アルギン酸Naは、INCI名 Algin、CAS番号9005-38-3の成分で、化粧品表示名称の定義は「アルギン酸のナトリウム塩」にあたる(出典: Cosmetic-Info.jp)。アルギン酸はコンブなどの褐藻の細胞壁にある多糖で、そのナトリウム塩は水に溶けてとろみのある液になる。化粧品での配合目的は結合剤、香料、親水性増粘剤の3つで、自社の商品マスターでは2製品、どちらも石けん系の洗顔料に入っていた(出典: DappNotes 商品マスター集計)。主役の効果を担う成分ではなく、製品の「形を保つ」ために入る補助成分の1つにあたる。
この記事の中心は2点ある。1つは、キサンタンガムやカルボマーと同じ増粘剤の仲間でありながら、カルシウムに出会うとゲルに変わるという独自の性質を持つこと。粉を水で練って顔に塗り、固まったらはがすモデリングパックは、この性質で説明できる(出典: キミカ / Lee & Mooney 2012)。もう1つは、同じ褐藻から来る褐藻エキスや海藻エキスとは「別の成分」だという点で、エキスは海藻の中身をまとめて取り出した混合物、アルギン酸Naは多糖1種類を精製した原料になる。公的評価では、CIRが2015年の最終報告書で多糖ガム類を群で評価し、アルギン酸Naを「現行の使用実態・濃度で安全」とした(出典: CIR 2015)。食品添加物・胃薬としての顔もあわせて、成分表の「アルギン酸Na」から何が読めて何が読めないかを中立に整理する。
1. アルギン酸Naの基本
1.1 何の成分か
アルギン酸は、褐藻(コンブ、ワカメ、ヒバマタなど茶色い海藻の仲間)の細胞壁をつくる多糖にあたる。食品安全委員会の評価書は、アルギン酸を「D-マンヌロン酸(M)とL-グルロン酸(G)からなるヘテロポリマー」と説明している(出典: 食品安全委員会 2006)。どちらも糖の一端がカルボン酸になった「ウロン酸」で、この2種類が一直線につながった鎖がアルギン酸の骨格になる。
鎖のつながり方には3つのパターンがある。マンヌロン酸ばかりが並ぶ部分(Mブロック)、グルロン酸ばかりが並ぶ部分(Gブロック)、両者が交互に並ぶ部分(MGブロック)で、どの割合で含むかは原料の海藻の種類や部位で変わる(出典: Lee & Mooney 2012)。この違いが、後で述べるゲルの性質を左右する。
原料のつくり方は、褐藻をアルカリ性の液(主に水酸化ナトリウム)で処理してアルギン酸を溶かし出し、ろ過したあと塩化ナトリウムや塩化カルシウムを加えて沈殿させ、酸処理と精製を経て水に溶けるナトリウム塩の粉末にする、という流れになる(出典: Lee & Mooney 2012)。原料の海藻として、コンブ属(Laminaria)、アスコフィラム(Ascophyllum nodosum)、ジャイアントケルプ(Macrocystis pyrifera)などが挙げられている。医薬部外品の成分表示名称リストの定義も「褐藻類を希アルカリ液で抽出し、精製した炭水化物のナトリウム塩」で、抽出と精製の2段階が名前の中身に含まれている(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト)。
名前の扱いは次のとおり。
| 区分 | 名前 |
|---|---|
| 化粧品表示名称 | アルギン酸Na(成分表では「アルギン酸Na」とも書かれる) |
| INCI名 | Algin |
| 医薬部外品表示名称 | アルギン酸ナトリウム(簡略名 アルギン酸Na) |
| 英名 | Sodium Alginate |
(出典: Cosmetic-Info.jp / 医薬部外品の成分表示名称リスト / 食品安全委員会 2006)
INCI名が「Sodium Alginate」ではなく「Algin」である点は、海外の成分表を読むときに覚えておくと役に立つ。化粧品表示名称DBでは、アルギン酸(Alginic Acid)、アルギン酸Ca、アルギン酸K、アルギン酸PG(プロピレングリコールエステル)、加水分解アルギンなどが、それぞれ別の表示名称として登録されている(出典: Cosmetic-Info.jp)。塩や誘導体が違えば別成分として扱われるため、本記事はアルギン酸Naだけを対象にする。
