ユキノシタエキスは、ユキノシタ科の多年草ユキノシタから得られる植物エキスで、INCI名はSaxifraga Sarmentosa Extract、化粧品表示名称と医薬部外品表示名称はどちらも「ユキノシタエキス」である(出典: Cosmetic-Info.jp / 医薬部外品原料規格2021)。化粧品では肌を整える皮膚コンディショニングの目的で配合され、医薬部外品では有効成分ではない「その他の成分」として配合される。

ユキノシタは、葉をあぶって貼る民間薬や、天ぷらにする山菜として知られてきた植物だ(出典: 奈良県薬剤師会)。ただし医薬部外品原料規格が定める抽出部位は葉ではなく「全草」で、化粧品表示名称の定義は部位を限定していない。本記事では、D2C系の薬用オールインワンや美容液に共通して現れる植物エキス群の1本として、1点目によく知られた部位と成分表に載る部位のずれ、2点目に化粧品名と部外品名がそろうか割れるか、を軸に整理する。本成分は、この植物エキス群のなかで、化粧品と医薬部外品の両方に同じ表記で現れる唯一の成分である。

1. ユキノシタエキスの基本

1.1 何の成分か

ユキノシタは、ユキノシタ科ユキノシタ属の多年草で、日本や中国の湿った場所に生える。葉は腎臓形で厚く柔らかく、長い毛に覆われ、糸状の走出枝(ランナー)を地面に伸ばして新しい株を増やす(出典: 奈良県薬剤師会)。漢名は「虎耳草(コジソウ)」で、「ミミダレグサ」という別名もある。

化粧品表示名称「ユキノシタエキス」の定義は「本品は、ユキノシタ Saxifraga sarmentosa のエキスである。」で、括弧書きで Saxifraga stolonifera が併記されている(出典: Cosmetic-Info.jp『ユキノシタエキス(化粧品)』)。INCI名は Saxifraga Sarmentosa Extract、旧称は SAXIFRAGA STOLONIFERA EXTRACT、配合目的は皮膚コンディショニング剤とされる。EUの化粧品成分データベースCosIngでも、機能は skin conditioning の1つだけが登録されている(出典: CosIng)。

医薬部外品側では、厚生労働省の『医薬部外品原料規格2021』に「ユキノシタエキス」(英名 Saxifrage Extract)として収載されている。規格の本質は「ユキノシタ Saxifraga stolonifera Curtis(Saxifragaceae)の全草から水、エタノール、1,3-ブチレングリコール又はこれらの混液にて抽出して得られるエキス」で、性状は赤褐色〜褐色の液、特異なにおいがあると定められている(出典: 医薬部外品原料規格2021)。日本化粧品工業連合会の『医薬部外品の成分表示名称リスト』平成20年版にも、連番2499・成分コード521184で同じ趣旨の本質が載る(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。

ここで2つの点が見えてくる。1つは部位で、部外品規格は「全草」と明記する一方、化粧品表示名称の定義には部位の記載がない。もう1つは学名で、化粧品側は Saxifraga sarmentosa、部外品側は Saxifraga stolonifera と表記が割れる。学名の関係は§3.4、名前の出方は§3.5で整理する。

原料としては、抽出溶媒と一緒に表示される液体のエキスとして流通する。たとえば一丸ファルコスの原料では、化粧品の表示名称が「水、BG、ユキノシタエキス」、医薬部外品の表示名称が「精製水、1,3-ブチレングリコール、ユキノシタエキス」と案内されている(出典: 一丸ファルコス 原料製品ページ)。

規制上の位置づけは、有効成分ではない添加成分である。医薬部外品に配合されていても、承認効能を担うのは別の有効成分で、本成分それ自体に承認効能はない。

1.2 どんな製品に配合されるか

Cosmetic-Info.jp の部外品添加物データでは、ユキノシタエキスの配合基準として、薬用石鹸・シャンプー・リンス等、育毛剤、その他の薬用化粧品、薬用口唇類、薬用はみがき類、浴用剤に「○」が付いている(出典: Cosmetic-Info.jp『ユキノシタエキス(部外品)』)。染毛剤とパーマ剤の欄は空欄である。化粧品側では配合目的が皮膚コンディショニング剤とされ、スキンケアからヘアケアまで幅広い剤形に使われる。

DappNotesの商品マスター(132製品)で本成分の配合を確認できた商品は4本ある。

商品区分剤形表示名表示位置/全成分数
チャップアップシャンプー化粧品シャンプーユキノシタエキス38/57
NILE 濃密泡洗顔 クリーム洗顔せっけん化粧品洗顔料ユキノシタエキス17/62
&GINO プレミアムフェイスエッセンス アクアモイス医薬部外品美容液ユキノシタエキス38/73
MENS NULL 薬用オールインワンジェル モイストタイプ医薬部外品オールインワンジェルユキノシタエキス30/35

