プルーン分解物は、セイヨウスモモ(プルーン)の果肉を酵素で分解して得られる植物由来の成分で、化粧品表示名称の配合目的は皮膚コンディショニング剤(未分類)の1つだけが登録されている(出典: 日本化粧品工業連合会 / Cosmetic-Info.jp)。有効成分ではなく、化粧品にも医薬部外品にも添加成分として入る。
本記事の軸は2つある。1つは名前の対応で、同じ原料が化粧品では「プルーン分解物」、医薬部外品では「プルーン酵素分解物」と書かれる。もう1つは根拠の段階で、製造元が示す収れんやメラニンにかかわる働きが、どの種類の試験に基づくのかを整理する。効く・効かないの判定ではなく、成分表の名前から何が読めて、製造元の説明がどこまで確かめられているかを並べる。
1. プルーン分解物の基本
1.1 何の成分か
化粧品表示名称の定義は「本品は、プルーンの酵素分解物である。」で、成分番号は552160、国際的な成分名(INCI名)は Hydrolyzed Prunus Domestica である(出典: 日本化粧品工業連合会)。配合目的の登録は「皮膚コンディショニング剤(未分類)」の1つで、EUの成分データベース CosIng でも同じINCI名の機能は SKIN CONDITIONING のみになっている(出典: CosIng Ref 34450)。
製法の細部は、医薬部外品側の規格に書かれている。『医薬部外品原料規格2021』の各条「プルーン酵素分解物」は、本質を「セイヨウスモモ Prunus domestica L.(Rosaceae)の果肉を繊維素分解酵素で分解して得られるもの」とし、性状を「褐色〜暗褐色の液で、わずかに特異なにおいがある」としている(出典: 医薬部外品原料規格2021)。繊維素分解酵素は、植物の細胞壁をつくる多糖を分解する酵素のことで、製造元の特許ではセルラーゼ・ヘミセルラーゼ・ペクチナーゼが挙げられている(出典: 特開平11-269057 / 特開2006-347926)。
特許に書かれた製造の流れをまとめると、果肉をすりつぶすなどしてから酵素で処理し、果肉を液状にしたあと、加熱して酵素のはたらきを止め、残った固形物をろ過して除く、という手順になる(出典: 特開平11-269057)。「分解物」という名前は、果物をしぼった汁や溶媒に浸したエキスではなく、酵素で果肉そのものを液状にしたもの、という取り出し方を表している。
規格の確認試験は、1-ナフトールと硫酸で赤紫色を呈する反応である(出典: 医薬部外品原料規格2021)。これは糖の検出に使われる型の反応で、分解物に糖類が含まれることとつじつまが合う。ただし、これは確認試験であって成分の定量ではない。分解物の中に何がどれだけ含まれるかは、製造元から公開されていない。
規制上は、有効成分ではない添加成分に分類される。厚生労働省の『いわゆる薬用化粧品中の有効成分リスト』を「プルーン」「スモモ」で検索しても名前は見当たらない。同リストは有効成分の規格と分量の前例を集めた文書で、載っていないことが有効成分になれない根拠になるわけではないが、本成分を有効成分とする前例は確認できない。
1.2 名前の対応: 化粧品名・部外品名・INCI名
本成分は、呼び名が4つの体系にまたがる。一次資料で確認できた対応を並べる。
| 体系 | 名前 | 番号・コード | 確認した資料 |
|---|---|---|---|
| 化粧品表示名称 | プルーン分解物 | 成分番号552160 | 化粧品の成分表示名称リスト |
| 医薬部外品の成分名・表示名称 | プルーン酵素分解物 | 規格51・成分コード520946 | 医薬部外品原料規格2021 / 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版(連番1833) |
| INCI名 | Hydrolyzed Prunus Domestica | CosIng Ref 34450 | 化粧品の成分表示名称リスト / CosIng |
| 部外品規格の英名 | Hydrolyzed Prune | ― | 医薬部外品原料規格2021(INCI名ではない) |
(出典: 日本化粧品工業連合会 / 医薬部外品原料規格2021 / CosIng)
