PEG-20は、エチレンオキシド(酸化エチレン)が平均20モル重合したポリエチレングリコールで、化粧品では保水剤・溶剤として配合される(出典: Cosmetic-Info.jp 化粧品表示名称DB)。この記事の柱は2つある。1つ目は名前の数字の読み方で、化粧品表示名「PEG-20」の20は重合度、医薬部外品表示名「ポリエチレングリコール1000」の1000は分子量を指す。同じ原料が、成分表によって20とも1000とも書かれる。2つ目は性状の位置で、液状のPEG-8と、よりはっきりした固形のPEG-32のあいだにあり、室温では白色のワックス状に固まり、凝固点は37℃前後という「液と固体の境目」に立つPEGにあたる(出典: CIR 2010 / 三洋化成工業)。数字の意味の違いと、この中間の鎖長ならではの性格を、PEGをめぐる安全性の言説とあわせて整理する。
1. PEG-20の基本
1.1 何の成分か
PEG-20は、化粧品表示名称・INCI名ともに「PEG-20」で、表示名称DBの定義は「酸化エチレンの重合体」にあたる(出典: Cosmetic-Info.jp 化粧品表示名称DB)。構造は H(OCH2CH2)nOH で、エチレンオキシド単位(-CH2CH2O-)が鎖状につながり、両端に水酸基を持つ。名前の20は、この単位の平均の個数=平均重合度(EO付加モル数)を表す。実際の原料は鎖の長さが少しずつ違う分子の混合物で、20はその平均値にあたる(出典: CIR 2010)。
規制上の位置づけは、有効成分ではない添加成分にあたる。医薬部外品の成分表示名称リスト(平成20年3月25日版)には「ポリエチレングリコール1000」(連番1936・成分コード105285)として収載されていて、本質欄は「酸化エチレンの重合体で、平均分子量は、950〜1050」と定めている(出典: 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』)。収載は「薬用化粧品に添加物(その他の成分)として配合できる名前がある」という意味で、PEG-20が有効成分として承認されているという意味ではない。
PEG-20とポリエチレングリコール1000が同じ原料に付く2つの名前だという対応は、3つの独立した一次資料で確かめられる(数字の算術上の関係は後段で扱う)。
| 資料 | 書かれていること |
|---|---|
| 医薬部外品の成分表示名称リスト(連番1936) | ポリエチレングリコール1000 の簡略名欄に「PEG(20)、PEG1000」と、重合度と分子量の両方の数字が並ぶ |
| 化粧品原料の登録情報(Cosmetic-Info.jp 原料DB) | 化粧品表示名称「PEG-20」に紐づく原料4品のうち、日油・クラリアント・青木油脂の3品が部外品申請成分名を「ポリエチレングリコール1000」と記載 |
| CIR 2010 最終報告書 Table 2 | PEG-20 の分子量呼称(molecular weight name)を polyethylene glycol 1000 とし、重合度からの計算値を898と記載 |
(出典: 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』平成20年3月25日版 / Cosmetic-Info.jp 原料DB / CIR 2010)
ここで本記事の1つ目の柱になるのが、数字の意味の違いにある。化粧品表示名の数字は平均重合度、医薬部外品表示名の数字は平均分子量を表す(出典: 化粧品成分オンライン / CIR 2010)。CIRの報告書も「INCI名はダッシュを含み、数字はエチレンオキシドの平均モル数を表す。ダッシュを含まないPEG名の数字は平均分子量」と書き分けている。エチレンオキシド単位1つの重さは約44なので、重合度20なら 20×44+18(両端の水の分)=898 となる。CIRの表が計算値を898としているのはこの式による。