(出典: 各社公式サイトの全成分表示。医薬部外品は有効成分を含めた並び)

4本の表記はすべて「ユキノシタエキス」で、区分による書き分けはない。化粧品の2本はシャンプーと洗顔料で、どちらも洗い流す製品である。医薬部外品の2本は美容液とオールインワンジェルで、肌に塗ったまま残す製品である。医薬部外品2本の有効成分は、どちらもナイアシンアミドとグリチルリチン酸ジカリウムで、本成分は「その他の成分」として並ぶ。

表示位置から配合量の大小は読まない。化粧品の成分表示は1%以下の成分を順不同で書けるため、後半はおおむね五十音順に並ぶ。医薬部外品の「その他の成分」についても、本記事では並び順を配合量の比較に使わない。同じ理由で、成分表で本成分の隣に並ぶ成分を、同じ原料にまとめて入っている根拠にもしない。

同じ商品に一緒に現れる植物エキス

本記事のクラスタでは、ユキノシタエキスに加えて、ビルベリー葉エキス・アーティチョークエキス・アルピニアカツマダイ種子エキス、それにマグワ根皮エキスの部外品名であるクワエキスの5表記を並べて見ている。商品マスター132製品のうち、この5表記のうち2つ以上が同じ商品に現れるのは、医薬部外品の4品だけだった。

商品区分ユキノシタビルベリー葉アーティチョークアルピニアカツマダイ種子クワエキス
&GINO アクアモイス医薬部外品○○○○○
MENS NULL 薬用オールインワンジェル モイストタイプ医薬部外品○○○――
REDEN メディカルスカルプシャンプー医薬部外品―○―○○
murphy 薬用オールインワンジェル医薬部外品―○○――

(出典: 商品マスターの全成分表示を本クラスタで集計)

ユキノシタエキスが入る医薬部外品2本は、どちらもこの重なりの中にある。&GINO アクアモイスは5表記すべてを、MENS NULL はビルベリー葉エキス・アーティチョークエキスと本成分の3表記を持つ。一方、化粧品側でこの5表記が2つ以上重なる商品はない。ただし化粧品の NILE 濃密泡洗顔は、本成分に加えて、クワエキスの化粧品名である「マグワ根皮エキス」を持つ。

ここから言えるのは、この植物エキスの組み合わせが医薬部外品の側に偏って現れる、という出現の傾向までである。原料の銘柄や供給元が共通していること、同じ配合済み原料(プレミックス)から入っていることは、全成分表示からは確認できない。

1.3 メンズ視点での見方

ユキノシタエキスをメンズ製品の成分表で見かけるのは、主に2つの場面になる。1つは薬用オールインワンジェルや美容液で、ナイアシンアミドなどの有効成分の後ろに、複数の植物エキスと一緒に並ぶ。もう1つはシャンプーや洗顔料で、洗浄成分を中心とした処方の中に整肌目的の植物エキスとして入る。

読み方の要点は3つある。1つ目は、民間薬や山菜としてのユキノシタのイメージを、化粧品の働きに持ち込まないこと。2つ目は、医薬部外品に入っていることを本成分の効き目の根拠にしないこと。薬用製品の効能は有効成分に紐づく。3つ目は、植物エキスが多く並ぶ処方ほど、1つのエキスが製品全体の使用感や結果に占める割合は表示から判断しにくい、という点である。

オールインワンジェルを選ぶときに見るべきなのは、ユキノシタエキスの有無よりも、有効成分の種類、保湿成分の構成、ジェルの使用感が自分の肌に合うかどうかである。

2. 期待される働き・効果

2.1 メカニズム

化粧品としてのユキノシタエキスの位置づけは、肌を整える皮膚コンディショニング剤である。日本の化粧品表示名称でも、EUのCosIngでも、登録されている配合目的・機能はこの1つだけだ(出典: Cosmetic-Info.jp / CosIng)。保湿剤や収れん剤のように作用の方向がはっきり分類された成分ではなく、肌の状態を整える目的で加える植物エキス、という大きなくくりに入る。

含まれる成分については、ユキノシタそのものを対象にした植物化学の研究がある。一次文献で確認できたのは、次の系統である。

  • フラボノール配糖体: ユキノシタの生葉から、ケルセチンにブドウ糖が結合した saxifragin(ケルセチン-5-グルコシド)と、クエルシトリンが単離されている(出典: Morita ほか 1974)。植物体のエタノール抽出物からも、ケルセチンとその配糖体が見つかっている(出典: Chen ほか 2008)
  • ベルゲニン類: 没食子酸骨格を持つ配糖体のベルゲニンが植物体の抽出物から同定されており(出典: Chen ほか 2008)、その類縁体の5-O-メチルノルベルゲニンも報告されている(出典: Feng ほか 2010)
  • フェノール酸など: 没食子酸・プロトカテク酸(出典: Chen ほか 2008)、ピロガロールやケンフェロール配糖体(出典: Feng ほか 2010)

