ヒドロキシアセトフェノンは、INCI名 Hydroxyacetophenone、CAS番号99-93-4の小さな有機化合物で、化粧品表示名称の配合目的は「酸化防止剤」と「皮膚コンディショニング剤」にあたる(出典: Cosmetic-Info.jp)。一方で原料メーカーは、この成分を「抗菌・防腐作用成分」「防腐剤の代替」「防腐成分の効きを高める」と説明して販売している(出典: Cosmetic-Info.jp 原料詳細)。成分表の後半に並ぶ「製品を保つ」ための補助成分の1つで、「防腐剤フリー」をうたう処方で見かけることが多いのは、この2つの顔の間に立つためだ。日本の化粧品基準は防腐剤を「微生物の発育を抑えることを目的として配合する物」と定義し、使える成分を別表第3のリストに限っているが、ヒドロキシアセトフェノンはそのリストに載っていない(出典: 化粧品基準)。本記事では、「フリーなのに入っているのはずるい」とも「リスト外だから肌に優しい」とも読まず、規制上の区分と実際の働き、そして安全性評価を分けて整理する。

1. ヒドロキシアセトフェノンの基本

1.1 何の成分か

名前を分解すると構造が見える。アセトフェノンは、ベンゼン環にアセチル基(CH3CO−)が1つ付いた、香料にも使われる単純な芳香族ケトンで、その環の4位(アセチル基の反対側=パラ位)に水酸基(−OH)が付いたものが、化粧品で使われるヒドロキシアセトフェノンにあたる。EUの化粧品成分データベース CosIng は化学名を「1-(4-ヒドロキシフェニル)エタノン」「p-ヒドロキシアセトフェノン」と記載し、CAS番号99-93-4もこの4’-体(パラ体)を指す(出典: EU CosIng)。化学式はC8H8O2、分子量は136.15になる(出典: CIR 2022)。

表示名称には「4-」も「p-」も付かないが、同じ「ヒドロキシアセトフェノン」でも水酸基の位置が違う2’-体・3’-体は別の化合物にあたる。化粧品の成分表の「ヒドロキシアセトフェノン」は、CAS番号で4’-体に固定された名前と読むのが正確になる。なお、水酸基の付かないアセトフェノン(CAS 98-86-2)も別物で、EUの科学委員会(SCCS)が2026年に予備意見(SCCS/1689/26)を公表したのはこのアセトフェノンのほうにあたる(出典: SCCS)。ヒドロキシアセトフェノンの安全性の話と混ぜないよう注意したい。

性質は、常温で白〜ベージュ色の固体で、融点は約110℃、水には1Lに約10g溶ける(出典: CIR 2022)。天然にも存在し、ドイツトウヒ(ヨーロッパトウヒ)の葉にはピセオール(piceol)という名前で乾燥重量の0.4〜1.1%含まれる(出典: CIR 2022)。化粧品原料としては、フェノールと無水酢酸から酢酸フェニルをつくり、フリース転位という反応で組み替えて精製する方法で合成される、と原料供給者は説明している(出典: CIR 2022)。つまり化粧品に入るのは植物から抽出したものではなく、合成品が基本と考えてよい。

食品との関わりもある。ヒドロキシアセトフェノンは食品香料として米国の香料業界団体 FEMA の GRAS(一般に安全と認められる物質)に指定され(FEMA No.4330)、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)も2011年に香料として安全上の懸念はないとしている(出典: CIR 2022)。

名前の扱いは次のとおり。化粧品表示名称は「ヒドロキシアセトフェノン」で、2014年10月発行の化粧品の成分表示名称リストNo.28で収載された比較的新しい名前にあたる(出典: Cosmetic-Info.jp)。医薬部外品の成分表示名称リスト(平成20年版)と、Cosmetic-Info.jp の医薬部外品添加物データベースでは名前が見つからなかった。平成20年版はそれより後に登場した成分を含まないため、これだけで「部外品には使えない」とは言えず、本記事では部外品の表示名称を空欄にしている。厚生労働省の薬用化粧品の有効成分リストにも名前はなく、医薬部外品の有効成分ではない。

1.2 どんな製品に配合されるか

米国の使用実態は、CIRの2022年最終報告書が参照する米FDAの届出制度(VCRP)で分かる。2022年のヒドロキシアセトフェノンの届出は791件で、うちリーブオン(洗い流さない製品)が671件、保湿製品が236件、顔・首用製品が202件だった(出典: CIR 2022)。洗い流す製品より、クリーム・乳液・美容液など肌に残る製品で多く使われている成分といえる。

