イチョウ葉エキスは、イチョウ(Ginkgo biloba)の葉のエキスで、化粧品表示名称で登録されている配合目的は皮膚コンディショニング剤(未分類)だけである(出典: Cosmetic-Info.jp)。医薬部外品の成分表では「イチョウエキス」と書かれるが、定義はどちらも葉のエキスで、名前が違っても同じ葉のエキスを指す。

イチョウといえば、記憶力のサプリメントや、落ちた銀杏でかぶれる話を思い浮かべる人が多い。本記事では、その2つの「有名な話」と化粧品成分としての登録を切り分け、米国CIRがかぶれの原因物質とされるギンコール酸をどう扱ったかを整理する。

1. イチョウ葉エキスの基本

1.1 何の成分か

化粧品表示名称「イチョウ葉エキス」(成分番号557766)の定義は「本品は、イチョウ Ginkgo biloba の葉のエキスである。」で、INCI名は Ginkgo Biloba Leaf Extract である。旧称欄には Ginkgo Biloba Extract や Ginkgo Extract が残っていて、国際名も以前は部位の語を含まない形だったことが分かる(出典: Cosmetic-Info.jp)。2003年発行の化粧品の成分表示名称リストNo.13で収載された名前である。

イチョウはイチョウ科の落葉高木で、街路樹や公園の木として身近にある。秋に落ちる「銀杏(ぎんなん)」は種子で、食べる部分はその中身、においの強い黄色い果肉のように見える部分は外種皮にあたる。本成分はそのどちらでもなく、葉から取ったエキスである。「銀杏」という漢字は木そのものを指すこともあり、配合例の商品を出すメーカーは原料のカタログ上の名前を「銀杏葉エキスF」と書いている(出典: オルビス 全成分配合目的)。漢字の「銀杏」を見ても、種子の話か葉の話かは語の続きで判断する必要がある。

エキスは、葉を水・エタノール・BGなどの溶媒で抽出した液で、原料はその抽出液を溶媒で薄めた形で供給されることが多い。医薬部外品の規格では、本質を「葉から水、エタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール又はこれらの混液で抽出して得られるエキス」、性状を「黄褐色〜褐色の液で、特異なにおいがある」と定めている(出典: 医薬部外品原料規格2021)。

規制上は、有効成分ではない添加成分に分類される。厚生労働省の『いわゆる薬用化粧品中の有効成分リスト』には、イチョウの語で掲載が見当たらない。同リストは有効成分の規格と分量の前例を集めた文書で、載っていないことが有効成分になれない根拠になるわけではないが、本成分を部外品の有効成分として扱う公的な前例は、本稿の確認範囲では見つからなかった。

1.2 化粧品名と部外品名: 名前が違っても同じ葉のエキス

成分表では、同じ葉のエキスが2つの名前で出てくる。

資料名前定義・本質
化粧品表示名称(現行)イチョウ葉エキス(557766)イチョウの葉のエキス
化粧品表示名称(旧名)イチョウエキス(550710)イチョウの葉のエキス(同文)
部外品添加物(Cosmetic-Info.jp)イチョウエキス(規格コード51・成分コード520124)葉から水・エタノール・PG・BG又はこれらの混液で抽出したエキス
医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版イチョウエキス(連番216)同上
原料製造元(丸善製薬「和ism」イチョウ)化粧品表示名称「イチョウ葉エキス、BG、水」/医薬部外品表示名称「イチョウエキス」—

(出典: Cosmetic-Info.jp 化粧品表示名称・部外品添加物 / 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版 / 丸善製薬 化粧品原料 製品一覧)