化粧品名と部外品名が同じ原料を指すと言える根拠は、製造元の並記である。一丸ファルコスの原料「クレアージュ」は、化粧品表示を「BG、水、プルーン分解物」、部外品表示を「1,3-ブチレングリコール、精製水、プルーン酵素分解物」と、同じ1つの原料に両方の名前を付けている(出典: 一丸ファルコス)。丸善製薬の原料一覧でも、「プルーン抽出液WC」の化粧品表示名称がプルーン分解物、医薬部外品の成分名と表示名称がプルーン酵素分解物と並べて書かれている(出典: 丸善製薬 化粧品原料 製品一覧)。
原料データベースの側から見ても対応はそろう。Cosmetic-Info.jp の原料DBで、化粧品名「プルーン分解物」に紐づく原料と、部外品添加物「プルーン酵素分解物」に紐づく原料は、同じ3件(クレアージュ、AA-2G溶液(クレアージュ)、プルーン抽出液WC)だった(出典: Cosmetic-Info.jp 原料DB)。
逆向きの確認もしておく。化粧品表示名称を「プルーン」で全件検索すると11件が並ぶが、その中に「プルーン酵素分解物」という化粧品名はない。部外品添加物の名前を「プルーン」で検索すると、プルーンエキスとプルーン酵素分解物の2件だけで、「プルーン分解物」という部外品名はない(出典: 日本化粧品工業連合会 / Cosmetic-Info.jp)。同じ文字列が別の成分を指す取り違えは起きない、ということになる。
なお、定義の細かさには差がある。化粧品表示名称の定義は「プルーンの酵素分解物」までで、酵素の種類を指定していない。部外品の規格は、部位を果肉、酵素を繊維素分解酵素と具体的に書いている。INCI名のほうは、CosIng の定義が「Plum, prunus domestica, hydrolyzate」(加水分解物)で、酵素による分解に限っていない(出典: CosIng Ref 34450)。3つの体系は同じ原料をつなぐが、言葉の範囲は完全には重ならない。
1.3 紛らわしい別の名称
プルーン由来の成分には、名前の似た別の成分がいくつもある。成分表で見かけても、本成分とは別のものとして読む。
| 名前 | 本成分との違い | 確認した資料 |
|---|---|---|
| プルーンエキス | 化粧品は成分番号552159(INCI名 Prunus Domestica Fruit Extract)、部外品は成分コード520945。部外品の規格では果実を水で抽出したもので、酵素分解物とは別の各条 | 化粧品の成分表示名称リスト / 医薬部外品原料規格2021 |
| Hydrolyzed Prunus Domestica Fruit Extract | プルーンの果実エキスを加水分解した、別のINCI名(CosIng Ref 98197)。対応する和名は「プルーン」の検索11件の中にない | CosIng |
| プルーン種子エキス | 種子のエキスで、部位が違う別の表示名称 | 化粧品の成分表示名称リスト |
| プルーン果汁・プルーン種子油・プルーン花エキス | いずれも部位や取り出し方の違う別の表示名称 | 化粧品の成分表示名称リスト |
(出典: 日本化粧品工業連合会 / 医薬部外品原料規格2021 / CosIng)
特に紛らわしいのは、英語の成分表示で並ぶ2つのINCI名である。Hydrolyzed Prunus Domestica(本成分)と Hydrolyzed Prunus Domestica Fruit Extract は語順がほとんど同じだが、前者はプルーンそのものの分解物、後者はエキスをさらに加水分解したもので、CosIng に登録された機能も後者のほうが多い(抗菌・酸化防止・皮膚保護など)。INCI名の末尾が Fruit Extract で終わるかどうかで見分ける。
製造元の特許でも、水や含水アルコールで抽出したプルーンエキスと、酵素で処理したものは比べられる別物として扱われている(出典: 特開平11-269057)。「プルーンエキスと書いてあるから、プルーン分解物と同じ中身」という読み方はできない。
1.4 どんな製品に入るか: 表示名で区分が分かる
Cosmetic-Info.jp の市販品データベースでは、2026年9月の確認時点で、化粧品名「プルーン分解物」が661件の化粧品に、部外品名「プルーン酵素分解物」が341件の医薬部外品に紐づいている(出典: Cosmetic-Info.jp)。化粧品にも部外品にも広く使われる、植物由来の汎用的な添加成分と言える。