ここで1つ、数字が完全には噛み合わない点を正直に書いておく。日本の部外品側の規格は、医薬部外品の成分表示名称リストでも医薬部外品原料規格2021でも、ポリエチレングリコール1000の平均分子量を950〜1050と定めている(出典: 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』/ 厚生労働省『医薬部外品原料規格2021』)。同じ式で逆算すると、この幅は平均重合度でおよそ21〜23.5にあたり、重合度ちょうど20の計算値898は規格の幅のやや下に外れる。つまり「PEG-20=ポリエチレングリコール1000」は、20×44+18がきっかり1000になるという算術上の一致ではなく、部外品リストの簡略名・原料メーカーの登録・CIRの分子量呼称がそろって同じ原料に当てている「名前の対応」にあたる。化粧品表示名の20も、規格で幅を持つ原料に付けられた目安の数字と読むのが正確になる。この食い違いはPEG-20だけのものではなく、PEG-8でも計算値370に対して部外品側の規格は380〜420と、同じ向きのずれがある(出典: CIR 2010 / 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』)。
この「ダッシュの有無」の規則は、原料の商品名で崩れることがある点にも注意したい。原料メーカーの商品名には「PEG-1000」「PEG#1000」のように、ダッシュ付きで分子量を書くものがある(出典: 三洋化成工業 / Cosmetic-Info.jp 原料DB)。これらは中身がPEG-20でも、「PEG-1000」という化粧品表示名の成分があるわけではない。化粧品の全成分表示に出てくるのは「PEG-20」、薬用化粧品なら「ポリエチレングリコール1000」かその簡略名、と押さえておくと混乱しにくい。
1.2 どんな製品に配合されるか
化粧品表示名称DBが挙げるPEG-20の配合目的は、保水剤と溶剤の2つにあたる(出典: Cosmetic-Info.jp 化粧品表示名称DB)。CIRの報告書の成分表でも機能は humectant(保湿剤)と solvent(溶剤)で、PEG-32以上に付く binder(結合剤)はPEG-20には付いていない(出典: CIR 2010)。
使われ方の手がかりになるのが、CIRの2010年報告書に載る使用濃度の表になる。業界団体(Personal Care Products Council)の2009年の調査では、PEG-20の使用濃度は0.02〜27%と報告されている(出典: CIR 2010)。カテゴリ別に見ると、値の高い側に男性向け・ヘア向けの製品が並ぶ。
| 製品カテゴリ(CIR 2010 Table 5) | 報告された使用濃度 |
|---|---|
| その他のヘア製品(染毛以外) | 27% |
| アフターシェーブローション | 20% |
| ヘアトニック・ドレッシング等 | 18% |
| アイライナー | 1〜18% |
| フェイス・ネック用クリーム・ローション等 | 4〜8% |
| 保湿剤 | 5% |
| 石けん・洗浄剤 | 0.02〜2% |
(出典: CIR 2010 Table 5〔Personal Care Products Council 2009a〕。同じ表のFDA VCRP〔2008〕の届出件数欄にはPEG-20の記載がなく、件数での比較はできない)
ここで本記事の中核データにあたるのが、DappNotes の自社商品マスターの集計になる。スキンケア54製品・ヘアケア78製品を機械集計すると、PEG-20を配合するのは2製品だった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。
| 製品 | 区分・剤型 | 成分表での表記 | 配合位置 |
|---|---|---|---|
| N. シアミルク | 化粧品・洗い流さないヘアミルク | PEG-20 | 8位/全32成分 |
| ニベアメン アクティブエイジローション | 医薬部外品・化粧水 | PEG1000 | 10位/全22成分(有効成分2つを含む通し順) |
(出典: DappNotes 商品マスター集計。化粧品の全成分表示は原則として配合量の多い順だが1%以下は順不同。医薬部外品は有効成分以外の記載順が企業の判断に委ねられているため、位置から配合量は推し量れない)
2製品で書き方が違うのは、まさに1.1の話にあたる。化粧品のヘアミルクは化粧品表示名で「PEG-20」、医薬部外品の化粧水は部外品表示名の簡略名で「PEG1000」と書いている。しかもニベアメンの化粧水は、同じ成分表に「PEG-8」も並べている(出典: DappNotes 商品マスター集計)。この「PEG-8」は部外品リストでポリエチレングリコール400に当てられた簡略名で(出典: 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』)、1つの成分表に重合度8のPEGと分子量1000のPEGが、別々の物差しの名前のまま同居していることになる。数字だけを見て「8と1000」と比べると大小を取り違えるが、重合度に揃えれば8と20の2種類の鎖長を組み合わせた処方と読める。