厚生労働省の薬用化粧品の有効成分リストに名前はなく、化粧品・医薬部外品の有効成分ではない(出典: 薬用化粧品有効成分リスト)。一方で医薬部外品の成分表示名称リストには「アルギン酸ナトリウム」として収載されていて、部外品の中でも有効成分以外の成分として使われる名前が用意されている(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト)。
1.2 どんな製品に配合されるか
米国の使用実態は、CIRの2015年報告書が参照する米FDAの届出制度(VCRP)と業界の濃度調査で分かる。アルギン酸Na(INCI名 Algin)の届出は326件で、リーブオン(洗い流さない)194件、リンスオフ(洗い流す)131件、入浴用1件だった(出典: CIR 2015)。アイメイクなど目の周りの製品にも40件使われている。
製造元の側から見ると、用途の幅がよく分かる。国内のアルギン酸メーカーであるキミカは、化粧品での応用例として、ピールオフパック、アルギン酸の繊維でつくるシートパックの基布、落ちにくい口紅、練り歯磨きの粘結剤、汗や皮脂を吸う微細なビーズを挙げている(出典: キミカ)。このうちパック・口紅・ビーズは、どれも「カルシウムでゲルになる」性質を使った用途にあたる。練り歯磨きでは、研磨剤などが沈まないよう支える粘結剤として使われ、製造元は増粘多糖類の中でも流動性がなめらかでベタつきにくい点を特長に挙げている。
自社の商品マスター(スキンケア54製品・ヘアケア78製品)では、アルギン酸Naを含むのは次の2製品で、ヘアケアは0件だった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。
| 製品タイプ | 表記 | 順位 | 全成分数 | 近くに並ぶ増粘・関連成分 |
|---|---|---|---|---|
| 石けん系酵素洗顔(P104) | アルギン酸Na | 15位 | 24 | 16位にヒドロキシプロピルメチルセルロース |
| 石けん系泡洗顔(P133) | アルギン酸Na | 21位 | 26 | 22位にペンテト酸5Na、23位にカルボマー |
(出典: DappNotes 商品マスター集計)
2製品とも洗顔料で、どちらもアルギン酸Na以外の増粘剤を併せて入れていた。なお商品マスターには、アルギン酸を分解して小さくした「加水分解アルギン」を含む製品も1つある。これは化粧品表示名称DBで別の名前として登録された別成分で、本記事の集計には含めていない(出典: Cosmetic-Info.jp / DappNotes 商品マスター集計)。
⚠️ 順位の読み方には注意が要る。全成分表示は原則として配合量の多い順だが、1%以下の成分は順不同で書いてよいため、15位・21位という位置は配合量の根拠にはならない。言えるのは、どちらの製品でも成分表の後半に置かれている、という位置までにあたる。
1.3 メンズ視点での見方
男性の洗顔料選びでは、泡立ちや洗い上がりのさっぱり感が話題になりやすい。自社マスターでアルギン酸Naを含む2製品がどちらも石けん系の洗顔料だったことから分かるのは、アルギン酸Naが洗顔料の「中身の形」を支える側で使われているという点にあたる(出典: DappNotes 商品マスター集計)。洗浄力を担うのは石けん(脂肪酸と水酸化カリウム)の側で、アルギン酸Naではない。
実用上の結論は、成分表で「アルギン酸Na」を見つけても、洗い上がりや肌への効き目の手がかりにはしない、という読み方になる。とろみや泡の質感に関わる部品の1つで、製品の性格は洗浄成分と保湿成分の組み合わせで決まる。
一方、モデリングパック(粉を水で練って塗り、固まったらはがすタイプ)では話が変わる。この種のパックでは、アルギン酸Naが製品の形そのものを担う主要な素材になる。CIRの使用濃度調査で最大50%という数字が出てくるのは、この「ペースト状マスク・泥パック」の用途にあたる(出典: CIR 2015)。同じ成分名でも、洗顔料の後半に並ぶ場合とパックの主剤になる場合では、担う仕事の大きさがまったく違う。