原料の側では、Cosmetic-Info.jp に単一成分の原料が4件掲載されていて、いずれも表示名称は「ヒドロキシアセトフェノン」だけになる(出典: Cosmetic-Info.jp 原料詳細)。各社の説明を並べると、この成分の売られ方が分かる。

原料名(製造元)掲載されている説明(要約)
effisin HDA(アシュランド・ジャパン)多機能な抗菌・防腐作用成分。細菌・真菌に広い抗菌スペクトル。防腐成分のブースト効果。推奨添加率0.30〜1.00%
Microcare Antioxidant HAP(ソー・ジャパン)粉体。抗酸化剤。フェノキシエタノール程度の効果。細菌・酵母に効果。酸化・変色しやすい
PrzvFree 4HAP(Spec-Chem Industry)従来の防腐剤の代替として使える。他の防腐剤と併用で相乗効果。抗酸化作用と鎮静作用
Cosphaderm HAP(Cosphatec)水溶性の防腐剤代替原料。pH3〜9で使える

(出典: Cosmetic-Info.jp 原料詳細。いずれも各社の掲載情報で、公的な配合目的ではない)

公的な配合目的が「酸化防止剤」なのに、原料の説明の中心は「抗菌」「防腐剤代替」にある。このずれが、この成分をめぐる誤解の出発点になっている(2.3と3.3で詳しく扱う)。

自社の商品マスター(スキンケア54製品・ヘアケア78製品)では、ヒドロキシアセトフェノンを含むのは次の2製品だった(出典: DappNotes 商品マスター集計)。

製品タイプ本成分の順位全成分数近くに並ぶ「製品を保つ」系の成分
アミノ酸系シャンプー(P075)76位8374〜77位に1,2-ヘキサンジオール・エチルヘキシルグリセリン・本成分・カプリリルグリコール。化粧品基準の別表第3に載る防腐剤の名前は見当たらない
オールインワンローション(P110)8位576位にフェノキシエタノール(別表第3の防腐剤)、13位にエチルヘキシルグリセリン、14位にEDTA-2Na

(出典: DappNotes 商品マスター集計。P075 の全成分は正規取扱ECの表示による)

2製品は、同じ成分の2通りの使われ方を示している。P075 は別表第3の防腐剤を使わず、防腐を補助するとされる多機能成分を4つ並べた設計、P110 は別表第3のフェノキシエタノールと組み合わせた設計にあたる。どちらが優れているという話ではなく、ヒドロキシアセトフェノンは「防腐剤の代わり」にも「防腐剤の相棒」にも使われる、という実例として読める。

⚠️ 順位の読み方には注意が要る。全成分表示は原則として配合量の多い順だが、1%以下の成分は順不同で書いてよいため、P110 の8位も P075 の76位も配合量の根拠にはならない。成分表の後半は五十音順などで並べられることもあり、隣り合う成分が同じ原料から来ているとも言えない。

1.3 メンズ視点での見方

男性の肌は皮脂が多い一方で、毎日の髭剃りで角層に細かな負担がかかりやすい。このため「刺激の少ないもの」を選ぶ目安として「防腐剤フリー」「パラベンフリー」といった表示に目が向きやすい。

実用上の結論は、表示の「フリー」は「何が入っていないか」を示すもので、「何も刺激になりうるものが入っていない」ことを示すものではない、という点にある。成分表で「ヒドロキシアセトフェノン」を見つけたら、「この製品は別表第3の防腐剤の代わりに、あるいはそれと併せて、この成分で製品を保つ設計にしている」と読むのが正確で、刺激の有無は製品全体と自分の肌との相性で決まる。

2. 期待される働き・効果

2.1 メカニズム

ヒドロキシアセトフェノンの働きは、「公的な配合目的」と「原料メーカーの説明」の2層に分けて読む必要がある。

公的な配合目的=酸化防止剤。日本の化粧品表示名称データベース(jcln)の配合目的は「酸化防止剤」「皮膚コンディショニング剤(未分類)」、EUの CosIng は「ANTIOXIDANT(酸化防止)」のみ、CIRが参照する国際的な成分辞典の機能も「酸化防止剤・皮膚コンディショニング剤(その他)」になっている(出典: Cosmetic-Info.jp / EU CosIng / CIR 2022)。3つの資料がそろって防腐剤(preservative)を挙げていない点は押さえておきたい。ただし、なぜ酸化防止剤に分類されたのか、皮膚コンディショニング剤として具体的に何をするのかは、表示名称データベースからは読み取れない。構造にフェノール性の水酸基があることから「だから抗酸化」と因果で結ぶことは、本記事ではしない。

