イノノツスオブリクウスエキスは、主にシラカバなどカバノキ類の幹に生えるキノコ、カバノアナタケ(学名 Inonotus obliquus、通称チャーガ)から得られるエキスで、INCI名はInonotus Obliquus (Mushroom) Extract。化粧品表示名称の定義は「本品は、Inonotus obliquus のエキスである。」で、配合目的は皮膚コンディショニング剤(未分類)として登録されている(出典: Cosmetic-Info.jp)。成分表では植物エキスと並んで書かれるが、由来は植物ではなく菌類である。
DappNotesの商品マスターでは、メンズブランドBULK HOMMEの洗顔料と乳液の2品に入っている。ブランドはこの成分を「森のダイヤ」と呼び、「白樺に寄生する希少なキノコ」「古くから民間療法で用いられている」と紹介する。よく似た言い回しは原料メーカーBASFの原料紹介にもあり、そちらはくすみの改善や「5日間のスパトリートメントと同じ効果」まで訴求している。本記事では、こうした物語や訴求を効能としてではなく「誰が何を言っているか」として扱い、表示名称から読める範囲、化粧品の効能の範囲、飲むチャーガの話との境界を分けて整理する。
1. イノノツスオブリクウスエキスの基本
1.1 何の成分か
カバノアナタケは、タバコウロコタケ科(Hymenochaetaceae)に分類される菌類で(出典: Wikidata)、寒冷地のシラカバなどの幹に黒い塊をつくる。一般には「チャーガ」の名で知られ、原料メーカーのBASFも「日本でも健康茶として認識されつつあります」と書いている(出典: BASF 製品頁)。ただし化粧品の成分表では、和名の「カバノアナタケ」も通称の「チャーガ」も使われず、学名をカナにした「イノノツスオブリクウスエキス」で表示される(出典: Cosmetic-Info.jp)。
表示名称は、日本化粧品工業連合会の「化粧品の成分表示名称リスト」No.27(2014年3月10日発行)で収載された。成分番号は563531。CAS番号は2055734-24-0が示されているが、これはこの種のエキス全般に使われる包括的な番号(generic)である(出典: Cosmetic-Info.jp)。
定義に部位の指定はない。植物エキスの表示名称では「花/葉エキス」「根エキス」のように部位が名前に入ることが多いが、本成分は「Inonotus obliquus のエキス」とだけ定められている。EUの成分データベースCosIngは「キノコ全体(whole Mushroom)のエキス」と説明し、機能をSKIN CONDITIONINGとしている(出典: CosIng)。研究論文では、シラカバの幹に見える黒い塊を菌核(sclerotium)として扱っている(出典: J Nat Med 2019)。
同じキノコを含む化粧品表示名称は、Cosmetic-Info.jpで次の3件が確認できる。
| 表示名称 | 中身 | 配合目的 | 収載 |
|---|---|---|---|
| イノノツスオブリクウスエキス(本成分) | Inonotus obliquus のエキス | 皮膚コンディショニング剤(未分類) | No.27(2014年) |
| メシマコブ/イノノツスオブリクウスエキス発酵液 | 本成分を別のキノコ、メシマコブ(Phellinus linteus)で発酵させ、ろ過した液 | 酸化防止剤、皮膚保護剤 | No.29(2015年) |
| バチルス/(フユムシナツクサタケエキス/レイシエキス/イノノツスオブリクウスエキス/シイタケエキス/メシマコブエキス/スエヒロタケエキス/マツタケエキス)発酵液 | 本成分を含む7種のキノコのエキスを枯草菌で発酵させ、ろ過した液 | 皮膚コンディショニング剤(未分類) | No.28(2014年) |
(出典: Cosmetic-Info.jp)
発酵液の2件は別の表示名称で、成分表に「イノノツスオブリクウスエキス」と単独で書かれている場合とは区別される。表示名称に「カバノアナタケ」の語を含むものは見つからなかった。
