別表第4「化粧品の種類により配合の制限がある成分」に、化学名「ジメチコジエチルベンザルマロネート」で載っている(出典: 厚生労働省『化粧品基準』)。
| 化粧品の種類 | 100g中の最大配合量 |
|---|---|
| 粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 10.0g |
| 粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 10.0g |
| 粘膜に使用されることがある化粧品 | 10.0g |
3つの区分すべてに同じ10.0gが設定されている点が、本成分の特徴である。別表第4では、区分の欄が空欄の成分はその種類の化粧品に配合できない。§3.3で見るとおり、兄弟成分の3つは「粘膜に使用されることがある化粧品」の欄が空欄で、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルはこの区分では8.0gに下がる。本成分は、口唇用など粘膜に触れうる化粧品にも、ほかの区分と同じ上限で配合できる区分にある。ただしこれは制度上の上限で、実際の製品にどれだけ入っているかは示さない。
EUでは、本成分は化粧品指令の紫外線吸収剤リストに最大10%で収載され、SCCSは2010年時点で、この認可が日焼け止め以外の化粧品での使用も含むと記している(出典: SCCS/1346/10)。同意見書の安全性計算では、皮膚からの吸収率を2%と仮定し、ラット90日経口試験の無毒性量1000mg/kg体重/日から安全域(MoS)を1600と算出している。
米国では、日焼け止めは一般用医薬品(OTC)として扱われる。FDAのOTCモノグラフM020(2021年9月版)が定める日焼け止め有効成分16種の一覧に、本成分は含まれていない(出典: FDA OTC Monograph M020)。原料メーカーは、米国ではスキンケア・日焼け止めに光安定剤として1%まで、ヘアケアでは濃度制限なく使えると説明している(出典: dsm-firmenich『PARSOL SLX』)。これはメーカーの説明で、本稿ではFDA側の一次資料までは確認していない。
日本での規制上の区分は、有効成分ではない添加成分である。医薬部外品で使われる場合の表示名称は、本稿では一次資料で確認できていない。
3.3 日焼け止めに有機系フィルターが並ぶ理由=担当波長の分業
商品マスターでは、本成分を含む有機系フィルターの役割が「紫外線吸収剤」「紫外線吸収(UVB)」「紫外線吸収(ポリマー型)」のように書かれるだけで、違いが見えにくい。しかし1つの日焼け止めに3〜4種が並ぶのには理由がある。紫外線は波長の幅が広く、1つの分子が吸収できる範囲には限りがあるため、担当する波長の違う成分を組み合わせて幅をカバーする。
読み分けの問いは2つで、「どの波長を受け持つか」と「どんな骨格の分子か」になる。
| 成分 | 担当波長 | 骨格(化学系統) | 分子の大きさ | 日本の配合上限(洗い流さない/粘膜使用あり) |
|---|---|---|---|---|
| メトキシケイヒ酸エチルヘキシル | UVB | ケイ皮酸エステル | 分子量 約290 | 20 / 8.0 |
| ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル | UVA | ベンゾフェノン骨格(ヒドロキシベンゾイル)をもつ安息香酸エステル | 分子量 約398 | 10.0 / 空欄 |
| ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン | UVA・UVB 両域 | トリアジン | 分子量 約628 | 3.0 / 空欄 |
| エチルヘキシルトリアゾン | UVB | トリアジン | 分子量 約823 | 5.0 / 空欄 |
| ポリシリコーン-15(本成分) | UVB | シリコーンポリマー(発色団を側鎖に結合) | 主な同族体で約5987・一定しない | 10.0 / 10.0 |
(出典: 厚生労働省『化粧品基準』別表第4 / SCCS/1346/10 / 各成分の一次情報。空欄=その区分には配合できない。系統分けは本クラスタで共有する整理)
この表から、本成分の位置は3つの特徴で説明できる。