化粧品側の「イチョウエキス」は、Cosmetic-Info.jpで「この表示名称には改正表示名称が設定されています」と案内される旧名で、改正後の名前がイチョウ葉エキスである。定義もINCI名も一字一句同じで、名前に部位の「葉」を足しただけの改正にあたる。部外品側の「イチョウエキス」も、本質を読むと原料は葉に限られている。化粧品の現行名・旧名・部外品名の3つがそろって葉のエキスを指しているので、成分表の「イチョウエキス」は、化粧品でも部外品でも本成分と同じ葉のエキスとして読める。ただし、個々の商品が同じ原料を使っているかまでは表示から分からない。

原料製造元の表記も同じ対応になっている。丸善製薬の化粧品原料一覧では、素材名イチョウの原料「和ism」について、化粧品表示名称を「イチョウ葉エキス、BG、水」、医薬部外品表示名称を「イチョウエキス」と並べて載せている(出典: 丸善製薬 化粧品原料 製品一覧)。配合例の商品がこの原料を使っているかは、成分表示からは分からない。

化粧品の旧名が今の名前に置き換わった後も、市販品の登録はほとんどが新しい名前に移っている。Cosmetic-Info.jpに登録された市販化粧品は、イチョウ葉エキスが742件、旧名のイチョウエキスが1件だった。一方、部外品添加物の「イチョウエキス」で表示された市販の医薬部外品は99件登録されている(2026年9月確認)。化粧品の棚では「イチョウ葉エキス」、薬用の棚では「イチョウエキス」と、売り場によって見かける名前が変わると考えればよい。

同じ植物・同じ部位の原料でも、化粧品と医薬部外品で表示名が違うことがある。名前が違っても同じ原料と言える場合と、名前が同じでも別の原料を指す場合があり、同じ時期に解説した植物エキスでは次の4通りに分かれた。

成分(化粧品の名前)部外品での名前化粧品側に同じ文字列の名前はあるか読み方
イチョウ葉エキス(本成分)イチョウエキスある(旧名・定義は同じ葉のエキス)名前が違っても同じ葉のエキス
ゴレンシ葉エキススターフルーツ葉エキスない名前が違っても同じ葉のエキス
マタタビ果実エキスシルバーバイン果実エキスない名前が違っても同じ果実のエキス
サボンソウ葉エキスサボンソウエキス(葉)ある(ただし根及び葉のエキス)同じ文字列でも化粧品側は別の成分
セイヨウハッカ葉エキスセイヨウハッカエキス(葉)ある(ただし全草のエキス)同じ文字列でも化粧品側は別の成分
レモンエキスレモンエキスある(果実又は果汁のエキス)名前は同じだが、果実エキス・果汁とは定義の幅が違う別の登録

(出典: 各成分の Cosmetic-Info.jp 化粧品表示名称・部外品添加物)

イチョウは、化粧品側の同じ文字列が「同じ定義の旧名」だったので、名前が違っても同じと言える側に入る。サボンソウやセイヨウハッカのように、同じ文字列が化粧品では別の部位を含む成分として登録されている場合は、文字が同じでも同じ原料とは読めない。

1.3 どんな製品に配合されるか

先に見たとおり、Cosmetic-Info.jpにはイチョウ葉エキスを含む市販化粧品が742件、部外品名イチョウエキスで表示された市販の医薬部外品が99件登録されている(2026年9月確認)。化粧水・乳液・美容液からシャンプーまで、植物エキスの1つとして幅広い製品に入る。

DappNotesの商品マスター(2026年9月時点・132製品)で本成分を確認できたのは、次の2品である。どちらも医薬部外品で、成分表の表記は部外品名の「イチョウエキス」だった。

商品区分剤形表示の欄
オルビス ミスター エッセンスローション医薬部外品化粧水(肌に残す)その他の成分
オルビス ミスター フォーミングウォッシュ医薬部外品洗顔料(洗い流す)その他の成分

(出典: オルビス公式商品ページの全成分表示)