2. 期待される働き・効果
2.1 メカニズム
アルギン酸Naの働きは、肌に作用する化学反応ではなく、長い鎖状の分子が水の中でどうふるまうかという物理的な性質で説明できる。場面は「とろみ」と「ゲル化」の2つに分かれる。
とろみ(増粘)。アルギン酸Naは水に溶けると、長い鎖が水を抱え込みながら絡み合い、液の流れにくさ(粘度)を上げる。市販のアルギン酸Naの分子量はおよそ3万2千〜40万で、分子が大きいほど粘度は高くなる(出典: Lee & Mooney 2012)。鎖にはカルボン酸(カルボキシ基)が並んでいて、水中ではマイナスの電荷を帯びる。pHが下がるとこの電荷が打ち消されて鎖どうしが水素結合でくっつきやすくなり、粘度はpH3〜3.5付近で最大になる(出典: Lee & Mooney 2012)。jcln の配合目的のうち、親水性増粘剤と結合剤(粉体などをつなぎとめる役)は、この性質にあたる(出典: Cosmetic-Info.jp)。
ゲル化。アルギン酸Naの最大の特徴がこちらで、カルシウムのような2価の陽イオンに出会うと、液からゲルに変わる。仕組みは「エッグボックス(卵パック)構造」と呼ばれる。グルロン酸が連続するGブロックは、その構造上カルシウムイオンを取り囲むように強く捕まえることができる。1つのカルシウムが隣り合う2本の鎖のGブロックを橋渡しし、これが何か所も起きることで鎖どうしが網目状につながり、全体がゲルになる(出典: Lee & Mooney 2012)。卵パックのくぼみに卵が収まる様子にたとえた呼び名で、橋渡しに加わるのはGブロックだけとされる。食品安全委員会の評価書も、アルギン酸カルシウムは水に溶けないと記載している(出典: 食品安全委員会 2006)。
モデリングパックやピールオフパックは、このゲル化を使った製品にあたる。製造元のキミカは、粉末のパック剤に水を加えて練るとアルギン酸が溶け、顔に塗り終えたあとでカルシウム塩と反応してシート状にゲル化する、と説明している(出典: キミカ)。乾かして皮膜にするタイプのピールオフパックと違い、乾くまで待たなくても固まるのが特徴とされる。
ここで工夫が要るのが「固まる速さ」で、水を加えた瞬間に固まってしまえば顔に塗れない。研究者の総説によると、水によく溶ける塩化カルシウムはゲル化が速すぎて制御しにくく、溶けにくい硫酸カルシウムや炭酸カルシウムを使うとカルシウムが少しずつ出てくるためゲル化が遅れ、作業できる時間が延びる(出典: Lee & Mooney 2012)。リン酸塩を加えると、リン酸がアルギン酸と競ってカルシウムを奪うため、ゲル化をさらに遅らせられる。粉末のパック剤が、練ってから塗り終えるまでは流れ、塗り終えたあとで固まるように設計できるのは、こうした調整による。どのカルシウム源や遅延剤を使うかは製品ごとに違い、成分表からそこまで特定できるとは限らない。
逆向きの反応もある。カルシウムで固まったゲルは、周りにナトリウムなど1価のイオンが多いと、カルシウムがナトリウムと入れ替わって溶けていく(出典: Lee & Mooney 2012)。食品安全委員会の評価書も、アルギン酸カルシウムはEDTAやポリリン酸塩のようにカルシウムと強く結びつく物質の溶液には溶けると記している(出典: 食品安全委員会 2006)。キレート剤(金属イオンを封じる成分)とアルギン酸のゲルは、カルシウムを奪い合う関係にあたる。
2.2 一般的な効能範囲
日本でアルギン酸Naは化粧品・医薬部外品の添加成分で、有効成分ではない。したがってアルギン酸Naそのものに紐づく承認効能はなく、配合製品が言えるのは化粧品の効能の範囲にとどまる。洗顔料なら「皮膚を清浄にする」といった洗浄の範囲、パックなら製品として表示できる範囲にあたる。
成立する説明は「とろみをつけて中身の形を保っている」「粉体をつなぎとめている」「カルシウムと反応してゲルになり、はがせる形をつくっている」といった処方事実の側になる。製造元はピールオフパックについて、ゲル化しながら毛穴の汚れや角栓などを捕まえて剥がされると説明しているが(出典: キミカ)、これはゲルが物理的に表面のものを付着させてはがす、という仕組みの説明で、アルギン酸Naが肌の状態を変える効能ではない。