医薬部外品原料規格の確認試験も、この性質と矛盾しない。規格は、水溶液に塩化鉄(III)試液を加えると暗青色〜暗緑色になること、1-ナフトールのエタノール溶液と硫酸で両液の境目が赤紫色になることを確認項目にしている(出典: 医薬部外品原料規格2021)。前者はフェノール性の成分、後者は糖を含む成分の存在を確かめる一般的な呈色反応で、特定の1成分の含有量を保証する試験ではない。

注意したいのは、これらの研究が、単離した化合物の構造決定や、特定の産地・溶媒で作った抽出物を対象にしている点である。化粧品原料のエキスが各成分をどれだけ含むかは、原料ごとの抽出条件で変わり、成分表示からは読み取れない。原料メーカーの資料には、試験に基づくとされる複数の作用が機能性として掲げられているものもあるが、それは原料の機能性として報告された内容で、配合された商品が同じ働きを持つことを示すものではない。

2.2 一般的な効能範囲

ユキノシタエキスを配合した化粧品で表現できるのは、化粧品の効能の範囲のうち「肌を整える」「肌をすこやかに保つ」「皮膚にうるおいを与える」といった範囲にとどまる。本成分は医薬部外品の有効成分ではないため、次のような内容を本成分の働きとして示すことはできない。

  • メラニンの生成を抑え、しみ・そばかすを防ぐ
  • 肌あれ・にきびを防ぐ、炎症を抑える
  • 抗酸化によって肌の老化を防ぐ
  • 育毛・発毛を促す、血行を促進する

医薬部外品の美容液やオールインワンジェルに本成分が入っている場合も、その製品の承認効能は有効成分に紐づく。本記事の配合例では、&GINO アクアモイスと MENS NULL の有効成分はナイアシンアミドとグリチルリチン酸ジカリウムで、ユキノシタエキスは「その他の成分」として並ぶ。製品の効能表示の担い手は有効成分であって、本成分ではない。

Cosmetic-Info.jp の配合基準で「育毛剤」に○が付いていることも、育毛の効能を意味しない。配合基準は、その種類の医薬部外品に添加物として配合してよいかを示すもので、有効成分としての効能とは別の話である(出典: Cosmetic-Info.jp『ユキノシタエキス(部外品)』)。

シャンプーや洗顔料に配合された場合、化粧品として言える効能の中心は洗浄である。整肌目的の植物エキスが入っていても、言えるのは洗い上がりの肌や頭皮の状態を整える補助までになる。

2.3 限界・誤解されやすい点

誤解されやすい点は4つある。

1. 民間薬・山菜のイメージを、塗る化粧品にそのまま当てはめる誤解。 ユキノシタは、生の葉をあぶってやけどやしもやけ、腫れ物に貼る、葉の絞り汁を使う、といった民間での利用が伝えられ、山菜としても天ぷらや酢味噌和えで食べられてきた(出典: 奈良県薬剤師会)。原料メーカーも漢方での利用歴を紹介している(出典: 一丸ファルコス)。しかし、これらは主に葉を使う話で、医薬部外品原料規格のエキスは全草から溶媒で抽出したものである。生の葉を患部に貼ることや、食べることと、抽出エキスを他の成分と一緒に少量配合した化粧品を塗ることは、部位も、経路も、量も違う。民間での用い方は、化粧品の効果の根拠にはならない。

2. 医薬部外品に入っているから効く、という誤解。 本成分は、本記事の配合例では医薬部外品2品に入っているが、どちらも「その他の成分」としての配合である。部外品規格に収載されていることは、添加物としての品質規格があることを意味し、効能の承認ではない。

3. 含まれる成分の名前から効果を推し量る誤解。 ケルセチンやベルゲニンといった成分名は、研究の文脈でさまざまな作用とともに語られる。ただし研究は単離化合物や特定の抽出物での話で、化粧品のエキスにどれだけ含まれるか、塗ったときに肌で同じことが起きるかは別問題である。成分名から効能を組み立てるのは避けたい。

4. 洗い流す製品でも肌に働きが残る、という誤解。 化粧品の配合例2本はシャンプーと洗顔料で、泡立てて短時間でお湯や水で流す。整肌目的のエキスが肌や頭皮に残る量は限られる。洗い流す製品の成分表に本成分があっても、洗った後の保湿や整肌のケアを省いてよい理由にはならない。