2品とも、有効成分はグリチルリチン酸2Kで、イチョウエキスは「その他の成分」の側に書かれている。医薬部外品の成分表示は、日本化粧品工業連合会の自主基準として行われていて、成分を「有効成分」と「その他の成分」の2つのグループに分けて書く。そのうえで、有効成分の記載順は承認書の記載順、その他の成分の記載順は企業の判断とされている(出典: 日本化粧品工業連合会 医薬部外品の成分表示に係る基本方針)。化粧品のように「多い順に書く」決まりはないので、2品で本成分が何番目に書かれているかから配合量を推し量ることはできない。

メーカーの商品ページでは、イチョウエキスに「好印象なハリとツヤのある肌を目指す保湿成分」という注記が付いている(出典: オルビス公式商品ページ)。これはメーカーが自社の商品で本成分をどう位置づけているかの説明で、化粧品表示名称に登録された配合目的(皮膚コンディショニング剤)とは別の話になる。また、2品の商品ページで示されている「ニキビ・肌荒れを防ぐ」は、メーカーが有効成分グリチルリチン酸2Kの働きとして書いているもので、イチョウエキスの働きとして読むものではない。

1.4 成分表で見かけたときの見方

配合例の2品は、どちらも男性向けブランドの化粧水と洗顔料で、商品ページでは乾燥やテカリへのケアが打ち出されている。ただ、本成分そのものは性別を問わず化粧品・医薬部外品に広く使われる植物エキスで、見かけたときの読み方は誰でも同じになる。

見るべきは3点に絞れる。1つ目は名前で、「イチョウ葉エキス」でも「イチョウエキス」でも、化粧品・部外品の定義上は同じ葉のエキスを指す(§1.2)。2つ目は欄で、医薬部外品では有効成分の欄か、その他の成分の欄かを確認する。本成分は配合例でその他の成分の側に入っていた。3つ目は期待の置き方で、サプリメントや銀杏のイメージから何かを期待したり心配したりする前に、登録された配合目的が皮膚コンディショニング剤だけである点を押さえておく(§2)。

商品を選ぶ軸は、化粧水なら保湿の骨格と使い心地、洗顔料なら洗浄成分の種類、部外品なら有効成分とその効能になる。イチョウ葉エキスは、その上に重ねられた整肌目的の植物エキスの1つとして読むのが実態に近い。

2. 期待される働き・効果

2.1 登録されている配合目的

化粧品表示名称で登録されている配合目的は、皮膚コンディショニング剤(未分類)だけである(出典: Cosmetic-Info.jp)。旧名のイチョウエキスも同じ1つだけが登録されている。化粧品の中での役割は「肌の状態を整える」範囲で読むのが基本になる。

米国CIRの評価では、イチョウ由来の10成分について、化粧品での主な機能として皮膚コンディショニング剤と酸化防止剤が報告されている(出典: Burnett 2024 抄録)。これは米国で10成分全体について報告された機能のまとめで、日本の表示名称「イチョウ葉エキス」に酸化防止剤の配合目的が登録されているわけではない。日本の表示名称で酸化防止剤が登録されているのは、イチョウの名前の中では「イチョウ成長点細胞培養順化培養液」である(§3.4)。

イチョウの葉には、フラボノイドの配糖体やテルペンラクトン(ギンコライド類・ビロバライド)などが含まれる。欧州で医薬品として使われてきた葉の規格化エキスの例(EGb 761)では、フラボノール配糖体を24%、テルペンラクトンを6%含むように成分量がそろえられている(出典: Clostre 1999)。ただし化粧品の成分表の「イチョウ葉エキス」は、どの成分をどれだけ含むかをそろえた名前ではない。表示名称の定義は「葉のエキス」だけで、抽出の溶媒や濃さ、含まれる成分の量は原料ごとに違う。サプリメントの規格化エキスと、化粧品原料のイチョウ葉エキスは、同じ葉から取ったという点以外は同じものとして比べられない。