反対に、「海藻の栄養が肌に浸透する」「海藻由来だから保湿力が高い」といった読み方は、成分の働きとして確認されていない。CIRは多糖ガム類について、分子が大きく皮膚から吸収される可能性は低いとしている(出典: CIR 2015)。アルギン酸Naは肌の表面にとどまり、洗い流されるかはがされて役目を終える成分にあたる。
2.3 限界・誤解されやすい点
アルギン酸Naをめぐって誤解されやすい点を3つ整理する。
1点目は、「海藻エキスの一種」と読むこと。アルギン酸Naは褐藻から取るが、エキスではなく、アルギン酸という多糖1種類を抽出・精製したものにあたる(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト)。褐藻エキスの化粧品表示名称の定義は「褐藻類の全藻のエキス」(出典: Cosmetic-Info.jp)で、多糖・ミネラル・色素・ポリフェノールなどが混ざった中身をまとめて取り出したものになる。両者の関係は4.3で詳しく整理する。
2点目は、「胃薬の成分だから肌にも薬効がある」と読むこと。アルギン酸ナトリウムは医療用医薬品(内服液)の有効成分でもあり、胃・十二指腸潰瘍やびらん性胃炎での止血と自覚症状の改善などに使われる。作用は、消化管の粘膜に付着して胃液などから粘膜を保護し、出血部位を覆って血液の凝固を促すことと説明されている(出典: KEGG MEDICUS)。これは処方された内服薬として胃の中で働く話で、化粧品に配合されたアルギン酸Naの効能として読むことはできない。
3点目は、「成分表にあればパックのように固まる」と思うこと。ゲルになるにはカルシウムなどの2価イオンが必要で、洗顔料の中のアルギン酸Naは主にとろみ付けの役にとどまる。ゲル化を使う製品は、カルシウム源とあわせて設計されたパックやシート素材が中心になる(出典: キミカ)。
3. 安全性・注意点
3.1 既知の刺激性・アレルギー報告
公的評価の中心は、CIR(Cosmetic Ingredient Review)が2015年10月22日に公開した最終報告書(Status: Final Report)『Safety Assessment of Polysaccharide Gums as Used in Cosmetics』にあたる。植物や藻類に由来し、主に増粘剤として働く多糖ガム106成分をまとめて評価した報告書で、CONCLUSION 直下の「安全」とされた105成分の一覧にアルギン酸Na(Algin)が名指しで入っている(出典: CIR 2015)。同じ一覧には、アルギン酸、アルギン酸Ca、アルギン酸K、アルギン酸PGも並ぶ。
結論は「現行の使用実態・使用濃度において安全(safe in the present practices of use and concentration in cosmetics)」で、データ不十分とされた例外は加水分解カラギーナン1成分だけだった(出典: CIR 2015)。アルギン酸Naには但し書きが付いていない。
報告書に載るアルギン酸Naのデータは次のとおり(出典: CIR 2015)。
- 皮膚刺激: 2%のアルギン酸Naはウサギの皮膚刺激試験で陰性。累積刺激試験でも重い反応は見られなかった
- 眼刺激: 2%をウサギの眼に点眼した3つの試験で、眼の粘膜に病変は見られなかった
- ヒトでの貼付: 20%のアルギン酸Na水溶液を男性12人に貼付した試験で、皮膚刺激・アレルギー性接触皮膚炎とも陰性
一方で、報告書は足りないデータも隠していない。泥パックでの最大50%という使用濃度に見合う皮膚刺激・感作データはアルギン酸Naには無いと、Panel自身が認めている(出典: CIR 2015)。そのうえで、類似の多糖(カルボキシメチルイヌリン)が100%まで皮膚刺激試験で陰性だったこと、皮膚科の臨床で多糖ガム類に臨床的に意味のある反応が見られないことを根拠に、安全と判断した。