中身の成分は、原料によって説明が異なる。BASFの原料は「ポリフェノールを含有する」亜臨界水抽出物、GREENTECHの原料はオリゴ糖・多糖類・フェノール化合物・アミノ酸やタンパク質を含む水系抽出エキスと説明されている(出典: Cosmetic-Info.jp 原料DB)。研究では、多糖類の画分(出典: Int J Med Mushrooms 2023)や、イノトジオール・ラノステロール・ベツリン・トラメテノール酸といったトリテルペン類(出典: Evid Based Complement Alternat Med 2014 / J Nat Med 2019)が分離・分析されている。どの成分がどれだけエキスに移るかは抽出法(水、亜臨界水、有機溶媒など)で変わり、化粧品の成分表からは読めない。
規制上は、有効成分ではない添加成分に分類される。医薬部外品の添加物としての登録も、確認した範囲では見当たらない(§1.2)。
1.2 どんな製品に配合されるか
Cosmetic-Info.jpには、本成分を含む原料が2件登録されている(出典: Cosmetic-Info.jp 原料DB)。
| 原料 | 製造元 | 化粧品表示名称 | 抽出・特徴 |
|---|---|---|---|
| Inolixir BC10079(イノリクシル) | BASF | グリセリン、水、イノノツスオブリクウスエキス | 亜臨界水抽出物・液体。製品頁では防腐剤フリーと説明 |
| CHAGA BIOGREEN (SB) | GREENTECH(フランス) | 水、グリセリン、イノノツスオブリクウスエキス、クエン酸、安息香酸Na、ソルビン酸K | 水系抽出し、グリセリンと防腐剤を加えたエキス |
(出典: Cosmetic-Info.jp 原料DB / BASF 製品頁)
どちらもグリセリンと水に溶かした液体原料で、商品の成分表ではグリセリン・水が別の成分として書かれる。2件とも「部外品申請成分名」の欄は空欄だった。部外品添加物のデータベースでも「イノノツス」「カバノアナタケ」「チャーガ」の名前での登録は見つからず、医薬部外品原料規格2021などでも収載を確認できなかった。このため本記事では、部外品の表示名称を設定していない。
DappNotesの商品マスター(132製品)で本成分を確認できたのは次の2品。
| 商品 | 区分 | 剤形 | 表示位置/全成分数 |
|---|---|---|---|
| バルクオム THE FACE WASH | 化粧品 | 洗顔料 | 24/35 |
| バルクオム THE EMULSION | 化粧品 | 乳液 | 19/35 |
(出典: BULK HOMME 公式サイトの全成分表示)
同じブランドの医薬部外品の化粧水THE REPAIR LOTIONには入っていない。2品に入っていることの意味と、同じ2品にだけ現れるほかの成分との関係は§3.5で扱う。なおCosmetic-Info.jpには本成分を含む市販化粧品が28件登録されており、配合例はBULK HOMMEに限られない。
2品にどの原料が使われているかは、表示からは分からない。2品ともグリセリンと水が上位にあり、原料に含まれるグリセリン・水と区別できない。CHAGA BIOGREEN (SB)に含まれる安息香酸Na・ソルビン酸Kは2品の成分表に見当たらないが、原料由来のごく微量の成分は表示が省略される場合がある(キャリーオーバー)ため、これだけで原料を絞り込むことはできない。ブランドも原料名を示していない。
1.3 メンズ視点での見方
配合2品はメンズスキンケアの洗顔料と乳液である。読み方の要点は2つある。
1つは、「キノコ」「白樺」「森のダイヤ」「民間療法」といったブランドの物語が、成分表の名前にはまったく出てこないこと。ブランドが商品頁で付けている機能の注記は「保湿成分」で、化粧品として言えるのもその範囲になる。
もう1つは、洗い流す洗顔料と肌に残す乳液では、同じ成分でも肌に残る量が違うこと。どちらの商品でも、選ぶときに見るのは洗浄成分の種類や保湿の骨格、テクスチャーのほうで、本成分はその上に重ねられたエキスの1つとして読めばよい。
2. 期待される働き・効果
2.1 配合目的と、研究で報告されていること