2.2 一般的な効能範囲

イチョウ葉エキスを配合した化粧品で表現できるのは、化粧品の効能の範囲のうち「肌を整える」「肌のキメを整える」「皮膚をすこやかに保つ」といった範囲である。医薬部外品に入っている場合も、本成分はその他の成分(添加成分)なので、商品の効能は有効成分について承認された内容に従う。

逆に、次のような表現を本成分の効能として書くことはできない。

  • 血行を促進する・血流をよくする
  • 肌の老化を防ぐ・若返らせる
  • 炎症を鎮める・ニキビを治す
  • 育毛・発毛を促す

「血行」や「育毛」は、イチョウ葉エキスのサプリメントやイメージと結びついて語られやすいが、化粧品の効能としては言えない領域で、医薬部外品でも承認された有効成分の効能として扱われるものである。

2.3 限界・誤解されやすい点: サプリメントの話は「飲む場合」の話

イチョウ葉エキスは、化粧品成分としてより先に、サプリメントの名前として知られている。検索でたどり着く人の多くも、「サプリのイチョウ葉と同じもの?」という疑問を持っているはずだ。

サプリメントとしての話は、経口(飲む場合)の話である。イチョウ葉エキスは、不安・心臓病・認知機能の低下と認知症・耳鳴りなど、多くの状態に向けたサプリメントとして宣伝されてきた。米国国立衛生研究所(NIH)の一部門である国立補完統合衛生センター(NCCIH)は、75歳以上の約3,000人をイチョウのサプリメント群と偽薬群に分けて中央値6年追った大規模試験(GEM試験)で、認知症・アルツハイマー病の発症率に差がなかったことを紹介し、どの健康状態に対しても有効という決定的な証拠はないとしている(出典: NCCIH『Ginkgo』2025年2月更新)。

この話を本成分に当てはめるときの注意は2つある。

1つ目は、経口の研究結果を、塗る化粧品の働きに借りられないこと。飲んだ成分が体内でどう働くかと、化粧品に配合された成分が肌の表面で何をするかは、別の問いになる。仮にサプリメントで何らかの働きが確かめられていたとしても、それが化粧品の本成分の働きの根拠にはならない。上で見たとおり、サプリメントとしての有効性自体にも決定的な証拠はない。

2つ目は、サプリメントの注意点も、経口の話として分けて読むこと。NCCIHは、ワルファリンなどの抗凝固薬を飲んでいる人ではイチョウが出血のリスクを高める可能性があること、生の銀杏(種子)は食べると有毒であることを挙げている(出典: NCCIH『Ginkgo』)。これらは飲む・食べる場合の注意で、化粧品を肌に使う場合について述べたものではない。逆に「化粧品に入っているなら飲んでも安全」とも読めない。

もう1つの誤解は、「エキス」という言葉から中身が決まっていると思うことである。§2.1で見たとおり、サプリメントの規格化エキスは成分量をそろえて作られるが、化粧品の「イチョウ葉エキス」は葉のエキスであることしか定義していない。同じ名前でも、比べられるのは「イチョウの葉から取った」という点までになる。

3. 安全性・注意点

3.1 CIRの評価: 葉由来の5成分は条件付きで安全

米国のCosmetic Ingredient Review(CIR)は、イチョウ単独の成分ごとではなく、イチョウ由来の10成分をまとめて評価している。最終報告は2018年10月付で、査読誌 International Journal of Toxicology には2024年に掲載された(出典: CIR Quick Reference Table / Burnett 2024)。

結論は、成分によって2つに分かれた。

結論対象の成分(INCI名)
現在の使用実態と濃度で、感作を起こさないよう処方すれば安全Ginkgo Biloba Leaf(葉)/ Leaf Cell Extract(葉細胞エキス)/ Leaf Extract(葉エキス=本成分) / Leaf Powder(葉粉末)/ Leaf Water(葉水)
想定される使用条件での安全性を判断するにはデータが不足Ginkgo Biflavones(ビフラボン)/ Biloba Meristem Cell(成長点細胞)/ Biloba Nut Extract(種子エキス)/ Biloba Root Extract(根エキス)/ Leaf Terpenoids(葉テルペノイド)