3. 安全性・注意点

3.1 既知の刺激性・アレルギー報告

ユキノシタエキスは、医薬部外品原料規格2021に収載された原料で、重金属30ppm以下・ヒ素2ppm以下という純度試験の基準が定められている(出典: 医薬部外品原料規格2021)。これは品質規格としての基準で、刺激性や感作性を評価した結果ではない。

刺激性・感作性については、本稿で一次資料の試験データを確認できていない。二次資料では、化粧品成分オンラインが、0.5%濃度の動物皮膚試験で刺激が見られなかったとする報告を整理し、使用実績のなかで重大な感作報告は見当たらないとしている(出典: 化粧品成分オンライン)。ヒトでの詳細な刺激性・感作性の試験データは、その整理でも示されていない。米国のCosmetic Ingredient Review(CIR)による個別の評価も、本稿では確認できていない。

以上から言えるのは、本成分について刺激や感作を問題にする報告は目立たない、という範囲までである。「天然の植物だから肌にやさしい」とも、「植物エキスはアレルギーの元になりやすい」とも、一律には言えない。植物エキスは産地や抽出条件で組成が変わりうるため、体質によって合わない可能性は残る。

実際に製品で肌に赤みやかゆみが出た場合、原因を本成分だけに絞り込むのは難しい。配合例の医薬部外品2本はいずれも30を超える成分を持ち、植物エキスも複数入る。シャンプーや洗顔料では洗浄成分や香料の影響も考えられる。合わないと感じたら使用を中止し、症状が続く場合は皮膚科に相談するのが現実的である。

3.2 推奨配合量と表示順の読み方

ユキノシタエキスには、化粧品での配合量について法的な一律上限は設けられていない。配合量は、各メーカーが処方の目的にあわせて設計する。

植物エキスの原料は、抽出溶媒と一緒に液体で流通する。医薬部外品原料規格は溶媒として水・エタノール・1,3-ブチレングリコール又はこれらの混液を認めており(出典: 医薬部外品原料規格2021)、原料の例では、化粧品で「水、BG、ユキノシタエキス」、医薬部外品で「精製水、1,3-ブチレングリコール、ユキノシタエキス」と、溶媒が別の成分として表示される(出典: 一丸ファルコス)。同じ「ユキノシタエキス」という表示でも、溶媒や固形分の濃度は原料によって異なり、エキス分がどれだけ入っているかは表示から比べられない。

表示位置についても、§1.2で見たとおり配合量の比較には使えない。本マスターの配合例は38/57・17/62・38/73・30/35とばらつくが、化粧品は1%以下の成分を順不同で書けるため、後半の位置の違いは量の違いを意味しない。医薬部外品の「その他の成分」も、本記事では並び順を量の比較に使わない。

3.3 部位と名前で読む、部外品オールインワンに並ぶ植物エキス

商品マスターでは、本成分を含む植物エキスの多くに「整肌(植物エキス)」という同じ役割語が付く。役割語だけでは違いが見えないため、本クラスタでは2つの軸で読み分ける。

  • 1層目(部位のずれ): 名前から先に浮かぶ食品・サプリ・生薬のイメージと、化粧品原料として抽出する部位が一致するか
  • 2層目(名前の出方): 化粧品表示名称と医薬部外品表示名称がそろうか、割れるか
成分基原植物(科)成分表の原料が使う部位名前から浮かぶ文脈名前の出方本マスターでの出現
ユキノシタエキス(本成分)ユキノシタ(ユキノシタ科)Saxifraga sarmentosa/S. stolonifera部外品規格は全草。化粧品定義は部位を限定しない民間薬・山菜(主に葉の利用)化粧品名・部外品名とも「ユキノシタエキス」化粧品2品・部外品2品に同じ表記
ビルベリー葉エキスビルベリー(ツツジ科)Vaccinium myrtillus葉サプリで知られる果実のアントシアニン化粧品2品・部外品4品に同じ表記。部外品原料規格2021に単体の収載はない部外品4品・化粧品2品
アーチチョーク葉エキス/アーティチョークエキスアーティチョーク(キク科)Cynara scolymus化粧品表示名称は葉食用のつぼみ本マスターの表記は「アーティチョークエキス」。化粧品名との対応は同記事で整理部外品3品のみ
アルピニアカツマダイ種子エキスAlpinia katsumadai(ショウガ科)種子生薬「草豆蔻(ソウズク)」と同じ部位本マスターでは部外品にだけ現れる部外品3品のみ
マグワ根皮エキス(対照)マグワ(クワ科)Morus alba根皮蚕の餌の葉(葉は別名称「クワ葉エキス」)、生薬「桑白皮」化粧品名マグワ根皮エキス⇄部外品名クワエキス。部外品名は「又はその他同属植物」まで基原が広い化粧品4品・部外品2品(表記が区分と一致)