1つ目は、UVB担当が3成分あるうちの1つという点。メトキシケイヒ酸エチルヘキシル・エチルヘキシルトリアゾン・本成分はいずれもUVB側を受け持つ。UVAを受け持つのはジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルで、両域にまたがるのがビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンになる。本成分を配合した製品でも、UVA側は別の成分で補う設計になっている。
2つ目は、分子の大きさが桁違いという点。ほかの4成分は分子量が数百の小分子だが、本成分は主な同族体で約6000のポリマーで、しかも一定の値を持たない。
3つ目は、配合上限の区分の広さ。粘膜に使用されることがある化粧品の欄に値があるのは、表の5成分のうち本成分とメトキシケイヒ酸エチルヘキシルだけで、本成分はほかの区分と同じ10.0になっている。
ここで注意したいのは、表を強さの順位表として読まないことである。担当波長が同じUVB担当どうしでも、どれが「よく防ぐ」かは配合量と処方全体で変わり、製品としての防御力はSPF・PAの測定で決まる。分子が大きいこと・上限が高いことも、防御力の高さを意味しない。
3.4 配合3商品の並びで見る本成分の位置
DappNotesで製品ページを公開しているUVジェル3品で、有機系フィルターの並びを比べる(商品マスター・公式全成分の表示順)。
| 表示順 | オルビス ミスター ドライタッチ UVジェル(25成分) | マニフィーク オールインワン ジェル UV(36成分) | ニベアメン UVプロテクトジェル(22成分) |
|---|---|---|---|
| メトキシケイヒ酸エチルヘキシル | 2位 | 2位 | 3位 |
| ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル | 7位 | 6位 | 6位 |
| ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン | 8位 | 11位 | 9位 |
| エチルヘキシルトリアゾン | 11位 | なし | 11位 |
| ポリシリコーン-15(本成分) | なし | 9位 | 12位 |
| 無機の散乱剤 | なし | 酸化チタン 36位(最後尾) | なし |
(出典: 各社公式サイトの全成分表示 / DappNotes商品マスター)
3品に共通する骨組みは、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(UVB)、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル(UVA)、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン(両域)の3種である。そこにUVB担当をもう1つ足すとき、オルビスはエチルヘキシルトリアゾン、マニフィークは本成分、ニベアメンは両方を選んでいる。本成分は、この「追加のUVB担当」の枠に入る成分として実データに現れている。
表示順は、1%を超える成分は多い順、1%以下は順不同というルールの範囲でしか読めない。本成分の9位・12位という位置から配合量%を推定することはできず、各社も配合量を公開していない。また、この並びは成分表の事実を示すもので、それぞれの製品の防御力を成分の組み合わせから判断する根拠にはならない。
3.5 「シリコーン」の名で読み違えない:ジメチコンとの違い
化粧品の成分表には、シリコーン系の成分が複数並ぶことが多い。本成分を含むニベアメン UVプロテクトジェルでも、5位にカプリリルメチコン、12位にポリシリコーン-15と、名前にシリコーン系の語を含む成分が2つ入っている。商品マスターでの役割は、前者が「エモリエント(シリコーン油)」、後者が「紫外線吸収(ポリマー型)」で、まったく別の働きをしている。
| 成分 | 骨格 | 主な役割(商品マスター) | 化粧品基準での扱い |
|---|---|---|---|
| ポリシリコーン-15(本成分) | ポリシロキサン+側鎖の発色団 | 紫外線吸収(ポリマー型) | 別表第4の紫外線吸収剤・上限10.0 |
| ジメチコン | ポリシロキサン(メチル基のみ) | 皮膜・コンディショニング | 配合上限の規定なし |
| シクロペンタシロキサン | 環状シロキサン | 基剤(揮発性シリコーン) | 配合上限の規定なし |
(出典: 厚生労働省『化粧品基準』 / SCCS/1346/10 / DappNotes商品マスター)