(出典: CIR Quick Reference Table 2022 / Burnett 2024 抄録。和訳の括弧書きは本稿による)

本成分の Ginkgo Biloba Leaf Extract は、条件付きで安全とされた葉由来5成分の1つに入っている。条件は「感作を起こさないよう処方すること(non-sensitizing)」で、処方する側に求められる条件である。成分そのものに感作性が一切ないという意味ではない。

評価の中でパネルが特に取り上げたのが、ギンコール酸である。抄録によると、パネルは化粧品にギンコール酸が含まれることに懸念を示し、業界に適正製造規範(GMP)で不純物を抑えるよう求めた。あわせて、1つの製品に複数の植物成分が入ると、それぞれに含まれる同じ懸念成分が重なりうるため、処方する側はその量に注意するよう呼びかけている(出典: Burnett 2024 抄録)。ギンコール酸が何かは§3.2で扱う。

一方、データ不足とされた5成分の中に、種子のエキス(Ginkgo Biloba Nut Extract)が入っている点は押さえておきたい。「データ不足」は危険と判定されたという意味ではなく、安全と言い切るだけの材料がそろわなかったという意味である。ただ、同じイチョウでも、葉のエキスと種子のエキスでは評価の結論が違う。日本の表示名称でも両者は「イチョウ葉エキス」「イチョウ種子エキス」と別の名前で登録されていて(§3.4)、成分表では区別できる。

ヒトでの刺激性や感作性の試験の中身、米国での使用件数や最大使用濃度といった数値は、本稿では確認できた範囲(刊行版の抄録と一覧表)に含まれないため載せていない。

3.2 銀杏でかぶれる話と、葉のエキスの関係

「イチョウでかぶれる」という話は、主に秋に落ちる銀杏にまつわるものである。においの強い外側の部分(外種皮)に触れて起きる接触皮膚炎は古くから報告されていて、食用に実を拾う人や、落ちた実で遊ぶ子どもで注意が促されてきた(出典: Tomb 1988)。外種皮が空気中に飛んで起きた接触皮膚炎の報告もある(出典: Ji 2016)。

原因物質と考えられているのが、ギンコール酸(アナカルド酸類)である。イチョウの果実から取り出した成分をモルモットで調べた研究では、アナカルド酸類がよく感作を起こし、イチョウの主なアレルゲンとみられると報告された(出典: Lepoittevin 1989)。皮膚科の総説も、イチョウの木への直接・間接の接触がギンコール酸による接触皮膚炎を起こしうるとしている(出典: Barker 2022)。

では、葉のエキスはどうか。一次資料で言えることを、対象と条件ごとに分けて並べる。

  • 葉にも少量含まれる: ギンコール酸は葉にも少量含まれるとされる(出典: Hausen 1998)。外種皮の話と葉の話は、量の面で同じではない
  • モルモットの感作試験: 純粋なギンコール酸ではモルモットの感作が成立した一方、ギンコール酸を約1,000ppm含む葉のエキスでは感作が成立しなかった(出典: Hausen 1998)。この研究は飲み薬や点滴で使う葉のエキスについて検討したもので、著者の結論もその用途についてのものである。化粧品として肌に塗る場合の結論ではない
  • ヒトの症例: 日本からは、題名に「果実と葉による」と書かれた接触皮膚炎の症例報告がある(出典: Hotta 2013)。抄録が公開されておらず、本稿では題名以上の内容は確認できていない
  • 化粧品での評価: CIRは葉由来の成分を条件付きで安全としながら、化粧品中のギンコール酸に懸念を示し、不純物として抑えるよう求めた(§3.1)