もう1つ、報告書は精製アルギン酸を使った美容目的の注入フィラー(皮膚の中に注射する充填剤)で重い肉芽腫反応の報告があることに触れ、これは化粧品としての使用には関係しないと判断している(出典: CIR 2015)。皮膚の中に入れる医療的な使い方と、肌の表面に塗って洗い流す使い方は、条件がまったく違うという整理にあたる。
食品としての評価も参考になる。日本ではアルギン酸ナトリウムが昭和32年に食品添加物として指定され、現在も指定添加物リストに載っている(出典: 食品安全委員会 2006 / 日本食品化学研究振興財団)。食品安全委員会は2006年の評価で、JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)がアルギン酸とその塩類をまとめて「ADIを特定しない」と評価したことを踏まえ、グループとして許容一日摂取量を設定する必要はないとした(出典: 食品安全委員会 2006)。ただし大量に食べた場合に便がゆるくなる(緩下作用)可能性は指摘されている。食べる場面の評価であって、化粧品の評価そのものではないが、長く食品に使われてきた素材であることは読み取れる。
実用上の留意点は、成分そのものより製品全体の側にある。洗顔料には洗浄成分・香料・防腐剤なども入るため、個別の反応の可能性は他の化粧品と同様にゼロではない。敏感肌の人はパッチテストで相性を確かめるのが無難にあたる。
3.2 推奨配合量と過剰配合時のリスク
アルギン酸Naは「何%配合すると効く」タイプの成分ではなく、狙う粘度やゲルの硬さに合わせて量が決まる。参考になるのは使用実態の数字で、CIR報告書が参照する2013年の業界調査では、最大使用濃度は0.001〜50%と幅が広かった(出典: CIR 2015)。
| 区分 | 最大使用濃度 |
|---|---|
| 全体 | 0.001〜50% |
| リーブオン(洗い流さない) | 0.001〜18% |
| リンスオフ(洗い流す) | 0.01〜50%(上端はペースト状マスク・泥パック) |
| 目の周りの製品 | 0.025〜0.75% |
(出典: CIR 2015 Table 6)
上端の50%は、粉末を水で練って使うパックの数字にあたる。粉末の段階では主剤の1つなので割合が大きくなるが、使うときは水で薄まる。洗顔料や化粧水のようにとろみ付けで入る場合は、ずっと少ない量で足りる。
日本の化粧品基準にアルギン酸Naの配合上限の定めはない。「過剰配合時のリスク」を実態に即して言えば、成分の毒性ではなく処方のバランスの話にあたる。入れすぎれば粘りすぎて塗り広げにくくなり、パックなら固まり方や硬さが変わる。これは使用感の問題で、安全性の問題とは別に考えてよい。
3.3 「危険性」と言われる根拠と実態の整理
アルギン酸Naは「危険性」で検索されることが少ない成分だが、語られうる論点を4つに整理する。
論点1:高濃度の刺激データが無い。CIRが泥パックの50%に見合うデータの不在を認めたのは事実で、これは「危険と分かった」ではなく「その濃度そのものの試験は無いが、類似成分と臨床経験から安全と判断した」という意味にあたる(出典: CIR 2015)。
論点2:注入フィラーの肉芽腫。精製アルギン酸を皮膚の中に注射した場合の重い反応は報告されているが、CIRは化粧品としての使用には関係しないと判断している(出典: CIR 2015)。塗って洗い流す化粧品と、体内に入れる医療行為は別の話になる。
論点3:天然素材の不純物。CIRは多糖ガム類全般について、植物由来の原料に含まれうる農薬の残留や重金属への懸念を示し、業界が適正製造規範(cGMP)で不純物を抑え続けるよう求めている(出典: CIR 2015)。成分表からは原料の品質までは分からないため、ここは製造者の管理に委ねられる部分にあたる。
論点4:食べたときの緩下作用。大量摂取で便がゆるくなる可能性は食品の評価で指摘されている(出典: 食品安全委員会 2006)。これは食べる場面の話で、肌に塗る化粧品には当てはまらない。
| 観点 | 語られる根拠 | 実態の整理 |
|---|---|---|
| 高濃度 | 泥パック50%の刺激・感作データ不在 | Panelは認めたうえで、類似多糖の試験と臨床経験から安全と判断 |