ジメチコンは、ケイ素と酸素の鎖にメチル基だけが付いたポリマーで、肌や髪の表面に薄い膜を作ってなめらかさを出す感触改良の成分である。本成分の骨格の大部分も同じポリシロキサンだが、一部のユニットに紫外線を吸収する発色団が結合している。この発色団があるかどうかで、成分としての役割も、化粧品基準での扱いも分かれる。
化学名の「ジメチコジエチルベンザルマロネート」は、この関係をそのまま表している。前半の「ジメチコ」はジメチコン型の骨格、後半の「ジエチルベンザルマロネート」は紫外線を吸収する発色団を指す。成分表示の「ポリシリコーン-15」だけを見ると骨格の名前しか見えないが、実態は「シリコーンの鎖に紫外線吸収剤を固定したもの」である。
原料メーカーは本成分について、軽い使用感や髪の軽い感触も訴求している(出典: dsm-firmenich『PARSOL SLX』『UV filters』)。ポリシロキサン骨格が感触に関わる可能性はあるが、本成分が配合される理由の中心は紫外線の吸収にある。成分表で「ポリシリコーン-15」を見かけたら、シリコーン油の仲間ではなく、紫外線吸収剤の枠で読むのが適切である。
3.6 分子の大きさと皮膚透過:一次ソースで確認できる範囲
ポリマーで分子が大きい成分は皮膚を透過しにくい、と説明されることが多い。本成分について、SCCSの意見書に引用された試験で確認できるのは次の範囲である(出典: SCCS/1346/10)。
試験は、ラットとブタの皮膚を拡散セルに装着し、本成分5%を含む水中油型ローションを1cm²あたり2mg塗って、皮膚の各部位に残った量を測る方法で行われた。
| 試験条件 | 透過液 | 角層(テープ剥離分) | 残りの皮膚 | 皮膚表面に残存 |
|---|---|---|---|---|
| ラット皮膚(16時間) | 検出なし | 1.4% | 0.4% | 98.2% |
| ブタ皮膚 | 検出なし | 0.2% | 2.1% | 97.7% |
| あらかじめ角層を剥がしたブタ皮膚 | 0.5% | ― | 5% | ― |
(数値は塗布量に対する割合。出典: SCCS/1346/10 に引用されたSCCNFP/0079/98の試験。「―」は意見書に数値の記載なし)
このデータから言えるのは3点ある。1点目は、健常な皮膚を模した条件では、塗った量の大部分が表面に残り、透過液側からは検出されなかったこと。2点目は、それでも角層や皮膚内には数%程度がとどまったこと。3点目は、角層を剥がした皮膚では透過液側にも検出され、試験の著者自身が傷んだ皮膚では吸収が増える兆候とみなしていること。比較対照のメトキシケイヒ酸エチルヘキシルは、同じ条件で透過液・皮膚内・角層のいずれでも本成分より多く検出された。
同時に、限界もある。これは1990年代に行われた動物皮膚の試験管内試験で、人の肌での実使用の吸収量を直接示すものではない。SCCS側も、試験の報告者の考え方を「やや特殊」と評しつつ記載している。また前述の安全性計算では、吸収率を2%と仮定して安全域を出しており、「吸収ゼロ」を前提にしているわけではない。
したがって、「分子が大きいから一切吸収されない」とも「小分子のフィルターと同じように吸収される」とも言わず、試験条件下では透過が小さく、比較対照の小分子フィルターより少なかった、という範囲で読むのが一次ソースに沿った理解になる。
4. 相性の良い・悪い成分
4.1 併用される成分
本成分はUVBを受け持つ成分で、単独で紫外線の全波長を守る設計にはならない。そのため、担当波長の違う紫外線吸収剤と組み合わせて配合されるのが基本である。
ほかの有機系フィルター: 配合例の2本はいずれも、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(UVB)、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル(UVA)、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン(両域)と同じ処方に入っている。ニベアメンにはさらにエチルヘキシルトリアゾン(UVB)も並ぶ。
油剤・溶剤: 本成分は水にほとんど溶けず、油になじむ(出典: SCCS/1346/10)。配合例では、マニフィークにジカプリン酸PGなどのエステル油、ニベアメンにパルミチン酸イソプロピルやカプリリルメチコンが入っている。2本ともエタノールが上位にあり、みずみずしい使用感のジェルに仕上げる処方の一部になっている。