N. シアミルクのほうは、水・シリコーン・グリセリン・セテアリルアルコール・BG・エステル油に続く8位にPEG-20が入り、その後ろにシア脂などの植物油脂が並ぶ(出典: DappNotes 商品マスター集計)。水系の乳液に油分を抱かせる洗い流さないヘア製品で、保水と溶剤を担う位置にあたる。
1.3 メンズ視点での見方
メンズの製品を成分表から読む立場では、PEG-20は「液状PEGと固形PEGのあいだにある、保水・溶剤の補助成分」と読むのが実態に近い。肌や髪に何かを足す主役ではなく、処方の水分と溶け具合を支える側の成分にあたる。
CIRの使用濃度表でアフターシェーブローション20%・ヘアトニック18%という値が並ぶのは、メンズにとって目を引く点になる(出典: CIR 2010)。ヒゲ剃り後のローションや頭皮用のトニックは、水・アルコール系で香料などを溶かし込みつつ、乾ききらない仕上がりが求められる剤型で、保水と溶剤の2役を持つPEGの守備範囲と重なる。ただしこの表は米国の業界調査で報告された最大値の記録であり、日本のメンズ製品が同じ濃度で使っていることを示すものではない。
もう1つ押さえておきたいのが、PEGという名前に向けられる強い俗説との距離感にある。「PEGは経皮毒」「1,4-ジオキサンで発がん」という主張は、成分そのものの評価・原料の不純物管理・分子量と経皮吸収・量と経路という別々の話を1つに混ぜたものにあたる(詳しくは §3.3)。PEG-20に特有の論点としては、皮膚感作の留保が付く低重合側(PEG-8以下)から外れた最初の段にあたる点がある(出典: 化粧品成分オンライン / CIR 2010)。
2. 期待される働き・効果
2.1 メカニズム
PEG-20の働きは保水と溶剤の2つにあたり、どちらも分子の骨格から説明がつく(出典: Cosmetic-Info.jp 化粧品表示名称DB / CIR 2010)。そのうえで、同じPEGでも鎖の長さによって効き方の強弱が変わる。PEG-20を理解する近道は、その「強弱の中での位置」を押さえることにある。
保水は、鎖の両端の水酸基と、鎖に並ぶ酸素原子が水と結びつくことに由来する。ただしPEGの吸湿性は、分子量が上がるほど小さくなる(出典: 三洋化成工業 / 化粧品成分オンライン)。鎖が長くなっても水酸基は両端の2つのままなので、重さあたりの水酸基の割合が下がっていくためで、原料メーカーの代表値でも水酸基価は分子量400の品で281、1000の品で113、1540の品で79と下がっていく(出典: 三洋化成工業)。PEG-20は、液状PEGほど強く水を引き寄せはしないが、固形PEGの中では吸湿性が残っている側にあたる。
溶剤としての性格は、水にもアルコールにも溶けるという両にらみの性質に由来する。PEGは水や多くの有機溶剤に溶けるが、その溶解性も分子量が大きくなるにつれて下がる(出典: 三洋化成工業)。香料や水に溶けにくい成分を水系の処方になじませる役割は、液状PEGと同じ方向の仕事になる。
ここで本記事の2つ目の柱になるのが、性状の位置になる。CIRの報告書は、分子量700未満のPEGは無色の液体、700〜900は半固形、1000を超えると白色のワックス状固体・フレーク・粉末になると整理している(出典: CIR 2010)。重合度20の計算値898、部外品規格の950〜1050という分子量は、ちょうど半固形とワックス状固体の境目に重なる。日本の規格側はもう一歩具体的で、医薬部外品原料規格2021はポリエチレングリコール1000の性状を「白色のワセリンよう又はろう状物質」、凝固点を35〜40℃と定めている(出典: 厚生労働省『医薬部外品原料規格2021』)。ワセリンのような軟らかい固形から、ろうのような固形までを1つの規格に含めている点が、境目に立つ鎖長らしさを表している。原料メーカーの代表値でも、分子量1000の品は凝固点37℃の白色ワックス状とされる(出典: 三洋化成工業)。
| 鎖長(化粧品表示名) | 分子量の呼称 | 凝固点(代表値) | 室温での外観 |
|---|---|---|---|
| PEG-8 | 400 | 6℃ | 無色液状 |
| PEG-20(本成分) | 1000 | 37℃ | 白色ワックス状 |