(出典: Cosmetic-Info.jp / 医薬部外品原料規格2021 / 各成分記事の一次情報 / 商品マスターの全成分表示を本クラスタで集計)

1層目で見ると、兄弟の3成分と対照のマグワ根皮エキスは、葉・種子・根皮と使う部位が名前や定義に刻まれている。ユキノシタエキスだけは、部外品規格が「全草」、化粧品定義が部位の記載なし、と部位を特定しない。一方で、ユキノシタが民間薬や山菜として知られるのは主に葉の利用で、名前から浮かぶイメージと原料の部位がずれる点は他の4成分と共通する。

2層目で見ると、ユキノシタエキスは、化粧品名と部外品名が同じ表記で、化粧品と医薬部外品の両方に現れる。ビルベリー葉エキスも両区分に同じ表記で現れるが、部外品原料規格には単体の収載がない。アーティチョークとアルピニアカツマダイ種子は本マスターでは医薬部外品にしか現れず、マグワ根皮エキスは同じ部位でも化粧品名と部外品名が割れる。化粧品表示名称と部外品原料規格の両方に同じ名前で載り、両区分の商品にもその名前で現れる、という条件をすべて満たすのは、このクラスタでは本成分だけである。

ただし、部位の特定のされ方や名前のそろい方から「どれがよく効くか」「部外品に入っているほうが効くか」を導くことはできない。5成分とも有効成分ではなく、商品の中での働きの大きさは成分表示から読めない。表は優劣表ではなく、成分表を読むときの地図として使いたい。

3.4 学名が2つある理由(sarmentosa と stolonifera)

ユキノシタエキスの資料を並べると、学名の表記が2通り出てくる。

資料学名の表記
化粧品表示名称の定義(INCI名 Saxifraga Sarmentosa Extract)Saxifraga sarmentosa(括弧書きで Saxifraga stolonifera を併記)
INCI名の旧称SAXIFRAGA STOLONIFERA EXTRACT
医薬部外品原料規格2021Saxifraga stolonifera Curtis
医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版Saxifraga stolonifera Meerburg
奈良県薬剤師会の薬草解説Saxifraga stolonifera Meerb.

(出典: Cosmetic-Info.jp / 医薬部外品原料規格2021 / 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版 / 奈良県薬剤師会)

植物学の分類データベースでは、この2つは同じ植物を指す。GBIF(地球規模生物多様性情報機構)の分類体系では、Saxifraga stolonifera Curtis が採用されている学名で、Saxifraga sarmentosa L.f. などの sarmentosa の名前は、そのシノニム(同じ種を指す別の学名)として扱われている(出典: GBIF Backbone Taxonomy)。つまり、化粧品側と部外品側で学名の表記が違っていても、別の植物を原料にしているわけではない。

学名の後ろに付く命名者の表記(Curtis、Meerburg など)も資料によって異なる。どの表記を採るかは、それぞれの資料が参照した分類の文献による。化粧品表示名称の定義自体が sarmentosa と stolonifera を併記しており、INCI名の旧称が STOLONIFERA だったことからも、表示名称の側で2つの学名が同じ植物として扱われていることがわかる。INCI名が stolonifera から sarmentosa の表記に切り替わった経緯は、本稿では確認できていない。

DappNotesでは、ページのURL(slug)を現行のINCI名に合わせて saxifraga-sarmentosa-extract としている。成分表で「ユキノシタエキス」とあれば、学名の表記の違いを気にする必要はない。

3.5 化粧品と医薬部外品で表示名がそろう

化粧品と医薬部外品では、成分表示に使う名前の体系が別である。化粧品は日本化粧品工業連合会の化粧品表示名称、医薬部外品は医薬部外品の成分表示名称で書く。植物エキスでは、この2つの名前が割れることが珍しくない。

ユキノシタエキスの場合、2つの体系の名前はそろっている。

体系名前確認した資料
化粧品表示名称ユキノシタエキスCosmetic-Info.jp『ユキノシタエキス(化粧品)』成分番号552478
医薬部外品原料規格2021ユキノシタエキス(英名 Saxifrage Extract)医薬部外品原料規格2021
医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版ユキノシタエキス(連番2499・成分コード521184)同リスト
部外品添加物データユキノシタエキス(規格コード51・成分コード521184)Cosmetic-Info.jp『ユキノシタエキス(部外品)』

原料メーカーの製品ページでも、同じ1つの原料について、化粧品の表示名称「水、BG、ユキノシタエキス」と医薬部外品の表示名称「精製水、1,3-ブチレングリコール、ユキノシタエキス」が並べて案内されている(出典: 一丸ファルコス)。溶媒の名前は「水」と「精製水」、「BG」と「1,3-ブチレングリコール」で体系どおりに書き分けられているが、エキス本体の名前は両方とも「ユキノシタエキス」である。