化粧品の配合目的として登録されているのは、皮膚コンディショニング剤(未分類)だけである(出典: Cosmetic-Info.jp)。CosIngの機能もSKIN CONDITIONINGで(出典: CosIng)、BULK HOMMEは共通美容成分の頁で本成分に「(保湿)」、商品頁で「※保湿成分」と注記している(出典: BULK HOMME 公式)。化粧品の中での役割は、「肌を整える」「うるおいを与える」範囲で読むのが基本になる。
そのうえで、研究では次のような報告がある。いずれもエキスそのものではなく、多糖の画分や単離した成分を培養細胞で調べたもので、化粧品に配合した量を肌に塗って同じことが起きるかは分からない。
- 多糖類と光老化モデル: Lin ら(2023)は、UVBを当てた表皮角化細胞(HaCaT)で、チャーガの多糖が細胞老化の指標となるたんぱく質を減らし、抗酸化に関わる酵素の発現を高めたと報告した(出典: Int J Med Mushrooms 2023)
- イノトジオールと炎症モデル: Won ら(2023)は、単離したトリテルペンのイノトジオールで前処理したヒト真皮線維芽細胞では、炎症を誘発したときの炎症性サイトカインの増加が抑えられたと報告した(出典: Heliyon 2023)
- メラニンへの作用は向きが分かれる: Yan ら(2014)は、B16メラノーマ細胞で、ベツリンとトラメテノール酸がチロシナーゼ活性とメラニン量を下げた一方、イノトジオールとラノステロールは逆に上げたと報告した(出典: Evid Based Complement Alternat Med 2014)。同じキノコから分離した成分でも作用の向きが逆になる例で、エキスの働きを1つの向きに決めつけられないことを示している
- 毛乳頭細胞の増殖試験: Sagayama ら(2019)は、菌核のエキスから分離したラノスタン型トリテルペンが、ヒト毛乳頭細胞の増殖試験で増殖を促したと報告した。論文は、チャーガがモンゴルで伝統的に洗髪に使われてきたとも記している(出典: J Nat Med 2019)。これは培養細胞の増殖を調べた試験で、頭皮に使って髪が増えることを示すものではない
エキスを配合した化粧品を人の肌に塗って効果を調べた試験は、本稿の調査範囲では見つからなかった。
2.2 一般的な効能範囲と、原料メーカーの訴求との差
イノノツスオブリクウスエキスを配合した化粧品で表現できるのは、化粧品の効能の範囲のうち「肌を整える」「肌のキメを整える」「皮膚をすこやかに保つ」「皮膚にうるおいを与える」「皮膚の乾燥を防ぐ」といった範囲である。
一方、原料メーカーBASFの日本語の製品頁は、原料Inolixirについて次のような訴求をしている(出典: BASF 製品頁)。この頁は化粧品メーカーに原料を紹介するためのもので、試験の方法・濃度・被験者数は頁に書かれていない。
| BASFの製品頁での訴求(要旨) | 化粧品の効能の範囲との関係 |
|---|---|
| 見出し「5日間のスパと同等の効果を持つ最強きのこエキス !?」、本文「5日間のスパトリートメントと同じ効果」 | 何を指標に比べたのか頁に書かれておらず、化粧品の効能として評価できない |
| 疲れやストレスによる目元のクマや小ジワ、くすみの改善 | 小ジワは「乾燥による小ジワを目立たなくする」が、所定の試験で確認した製品に認められる表現。クマやくすみを「改善する」に対応する項目は化粧品の効能の範囲にない |
| 微小血管の保護・強化、血流の改善 | 血行に作用する表現で、化粧品の効能の範囲外 |
| IV型コラーゲンの合成促進、HSP70の発現促進による細胞の修復 | 細胞や組織への作用で、化粧品の効能として示せない |
| ビタミンCを上回る抗酸化能、抗炎症作用、免疫機能向上効果 | 化粧品の効能の範囲外。比べた試験の条件も頁にない |
(出典: BASF 製品頁 / Cosmetic-Info.jp 原料DB)
原料メーカーの訴求は、原料を所定の条件で試験した結果にもとづく主張と考えられるが、それを配合商品の効能としてそのまま言うことはできない。配合商品のBULK HOMMEもこうした訴求は使っておらず、機能の注記は「保湿成分」にとどめている。また、BASFの頁とBULK HOMMEの説明には「2万本に1本」「森のダイヤ(モンド)」という共通の言い回しがあるが、BULK HOMMEがInolixirを使っているとは、ブランドもBASFも示していない(§3.4)。