原料メーカーの説明=抗菌・防腐の補助。1.2の表のとおり、原料各社は「細菌・真菌に広い抗菌スペクトル」「防腐成分のブースト効果」「フェノキシエタノール程度の効果」「従来の防腐剤の代替」と説明している(出典: Cosmetic-Info.jp 原料詳細)。これらは各社の試験データに基づく販売上の説明で、どういう仕組みで微生物を抑えるのか、どの菌にどの濃度で効くのかを示した公的資料は、本記事の調査範囲では確認できていない。

学術側の見方としては、中国の研究グループが2024年に、乳幼児・敏感肌向け化粧品の防腐の傾向を調べた論文がある。市販品の表示と実測から、従来型の防腐剤7種(フェノキシエタノール・安息香酸(塩)・メチルパラベン・ベンジルアルコール・ソルビン酸(塩)・プロピルパラベン・メチルイソチアゾリノン)と、抗菌性をもつ代替成分11種を同定し、ヒドロキシアセトフェノンは後者の1つに数えられた(出典: Chen 2024)。同じ代替成分の側には、エチルヘキシルグリセリン・カプリリルグリコール・1,2-ヘキサンジオールなども入っている。論文は、多機能成分が従来の防腐剤を置き換えたり大きく減らしたりしうると結論する一方、微生物を加える負荷試験では、防腐系の組み方にかかわらず保存性が損なわれる条件があったとも報告している。

規制の線の引き方。日本の化粧品基準は、防腐剤を「化粧品中の微生物の発育を抑制することを目的として化粧品に配合される物」と、成分の種類ではなく配合の目的で定義し、防腐剤は別表第3に掲げる物でなければならないとしている(出典: 化粧品基準)。ヒドロキシアセトフェノンは別表第3にも、配合量を制限する別表第2にも載っていない。どの目的で配合したかは処方を組む側の設計の話で、成分表からは読み取れない。成分表に書かれた名前と公的な配合目的から言えるのは、「酸化防止剤として登録された成分が、防腐剤のリストの外で、製品を保つ仕組みの一部として使われている」というところまでにあたる。

2.2 一般的な効能範囲

日本でヒドロキシアセトフェノンは化粧品の成分で、医薬部外品の有効成分ではない。したがってこの成分に紐づく承認効能はなく、配合製品が言えるのは化粧品の効能の範囲にとどまる。

成立する説明は「処方の酸化を防ぐ目的で配合されている」「製品の品質を保つ仕組みの一部として配合されている」といった処方事実の側になる。原料の説明にある「鎮静作用」「抗刺激」といった言葉は原料メーカーの試験・販促の文脈の話で、日本の化粧品に配合されたヒドロキシアセトフェノンの効能として読むことはできない。「肌荒れを防ぐ」「炎症を抑える」といった表現は、化粧品の効能の範囲を超える。

2.3 限界・誤解されやすい点

ヒドロキシアセトフェノンをめぐって誤解されやすい点を4つ整理する。

1点目は、「防腐剤フリー=何も製品を保つ成分が入っていない」と思うこと。水を含む化粧品は、開封後に手や空気から微生物が入る。防腐剤を使わない処方でも、多くは何らかの方法で製品を保つ設計をしていて、その部品の1つがヒドロキシアセトフェノンや1,2-ヘキサンジオールのような多機能成分にあたる(出典: Chen 2024)。P075 はまさにこの型で、別表第3の防腐剤の名前は見当たらない一方、製品を保つ側の成分が4つ並んでいる(出典: DappNotes 商品マスター集計)。