DappNotesの商品マスターでは、本成分は5品に出てくる。化粧品の3品(NILE のオールインワンローションと濃密泡洗顔、ファンケル メン オールインワン ウォーター)は「プルーン分解物」、医薬部外品の2品(REDEN メディカルスカルプシャンプー、&GINO プレミアムフェイスエッセンス アクアモイス)は「プルーン酵素分解物」と表示している(出典: 各社公式の全成分表示)。5品とも、製品区分に対応した名前で書かれていて、区分と名前の食い違いはない。
ここから言えるのは、成分表でどちらの名前を見たかで、その商品が化粧品か医薬部外品かの見当がつく、ということである。部外品の2品で本成分は有効成分の欄には入っておらず、有効成分はそれぞれ別の成分(REDEN はイソプロピルメチルフェノール、&GINO はナイアシンアミドとグリチルリチン酸2K。部外品での表示はグリチルリチン酸ジカリウム)である。部外品の成分表で「プルーン酵素分解物」を見ても、それは有効成分ではなく、ほかの添加成分と同じ扱いの1つである。
表示位置についても触れておく。医薬部外品の成分表示は、有効成分と「その他の成分」に分けて書く業界の自主基準によるもので、「その他の成分」の記載順は企業の判断とされている(日本化粧品工業連合会の基本方針・2006年)。並び順から各成分の量は読めない。本記事では、全成分の中の位置から本成分の配合量を推定することはしない(§3.4)。
1.5 メンズ視点での見方
5品のうち4品はメンズ向けに分類される商品(オールインワン2品、洗顔料、美容液)で、残る1品も男性向けの薬用スカルプシャンプーである。剤形はオールインワン・洗顔料・美容液・シャンプーと広く、特定の悩みに向けた成分というより、植物由来の整肌成分の1つとして処方に入っている。
メンズの読み方で押さえたいのは、「プルーン」という食品のイメージや、製造元の「美白」という説明を、そのまま商品の効果に置き換えないことである。オールインワンや洗顔料を選ぶときに見るのは、保湿の骨格や洗浄成分の種類で、プルーン分解物の有無が選ぶ基準の中心になることはまずない。
2. 期待される働き・効果
2.1 登録された配合目的から読めること
化粧品表示名称で登録されている配合目的は「皮膚コンディショニング剤(未分類)」の1つである(出典: Cosmetic-Info.jp)。肌の状態を整える目的の成分をまとめた分類で、植物由来の成分の多くがここに入る。「未分類」は、保湿剤やエモリエント剤といった細かい区分に当てはめていないという意味で、特定の働きを示す言葉ではない。EUの CosIng でも機能は SKIN CONDITIONING だけが登録されている(出典: CosIng Ref 34450)。
公的な登録から読めるのはここまでである。製造元が挙げる収れん・保湿などの働きは、原料メーカーの説明や特許に書かれた内容で、表示名称の配合目的として登録されたものではない。以下では、その説明がどんな試験に基づいているかを段階として整理する。
2.2 製造元の説明と、それを支える試験の段階
原料メーカー2社は、本成分について次のように説明している。
- 一丸ファルコス(クレアージュ): 製品ページのコンセプトに「アンチエイジング、美白、敏感肌ケア、保湿」を挙げ、開発ストーリーでは「表皮がメラニンを取り込むのを抑制する働き」が見られた、と紹介している(出典: 一丸ファルコス)
- 丸善製薬(プルーン抽出液WC): 「プルーンの果肉を酵素分解した液」とし、期待される作用として「収れん、保湿、抗炎症、抗アレルギー、抗老化」を挙げている(出典: Cosmetic-Info.jp 原料DB 製造元提供欄)
これらは原料を処方する側に向けた製造元の説明で、化粧品の効能として認められた内容ではない。「美白」「抗炎症」「抗アレルギー」は、化粧品の効能の範囲を超える言葉である(§2.3)。
では、その説明の裏にどんなデータがあるのか。一次資料として確認できたのは、製造元が出願した2件の特許である。どちらも査読を経た学術論文ではなく、特許の明細書に書かれた試験である。
| 製造元が示す働き | 出典 | 試験管・細胞での試験 | ヒトでの試験 | 根拠の段階 |
|---|---|---|---|---|