逆に、次のような表現を本成分の効能として書くことはできない。
- くすみ・クマを改善する、美白する
- 血行を促進する
- 炎症を抑える、免疫を高める
- 老化を防ぐ、細胞を修復する
- 育毛・発毛
2.3 限界・誤解されやすい点
誤解されやすい点は3つある。
1. キノコのエキスを植物エキスと同じものとして読む誤解。 成分表では植物エキスと並んで書かれ、ブランドの紹介頁も共通美容成分を「植物由来成分を厳選」と説明しているが、Inonotus obliquusは菌類である。同じキノコ系のレイシエキスとも別の種で、表示名称も別になる。「キノコだから」「植物だから」という由来のくくりから、働きの大きさは導けない。
2. 民間療法や健康茶で使われる素材だから、塗っても効くという誤解。 ブランドの説明にある「古くから民間療法で用いられている」は由来の話で、化粧品の効能の根拠にはならない。飲むチャーガの話と、化粧品に配合したエキスを肌に塗る話は、経路も量も別である(§3.3)。
3. 希少だから、原料メーカーが訴求しているから効く、という誤解。 「2万本に1本の発見率」は、ブランドと原料メーカーが語る希少性の物語で、商品に入ったエキスの働きの大きさとは関係がない。表示からは、原料が天然物か、どの産地か、どの抽出法かも分からない。原料メーカーの訴求も、配合商品の効能を示すものではない(§2.2)。
3. 安全性・注意点
3.1 既知の刺激性・アレルギー報告
イノノツスオブリクウスエキスを化粧品として肌に塗ったときの刺激性・アレルギー性について、本成分を名指しした公開の試験データや皮膚障害の報告は、本稿の調査範囲では確認できなかった。米国のCosmetic Ingredient Review(CIR)の評価対象にも見当たらない(出典: CIR 評価成分一覧)。安全性が評価済みの成分として扱うことはできない。
言えるのは「問題の報告が見当たらない」というところまでで、これは安全性が十分に検証されていることと同じではない。キノコ(菌類)由来の化粧品成分で皮膚反応が植物エキスより多いか少ないかを示す資料も、確認できなかった。
原料による違いもある。§1.2の2つの原料は、抽出法(亜臨界水抽出と水系抽出)も、防腐剤の扱い(防腐剤フリーと、安息香酸Na・ソルビン酸K入り)も異なる。配合2品には香料やフェノキシエタノールも入っているため、肌に合わないと感じたときは本成分だけでなく処方全体を疑うのが現実的である。赤み・かゆみが出たら使用を中止し、敏感肌の人は腕の内側などで試してから使うと安心できる。
3.2 配合量の目安と表示から読めないこと
Cosmetic-Info.jpの化粧品表示名称ページでは、本成分の規制分類欄に記載はない(出典: Cosmetic-Info.jp)。配合量は各メーカーが処方ごとに決める。原料はどちらもグリセリンと水に溶かした液体で(§1.2)、推奨配合濃度は本稿で確認した公開の頁には示されていなかった。
成分表示から読めないことを整理すると、次の3つになる。
- 配合量: 化粧品は配合量1%以下の成分を順不同で書ける。洗顔料の24位、乳液の19位から、量の多い少ないは読めない(§3.5)
- エキスの中身: 抽出法やエキス分の濃度、多糖・トリテルペン・ポリフェノールがどれだけ含まれるかは表示されない
- 原料の銘柄と産地: 同じ「イノノツスオブリクウスエキス」でも、どのメーカーの原料か、天然物か、どの地域のものかは分からない
3.3 飲むチャーガと塗るエキスは別の話
チャーガは、粉末や煎じ茶として飲む健康食品の素材としても流通している。飲む場合については、化粧品とは別の文脈で症例が報告されている。
- Kikuchi ら(2014): チャーガ粉末を1日小さじ4〜5杯、6か月飲んでいた72歳の日本人女性に、シュウ酸腎症が起きた症例を報告した。論文は、チャーガのシュウ酸濃度が極めて高いと記している(出典: Clin Nephrol 2014)
- Lee ら(2020): チャーガ粉末を長期にわたって飲んでいた49歳の男性の末期腎不全の症例を報告し、残っていた粉末のシュウ酸含量を測定した(出典: J Korean Med Sci 2020)