| 注入 | 精製アルギン酸フィラーで肉芽腫 | 皮内注射の話。CIRは化粧品使用に無関係と判断 |
| 不純物 | 天然由来の原料 | Panelは多糖ガム全般に cGMP による管理を要請 |
| 経口 | 大量摂取で緩下作用の可能性 | 食品の評価。ADIは特定不要とされ、塗る場面とは別 |
(出典: CIR 2015 / 食品安全委員会 2006)
4. 相性の良い・悪い成分
4.1 併用推奨
アルギン酸Naは処方の中で単独で完結する成分ではなく、組み合わせで役割が決まる。自社マスターの2製品と製造元の説明から読めるパターンは3つある。
1つ目は、別の増粘剤との組み合わせ。P104 ではアルギン酸Naの次にヒドロキシプロピルメチルセルロース(セルロース誘導体の増粘剤)が並び、P133 では23位にカルボマーが入る(出典: DappNotes 商品マスター集計)。増粘剤は種類ごとに、とろみの質、塩やpHへの強さ、透明感などが違うため、複数を組み合わせて使い心地を調整するのは一般的な設計にあたる。ただし成分表から、どの増粘剤がどの役を担っているかまでは分からない。
2つ目は、カルシウム源との組み合わせ。モデリングパックやピールオフパックでは、アルギン酸Naとカルシウム塩がセットで入り、水を加えるとゲルになる(出典: キミカ)。この場合、カルシウム源と、固まる速さを調整する成分(リン酸塩など)が欠かせない相方になる(出典: Lee & Mooney 2012)。
3つ目は、洗浄基剤との組み合わせ。2製品とも石けん系の洗浄基剤(脂肪酸+水酸化カリウム)で、アルギン酸Naは洗浄そのものではなく、中身のとろみや泡の質感を支える側にいる(出典: DappNotes 商品マスター集計)。
4.2 併用注意
アルギン酸Naは処方設計者が扱う成分で、消費者が「この成分と一緒に使ってはいけない」と気にする種類のものではない。処方の側で知られている相性を2つ挙げる。
1点目は、カルシウムなどの2価イオン。とろみ付けで使いたい液体製品にカルシウムが混ざると、意図しないところでゲル化が起こりうる(出典: Lee & Mooney 2012)。そのためアルギン酸Naを増粘に使う処方では、カルシウムの入り方に気を配る必要がある。P133 ではアルギン酸Naのすぐ後にキレート剤のペンテト酸5Naが並ぶが、表示の後半は順不同で書けるため、隣り合うことを両者の関係の根拠にはできない(出典: DappNotes 商品マスター集計)。言えるのは、キレート剤はカルシウムを封じる成分で、アルギン酸のゲル化とはカルシウムを奪い合う関係にある、という一般論までにあたる(出典: 食品安全委員会 2006)。
2点目は、低いpH。アルギン酸の溶液はpHが下がると粘度が上がり、pH3〜3.5付近で最大になる(出典: Lee & Mooney 2012)。酸性の強い処方ではふるまいが変わるため、設計の側で調整される。
使う側の留意点は、パックの使い方にある。モデリングパックは製品の指定どおりの時間で水と練り、指定の時間ではがすのが基本で、髭剃り直後や肌が荒れているときは避けるのが無難にあたる。
4.3 類似成分
アルギン酸Naに近い成分は、「同じ増粘剤の仲間」と「同じ海藻から来る成分」の2つの側にいる。まず増粘剤の側を整理する。
| 成分 | 由来 | jcln の配合目的 | 固まり方の特徴 |
|---|---|---|---|
| アルギン酸Na(本成分) | 褐藻の多糖を抽出・精製 | 結合剤/香料/親水性増粘剤 | 水でとろみ。カルシウムでゲル化 |
| キサンタンガム | 糖を微生物(Xanthomonas campestris)で発酵させた多糖 | 結合剤/乳化安定剤/乳化剤/親水性増粘剤ほか | 水でとろみ |
| カルボマー | 架橋したアクリル酸の合成ポリマー | 乳化安定剤/親水性増粘剤 | 中和すると膨らんでゲル状になる |
| ヒドロキシプロピルメチルセルロース | セルロース(メチルセルロース)の誘導体 | 粘着剤/結合剤/乳化安定剤/皮膜形成剤/親水性増粘剤 | 水でとろみ |