| 収れん(肌を引き締める) | 特開平11-269057(丸善製薬・1999年公開) | 蛋白質を凝集させる力を測る試験 | 成人女性50名が顔の半分ずつに使い分け、使用感を自己評価 | 特許の試験管内試験+使用感の自己評価 |
| メラニンの受け渡しにかかわる働き | 特開2006-347926(三基食品・一丸ファルコス・2006年公開) | 培養したヒト表皮の細胞が粒子を取り込む量を測る試験 | 成人女性10名が30日間、片腕ずつ使い分け、変化の有無を回答 | 特許の細胞試験+少人数の自己評価 |
| 保湿 | 一次の測定データは見つからず | ― | 上記の丸善特許の使用感評価の中に「潤い感」の項目がある | 使用感の評価のみ |
(出典: 特開平11-269057 / 特開2006-347926)
この表から読めるのは、製造元の説明の多くが、試験管や培養細胞での結果と、少人数の使用者の感想で支えられている、ということである。ヒトの試験はどちらも被験者自身の評価で、肌の水分量や色を機器で測った結果ではない。盲検化(誰がどちらを使っているか分からなくする手順)や統計処理の記載も、丸善特許では確認できなかった。
これは「効かない」という意味ではない。原料の開発段階で、方向性を確かめるために行われる試験の段階にある、という意味である。第三者による再現や、査読論文としての発表は、本稿の確認範囲では見つからなかった。
2.3 2件の特許が何を言っているか
収れんの特許(丸善製薬): 出願は1998年。プルーン果肉の水・含水アルコール抽出物と、酵素で処理した液状化物に含まれる「蛋白凝集性物質」を、化粧品用の収れん剤として使う、という内容である(出典: 特開平11-269057)。特許は、酵素処理物のほうが水抽出物より粘度が低く、収れん作用にも優れると書いている。一方で、収れんにかかわる成分は「主として糖質および無機質からなると考えられる」としながら、そのいずれが作用に関与しているかは確認されていない、とも書いている。作用の担い手は、特許の中でも特定されていない。
同じ特許は、タンニンを含む植物抽出物(ハマメリスなど)と比べると作用はやや穏やかで、突っ張り感を伴わない、という特徴を挙げている。また、出願当時すでに、プルーン果肉のエキスと酵素分解物が保湿剤として化粧品の配合成分規格に載っていた、と記している(出典: 特開平11-269057)。本成分が1990年代から化粧品原料として使われてきたことがうかがえる記載である。
メラニンの受け渡しの特許(三基食品・一丸ファルコス): 出願は2005年。表皮の細胞(角化細胞)が、色素をつくる細胞からメラニンを受け取る過程を、細胞が粒子を取り込む「ファゴサイトーシス(食作用)」のモデルで調べ、本成分がその取り込みを抑えた、とする内容である(出典: 特開2006-347926)。特許の請求項は、本成分を「美白有効成分として配合する」化粧料組成物にまで及んでいる。
ただし、これは特許の言い回しで、薬機法上の有効成分として承認されたことを意味しない。「美白」「シミ、ソバカスを抑制」といった特許や製造元の表現は、化粧品の効能として認められた内容ではない。本成分は医薬部外品に入る場合も添加成分で、DappNotesの商品マスターの部外品2品でも有効成分の欄には入っていない(§1.4)。
2.4 一般的な効能範囲
プルーン分解物を配合した化粧品で表現できるのは、化粧品の効能範囲のうち「肌を整える」「肌のキメを整える」「皮膚をすこやかに保つ」「肌にうるおいを与える」「肌を引きしめる」といった範囲である。洗顔料の「皮膚を清浄にする」やシャンプーの「頭皮、毛髪を清浄にする」は商品全体の効能で、本成分の配合目的とは別の話になる。
逆に、次のような表現を本成分の効能として書くことはできない。
- シミ・ソバカスを防ぐ、肌を白くする、メラニンの受け渡しを止める
- 炎症を抑える、アレルギーを抑える
- 老化を防ぐ、シワを改善する
- 毛穴を小さくする、皮脂の分泌を抑える
製造元の説明や特許に出てくる言葉は、原料開発の文脈での表現である。本記事では、それらを製造元や特許を主語にした引用としてだけ扱う。
2.5 限界・誤解されやすい点
誤解されやすい点は4つある。