これらは口から継続して多量に取り込んだ場合の話で、化粧品に配合されたエキスを肌に塗る場合とは、経路も量もまったく違う。化粧品としての塗布でシュウ酸が問題になったという報告は、本稿の調査範囲では見当たらない。飲む話の注意を化粧品に持ち込んで「危険な成分」と読むのは正確ではない。
逆向きの持ち込みにも注意したい。「民間療法で用いられてきた」「健康茶として飲まれている」という経口の評判も、塗る化粧品の効能の根拠にはならない。飲むチャーガと塗るエキスは、良い話も注意の話も、それぞれの経路の中で読むのが正確である。
3.4 ブランドが語る由来の物語と、表示名称が示す範囲
BULK HOMMEは、洗顔料と乳液に共通して入る成分を「共通美容成分」として、成分ごとに由来の物語つきで紹介している。一方、成分表に載る表示名称から読める範囲は限られ、物語の要素の多くは名前に現れない。同じセットの成分を並べる。
| 成分 | ブランドの説明(要旨) | 表示名称が示す範囲 | 物語の要素は名前に出るか | 由来の形 |
|---|---|---|---|---|
| エーデルワイス花/葉エキス | アルプスの標高1000mの環境で身を守るため、地上部に抗酸化成分を生成 | 花と葉 | 産地は出ない。部位は出る | 植物体から抽出 |
| シスツスモンスペリエンシス花/葉/茎エキス | 山火事で焼失した土地でも再生する「フェニックス」 | 花・葉・茎 | 「山火事から再生」は出ない。部位は出る | 植物体から抽出 |
| シロツメクサエキス | 大半が四葉以上を付ける特別な株 | 部位の指定なし | 「四つ葉」「特別な株」は出ない | 植物体から抽出 |
| クリスマムマリチマムカルス培養液 | 海から陸へ移住した最初の植物のひとつ・植物の幹細胞 | カルスの培養液 | 「幹細胞」は出ない。出るのは「カルス培養液」 | 植物細胞の培養 |
| イノノツスオブリクウスエキス(本成分) | 白樺に寄生する希少なキノコ・別名チャーガ・「森のダイヤ」 | 学名のみ(部位の指定なし) | 「キノコ」「白樺」「希少」は出ない | 菌類から抽出(植物ではない) |
| 参考: リンゴ果実培養細胞エキス | スイスの希少なリンゴの幹細胞・「奇跡のリンゴ」 | 果実の培養細胞のエキス | 品種名と「幹細胞」は出ない | 植物細胞の培養 |
| 参考: グリセリルグルコシド | サハラ砂漠のミロタムヌスから抽出・「復活の木」 | 化合物名 | 植物名が出ない | 化合物 |
| 参考: イノシトール | 米ヌカ由来のビタミンB様成分 | 化合物名 | 「米ヌカ」は出ない | 化合物 |
(出典: BULK HOMME 公式『共通美容成分』頁 / 各成分の化粧品表示名称の定義)
本成分は、この中でも物語と表示名称の距離が大きい。ブランドの頁は本成分に【森のダイヤ】という見出しと「(保湿)」の注記を付け、「10年以上かけて白樺に寄生する希少なキノコ。別名チャーガ。強靭な生命力を有し、古くから民間療法で用いられている。2万本に1本の発見率から「森のダイヤ」も呼ばれる。」と紹介する(出典: BULK HOMME 公式)。これに対して表示名称が示すのは、「Inonotus obliquus のエキス」という生物種だけで、植物エキスのような部位語もない。
名前から読めないのは、キノコ(菌類)であること、白樺に生えること、希少であること、民間療法での利用の4つである。とくに「キノコであること」は、学名を知らなければ名前からは分からない。ブランドの頁の導入文も、共通美容成分を「強い生命力と高い栄養素を持つ植物由来成分を厳選」と説明しており、本成分も植物由来成分の枠の中で紹介されている。
言い回しにも注目したい。BASFの製品頁には「発見されるのが2万本に1本という希少性から、森のダイヤモンドとも呼ばれています」とあり、ブランドの説明とよく似ている(出典: BASF 製品頁)。ただし言えるのは、同じ説明で流通する原料があるというところまでである。ブランドの頁に原料名やメーカー名の記載はなく、Cosmetic-Info.jpには別メーカーの原料も登録されている(§1.2)。表示からも、どの原料が使われているかは区別できない。
3.5 「共通美容成分」というセットでの出方
BULK HOMMEは、化粧品用の「8種の化粧品共通美容成分」と、医薬部外品用の「6種の医薬部外品共通成分」を別々に示している(出典: BULK HOMME 公式)。本成分が入るのは化粧品側だけである。