(出典: Cosmetic-Info.jp / 各成分記事)
キサンタンガムとはどちらも天然由来の多糖で、陰イオン性(マイナスの電荷を帯びる)という点でも近い。違いは由来で、キサンタンガムは微生物の発酵でつくり、アルギン酸Naは海藻から取る(出典: Cosmetic-Info.jp)。カルボマーは合成のポリマーで、中和して使う透明ジェルの基剤として知られる。3つともとろみをつける仕事は共通だが、カルシウムでゲルに変わる性質はアルギン酸類に特有で、はがすタイプのパックの素材になれるのはこの性質による(出典: Lee & Mooney 2012 / キミカ)。
次に海藻の側。ここが最も誤解されやすい。
| 成分 | 中身 | 表示名称の定義 |
|---|---|---|
| アルギン酸Na(本成分) | アルギン酸という多糖1種類のナトリウム塩 | アルギン酸のナトリウム塩 |
| 褐藻エキス | 褐藻から取り出した混合物 | 褐藻類の全藻のエキス |
| 海藻エキス | 藻の種類を問わない総称のエキス | 藻種・抽出条件で連番が分かれる |
(出典: Cosmetic-Info.jp / 医薬部外品の成分表示名称リスト)
褐藻エキスと海藻エキスは、海藻の中身(多糖・ミネラル・色素・ポリフェノールなど)をまとめて取り出したエキスで、アルギン酸はその中に含まれうる成分の1つにすぎない。一方のアルギン酸Naは、アルギン酸だけを抽出・精製したもので、組成がはっきりしている。
ただし境目は単純ではない。医薬部外品の成分表示名称リストでは、「海藻エキス(2)」の本質が「褐藻類の全藻から塩化ナトリウム溶液で抽出して得られるエキスで、主としてアルギン酸からなる」と定義されている(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト)。つまりエキスの中には、アルギン酸が主成分のものもある。逆に、CIRの褐藻由来成分報告書には、ヒバマタのエキスをつくる工程で塩化カルシウムを加えてアルギン酸塩を沈殿させ、取り除く製法も載っている(出典: CIR 2019)。同じ「褐藻のエキス」でも、アルギン酸を多く含むものもあれば、あえて除いたものもある。
実用上の読み方は、エキスの名前からアルギン酸の量は読めない、アルギン酸Naと書いてあればアルギン酸の塩そのもの、という区別になる。同じ海藻から来ても、エキスと精製した多糖は別の成分として扱われる。なおCIRの褐藻由来成分報告書は、アルギン酸はすでに安全と評価済みとして、評価対象から外している(出典: CIR 2019)。
最後に、本記事が属する「製品を保つ補助成分」の並びでの位置を示す。主役の効果ではなく、製品を最後まで使える状態に保つために少量入る成分の比較にあたる。
| 成分 | 仕事 | 何を保つか |
|---|---|---|
| ソルビン酸K | 腐らせない(防腐) | 微生物による劣化を防ぐ |
| ヒドロキシアセトフェノン | 腐らせない(防腐補助) | 微生物による劣化を防ぐ |
| クロラミンT | 腐らせない(防腐・殺菌) | 微生物による劣化を防ぐ |
| エチドロン酸4Na | 金属を封じる(キレート) | 金属イオンによる変色・劣化を防ぐ |
| EDTA類(エデト酸塩) | 金属を封じる(キレート) | 金属イオンによる変色・劣化を防ぐ |
| リン酸Na | pHを保つ(緩衝) | pHの変動を抑える |
| リン酸水素2Na | pHを保つ(緩衝) | pHの変動を抑える |
| アルギン酸Na(本成分) | 形を保つ(増粘・ゲル化) | とろみ・ゲルの形を保つ |
| キサンタンガム | 形を保つ(増粘) | とろみ・乳化の安定を保つ |
(出典: 各成分記事)
成分表の後半に並ぶ短い名前の多くは、この表のような「製品を保つ部品」にあたる。量は少なく、主役の効果を担うものではない。
5. よくある質問
Q1. アルギン酸Naとキサンタンガムは何が違いますか