2点目は、「防腐剤フリーなのに防腐成分が入っているのはずるい」と読むこと。ヒドロキシアセトフェノンは全成分表示に名前が出る成分で、隠されているわけではない。公的な配合目的は酸化防止剤で、規制上の防腐剤(別表第3)には当たらない。また、業界の広告ガイドラインは、「無添加」等の表現について、何を添加していないのかが不明な使い方は不正確だとし、添加していない成分を明示し、安全性の保証や他社の誹謗にならない範囲で使うよう求めている(出典: 化粧品等の適正広告ガイドライン)。「防腐剤フリー」の表示を見たら、「何を入れていないと言っているのか」を読み、そのうえで成分表で「何が入っているか」を確かめるのが、表示の正しい読み方になる。

3点目は、「リスト外だから防腐剤より安全・肌に優しい」と読むこと。別表第3に載っていないのは、この成分が防腐剤という区分で登録されていないからで、「防腐剤より刺激が少ないと確認された」からではない。ヒドロキシアセトフェノンには独自の安全性データがあり、CIRは安全と評価している一方、接触皮膚炎の症例報告もある(3.1)。前述の2024年の論文も、今後は多機能成分そのものの安全性に注意を向ける必要があると結んでいる(出典: Chen 2024)。

4点目は、アセトフェノンと同じものと思うこと。1.1のとおり、水酸基の付かないアセトフェノンは別の化合物で、安全性の評価も別に行われている。名前が似ていても、片方の評価をもう片方に当てはめることはできない。

3. 安全性・注意点

3.1 既知の刺激性・アレルギー報告

公的評価の中心は、CIR(Cosmetic Ingredient Review)の最終報告書『Safety Assessment of Hydroxyacetophenone as Used in Cosmetics』(Status: Final Report、2022年10月11日公開、2022年9月の専門家パネル会議で確定)にあたる。ヒドロキシアセトフェノン1成分を対象にした単独の評価で、結論は「現行の使用実態・使用濃度において化粧品に安全」(safe in cosmetics in the present practices of use and concentration described in this safety assessment)と、但し書きのない形になった(出典: CIR 2022)。

Panelが根拠に挙げたのは、食品香料としてのGRAS指定、最大使用濃度の5%でモルモットの感作性試験とヒトの反復パッチ試験(HRIPT)に刺激・感作がなかったこと、全体として良好な毒性プロファイル、複数の遺伝毒性試験が陰性で構造上の警告もないこと、の4点になる(出典: CIR 2022)。報告書に載るヒトの試験を並べると次のとおり。

試験条件結果
単回閉塞パッチ試験本成分0.2mL・53人刺激なし
単回閉塞パッチ試験0.05%配合のSPFクリーム・22人刺激なし
21日累積刺激試験0.05%配合のSPF70クリーム・32人刺激性はごく低い
反復パッチ試験(HRIPT)0.5%配合のSPFクリーム・103人感作なし
反復パッチ試験(HRIPT)5%配合の試料(グリセリン中)・104人感作なし(誘導期に1人が軽い反応)

(出典: CIR 2022)

注意点として報告書が明記するのは目への刺激だ。ウサギの眼に原末(薄めない粉)を入れた2つの試験で強い刺激が出たため、Panelは、目の近くに使う製品(米国では目元用ローション・メイク落としで最大0.23%)を処方する際は眼刺激の可能性に配慮し、刺激にならない処置をとるよう製造者に求めている(出典: CIR 2022)。原末での結果であり、製品中の濃度でそのまま起きるという意味ではない。

もう1つはアレルギー性接触皮膚炎の症例報告だ。CIRの報告書には、顔用クリームを使って7か月まぶたの皮膚炎が続いた79歳男性の例が載っていて、成分ごとのパッチテストでヒドロキシアセトフェノン(0.6%水溶液)だけが陽性、使用中止で再発しなかった(出典: CIR 2022 / Sanz-Sánchez 2018)。CIRの評価後も、皮膚科の専門誌 Contact Dermatitis には、抗しわ美容液(2023年)、日焼け止めで光により悪化した例(2025年)、敏感肌向けの目元用保湿剤(2026年)、2症例の報告(2026年)と、ヒドロキシアセトフェノンが原因とされた症例報告が続いている(出典: PubMed 収載の症例報告)。

これらの読み方には2つの注意が要る。1つは、症例報告は「起きうる」ことを示すもので、どれくらいの頻度で起きるかは分からないこと。もう1つは、CIRの結論(安全)と症例報告は矛盾するものではなく、多くの人で問題にならない成分でも、ごく一部の人が感作されることはどの化粧品成分にもありうる、ということにあたる。製品には香料・植物エキス・他の保存系成分も入るため、合わないと感じたときに原因を1つに決めるのは皮膚科でのパッチテストの仕事になる。