| セット | 構成 | 本成分 |
|---|---|---|
| 8種の化粧品共通美容成分 | リンゴ果実培養細胞エキス、イノノツスオブリクウスエキス、グリセリルグルコシド、クリスマムマリチマムカルス培養液、シロツメクサエキス、エーデルワイス花/葉エキス、シスツスモンスペリエンシス花/葉/茎エキス、イノシトール | 含む |
| 6種の医薬部外品共通成分 | グリセリルグルコシド、アシタバエキス、ヒキオコシエキス(1)、海藻エキス(1)、エーデルワイスエキス、イノシット | 含まない |
(出典: BULK HOMME 公式『共通美容成分』頁)
商品マスターでは、セットは次のように現れる。
| 商品 | 区分 | 8種の化粧品共通美容成分 | 本成分の位置 |
|---|---|---|---|
| THE FACE WASH | 化粧品 | 8種すべて | 24/35 |
| THE EMULSION | 化粧品 | 8種すべて | 19/35 |
| THE REPAIR LOTION | 医薬部外品 | 化粧品の表示名称では入らない(部外品の表示名称で「エーデルワイスエキス」「グリセリルグルコシド液」「イノシット」が入る) | なし |
(出典: BULK HOMME 公式サイトの全成分表示)
洗顔料と乳液では、クリスマムマリチマムカルス培養液、グリセリルグルコシド、シスツスモンスペリエンシス花/葉/茎エキス、リンゴ果実培養細胞エキス、エーデルワイス花/葉エキス、イノノツスオブリクウスエキス、シロツメクサエキス、マルトデキストリンの8つが、洗い流す剤形と肌に残す剤形の違いがあっても同じ順で書かれている。
読めるのは「セットの明示」と「出現の一致」まで。 上の8表記がすべてそろって現れるのは、132製品中この洗顔料と乳液の2品だけである。成分ごとに見ると、132製品中この2品にしか入っていないのは、本成分・シスツスモンスペリエンシス花/葉/茎エキス・シロツメクサエキス・クリスマムマリチマムカルス培養液の4つで、ほかの成分は別の商品にも入っている(エーデルワイス花/葉エキスはマニフィーク モイスチュアライジング ジェル、リンゴ果実培養細胞エキス・グリセリルグルコシド・イノシトール・マルトデキストリンもそれぞれ別の商品)。ブランドがセットとして示していることと合わせて、「意図してセットで配合されている」とは言える。
同じ原料由来とは言えない。 並び順の「ク→グ→シ→リ→エ→イ→シ→マ」は五十音順ではないが、化粧品の全成分表示は配合量1%以下を順不同で書けるため、2品で同じ順に書かれていることは、同じ原料(プレミックス)に由来する根拠にも、配合量の根拠にもならない。ブランドも原料メーカーも、複数の成分をまとめた原料だとは示していない。少なくともCosmetic-Info.jpに登録された本成分の原料2件は、グリセリン・水(と防腐剤)にキノコのエキスを溶かした単独の原料で、セットのほかの成分と組み合わせたものではない。
セットに入らない成分もある。 同じ順で書かれている8つのうちマルトデキストリンは、ブランドの2つのセットのどちらにも入っていない。また洗顔料の24位と乳液の19位は、全成分数が同じ35でも処方の骨格が違う(洗顔料は脂肪酸と水酸化Kによる石けん系、乳液は油剤と乳化剤の系)ため、位置の違いから量の違いは読めない。
4. 相性の良い・悪い成分
4.1 併用される成分
イノノツスオブリクウスエキスは単独で主役になる成分ではなく、配合2品では保湿成分やほかのエキスと一緒に入っている。
保湿の骨格: 2品ともグリセリンとBGが上位にあり、トレハロース・グリコシルトレハロース・異性化糖(ブランドはこの3種の糖を「トリプルサッカライド」と呼ぶ)や、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリルが並ぶ。本成分は、この骨格の上に重ねられたエキスの1つとして入っている。
共通美容成分のほかの7種: エーデルワイス花/葉エキス、シスツスモンスペリエンシス花/葉/茎エキス、シロツメクサエキス、クリスマムマリチマムカルス培養液、リンゴ果実培養細胞エキス、グリセリルグルコシド、イノシトール。2品ともこの7種と本成分がそろって入っている(§3.5)。