ここから言えるのは、「銀杏でかぶれるから、イチョウ葉エキスもかぶれる」とも「葉のエキスだから銀杏とは無関係」とも言い切れない、ということである。かぶれの原因とされる物質は葉にも少量あり、CIRもそれを前提に「不純物として抑える」「感作を起こさないよう処方する」という条件を付けている。一方で、化粧品原料のイチョウ葉エキスにギンコール酸がどれだけ残っているかは、成分表示からは分からない。医薬部外品原料規格の「イチョウエキス」でも、純度試験の項目は重金属とヒ素で、ギンコール酸の項目はない(出典: 医薬部外品原料規格2021)。原料ごとの管理は、各原料メーカーと処方する側に任されている。

実用上は、次のように考えるとよい。

  • 銀杏(外種皮)でかぶれた経験がある人は、初めて使う商品を少量から試し、赤み・かゆみが出たら使用をやめる
  • 洗い流す洗顔料より、化粧水のように肌に残す製品のほうが、肌に触れている時間は長い
  • 異常が続く・悪化する場合は、皮膚科で相談する

3.3 配合量の目安と、表示から読めないこと

Cosmetic-Info.jpの化粧品表示名称ページでは、本成分の規制分類欄に記載はない(出典: Cosmetic-Info.jp)。法令で一律の配合上限が決められた成分ではなく、配合量は各メーカーが処方ごとに決める。

成分表示から読めないことを整理すると、次の3つになる。

  • 配合量: 化粧品の全成分表示は1%を超える成分を多い順に書き、1%以下は順不同で書ける。医薬部外品の「その他の成分」の記載順は企業の判断とされている(§1.3)。配合例の2品はどちらも医薬部外品で、表示の位置から量は読めない
  • エキスの中身: どの溶媒で抽出したか、フラボノイドなどの成分をどれだけ含むか、ギンコール酸がどれだけ除かれているかは表示されない
  • 原料の出どころ: 部外品名の「イチョウエキス」も化粧品名の「イチョウ葉エキス」も葉のエキスだが、個々の商品がどのメーカーのどの原料を使っているかは表示からは分からない

植物エキスの原料は、エキスを溶媒で薄めた液として供給されるのが一般的で、化粧品の成分表ではエキスと溶媒(BG・水など)が別々の名前で書かれる。原料製造元の一覧でも、化粧品表示名称は「イチョウ葉エキス、BG、水」と3つに分けて書かれている(出典: 丸善製薬 化粧品原料 製品一覧)。成分表に並ぶBGや水のうち、どれだけが本成分の原料から来たものかも表示からは分からない。

3.4 イチョウの部位で分かれる表示名称

植物由来の表示名称は、部位や取り出し方ごとに別の名前として登録される。Cosmetic-Info.jpの化粧品表示名称を「イチョウ」で全件検索すると19件が並び、そのうちイチョウ単独の名前は次の7つである(2026年9月確認。残りはほかの植物との混合エキスや発酵エキス)。

表示名称成分番号定義(部位・取り出し方)配合目的
イチョウ葉エキス(本成分)557766葉のエキス皮膚コンディショニング剤(未分類)
イチョウエキス(旧名)550710葉のエキス(同文)皮膚コンディショニング剤(未分類)
イチョウ葉566031葉皮膚コンディショニング剤(未分類)
イチョウ葉水566402葉を水蒸気蒸留して得られる水相香料・皮膚コンディショニング剤(未分類)
イチョウ種子エキス561544種子のエキス収れん剤・ヘアコンディショニング剤・爪コンディショニング剤・皮膚コンディショニング剤(未分類)
イチョウカルス培養エキス565472カルスの培養物のエキス皮膚コンディショニング剤(未分類)
イチョウ成長点細胞培養順化培養液564833成長点細胞を培養した後、培養物を除いた培養液抗菌剤・酸化防止剤・皮膚コンディショニング剤(未分類)

(出典: Cosmetic-Info.jp 化粧品表示名称)