1. 食べるプルーンの栄養を、そのまま化粧品の効果にする誤解。食品としての乾燥プルーンは、ソルビトールを多く含み、フェノール化合物の主体はネオクロロゲン酸とクロロゲン酸だと報告されている(出典: Stacewicz-Sapuntzakis et al. 2001 / Nakatani et al. 2000)。しかしこれは食品の分析で、化粧品原料の酵素分解物の組成は各社とも公開していない。果肉を酵素で分解し、ろ過した液に、食品のプルーンと同じ成分が同じ割合で残るとは言えない。「体にいい果物だから肌にもいい」という読み方は、食品の話と化粧品の話をつないでしまっている。
2. 名前の違いを中身や強さの違いと読む誤解。化粧品の「プルーン分解物」と部外品の「プルーン酵素分解物」は、製造元が同じ原料に付けている2つの名前である(§1.2)。部外品のほうが「酵素」と書いてあるから本格的、という違いはない。名前の違いは、その商品が化粧品か医薬部外品かの違いを表している。
3. プルーンエキスと同じものと読む誤解。プルーンエキスは果実を水で抽出したもので、部外品の規格でも別の各条になっている(§1.3)。丸善製薬の特許でも、水抽出物と酵素処理物は比べられる別物として扱われている。成分表でプルーンエキスを見ても、本成分の説明をそのまま当てはめることはできない。
4. 製造元の「美白素材」を有効成分と読む誤解。一丸ファルコスは本成分の原料を美白の素材として紹介しているが、それは製造元の説明で、本成分が医薬部外品の美白の有効成分として承認されているわけではない(§2.3)。部外品の成分表に「プルーン酵素分解物」があっても、その商品の有効成分は別に表示されている。
3. 安全性・注意点
3.1 公的な安全性評価の状況
米国の Cosmetic Ingredient Review(CIR)について、本成分(Hydrolyzed Prunus Domestica)を対象にした安全性評価の報告書は、本稿の確認範囲では見つからなかった。同じ植物では、種子油(Prunus Domestica Seed Oil)が食用植物油のグループ評価の対象になっているが、これは種子の油の評価で、果肉の分解物には当てはまらない。
ここで注意したいのは、CIRの個別評価がないことと、安全性が分かっていないことは別の話だ、という点である。CIRは米国の化粧品成分の評価の枠組みの1つで、世界中のすべての化粧品成分を網羅しているわけではない。評価の枠組みに載っていないことは、危険と判断されたことも、データがないことも意味しない。本成分の場合、日本では部外品の原料規格に収載され、重金属やヒ素の上限を含む純度試験が定められている(出典: 医薬部外品原料規格2021)。
米国の環境団体 EWG の Skin Deep にも成分ページはあるが、本稿ではスコアを確認できていないため、数値は書かない。
3.2 製造元の特許にある安全性試験
一次資料で確認できた安全性データは、一丸ファルコス・三基食品の特許に載っている動物試験である(出典: 特開2006-347926)。
- 皮膚一次刺激性試験: 固形分約1%の水溶液をモルモットの背中の皮膚に塗り、24・48・72時間後に紅斑と浮腫を判定。すべての動物で陰性
- 皮膚累積刺激性試験: 固形分約2%の水溶液を、1日1回・週5回・2週間にわたってモルモットの皮膚に塗布。陰性
- 経口単回投与: マウスに固形分1%の液を与え、異常は見られなかった
いずれも1群3〜5匹の小規模な動物試験で、ヒトでの感作性試験(繰り返し塗ってアレルギーが起きないかを見る試験)やパッチテストの一次データは、本稿の確認範囲では見つからなかった。一方、本成分は化粧品で661件、医薬部外品で341件の商品に紐づいていて(§1.4)、広く使われてきた成分でもある。使用実績の広さは、個別のヒト試験の代わりにはならないが、実際の使用で目立った問題が報告されていない、という状況を示す材料の1つにはなる。
3.3 バラ科の果物アレルギーとの関係
プルーン(セイヨウスモモ)はバラ科の植物で、部外品の規格にも Rosaceae と明記されている(出典: 医薬部外品原料規格2021)。バラ科の果物には、脂質輸送タンパク質(LTP)と呼ばれるよく似たアレルゲンがあり、プルーンのLTP(Pru d 3)を含むバラ科果実のLTPどうしで、アレルギーの抗体が結合する部位が共通していることが報告されている(出典: Borges et al. 2008)。同じ論文は、こうした交差反応性の臨床的な意味は人によってさまざまで、必ずしも果物どうしのアレルギーを伴うわけではないとも述べている。