ほかのキノコ・シラカバ由来の成分: 配合2品には入っていないが、キノコ由来の化粧品成分にはレイシエキスがあり、酵母や穀物、キノコなどから得られる多糖としてβ-グルカンも知られる。チャーガが生えるシラカバについては、樹液のシラカンバ樹液が別の成分として使われている。EUのCosIngには、シラカバの樹液をチャーガで発酵させた成分(Inonotus Obliquus/Betula Alba Juice Ferment)も収載されている(出典: CosIng)。いずれも本成分とは別の表示名称で、成分表の上では区別される。
4.2 注意したい組合せ
イノノツスオブリクウスエキスについて、化粧品処方で避けるべき組み合わせは、本稿で確認した資料では報告されていない。
実用上の注意は、成分どうしの相性よりも剤形と期待の置き方にある。
- 洗い流す洗顔料と、肌に残す乳液の違い: 同じ成分が入っていても、洗顔料では泡と一緒に流されるため、肌に残る時間は短い。洗顔料に入っていることを、乳液と同じ働きの目安にはしない
- 香料・防腐剤を含む処方: 配合2品はどちらも香料とフェノキシエタノールを含む。ひげ剃り直後など肌が敏感な状態でしみる場合、原因は本成分以外であることも多い
- 同じセットの商品を重ねること: 洗顔料と乳液を続けて使うと、同じ8種の成分に2回触れることになるが、重ねることで効能が上乗せされるとは言えない
5. 使い方
5.1 推奨される使用シーン
イノノツスオブリクウスエキスの有無で商品を選ぶ場面は、実際にはあまりない。本成分は、洗顔料でも乳液でも処方の一部として入っている。
洗顔料: 選ぶときに見るのは、洗浄成分の種類(石けん系か、アミノ酸系か等)と洗い上がりの感触である。本成分は、洗い流す処方の中に入った保湿目的のエキスの1つとして見ればよい。
乳液: 見るのは、保湿の骨格(グリセリン・BG・糖類)と油分の量、テクスチャーである。本成分は、その上に重ねられたエキスの1つとして読む。
使い方は、それぞれの商品の標準的な使い方に従えばよい。本成分のために特別な使い方をする必要はない。
5.2 期待できないこと・避けるべき使い方
イノノツスオブリクウスエキスに期待できないことは、次のとおり。
- くすみ・クマの改善、血行の促進: 原料メーカーの訴求にある内容だが、配合商品の効能として期待することはできない(§2.2)
- 美白・炎症を抑える・老化を防ぐ効果: 研究の報告は単離成分や多糖を使った細胞実験で、メラニンへの作用は向きが分かれる(§2.1)。本成分の効能として期待することはできない
- 育毛・発毛: 毛乳頭細胞の増殖試験の報告はあるが、化粧品の効能ではなく、配合2品もスキンケア用である
- 飲むチャーガの代わり: 健康茶や粉末として飲む話と、塗る化粧品は別の話である(§3.3)
避けたいのは、「森のダイヤ」「希少なキノコ」「民間療法」という物語や、原料メーカーの「5日間のスパと同じ効果」という訴求だけで商品を選ぶことである。肌に合うかどうかは処方全体で決まるため、合わないと感じたら使用を中止する。
6. メンズ実用視点まとめ
メンズの成分表示でイノノツスオブリクウスエキスを見かけたら、次の3点で読むと整理しやすい。
- キノコ(菌類)のエキスで、名前は学名だけ: シラカバなどに生えるカバノアナタケ(チャーガ)のエキスで、植物ではない。成分表の名前からは「キノコ」「白樺」「希少」は読めず、原料の銘柄や産地も分からない
- 物語と原料メーカーの訴求は効能ではない: ブランドの「森のダイヤ」「民間療法」、原料メーカーの「5日間のスパトリートメントと同じ効果」「くすみの改善」は、それぞれの主張として読む。化粧品として言えるのは、うるおいを与える・肌を整える範囲で、ブランドの機能の注記も「保湿」である
- 飲むチャーガとは別の話: 健康茶や粉末として飲む話は、良い評判も腎臓の症例報告も、塗る化粧品には持ち込まない
商品を選ぶときに効いてくるのは、洗浄成分や保湿の骨格、剤形と使い心地のほうである。イノノツスオブリクウスエキスは、ブランドがセットで配合するエキスの1つとして、落ち着いて読めばよい。
7. よくある質問(FAQ)
Q1. イノノツスオブリクウスエキスはどんな成分ですか?