3.2 推奨配合量と過剰配合時のリスク

日本の化粧品基準にヒドロキシアセトフェノンの配合上限の定めはない。別表第3(防腐剤)にも別表第2(配合制限成分)にも載っていないためで、EUでも化粧品規則上の制限はない(出典: 化粧品基準 / CIR 2022 / EU CosIng)。

参考になるのは使用実態の数字で、CIRが参照する2020年の米国の使用濃度調査では、最大使用濃度は0.00009〜5%だった(出典: CIR 2022)。

用途最大使用濃度
ナイト用製品(スプレー以外)・ペーストマスク・泥パック5%
リーブオン全体0.02〜5%
リンスオフ全体0.000099〜5%
目元用ローション・メイク落とし0.23%
ヘアスプレー(エアゾール)0.5%
保湿スプレー0.3%

(出典: CIR 2022 Table 2 ほか本文)

原料メーカーの推奨添加率の例は0.30〜1.00%(effisin HDA)で(出典: Cosmetic-Info.jp 原料詳細)、防腐を補助する目的の配合量はこのくらいの幅と読める。

「過剰配合時のリスク」を実態に即して言えば、上限のない成分でも、濃度が上がれば刺激や感作の機会は増えうる、という一般論にとどまる。CIRのHRIPTは5%配合で感作なしだったが、症例報告の患者でパッチテスト陽性になったのは0.6%水溶液だった(出典: CIR 2022)。一度感作された人にとっては、低濃度でも反応の原因になりうる。

3.3 「危険性」と言われる根拠と実態の整理

ヒドロキシアセトフェノンが話題になるときの論点は3つある。

論点1:防腐剤のリストに載っていない。これは規制上の区分の話で、危険性の話ではない。化粧品基準の別表第3は、防腐剤として使ってよい成分と上限を定めたリストで、ヒドロキシアセトフェノンは酸化防止剤として登録された成分のため、そもそもその枠組みの外にいる(出典: 化粧品基準 / Cosmetic-Info.jp)。「リスト外=規制されていない危ない成分」でも「リスト外=防腐剤より安全」でもない。

論点2:接触皮膚炎の症例報告。報告は実在し、2018年以降複数ある(出典: PubMed 収載の症例報告)。一方でCIRは、ヒトの試験データを踏まえて安全と評価している(出典: CIR 2022)。症例報告は頻度を示さないため、「危険な成分」とも「誰にも起きない成分」とも言えない。過去に化粧品でかぶれて原因が分からなかった人は、皮膚科でのパッチテストの候補として知っておく価値がある。

論点3:目に入ったとき。原末で強い眼刺激が出たのは事実で、Panelは目元製品での配慮を求めている(出典: CIR 2022)。洗顔料・シャンプーなど目に入りうる製品は、目に入ったらすぐ洗い流すという、ほかの製品と同じ扱いになる。

観点語られる根拠実態の整理
規制防腐剤リスト(別表第3)に載っていない公的な配合目的は酸化防止剤で、防腐剤の区分の外。危険とも安全とも示さない
「フリー」表示防腐剤フリーなのに防腐を助ける成分が入る成分表に名前は出る。表示は「何を入れていないか」を明示して使うもの
皮膚接触皮膚炎の症例報告報告は実在。CIRはHRIPT等を踏まえ安全と評価。頻度は症例報告からは分からない
目ウサギの眼で強い刺激(原末)Panelは目元製品での処方配慮を要請。製品濃度での結果ではない

(出典: 化粧品基準 / Cosmetic-Info.jp / 化粧品等の適正広告ガイドライン / CIR 2022 / PubMed 収載の症例報告)

4. 相性の良い・悪い成分

4.1 併用推奨

ヒドロキシアセトフェノンは単独で製品を保つ主役というより、ほかの成分と組んで働く補助の側にいる。自社マスターの2製品と原料の説明から読める組み合わせは3つある。

1つ目は、多機能成分どうしの組み合わせ。P075 では74〜77位に1,2-ヘキサンジオール・エチルヘキシルグリセリン・ヒドロキシアセトフェノン・カプリリルグリコールが並ぶ(出典: DappNotes 商品マスター集計)。4つとも化粧品基準の別表第3には載っておらず、2024年の論文で「抗菌性をもつ代替成分」として同定された顔ぶれでもある(出典: Chen 2024)。1成分に頼らず、性質の違う成分を少しずつ重ねて製品を保つ設計にあたる。