無機の散乱剤: 紫外線を散乱・反射する酸化亜鉛や酸化チタンと併用される処方もある。マニフィークでは、酸化チタンが成分表の最後尾に並ぶ。
4.2 注意したい組合せ
本稿で確認した一次資料では、本成分と特定の成分を同じ処方に入れることで問題が起きるという報告は見当たらない。
実用上の注意は、成分どうしの相性より次の2点にある。
- 紫外線吸収剤を重ねた製品で肌に合わない場合: 2022年の症例報告では、本成分とビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンの2成分がアレルギー性接触皮膚炎の原因として挙げられた(出典: Suzuki K ほか, Contact Dermatitis 2022)。日焼け止めには複数の吸収剤が入るため、合わなかったときに原因を1成分に決め打ちしないことが大切である
- スプレー製品: 吸入による毒性の分類があることから、SCCSはスプレー製品での使い方を評価し、加圧式ヘアスプレーでの0.1%配合はリスクにならないと結論した(出典: SCCS/1346/10)。顔や口元の近くでスプレーを使う場合は、製品の使用上の注意に従い、霧を吸い込まないようにする
5. 使い方
5.1 推奨される使用シーン
本成分が入った製品は、主に日焼け止めとヘアケアの2つの場面で出てくる。
日焼け止め(ジェル・乳液など): 通勤・外回り・屋外での運動など、日常的に紫外線を浴びる場面で使う。成分表で本成分を確認しても、製品の防御力はSPF・PAの表示で判断する。量が少ないと表示どおりの防御力が出にくいため、製品に書かれた使用量を守り、汗をかいたりタオルで拭いたりした後は塗り直す。紫外線の強さや屋外にいる時間の目安は、メンズの日焼け止めの選び方でも整理している。
ヘアケア製品: 原料メーカーは、髪を光によるダメージから守り、カラーの色あせを防ぐ目的でのヘアケア用途を挙げている(出典: dsm-firmenich『UV filters』)。ヘアスプレーやヘアオイルなどに入っている場合は、髪の紫外線対策を補う成分として読める。
使い方の基本は、配合製品それぞれの標準的な使い方に従えばよい。本成分を含むかどうかで塗り方を変える必要はない。
5.2 期待できないこと・避けるべき使い方
本成分に期待できないことは、次のとおり。
- 本成分だけでUVAまで防ぐこと: 担当はUVBで、UVAは別の成分が受け持つ
- 成分表の有無でSPF・PAを推測すること: 防御力は処方全体の測定で決まる
- 「シリコーンだから肌にやさしい」「ポリマーだから吸収ゼロ」と決めつけること: 役割は紫外線吸収剤で、皮膚透過のデータにも試験条件の限界がある(§3.6)
- 肌の状態を改善する効果: 本成分は有効成分ではなく、紫外線を吸収する以上の効能を本成分の働きとして期待することはできない
避けたいのは、1回塗ったから1日中大丈夫と考えることである。汗・皮脂・摩擦で日焼け止めは落ちるため、配合成分にかかわらず塗り直しが基本になる。
6. メンズ実用視点まとめ
メンズの日焼け止めの成分表でポリシリコーン-15を見かけたら、次の3点で読むと整理しやすい。
- UVB担当の紫外線吸収剤: シリコーン骨格に紫外線を吸う発色団をつないだポリマーで、役割はUVBの吸収。UVAは同じ処方の別成分が受け持つ
- 「シリコーン」でも感触剤ではない: ジメチコンなどのシリコーン油とは役割も規制上の扱いも別で、化粧品基準では配合上限つきの紫外線吸収剤
- 追加のUVB担当として並ぶ: 配合例では、共通の3種の骨組みに足される4つ目のフィルターとして入っている。順位から量や強さは読めない
ジェルタイプの日焼け止めは使用感が軽い分、少ない量で済ませたくなる。製品の防御力を左右するのは、どの成分が入っているかより、表示どおりの量を塗ることと、汗や摩擦のあとに塗り直すことのほうである。
7. よくある質問(FAQ)
Q1. ポリシリコーン-15はどんな働きをする成分ですか?
紫外線のうちUVBを吸収する紫外線吸収剤です(出典: SCCS/1346/10 / 厚生労働省『化粧品基準』)。シリコーン(ポリシロキサン)の鎖に、紫外線を吸収する発色団が側鎖として結合したポリマーで、日焼け止めやヘアケア製品に配合されます。日本の化粧品基準では、配合上限つきの紫外線吸収剤として扱われます。
Q2. ジメチコンと同じシリコーンの仲間ですか?