化粧品に配合されたプルーン分解物を塗ってアレルギーが起きたという症例報告は、本稿の確認範囲では見つからなかった。酵素分解と加熱の工程で、タンパク質がどこまで残るかも公開されていない。
実用上は、バラ科の果物を食べて口がかゆくなるなどの症状が出たことがある人は、本成分を含む商品を使う前に、腕の内側などで少量を試すのが安全側の判断になる。赤み・かゆみ・腫れが出たら使用を中止する。配合例の商品には、ほかの植物エキスや香料なども入るため、合わないと感じたときは処方全体を疑うのが現実的である。
3.4 配合量と、表示から読めないこと
本成分には、法的に一律の配合上限は示されていない。配合量は各メーカーが処方ごとに決める。原料の例では、一丸ファルコスのクレアージュが推奨配合濃度を3%としているが、これはBGや水を含む原料液としての値で、分解物そのものの量ではない(出典: 一丸ファルコス)。
成分表示から読めないことを整理すると、次の3つになる。
- 配合量: 化粧品では1%以下の成分を順不同で書けるため、表示位置から量は読めない。医薬部外品の「その他の成分」は記載順が企業の判断とされ(日本化粧品工業連合会の基本方針・2006年)、位置から配合量を推定することはできない
- 分解物の中身: どの成分がどれだけ含まれるかは、製造元から公開されていない
- 原料の銘柄: 単独の原料か、ほかの成分と組み合わせた原料か(§4.1)は、表示から分からない
また、成分表の「BG」「1,3-ブチレングリコール」や「水」の一部は、本成分の原料液に由来している場合がある。
4. 相性の良い・悪い成分
4.1 併用される成分
プルーン分解物は単独で主役になる成分ではなく、配合例では保湿や洗浄の骨格の上に、ほかの植物エキスと一緒に重ねられている。
保湿の骨格: 化粧品の3品はいずれもグリセリンとBGを含み、部外品の2品も濃グリセリンと1,3-ブチレングリコールを含む。原料のクレアージュはBGと水、プルーン抽出液WCはBGを含む液として流通しているため、成分表のBGの一部は本成分の原料に由来している場合がある(出典: 一丸ファルコス / 丸善製薬 化粧品原料 製品一覧)。
ビタミンC誘導体: 一丸ファルコスには、アスコルビン酸2-グルコシド(表示名アスコルビルグルコシド)と本成分を組み合わせた原料「AA-2G溶液(クレアージュ)」がある(出典: Cosmetic-Info.jp 原料DB)。DappNotesの商品マスターでは、NILE の濃密泡洗顔とファンケル メン オールインワン ウォーターの2品に、アスコルビルグルコシドとプルーン分解物が両方出てくる。ただし、2品がこの組み合わせ原料を使っているかは、成分表示からは分からない。書けるのは、同じ2成分が一緒に現れるという出現の一致までである。
ほかの植物エキス: 配合例では、ユズ果実エキス、ノイバラ果実エキス、ユキノシタエキス、ムクロジ果皮エキスなど、複数の植物エキスと同じ処方に並ぶ。いずれも整肌目的の添加成分として入るもので、組み合わせによって特別な働きが生まれる、という根拠は確認していない。
4.2 注意したい組み合わせ
プルーン分解物について、化粧品処方で避けるべき組み合わせは、本稿で確認した資料では報告されていない。
実用上の注意は、成分どうしの相性よりも、期待の置き方と処方全体の見方にある。
- 植物エキスの数で選ぶこと: 果物や植物のエキスが何種類も並んでいても、それぞれの量や中身は表示から読めない。数が多いほど肌にいい、とは言えない
- 香料・精油を含む処方: NILE の2品は香料、ファンケル メン オールインワン ウォーターはラベンダー油などの精油を含む。肌が敏感なときにしみる場合、原因は本成分以外の成分であることも多い
- 「プルーン」の名前で成分を束ねること: プルーン分解物・プルーンエキス・プルーン種子エキスは、それぞれ別の成分である(§1.3)
4.3 類似成分
同じサクラ属(Prunus)やバラ科の植物、果実から得る成分と並べると、本成分の位置がつかみやすい。
| 成分 | 植物・部位 | 取り出し方 | 本成分との関係 |