ただし、名前がそろっていても定義の書き方までが同じとは限らない。部外品規格の本質は「全草から」抽出と部位・溶媒まで定めているのに対し、化粧品表示名称の定義は「ユキノシタのエキス」で部位を書いていない(§1.1)。化粧品の定義のほうが書き方が広い、という関係である。同じ原料に両方の名前が並記されている例があるため、本記事では部外品表示名称を「ユキノシタエキス」として扱う。

対照のマグワ根皮エキスでは事情が違う。化粧品名は「マグワ根皮エキス」、部外品名は「クワエキス」で、部外品規格の本質は「マグワ又はその他同属植物の根皮」と基原の範囲が広い(出典: 医薬部外品原料規格2021)。本マスターでは化粧品4品がマグワ根皮エキス、医薬部外品2品がクワエキスと表示し、表記が区分と例外なく一致する。ユキノシタエキスは、化粧品2品・医薬部外品2品のすべてが同じ表記で、名前から区分を見分けることはできない。

商品の成分表を読むうえでは、「ユキノシタエキス」という表示だけでは、その商品が化粧品か医薬部外品かはわからない、という点を押さえておきたい。区分は、製品の「医薬部外品」表示や、有効成分と「その他の成分」を分けた書き方で確認する。

4. 相性の良い・悪い成分

4.1 併用される成分

ユキノシタエキスは単独で主役を張る成分ではなく、処方の中でほかの成分と組み合わせて配合される。本マスターの配合例から、よく一緒に並ぶ成分を剤形ごとに見ておく。

有効成分(医薬部外品): &GINO アクアモイスと MENS NULL の有効成分は、どちらもナイアシンアミドとグリチルリチン酸2K(部外品表示ではグリチルリチン酸ジカリウム)である。製品の承認効能はこれらが担い、ユキノシタエキスは「その他の成分」として加わる。

多価アルコール・保湿成分: 医薬部外品2本には、BG(部外品表示では1,3-ブチレングリコール)とグリセリン(部外品表示では濃グリセリン)が上位に入る。&GINO アクアモイスにはペンチレングリコール(1,2-ペンタンジオール)やプロパンジオール、ヒアルロン酸Naも、MENS NULL にはベタイン(部外品表示ではトリメチルグリシン)やトコフェロールも並ぶ。整肌目的の植物エキスは、こうした保湿の骨格の上に重ねる形で入っている。

ほかの植物エキス: §1.2で見たとおり、医薬部外品2本ではビルベリー葉エキスやアーティチョークエキスなどの植物エキスと同じ処方に入る。&GINO アクアモイスは植物エキスや油を数多く配合した処方で、MENS NULL にもオウゴンエキスやタイムエキスなどが並ぶ。化粧品では、チャップアップシャンプーにショウガ根茎エキスほかの植物エキスが、NILE 濃密泡洗顔にはマグワ根皮エキスが一緒に入る。

洗浄成分: シャンプーや洗顔料では洗浄成分と同じ処方に入る。NILE 濃密泡洗顔はミリスチン酸などの脂肪酸を水酸化Kで中和した石けん系、チャップアップシャンプーはアミノ酸系の洗浄成分にコカミドプロピルベタインなどの両性界面活性剤を組み合わせた処方である。

なお MENS NULL の成分表は、12番目以降の「その他の成分」がおおむね五十音順(アーティチョークエキス→アルモンドエキス→オウゴンエキス→…→ユキノシタエキス→リン酸L-アスコルビルマグネシウム)に並ぶ。本成分が30番目にあることは、配合量が少ないことを意味しない。

4.2 注意したい組合せ

ユキノシタエキスについて、化粧品処方で特に避けるべき組み合わせは、本稿で確認した一次資料では報告されていない。

実用上の注意は、成分どうしの相性よりも、読み方と期待の置き方にある。

  • 植物エキスを効能の担い手として数えない: 複数の植物エキスが並ぶ処方でも、医薬部外品の効能を担うのは有効成分である。エキスの顔ぶれから「この組み合わせだから効く」と読むのは避けたい
  • 植物エキスが多い処方と肌の相性: 植物エキスは体質によって合わない可能性を一律には否定できない。植物エキスを多く含む製品で違和感が出たときは、どの成分が原因かを表示から特定するのは難しいため、使用を中止して様子を見る
  • 同じ働きの製品を重ねすぎない: オールインワンジェルに化粧水や美容液を重ねる場合、同じような保湿成分や植物エキスを含む製品を何本も重ねても、効果が足し算で増えるとは限らない。べたつきや肌への負担感につながることもある