2つ目は、別表第3の防腐剤との併用。P110 では6位にフェノキシエタノール、8位にヒドロキシアセトフェノン、13位にエチルヘキシルグリセリンが入る(出典: DappNotes 商品マスター集計)。原料メーカーが「防腐成分のブースト効果」「他の防腐剤と併用で相乗効果」と説明する使い方に沿った組み方で(出典: Cosmetic-Info.jp 原料詳細)、防腐剤の量を抑えたいときの選択肢として使われる。

3つ目は、キレート剤・他の酸化防止剤との組み合わせ。P110 にはEDTA-2Na(金属イオンを封じるキレート剤)やアスコルビン酸・トコフェロール(酸化防止)も入り、P075 にはグルコン酸Na(キレート)が入る(出典: DappNotes 商品マスター集計)。製品を保つ仕組みは防腐だけでなく、金属を封じる・酸化を防ぐ・pHを保つといった複数の部品の組み合わせでできている。

4.2 併用注意

ヒドロキシアセトフェノンは処方設計者が扱う補助成分で、消費者が「この成分と一緒に使ってはいけない」と気にする種類のものではない。使い方の留意点は3つある。

1点目は、目元への使用。原末での強い眼刺激の報告があり、CIRのPanelが目元製品での配慮を求めている(出典: CIR 2022)。目元に使う製品は、目に入らないよう塗る量と位置に気をつけたい。

2点目は、過去に原因不明のかぶれがあった場合。ヒドロキシアセトフェノンは2014年に表示名称が付いた比較的新しい成分で、本記事で確認した症例報告はいずれも2018年以降のもの(出典: Cosmetic-Info.jp / PubMed 収載の症例報告)。化粧品でかぶれた経験があり原因が特定できていない人は、皮膚科でのパッチテストで本成分を候補に入れてもらうと手がかりになりうる。

3点目は、「フリー」表示だけで選ばないこと。防腐剤フリーの製品でも、製品を保つための多機能成分は入っていることが多い(出典: Chen 2024)。肌に合う・合わないは表示の言葉ではなく、成分表全体と自分の肌との相性で決まる。

4.3 類似成分

本成分が属する「製品を保つ補助成分」の仲間を、仕事ごとに並べる。

成分仕事日本の化粧品基準での扱い
ソルビン酸K腐らせない(防腐)別表第3「ソルビン酸及びその塩類」合計0.50g/100gまで
ヒドロキシアセトフェノン(本成分)腐らせない(防腐の補助)+酸化防止別表第2・第3のいずれにも記載なし(公的な配合目的は酸化防止剤)
クロラミンT腐らせない(防腐・殺菌)別表第3で、洗い流すもの0.30g・洗い流さないもの0.10g/100gまで、粘膜に使用されることがある化粧品は配合不可
エチドロン酸4Na金属を封じる(キレート)防腐剤ではないため別表第3の対象外
リン酸NapHを保つ(緩衝)防腐剤ではないため別表第3の対象外
アルギン酸Na形を保つ(増粘・ゲル化)防腐剤ではないため別表第3の対象外
フェノキシエタノール腐らせない(防腐)別表第3で1.0g/100gまで
1,2-ヘキサンジオール/カプリリルグリコール保湿・防腐の補助別表第2・第3のいずれにも記載なし

(出典: 化粧品基準 / 各成分記事)

同じ「腐らせない」側でも、ソルビン酸K・クロラミンT・フェノキシエタノール・メチルパラベン・安息香酸Naは、別表第3に名前と上限が書かれた「規制上の防腐剤」にあたる。ヒドロキシアセトフェノンと1,2-ヘキサンジオール・カプリリルグリコール・エチルヘキシルグリセリンは、別表第3の外にいて、防腐以外の配合目的で登録されながら製品を保つ仕組みの一部を担う側に立つ。

違いは「どちらが強い・安全か」ではなく、規制の枠組みのどこに置かれているかにある。別表第3の防腐剤は上限つきで使える成分が国に決められていて、上限の中で使われる。多機能成分の側は上限の定めがない代わりに、原料ごとの安全性評価(本成分ならCIRの2022年報告書)と処方者の設計に委ねられている。