| PEG-32 | 1540 | 45℃ | 白色ワックス状 |
(出典: 三洋化成工業『PEGシリーズ』表-1 の代表値。凝固点は製品・ロットで幅があり、規格値ではない)
凝固点35〜40℃(代表値37℃)という数字は、室温では固まっているが、体温に近い温度で融け始めることを意味する。PEG-8のように室温で液体のPEGとも、凝固点45℃のPEG-32とも違う、中間の位置にあたる。処方の中では水に溶けて使われるため、成分表のPEG-20が肌の上で「固まる」わけではないが、同じ保水・溶剤の仕事を、液状PEGよりも吸湿性を抑えた形で担える鎖長と読める。
この境目は、CIRの成分表の機能欄にも表れている。PEG-4からPEG-20までの機能は humectant(保湿剤)と solvent(溶剤)の2つで、PEG-32から上になると binder(結合剤)が加わる(出典: CIR 2010)。PEG-20は、保水・溶剤の2役だけで語られるグループのいちばん長い側に立つ成分にあたる。
2.2 一般的な効能範囲
PEG-20の効能をどこまで語れるかは、この成分が製品の中で何として入っているかで決まる。
化粧品に配合されたPEG-20は、保水と溶剤を担う基剤成分にあたる。製品として訴求できるのは「うるおいを与える」「乾燥を防ぐ」「毛髪にうるおいを与える」といった化粧品の効能の範囲で、成分単体の話として「シワを治す」「髪を修復する」「育毛する」といった表現を取ることはできない。
医薬部外品に配合された場合も、立ち位置は変わらない。部外品リストの「ポリエチレングリコール1000」は添加物(その他の成分)として配合できる名前であって、有効成分としての承認を意味しない(出典: 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』)。自社マスターのニベアメン アクティブエイジローションも、有効成分として表示されているのはビタミンC誘導体とビタミンE誘導体の2成分で、PEG1000はその他の成分の側に置かれている(出典: DappNotes 商品マスター集計)。薬用化粧品の効能は有効成分の承認内容に従うもので、PEG-20はその効能を担う側ではない。
つまりPEG-20の価値は、効能の主体になることではなく、処方が設計どおりの状態を保てるように水分と溶け具合を支えるところにある。成分表でPEG-20を見つけたときに読み取れるのは、「この処方は液状PEGだけでなく、もう少し長い鎖のPEGにも保水・溶剤を分担させている」という設計上の選択になる。
2.3 限界・誤解されやすい点
PEG-20をめぐって行き違いが起きやすい点は3つある。
1つ目は、成分表の数字をそのまま比べてしまうケースにある。化粧品の「PEG-20」と薬用化粧品の「ポリエチレングリコール1000」「PEG1000」は同じ原料に付く名前だが、数字だけを見ると50倍も違う別物に見える。逆に、化粧品表示名のPEG-150と部外品表示名の「ポリエチレングリコール1000」を並べて「1000のほうがずっと長い」と読むと、大小が逆転する。PEGの数字は、ダッシュ付きの化粧品表示名なら重合度、ダッシュなしの分子量表記なら分子量、と物差しを確かめてから比べる必要がある(出典: CIR 2010)。
2つ目は、PEGを1つのかたまりとして評価してしまうケースにある。PEGは鎖の長さで液状・半固形・固形と性状が変わり、担当する仕事も保水・溶剤から結合剤、さらに増粘・乳化安定へと移っていく(出典: CIR 2010)。安全性の議論でも、皮膚感作の留保が付くのは低重合側で、PEG-20以上ではほとんどなしと整理される(出典: 化粧品成分オンライン)。さらにPEG-20水添ヒマシ油のように、同じ「20」を名乗りながら油脂にEOを付加した乳化剤は、界面活性という別の性格を持つ。「PEG-20」と「PEG-20水添ヒマシ油」は数字が同じでも、単体のPEGと、油の骨格にPEG鎖を付けた界面活性剤という別の成分にあたる。
3つ目は、保水成分だから乾燥が根本的に解決すると受け取るケースにある。PEG-20の保水は吸湿によって水分を保つ働きで、肌のバリア機能そのものを立て直すものではない。しかも前述のとおり、液状PEGよりも吸湿性は低い。乾燥が気になる場合に見直すべきは、洗浄の強さや頻度、洗顔後に何をどれだけ補うかであって、成分表にPEG-20があるかどうかではない。
3. 安全性・注意点
3.1 既知の刺激性・アレルギー報告