|---|---|---|---|
| プルーン分解物(本成分) | セイヨウスモモの果肉 | 酵素で分解 | ― |
| サクラ葉エキス | ソメイヨシノの葉 | 抽出 | 同じサクラ属の別植物・別部位 |
| リンゴ果実エキス | リンゴの果実 | 抽出 | 同じバラ科の果実。部外品名と化粧品名の対応が別の型 |
| ノイバラ果実エキス | ノイバラの果実 | 抽出 | 同じバラ科の果実 |
| カキ果実エキス | カキの果実 | 抽出 | 別の科の果実エキス |
| ナツメ果実エキス | ナツメの果実 | 抽出 | 別の科の果実エキス |
(出典: 各成分の DappNotes 成分解説 / 本成分は医薬部外品原料規格2021)
この表の中で「分解物」という取り出し方をとるのは本成分だけである。果実のエキスの多くは溶媒で成分を取り出すのに対し、本成分は酵素で果肉を液状にする、という違いがある。ただし、取り出し方の違いは、働きの強弱や優劣を示すものではない。
リンゴ果実エキスとは、化粧品名と部外品名の関係の型が違う。リンゴ果実エキスは化粧品の旧名「リンゴエキス」が部外品名と同じ文字列になる型で、プルーン分解物は化粧品名と部外品名が最初から別の文字列になる型である。どちらも、原料製造元が両方の名前を並記している点は共通している(出典: 丸善製薬 化粧品原料 製品一覧 / 一丸ファルコス)。
5. 使い方
5.1 推奨される使用シーン
プルーン分解物の有無で商品を選ぶ場面は、実際にはあまりない。配合例はオールインワン・洗顔料・美容液・シャンプーで、本成分はどれでも処方の一部として入っている。
オールインワン・美容液(肌に残す製品): 肌を整える植物由来の成分の1つとして入っている。選ぶときは保湿の骨格(グリセリン・BGなど)、とろみや使い心地、香りの有無を見ればよい。
洗顔料・シャンプー(洗い流す製品): 選ぶときに見るのは、主な洗浄成分の種類と、自分の皮脂量や肌・頭皮の乾燥しやすさとの相性である。本成分は洗い流す処方の中の植物由来成分の1つで、肌に残る量は限られる。
医薬部外品を選ぶとき: 部外品の効能は、有効成分とその承認された効能で決まる。成分表の「プルーン酵素分解物」は添加成分なので、部外品を選ぶときは有効成分の欄と、パッケージに書かれた効能を見る。
使い方は、それぞれの商品の標準的な使い方に従えばよい。本成分のために特別な使い方をする必要はない。
5.2 期待できないこと・避けるべき使い方
プルーン分解物に期待できないことは、次のとおり。
- シミ・くすみへの作用: 製造元の特許や説明に「美白」の言葉はあるが、化粧品の効能として認められた内容ではなく、部外品でも本成分は有効成分ではない(§2.3)
- 肌の水分量を測って確かめられた保湿: 保湿について、機器で測定したデータは一次資料で見つかっていない(§2.2)
- 「果物由来だから低刺激」という保証: バラ科の果物にはアレルゲンの共通性が知られていて(§3.3)、肌に合うかは処方全体で決まる
避けたいのは、台所のプルーンをつぶしたり、ジュースを塗ったりすることを、化粧品のプルーン分解物と同じものとして試すことである。本成分は、果肉を酵素で分解し、加熱とろ過を経て作られる原料で、家庭で再現できるものではない。
6. メンズ実用視点まとめ
メンズの成分表示でプルーン分解物を見かけたら、次の3点で読むと整理しやすい。
- 名前で製品区分が分かる: 「プルーン分解物」なら化粧品、「プルーン酵素分解物」なら医薬部外品の表示。中身は同じ原料で、名前の違いは強さの違いではない
- 配合目的は整肌の1つ: 化粧品表示名称の登録は皮膚コンディショニング剤だけ。製造元が挙げる収れんやメラニンにかかわる働きは、特許の試験管内の試験と少人数の自己評価の段階にある
- 部外品でも有効成分ではない: 部外品の成分表にあっても添加成分。効能は有効成分の欄で判断する
皮脂が多くベタつきやすい肌、ヒゲ剃り後の肌、汗をかきやすい頭皮では、使い心地や洗浄力に目が向きやすい。その判断は洗浄成分や保湿の骨格で行い、プルーン分解物は「プルーン」の健康イメージや製造元の訴求に引っ張られずに、植物由来の整肌成分の1つとして落ち着いて読めばよい。
7. よくある質問(FAQ)
Q1. プルーン分解物はどんな成分ですか?