5. 使い方

5.1 推奨される使用シーン

ユキノシタエキス配合の製品は、剤形ごとに本成分の置かれ方が違うと考えて選ぶのが現実的である。

薬用オールインワンジェル・美容液: 洗顔後に塗って肌に残す製品で、本成分は有効成分の後ろに並ぶ整肌目的の植物エキスの1つになる。選ぶときに見るべきなのは、有効成分が何か(ナイアシンアミド、グリチルリチン酸ジカリウムなど)、保湿成分がどう組まれているか、ジェルのべたつきや伸びが自分に合うか、の3点である。ユキノシタエキスが入っているかどうかは、選ぶ決め手にはならない。

シャンプー・洗顔料: 泡立てて短時間で流す製品で、本成分は洗浄成分を中心にした処方に加わる整肌目的のエキスになる。選ぶ決め手は、主な洗浄成分の種類と、洗い上がりにつっぱりやかゆみが出ないかである。

使い方は、それぞれの製品の標準的な使い方に従えばよい。オールインワンジェルなら洗顔後やひげ剃り後の肌に適量をなじませる。シャンプーや洗顔料なら、よく泡立ててこすらず洗い、すすぎ残しがないように流す。

5.2 期待できないこと・避けるべき使い方

ユキノシタエキスに期待できないことは、次のとおり。

  • しみ・そばかすを防ぐ、肌を白くすること: 本成分は有効成分ではなく、これらを本成分の働きとして期待することはできない
  • 肌あれ・にきび・炎症を抑えること: 医薬部外品に入っていても、承認効能を担うのは有効成分である
  • 育毛・発毛: シャンプーに入っていても、頭皮や毛髪の状態を整える補助以上のことは言えない
  • 民間薬と同じ働き: 葉を貼る・食べるといった民間での利用は、化粧品として塗ったときの効果の根拠にならない

避けたいのは、ユキノシタの葉を自分で摘んで肌に貼る・すりつぶして塗るといった、民間での利用を化粧品の延長として試すことである。化粧品原料のエキスは品質規格に沿って抽出・管理された原料で、生の植物をそのまま肌に使うこととは別物である。生の植物を肌に使うことの安全性は、本記事で扱う化粧品の評価とは切り分けて考えたい。

また、成分表に植物エキスが多く並んでいることを、製品の質の高さや効き目の強さの目安にするのも避けたい。エキスの数や種類は、表示から配合量や働きの大きさを読めない以上、製品比較の軸として弱い。

6. メンズ実用視点まとめ

メンズの成分表示でユキノシタエキスを見かけたら、次の3点で読むと整理しやすい。

  1. 整肌目的の植物エキスの1つ: 化粧品での配合目的は皮膚コンディショニング。有効成分ではなく、製品の効能を担う成分でもない
  2. 名前から区分はわからない: 化粧品名と部外品名がどちらも「ユキノシタエキス」で、化粧品のシャンプー・洗顔料にも、医薬部外品のオールインワンジェル・美容液にも同じ表記で現れる。区分は製品の「医薬部外品」表示と有効成分の書き方で確認する
  3. 民間薬・山菜のイメージとは切り分ける: 知られているのは主に葉の利用で、部外品規格のエキスは全草から抽出したもの。食べる・貼る文脈と、化粧品として塗る文脈は別である

薬用オールインワンジェルを1本で済ませたいメンズにとって、本成分は処方の脇役として並ぶ植物エキスの1つである。製品選びを大きく左右するのは、有効成分の種類、保湿成分の構成、毎日続けやすい使用感のほうである。

7. よくある質問(FAQ)

Q1. ユキノシタエキスはどんな成分ですか?

ユキノシタ科の多年草ユキノシタから得られる植物エキスです(出典: Cosmetic-Info.jp / 医薬部外品原料規格2021)。化粧品では肌を整える皮膚コンディショニングの目的で配合されます。医薬部外品原料規格では、ユキノシタの全草から水・エタノール・1,3-ブチレングリコール又はこれらの混液で抽出したエキスと定められています。有効成分ではなく、医薬部外品に入る場合も「その他の成分」としての配合です。

Q2. 化粧品と医薬部外品で、ユキノシタエキスの表示名は違いますか?

同じ「ユキノシタエキス」です(出典: Cosmetic-Info.jp / 医薬部外品原料規格2021 / 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。化粧品表示名称と医薬部外品表示名称がそろっており、原料メーカーのページでも1つの原料に両方の表示名称が並記されています。そのため、成分表の「ユキノシタエキス」という表示だけでは、その商品が化粧品か医薬部外品かは判断できません。区分は製品の「医薬部外品」表示で確認してください。

Q3. 学名が Saxifraga sarmentosa と Saxifraga stolonifera の2通りあるのはなぜですか?