PEG全体の刺激性について、化粧品成分オンラインの整理では皮膚感作性に鎖長による線引きがあり、PEG-8以下では皮膚炎などがある場合にごくまれに感作を起こす可能性がある一方、PEG-20以上ではほとんどなしとされる(出典: 化粧品成分オンライン)。PEG-20は、この留保が外れる側の入り口に位置する成分にあたる。
この線引きと方向の合う記述が、CIRの2010年最終報告書の症例報告にある。第二度熱傷の治療に、抗菌薬をPEG-6・PEG-20・PEG-75の混合基剤に溶かした外用薬を使った患者2例が、遅延型のアレルギー性接触皮膚炎を起こした。パッチテストでは2例ともPEG-6とPEG-8が陽性で、PEG-20とPEG-75は反応しなかった(出典: CIR 2010 が引く Fisher 1978)。ただしこれは熱傷という特殊な状態の2症例の観察であり、「PEG-20は感作を起こさない」と一般化できる頻度データではない。
公的な安全性評価としては、CIRが2010年6月29日付の最終報告書でPEG-20を名指しで評価対象に含め、PEG類は現在の使用実態と使用濃度において安全(safe in the present practices of use and concentration)と結論している(出典: CIR 2010)。報告書の要旨は、PEGは経口毒性が低く、眼刺激はわずか、皮膚刺激・感作は最小限で、遺伝毒性・発がん性・生殖発生毒性は認められないとまとめている。
この報告書で大きく変わったのが、損傷した皮膚についての但し書きになる。1993年の先行評価(PEG-6/-8/-32/-75/-150/-14M/-20M が対象)には「これらのPEGを含む化粧品は損傷した皮膚に使用すべきでない」という条件が付いていた。2010年の報告書は、角層をテープで大きく剥がした皮膚での経皮吸収データを検討し、最大限リスクを見積もる前提でも腎毒性の無影響量との間に100倍を超える安全マージンが保たれるとして、この但し書きを外した(出典: CIR 2010)。ただし線引きは残り、角層と表皮の双方が失われた皮膚(熱傷など)に高濃度のPEGを含む化粧品を使うことは不適切だと明記されている。
実用上は、健常な肌では穏やかな基剤として扱ってよく、肌荒れのある部位に新しい製品を使うときは、PEGに限らず初回にパッチテストで相性を確かめるのが無難になる。
3.2 推奨配合量と過剰配合時のリスク
PEG-20は「何%配合すると効く」というタイプの成分ではなく、保水・溶剤・基剤のどれを担わせるかで配合量が動く。CIRの報告書に載る業界調査では、PEG-20の使用濃度は0.02〜27%と幅広く報告されている(出典: CIR 2010)。洗浄剤では0.02〜2%と低く、ヘア製品やアフターシェーブでは18〜27%と高い。洗い流す製品と、処方の骨格の一部として使う製品とで、桁が変わることになる。日本の化粧品基準にPEG-20の配合上限の規定は確認できなかったため、本記事では一律の上限を断定しない。
自社マスターの2製品では、ヘアミルクで32成分中8位、医薬部外品の化粧水で22成分中10位だった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。ただし前者は1%以下が順不同、後者は医薬部外品で記載順が企業判断のため、どちらも位置から配合量を精密に読むことはできない。
過剰配合という観点では、PEG-20は刺激が低い側の成分で、量が増えたからといって刺激が急に立ち上がる性格ではない。実際に表れやすいのは使用感の側で、保水系の成分が重なれば、しっとりするのと引き換えに重さやべたつきを感じることがある。これは安全性ではなく好みの問題として切り分けてよい。
3.3 「危険性」と言われる根拠と実態の整理
PEGを危険視する主張は、たいてい1,4-ジオキサンとエチレンオキシドという2つの物質の名前を経由してくる。この論点は兄弟のPEG-8・PEG-32の記事と共通なので、ここではPEG-20に関わる要点に絞る。
出発点は製造工程にある。PEGはエチレンオキシドを重合してつくるため、原料のエチレンオキシドと、その副生物である1,4-ジオキサンが、ごく微量ながら残りうる。CIRの専門委員会も2010年の報告書でこの点に懸念を示し、化粧品業界は配合前の精製工程でこれらの不純物を除去し続けるべきだと述べている(出典: CIR 2010)。日本の規格側でも、医薬部外品原料規格2021のポリエチレングリコール1000には純度試験の項目としてエチレンオキサイドの量が設けられ、0.020%以下と定められている(出典: 厚生労働省『医薬部外品原料規格2021』)。懸念は実在し、評価機関も規格も無視していない。