シラカバなどカバノキ類の幹に生えるキノコ、カバノアナタケ(学名 Inonotus obliquus、通称チャーガ)から得られるエキスです(出典: Cosmetic-Info.jp)。化粧品の配合目的は皮膚コンディショニング剤として登録されています。有効成分ではなく、医薬部外品の添加物としての登録も確認できませんでした。
Q2. チャーガと同じものですか? 植物エキスの仲間ですか?
原料の生物はチャーガ(カバノアナタケ)と同じですが、成分表では和名や通称は使われず、「イノノツスオブリクウスエキス」と表示されます。植物ではなく、タバコウロコタケ科の菌類です(出典: Wikidata)。成分表では植物エキスと並んで書かれることが多いものの、由来は別の系統です。
Q3. 「森のダイヤ」「民間療法で用いられている」と紹介されていますが、特別な効果がありますか?
これはブランドによる由来の説明です(出典: BULK HOMME 公式)。希少性や民間療法での利用は、商品に入ったエキスの働きの大きさを示すものではありません。ブランド自身も、機能の注記は「保湿」としています。化粧品として期待できるのは、肌にうるおいを与え、肌を整える範囲です。
Q4. 原料メーカーの「5日間のスパと同じ効果」「くすみの改善」は、配合商品にも当てはまりますか?
当てはまるとは言えません。BASFの製品頁にある訴求は、化粧品メーカーに原料を紹介するための主張で、試験の方法や濃度は頁に書かれていません(出典: BASF 製品頁)。血流の改善や抗炎症、くすみ・クマの改善は化粧品の効能の範囲を超えており、配合商品の効能として言うことはできません。また、配合商品にこの原料が使われているかどうかも、表示からは分かりません。
Q5. チャーガを飲んで腎臓を悪くした話を聞きました。化粧品でも注意が必要ですか?
報告されているのは、チャーガの粉末を長期間飲み続けた人のシュウ酸腎症などの症例です(出典: Clin Nephrol 2014 / J Korean Med Sci 2020)。これは口から多量に取り込んだ場合の話で、化粧品に配合されたエキスを肌に塗る場合とは経路も量も違います。化粧品の塗布でシュウ酸が問題になったという報告は、本稿の調査範囲では見当たりませんでした。
Q6. 肌に安全ですか?
本成分を名指しした刺激性やアレルギーの試験データ、皮膚障害の報告は、本稿の調査範囲では確認できませんでした。米国CIRの評価対象にも見当たりません。問題の報告が見当たらないことと、安全性が十分に検証されていることは同じではありません。商品には香料や防腐剤なども入るため、合わないと感じたら使用を中止してください。
Q7. 成分表の前のほうにある商品ほど、たくさん入っているのですか?
表示位置から量は判断できません。化粧品は配合量1%以下の成分を順不同で書けるため、洗顔料の24位と乳液の19位を量の比較には使えません。原料もグリセリンと水に溶かした液体で、エキス分の濃度は表示から読めません。
8. まとめ
イノノツスオブリクウスエキスは、シラカバなどに生えるキノコ、カバノアナタケ(Inonotus obliquus、通称チャーガ)のエキスで、化粧品では肌を整える目的で配合される。表示名称の定義は「Inonotus obliquus のエキス」で部位の指定はなく、植物ではなく菌類に由来する(出典: Cosmetic-Info.jp / CosIng)。
ブランドの「森のダイヤ」「白樺に寄生する希少なキノコ」「民間療法」という物語は、表示名称にはまったく現れない。よく似た言い回しの原料をBASFが販売し、くすみの改善や「5日間のスパトリートメントと同じ効果」を訴求しているが、配合商品がその原料を使っているとは示されておらず、訴求の多くは化粧品の効能の範囲を超える。研究の報告も、多糖や単離成分を使った細胞実験にとどまる。飲むチャーガの評判や腎臓の症例報告は経口の話で、塗る化粧品とは別に読む必要がある。
商品マスターでは、BULK HOMMEの洗顔料と乳液の2品に、ブランドが「共通美容成分」と呼ぶセットの1つとして入っている。セットで配合されていることは言えるが、同じ原料由来であることや、表示位置からの配合量は読めない。物語や原料の訴求から効果を期待するより、保湿の骨格と剤形で商品を選び、その中の保湿・整肌目的のエキスとして読むのが実用的な理解になる。