同じ植物に対する2つの学名で、植物学の分類データベースでは sarmentosa が stolonifera のシノニム(同じ種を指す別の学名)として扱われています(出典: GBIF Backbone Taxonomy)。INCI名は Saxifraga Sarmentosa Extract、医薬部外品原料規格は Saxifraga stolonifera と表記しますが、別の植物を原料にしているわけではありません。化粧品表示名称の定義も両方の学名を併記しています。

Q4. ユキノシタは民間薬として使われてきたそうですが、化粧品でも同じ効果がありますか?

同じ効果があるとは言えません。民間では生の葉をあぶってやけどやしもやけに貼る、といった利用が伝えられ、山菜として食べることもあります(出典: 奈良県薬剤師会)。しかし、これらは主に葉を貼る・食べる話で、化粧品のエキスは全草から抽出し、ほかの成分と一緒に配合して肌に塗るものです。部位も経路も量も違うため、民間での用い方を化粧品の効果の根拠にはできません。化粧品として言えるのは、肌を整える・すこやかに保つといった範囲です。

Q5. 薬用オールインワンジェルに入っているユキノシタエキスは、薬用の効果を担っていますか?

担っていません。医薬部外品の効能は有効成分に紐づきます。本記事の配合例である薬用オールインワンジェルや美容液では、有効成分はナイアシンアミドとグリチルリチン酸ジカリウムで、ユキノシタエキスは「その他の成分」として並んでいます。医薬部外品原料規格に収載されていることも、添加物としての品質規格があるという意味で、効能の承認ではありません。

Q6. ユキノシタエキスは肌に安全ですか?

刺激や感作を問題にする報告は目立たない成分ですが、本稿では一次資料の試験データを確認できていません。二次資料では、0.5%濃度の動物皮膚試験で刺激がなかったとする報告や、重大な感作報告が見当たらないとする整理があります(出典: 化粧品成分オンライン)。植物エキスは原料によって組成が変わりうるため、体質によって合わない可能性は残ります。製品で赤みやかゆみが出たら使用を中止してください。

Q7. ユキノシタエキスにはどんな成分が含まれていますか?

研究では、葉からケルセチン系のフラボノール配糖体(saxifragin・クエルシトリン)が単離され、植物体の抽出物からはベルゲニン、没食子酸、プロトカテク酸、ケルセチンとその配糖体などが同定されています(出典: Morita ほか 1974 / Chen ほか 2008 / Feng ほか 2010)。ただし、化粧品原料のエキスがこれらをどれだけ含むかは抽出条件で変わり、成分表示からは読み取れません。含まれる成分の名前から、配合製品の効果を推し量ることはできません。

Q8. ビルベリー葉エキスやマグワ根皮エキスとは何が違いますか?

基原植物と部位、名前の出方が違います。ビルベリー葉エキスはツツジ科ビルベリーの葉、マグワ根皮エキスはクワ科マグワの根皮と部位が特定されますが、ユキノシタエキスは部外品規格が全草、化粧品定義は部位の記載なしです。名前は、マグワ根皮エキスが部外品では「クワエキス」と割れるのに対し、ユキノシタエキスは化粧品・部外品とも同じ表記です。どれも有効成分ではなく、違いから優劣は導けません。詳しくはビルベリー葉エキス・マグワ根皮エキスの記事を参照してください。

8. まとめ

ユキノシタエキスは、ユキノシタ科の多年草ユキノシタから得られる植物エキスで、化粧品では皮膚コンディショニングの目的で配合される。医薬部外品原料規格は全草から水・エタノール・1,3-ブチレングリコールで抽出したエキスと定め、化粧品表示名称の定義は部位を限定しない(出典: 医薬部外品原料規格2021 / Cosmetic-Info.jp)。研究では、葉や植物体からフラボノール配糖体・ベルゲニン類・フェノール酸などが報告されているが、化粧品原料での含有量は表示から読めない。

学名は化粧品側が Saxifraga sarmentosa、部外品側が Saxifraga stolonifera と表記が割れるが、分類データベースでは同じ植物を指す(出典: GBIF Backbone Taxonomy)。表示名は化粧品・医薬部外品とも「ユキノシタエキス」で、本マスターでは化粧品のシャンプー・洗顔料と、医薬部外品の美容液・オールインワンジェルに同じ表記で現れる。D2C系の部外品オールインワンに並ぶ植物エキス群のなかで、部位を特定せず、名前も割れない点が本成分の特徴である。

民間薬や山菜として知られるのは主に葉の利用で、化粧品として塗る文脈とは部位も経路も量も異なる。医薬部外品に入っていても効能を担うのは有効成分で、本成分は有効成分ではない。成分表でユキノシタエキスを見かけたら、整肌目的の植物エキスの1つとして読み、製品選びは有効成分・保湿の構成・使用感で判断するのが実用的である。

関連深掘り記事