ただし、これは成分そのものの性質ではなく、原料をどう精製し残留をどう管理するかという工程の話にあたる。CIRの同じ報告書はPEG-20を含むPEG類を安全と結論しており、不純物への注意喚起はその結論と両立している。「不純物への懸念が書かれている」ことと「成分が危険と結論された」ことは、同じ文書の中でも別の段にあたる。
次に効いてくるのが分子の大きさになる。CIRが引くヘアレスマウス皮膚の拡散セル実験では、PEG-6・PEG-12・PEG-20を使い、バリアが傷んでいない皮膚ほど、また分子が大きいほど通りにくいことが示されている(出典: CIR 2010 が引く Tsai et al. 2001)。対照の皮膚で通過が確認された分子量の上限は414で、アセトンでバリアを壊す度合いを強めるにつれて590・942と上がり、最も強く壊した条件で初めて、測定できた1074までの分子が通過した。PEG-20は液状PEGより分子が大きく、通りにくい側にあたる。「皮膚から毒が入る」という一般化は、この分子量とバリア状態への依存を飛ばしている。
最後に、量と入り口の話が残る。1,4-ジオキサンやエチレンオキシドの毒性が問題になるのは、高い濃度でくり返し吸い込んだり飲み込んだりする状況にあたる。精製されたPEGを配合した化粧品を肌に塗る場面とは、体に入る量も入り口も違う。
まとめると、工程の話と成分の評価は層が違い、経皮吸収は分子量とバリア状態で変わり、毒性は量と経路とセットでしか意味を持たない。そのうえで、PEGを全面的に安全と言い切るのも正確ではなく、角層と表皮の双方が失われた皮膚への高濃度使用は不適切という留保が残る(出典: CIR 2010)。避けるか避けないかの二択ではなく、健常な肌では穏やかな基剤として扱い、荒れている肌では慎重に使う。それがPEG-20に対する等身大の距離の取り方になる。
4. 相性の良い・悪い成分
4.1 併用推奨
PEG-20は水系の処方に幅広く組み込める基剤で、特定の成分と組み合わせて初めて働くタイプではない。実際の処方では、役割の近い保湿剤と並べて使われる。
自社マスターの2製品を見ると、どちらもPEG-20の前に多価アルコール系の保湿剤が並ぶ(出典: DappNotes 商品マスター集計)。N. シアミルクではグリセリンとBG、ニベアメン アクティブエイジローションではBG・グリセリン・PGに加えてトレハロースがある。吸湿の強さも分子の大きさも違う保湿剤を重ねると、湿度が変わっても保水の効き方が急に落ちにくくなる。保湿剤は骨格の違うものを組み合わせるのが処方設計の定石にあたる。
同族のPEGとの組み合わせも実例がある。ニベアメンの化粧水は、液状のPEG-8(表記PEG-8)とPEG-20(表記PEG1000)を同じ処方に入れている(出典: DappNotes 商品マスター集計)。なぜこの2本を組み合わせたかはメーカーの設計意図で、成分表からは分からない。一般論としては、吸湿性の高い液状PEGと、吸湿性を抑えた中間の鎖長のPEGを併用すると、保水・溶剤の仕事を性状の違う2種類に分担させられる。なお原料メーカーは、PEG同士はどの組み合わせでも互いに溶け合い、混ぜると中間的な特性になると説明している(出典: 三洋化成工業)。
ヘアミルクのような乳化系では、油分・シリコーン・カチオン性のコンディショニング成分と同居する。N. シアミルクでもPEG-20の後ろにシア脂などの植物油脂が並び、前にはジメチコンやセテアリルアルコールがある(出典: DappNotes 商品マスター集計)。PEG-20は水相の側で保水・溶剤を受け持ち、油相の仕事は別の成分が担う分担になる。
4.2 併用注意
PEG-20について、特定の成分と一緒に使ってはいけないという禁忌の組み合わせが広く知られているわけではない。水・アルコール・多価アルコール・界面活性剤と幅広くなじむので、処方上の相性で悩む場面は多くない。
注意が向くのは成分同士より肌の状態のほうにある。§3.1 のとおり、CIRは角層と表皮の双方が失われた皮膚に高濃度のPEGを含む化粧品を使うことを不適切としている(出典: CIR 2010)。ヒゲ剃り直後で細かい傷がある肌にアルコール分の多いアフターシェーブを重ねるような場面では、PEG-20がどうこうという以前に、製品全体の刺激の強さを見直すほうが実用的になる。