どちらも水にとろみをつける天然由来の多糖ですが、由来と固まり方が違います。キサンタンガムは糖を微生物で発酵させてつくり、アルギン酸Naは褐藻から抽出・精製します(出典: Cosmetic-Info.jp)。最大の違いは、アルギン酸Naがカルシウムに出会うとゲルに変わる点で、粉を水で練って固めるモデリングパックの素材になれるのはこの性質によります(出典: Lee & Mooney 2012 / キミカ)。洗顔料や化粧水でとろみ付けに少量入る場合は、どちらも「形を保つ部品」という点で役割は近くなります。
Q2. 海藻エキスや褐藻エキスと同じものですか
別の成分です。褐藻エキスや海藻エキスは、海藻の中身をまとめて取り出したエキスで、多糖・ミネラル・色素などが混ざっています。アルギン酸Naは、その中の多糖アルギン酸だけを精製したナトリウム塩です(出典: Cosmetic-Info.jp / 医薬部外品の成分表示名称リスト)。エキスの中にはアルギン酸が主成分のものもあれば、製法の途中でアルギン酸を取り除いたものもあり(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト / CIR 2019)、エキスの名前からアルギン酸の量は読めません。
Q3. 胃薬にも使われる成分と聞きました。肌にも薬のような効果がありますか
ありません。アルギン酸ナトリウムは医療用の胃薬(内服液)の有効成分で、胃や十二指腸の粘膜に付着して保護する働きが説明されています(出典: KEGG MEDICUS)。ただしこれは処方された薬として飲んだ場合の話です。化粧品に入るアルギン酸Naは添加成分で、承認された効能はなく、役割はとろみ付けやゲル化といった処方の中の仕事にとどまります。
Q4. モデリングパックで毛穴の汚れが取れるのは、この成分の効果ですか
製造元は、ゲルになったパックが毛穴の汚れや角栓などを捕まえながらはがれると説明しています(出典: キミカ)。これはゲルが表面のものをくっつけてはがすという物理的な仕組みの説明で、アルギン酸Naが肌の状態を変える効能ではありません。「毛穴が引き締まる」「肌質が変わる」といった効果を成分に結びつけることはできません。
Q5. 安全性に問題はありませんか
CIRは2015年の最終報告書で、アルギン酸Naを「現行の使用実態・使用濃度において安全」と結論し、但し書きは付いていません(出典: CIR 2015)。20%水溶液を男性12人に貼付した試験でも刺激・感作とも陰性でした。泥パックの最大50%に見合う試験データが無いことはPanel自身が認めていますが、類似成分のデータと臨床経験から安全と判断されています。食品でも昭和32年から指定添加物として使われています(出典: 食品安全委員会 2006)。製品全体では他の成分も入るため、敏感肌の人はパッチテストで相性を確かめると安心です。
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本記事に関する注記
- 本記事は特定商品の効果を保証するものではありません。成分の働きには個人差があり、体質・肌質により合わない場合があります。
- 肌に赤み・かゆみ・刺激等の異常が出た場合は使用を中止し、症状が続く・悪化する場合は皮膚科等の医療機関にご相談ください。傷・炎症のある肌への使用は避けてください。
- 本記事が参照するCIRの報告書は2015年10月22日公開の最終報告書(Final Report)です。
- 本記事に含まれる製品数の集計は DappNotes 商品マスター(2026年9月時点・スキンケア54製品/ヘアケア78製品)に基づく自社集計であり、市場全体の分布を示すものではありません。
- 医療用医薬品としてのアルギン酸ナトリウムへの言及は成分の背景説明であり、化粧品の効能を示すものではありません。服薬については医師・薬剤師にご相談ください。
- 本記事は成分の一般的な解説であり、化粧品・医薬部外品の効能効果は配合製品の承認・表示の範囲に従います。
- 外部の安全性指標(CIR等)は出典明記の参考値であり、絶対的な安全性を保証するものではありません。
- 本記事はAIによる下書きを編集部がレビュー・再構成して作成しています。
- 編集部レビュー済み・AI下書き活用