セイヨウスモモ(プルーン)の果肉を酵素で分解して得られる植物由来の成分です(出典: 日本化粧品工業連合会 / 医薬部外品原料規格2021)。化粧品の配合目的は皮膚コンディショニング剤(未分類)で登録されています。有効成分ではなく、添加成分として配合されます。
Q2. 「プルーン分解物」と「プルーン酵素分解物」は同じものですか?
同じ原料の、化粧品での名前と医薬部外品での名前です。原料製造元の一丸ファルコスと丸善製薬は、それぞれ同じ1つの原料に、化粧品表示名称プルーン分解物と医薬部外品表示名称プルーン酵素分解物を並記しています(出典: 一丸ファルコス / 丸善製薬 化粧品原料 製品一覧)。名前の違いは製品区分の違いで、中身や強さの違いではありません。一方、「プルーンエキス」は果実を水で抽出した別の成分です。
Q3. 美白効果はありますか?
製造元の特許には、培養細胞の試験と10名・30日の使用試験(被験者の回答)に基づいて「美白」の言葉が出てきます(出典: 特開2006-347926)。ただしこれは特許の段階の説明で、化粧品の効能として認められた内容ではなく、医薬部外品の美白の有効成分として承認されているわけでもありません。本成分に美白を期待して商品を選ぶことはおすすめできません。
Q4. プルーン分解物は安全ですか? 果物アレルギーでも使えますか?
米国CIRの個別評価は見当たりませんが、これは評価の枠組みに載っていないという意味で、危険という意味ではありません。製造元の特許では、モルモットの皮膚刺激試験が陰性でした(出典: 特開2006-347926)。塗布でのアレルギーの症例報告は本稿の確認範囲では見つかりませんでしたが、バラ科の果物にはアレルゲンの共通性が知られています(出典: Borges et al. 2008)。バラ科の果物で症状が出たことがある人は、少量で試してから使い、合わないと感じたら使用を中止してください。
8. まとめ
プルーン分解物は、セイヨウスモモの果肉を繊維素分解酵素で分解して得られる植物由来の成分で、化粧品では皮膚コンディショニング剤の目的で配合される(出典: Cosmetic-Info.jp / 医薬部外品原料規格2021)。
名前の面では、同じ原料が化粧品では「プルーン分解物」、医薬部外品では「プルーン酵素分解物」と書かれ、INCI名は Hydrolyzed Prunus Domestica になる。原料製造元2社が両方の名前を同じ原料に並記していて、同じ文字列が別の成分を指す取り違えもない。プルーンエキス(水抽出)や、INCI名がよく似た Hydrolyzed Prunus Domestica Fruit Extract は別の成分である。
根拠の面では、製造元が挙げる収れんやメラニンにかかわる働きは、いずれも製造元の特許にある試験管・培養細胞の試験と、少人数の使用者の自己評価の段階にとどまる。査読論文や第三者の再現は確認できず、保湿の測定データも見つかっていない。安全性では、CIRの個別評価はないが、動物の皮膚刺激試験は陰性で、化粧品・医薬部外品の両方で広く使われている。
「プルーン」の健康イメージや「美白素材」という製造元の説明から効果を期待するより、保湿や洗浄の骨格で商品を選び、その中の整肌目的の植物由来成分の1つとして読むのが実用的な理解になる。