4.3 類似成分
PEG-20に近い成分は2系統ある。1つは同じ単体PEGの鎖長違い、もう1つは同じ「PEG-20」の数字を持ちながら油脂にEOを付加した誘導体になる。
| 成分 | 母体 | EO 数/分子量の目安 | 主な役割 |
|---|---|---|---|
| PEG-6 | 単体 | 6/約300 | 保湿・溶剤 |
| PEG-8 | 単体 | 8/約400 | 保湿・溶剤 |
| PEG-20(本成分) | 単体 | 20/約1000 | 保湿・基剤 |
| PEG-32 | 単体 | 32/約1500 | 保湿・基剤・結合 |
| ポリエチレングリコール1500 | 単体(混合) | PEG-6 と PEG-32 の等量混合 | 基剤・保湿 |
| PEG-150 | 単体 | 150 | 結合・保水・溶剤 |
| PEG-45M | 単体(超高分子) | 45,000/約200万 | 増粘・泡質・すべり |
| PEG-90M | 単体(超高分子) | 90,000/約400万 | 増粘・すべり |
| PEG-20水添ヒマシ油 | 水添ヒマシ油 | 20 | 乳化 |
| PEG-40水添ヒマシ油 | 水添ヒマシ油 | 40 | 可溶化 |
(出典: CIR 2010 / 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』/ 各成分の記事。単体PEGの分子量は呼称の目安)
単体PEGの側では、鎖が伸びるにつれて性状と仕事が移っていく。PEG-6・PEG-8は室温で液状の保水・溶剤、PEG-20は液状と固形の境目、PEG-32はワックス状で結合剤の機能が加わる(出典: CIR 2010)。さらに鎖が伸びるとPEG-150のように固形の結合・基剤の側へ、M(1000倍)の付く超高分子になると増粘・泡質・すべりの改善へと役割が移る(詳しくは各成分の記事)。CIRの成分表でも、PEG-350以上からは乳化安定剤(emulsion stabilizer)が機能欄に加わる。PEG-20は、保水・溶剤の2役だけで語られるグループのいちばん長い側にあたる。
ポリエチレングリコール1500は数字が近いので取り違えやすいが、部外品リストの本質欄では「重合度が5〜6のもの及び28〜36のものの等量混合物」と定義されていて、重合度20前後の単一のPEGではない(出典: 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』)。分子量の呼称が1000と1500で並んでいても、PEG-20の「一段上」の鎖長ではなく、短い鎖と長い鎖を混ぜた別の設計にあたる。
もう1つの系統が、PEG-20水添ヒマシ油のように、水添ヒマシ油にEOを付加した成分になる。こちらの20もEOの付加モル数だが、油の骨格にPEG鎖が付くことで界面活性剤としての性格を持ち、EO数が少ない側は乳化、多い側は香料などの可溶化に使われる。単体のPEG-20は界面活性剤ではないので、「PEG-20」の文字が含まれているからといって同じ働きを期待するのは誤りになる。成分表で読み分けるポイントは、数字ではなく数字の後ろに何が続くかにある。
5. よくある質問
Q1. PEG-20とポリエチレングリコール1000・PEG1000は別の成分ですか
同じ原料を、制度ごとに違う物差しで呼んだ名前です。化粧品の成分表示ではエチレンオキシドの平均重合度を数字にするため「PEG-20」、医薬部外品の成分表示名称では平均分子量を数字にするため「ポリエチレングリコール1000」、その簡略名が「PEG1000」です。部外品リストの簡略名欄には「PEG(20)、PEG1000」と両方の数字が並び、原料メーカーの登録やCIRの対応表も同じ対応を示しています(出典: 日本化粧品工業連合会『医薬部外品の成分表示名称リスト』/ Cosmetic-Info.jp 原料DB / CIR 2010)。ただし重合度ちょうど20の計算上の分子量は898で、部外品側の規格(950〜1050)とはやや食い違います。算術で1000になるのではなく、同じ原料に当てられた名前の対応と理解するのが正確です。
Q2. PEG-20とPEG-8・PEG-32はどう違いますか