骨格は共通していますが、役割は別です。ジメチコンはメチル基だけが付いたシリコーンで、なめらかさを出す感触改良の成分です。ポリシリコーン-15は同じ型の骨格の一部に紫外線を吸収する部分が結合しており、紫外線吸収剤として化粧品基準の別表第4に載っています。ジメチコンには化粧品基準での配合上限はありません。
Q3. 「ジメチコジエチルベンザルマロネート」や「PARSOL SLX」は別の成分ですか?
いずれも同じ成分を指します。ジメチコジエチルベンザルマロネートは化粧品基準に載っている化学名で、PARSOL SLXは原料メーカーが付けた原料の商品名です(出典: 厚生労働省『化粧品基準』 / SCCS/1346/10)。製品の成分表示には、化粧品表示名称の「ポリシリコーン-15」が使われます。
Q4. ポリマーで分子が大きいので、肌に吸収されないのですか?
「吸収されない」とは言い切れません。SCCSの意見書に引用された動物皮膚の試験では、健常な皮膚の条件で透過液からは検出されず、塗った量の大部分が表面に残りました。一方で角層や皮膚内に数%がとどまり、角層を剥がした皮膚では透過液側にも検出されています(出典: SCCS/1346/10)。比較対照の小分子フィルターより少なかった、という範囲で理解するのが正確です。
Q5. 肌に安全な成分ですか?
試験データ上は刺激性・感作性が低いと整理されています。ヒトの繰り返し貼付試験や光感作性の試験で反応は見られず、EUの科学委員会は最大10%の配合を安全と結論しています(出典: SCCS/1346/10)。ただし日焼け止めによる接触皮膚炎の原因になった症例報告もあります(出典: Suzuki K ほか, Contact Dermatitis 2022)。赤みやかゆみが出たら使用を中止し、皮膚科に相談してください。
Q6. 唇など粘膜に触れる製品にも使えるのですか?
制度上は使えます。日本の化粧品基準では、「粘膜に使用されることがある化粧品」にも、ほかの区分と同じ100g中10.0gまで配合できます(出典: 厚生労働省『化粧品基準』)。同じクラスタのジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル・ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン・エチルヘキシルトリアゾンはこの区分に配合できないため、本成分の特徴になっています。実際にどの製品に使われているかは、個別の成分表で確認してください。
Q7. 成分表の「ポリシリコーン-15」と「ポリシリコーン-15」は違う成分ですか?
同じ成分です。ダッシュや数字が全角か半角かの違いで、表記の揺れにすぎません。DappNotesの商品マスターでも、マニフィーク オールインワン ジェル UVは「ポリシリコーン-15」、ニベアメン UVプロテクトジェルは「ポリシリコーン-15」と表記されていますが、どちらも本記事の成分を指します。
8. まとめ
ポリシリコーン-15は、ポリシロキサン(シリコーン)の鎖に、ベンザルマロネート型の発色団を約60ユニットに4か所の割合で結合させたポリマー型の紫外線吸収剤で、UVBを受け持つ。分子量は主な同族体で約5987と一定せず、水にほとんど溶けない(出典: SCCS/1346/10)。日本では2005年に化粧品基準へ追加され、化学名ジメチコジエチルベンザルマロネートとして、洗い流す化粧品・洗い流さない化粧品・粘膜に使用されることがある化粧品のすべてに100g中10.0gまで配合できる(出典: 薬食発第1018006号 / 厚生労働省『化粧品基準』)。
日焼け止めに有機系フィルターが並ぶ理由を担当波長の分業で読むと、本成分はUVB担当の3成分の1つで、兄弟成分のなかでただ1つのポリマー型にあたる。配合例では、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル・ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル・ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンの共通の骨組みに、追加のUVB担当として加わっている。
名前に「シリコーン」と付くが、ジメチコンのような感触改良のシリコーンとは役割も規制上の扱いも別である。試験データ上の刺激性・感作性は低く、試験条件下の皮膚透過も小さかったが、接触皮膚炎の症例報告もあり、「シリコーンだから」「ポリマーだから」で安全性を決めつけず、製品全体の処方とSPF・PAで判断するのが実用的な理解になる。