EDTA類・エチドロン酸などのキレート剤、クエン酸・リン酸2NaなどのpH調整・緩衝剤、キサンタンガムなどの増粘剤は、微生物を抑えるのではなく、金属・pH・形の面から製品を保つ別の部品にあたる。成分表の後半に並ぶ短い名前は、それぞれ別の仕事を分担していると読むのが正確になる。

5. よくある質問

Q1. ヒドロキシアセトフェノンは防腐剤ですか

日本の規制上は防腐剤ではありません。化粧品基準は防腐剤として使える成分を別表第3に限っていて、ヒドロキシアセトフェノンはそこに載っていません(出典: 化粧品基準)。化粧品表示名称の配合目的は「酸化防止剤」「皮膚コンディショニング剤」で、EUやCIRの資料でも機能は酸化防止剤とされています(出典: Cosmetic-Info.jp / EU CosIng / CIR 2022)。一方で原料メーカーは、抗菌性をもち防腐剤の効きを補う成分、防腐剤の代替になる成分として説明しています(出典: Cosmetic-Info.jp 原料詳細)。「規制上の区分は酸化防止剤、原料の売られ方は防腐の補助」と分けて理解するのが正確です。

Q2. 「防腐剤フリー」の製品にヒドロキシアセトフェノンが入っているのは、ごまかしですか

ごまかしとは言えません。ヒドロキシアセトフェノンは全成分表示に名前が出る成分で、隠されてはいません。業界の広告ガイドラインも、「無添加」等の表現は何を添加していないのかを明示して使うよう求めています(出典: 化粧品等の適正広告ガイドライン)。「防腐剤フリー」は「別表第3の防腐剤を使っていない」という意味に読み、製品を保つ仕組みがゼロという意味には読まないのが正確です。気になる場合は、表示が何を入れていないと言っているかと、成分表に何が入っているかの両方を確認してください。

Q3. 防腐剤のリストに入っていないなら、パラベンなどより肌に優しいのですか

そうとは言い切れません。リストに入っていないのは防腐剤という区分で登録されていないためで、防腐剤より刺激が少ないと確かめられたからではありません。CIRは2022年にヒドロキシアセトフェノンを「現行の使用実態・使用濃度において安全」と評価しています(出典: CIR 2022)が、この成分が原因とされる接触皮膚炎の症例報告も2018年以降複数あります(出典: PubMed 収載の症例報告)。どの成分が合うかは人によって違い、表示の言葉より自分の肌での相性で判断するのが現実的です。

Q4. アセトフェノンと同じものですか

違います。ヒドロキシアセトフェノン(CAS 99-93-4)は、アセトフェノンのベンゼン環の4位に水酸基が付いた別の化合物です(出典: EU CosIng)。EUの科学委員会(SCCS)が2026年に予備意見を公表したのは水酸基の付かないアセトフェノン(CAS 98-86-2)のほうで、ヒドロキシアセトフェノンの評価ではありません(出典: SCCS)。

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本記事に関する注記

  • 本記事は特定商品の効果を保証するものではありません。成分の働きには個人差があり、体質・肌質により合わない場合があります。
  • 肌に赤み・かゆみ・刺激等の異常が出た場合は使用を中止し、症状が続く・悪化する場合は皮膚科等の医療機関にご相談ください。傷・炎症のある肌への使用は避けてください。
  • 本記事が参照するCIRの報告書は2022年10月11日公開の最終報告書(Final Report)です。同じ題名の草案版(Draft Report・Draft Final Report)は引用していません。
  • 原料メーカーの説明は Cosmetic-Info.jp に掲載された各社の情報によるもので、公的な配合目的や効能ではありません。
  • 本記事に含まれる製品数の集計は DappNotes 商品マスター(2026年9月時点・スキンケア54製品/ヘアケア78製品)に基づく自社集計であり、市場全体の分布を示すものではありません。P075 の全成分は正規取扱ECの表示によります。
  • 本記事は成分の一般的な解説であり、化粧品・医薬部外品の効能効果は配合製品の承認・表示の範囲に従います。
  • 外部の安全性指標(CIR等)は出典明記の参考値であり、絶対的な安全性を保証するものではありません。
  • 本記事はAIによる下書きを編集部がレビュー・再構成して作成しています。
  • 編集部レビュー済み・AI下書き活用