鎖の長さが違い、それに応じて室温での形と得意な仕事が変わります。PEG-8は分子量およそ400で室温では液体、PEG-20はおよそ1000で白色のワセリン状〜ろう状の固形(凝固点35〜40℃)、PEG-32はおよそ1500でワックス状の固形です(出典: 厚生労働省『医薬部外品原料規格2021』/ 三洋化成工業 / CIR 2010)。PEGは分子量が上がるほど吸湿性が下がるため、保水の強さはPEG-8が最も高く、PEG-20はその中間にあたります。CIRの成分表では、PEG-20までの機能が保湿剤・溶剤の2つであるのに対し、PEG-32からは結合剤が加わります。詳しくはPEG-8・PEG-32の各記事もあわせてご覧ください。
Q3. PEG-20とPEG-20水添ヒマシ油は同じものですか
違う成分です。どちらの20もエチレンオキシドの付加モル数ですが、PEG-20はPEG鎖だけでできた保水・溶剤の成分、PEG-20水添ヒマシ油は水添ヒマシ油という油の骨格にPEG鎖を付けた界面活性剤(乳化剤)です。成分表では、数字の後ろに何が続くかで見分けます。
Q4. PEGは肌に刺激やアレルギーを起こしませんか
PEG-20については、刺激・感作の懸念は低い側に整理されています。化粧品成分オンラインの整理では、皮膚感作の可能性が指摘されるのはPEG-8以下の低重合PEGで、PEG-20以上ではほとんどなしとされます(出典: 化粧品成分オンライン)。CIRの2010年最終報告書には、熱傷の治療でPEG基剤の外用薬を使った患者2例のパッチテストで、PEG-6・PEG-8が陽性、PEG-20・PEG-75は陰性だったという症例記載もあります(出典: CIR 2010)。ただし2症例の観察であり、誰にも起きないという意味ではありません。CIRはPEG-20を含むPEG類を現在の使用実態と濃度で安全と結論する一方、角層と表皮の双方が失われた皮膚への高濃度の使用は不適切としています。肌荒れのある部位に新しい製品を使うときは、パッチテストで相性を確かめるのが無難です。
Q5. 1,4-ジオキサンが残っていて発がん性があると聞きました
懸念の出どころは実在しますが、それはPEGという分子の毒性ではなく、原料の精製工程の話です。CIRは配合前の精製でエチレンオキシドと1,4-ジオキサンを除去し続けるべきだとしたうえで、PEG類そのものは安全と結論しています(出典: CIR 2010)。日本の医薬部外品原料規格2021も、ポリエチレングリコール1000のエチレンオキサイドの量を0.020%以下と定めています(出典: 厚生労働省『医薬部外品原料規格2021』)。不純物の管理と成分の安全性評価は、同じ文書の中でも別の層の話です。詳しくは §3.3 をご覧ください。
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本記事に関する注記
- 本記事は特定商品の効果を保証するものではありません。成分の働きには個人差があり、体質・肌質により合わない場合があります。
- 肌に赤み・かゆみ・刺激等の異常が出た場合は使用を中止し、症状が続く・悪化する場合は皮膚科等の医療機関にご相談ください。傷・炎症のある肌への使用は避けてください。
- 本記事が参照する『医薬部外品の成分表示名称リスト』は平成20年3月25日版であり、最新版では収載状況が変わっている可能性があります。連番・成分コードも同版に基づきます。
- PEG-20とポリエチレングリコール1000の対応は、部外品リストの簡略名・原料メーカーの登録・CIRの分子量呼称に基づく名前の対応です。重合度20からの計算値(898)と部外品側の規格(平均分子量950〜1050)は完全には一致しません。
- 凝固点37℃は原料メーカー(三洋化成工業)の代表値、35〜40℃は医薬部外品原料規格2021の規格値で、由来の異なる数字です。
- 本記事が参照するCIRの報告書は2010年6月29日付の最終報告書(Final Report)です。使用濃度は米国の業界団体による2009年の調査値で、日本の製品の配合量を示すものではありません。
- 本記事に含まれる製品数の集計は DappNotes 商品マスター(2026年9月時点・スキンケア54製品/ヘアケア78製品)に基づく自社集計であり、市場全体の分布を示すものではありません。
- 本記事は成分の一般的な解説であり、化粧品・医薬部外品の効能効果は配合製品の承認・表示の範囲に従います。PEG-20は医薬部外品の有効成分ではなく、承認された効能はありません。
- 外部の安全性評価(CIR等)は出典明記の参考値であり、絶対的な安全性を保証するものではありません。