読み方の注意は3つある。

1つ目は、種子(銀杏)の名前は別にあること。成分表の「イチョウ種子エキス」は、INCI名が Ginkgo Biloba Nut Extract で、本成分とは部位が違う。配合目的の登録も違い、CIRの評価でも種子エキスはデータ不足の側に入っていた(§3.1)。「イチョウ」の後ろの語まで読むのが大事になる。

2つ目は、葉由来でも取り出し方で名前が分かれること。葉そのものは「イチョウ葉」、葉を水蒸気蒸留した水相は「イチョウ葉水」、抽出したエキスが本成分である。成分表で「イチョウ葉」や「イチョウ葉水」を見ても、本成分と同じ表示としては扱わない。

3つ目は、CAS番号では区別できないこと。Cosmetic-Info.jpの CAS 欄には、葉エキス・旧名・葉・葉水・種子エキスの5つに同じ番号(90045-36-6)が載っている(未検証の注記付き)。部位違いの名前でも番号が共通なので、CAS番号を手がかりに同じ成分かどうかを判断することはできない。

4. 相性の良い・悪い成分

4.1 併用される成分

イチョウ葉エキスは単独で主役になる成分ではなく、配合例では有効成分や保湿・洗浄の骨格の上に重ねられている。

有効成分と組み合わせる例: 配合例の2品は、有効成分にグリチルリチン酸2Kを置き、その他の成分にイチョウエキスを入れている。メーカーは、有効成分とローズマリーエキス(化粧品ではローズマリー葉エキスにあたる部外品での名前)を組み合わせたものを1つの「複合成分」として紹介し、イチョウエキスはそれとは別に「保湿成分」として紹介している(出典: オルビス公式商品ページ)。どちらもメーカーの紹介のしかたで、表示名称の配合目的とは別の話になる。

保湿の骨格(肌に残す製品): 化粧水では、水・グリセリン・BGなどの保湿の骨格に、ヒアルロン酸Na系の成分(表示はヒアルロン酸Na-2)と植物エキスが重ねられている。

洗浄の骨格(洗い流す製品): 洗顔料では、ミリスチン酸などの脂肪酸と水酸化Kを上位に置く石けん系の処方に、植物エキスや保湿成分が加えられている。

4.2 注意したい組合せ

イチョウ葉エキスについて、化粧品処方で避けるべき特定の組み合わせは、本稿で確認した資料では報告されていない。実用上の注意は次のとおり。

  • 植物エキスを何種類も重ねた処方: CIRは、1つの製品に複数の植物成分が入ると、それぞれに含まれる同じ懸念成分が重なりうるとして、処方する側に注意を求めている(出典: Burnett 2024 抄録)。イチョウでいえばギンコール酸のような成分が対象になる。個々の商品がどう管理しているかは、表示からは分からない
  • 「イチョウ配合」で血行・育毛を期待すること: サプリメントのイメージから連想されやすいが、本成分の配合目的の登録は皮膚コンディショニング剤だけである(§2.2)
  • サプリメントと化粧品を同じものとして扱うこと: 抗凝固薬との飲み合わせの注意は経口のサプリメントの話で、化粧品の組み合わせの注意とは別である(§2.3)。飲み薬について不安がある場合は、化粧品ではなくサプリメントの側で医師・薬剤師に相談する

4.3 類似成分

同じ時期に解説した植物エキスは、どれも「その植物の有名な話」と「化粧品成分としての登録」が食い違いやすい成分である。

成分有名な話(検索で持ち込まれやすい前提)化粧品表示名称での配合目的
イチョウ葉エキス(本成分)記憶のサプリメント・銀杏でかぶれる皮膚コンディショニング剤(未分類)
ゴレンシ葉エキス果物のスターフルーツ保湿・湿潤剤
マタタビ果実エキス猫が酔う皮膚コンディショニング剤(未分類)
サボンソウ葉エキス「石けん草」・天然サポニンの泡殺菌剤のみ(洗浄剤としての登録ではない)
セイヨウハッカ葉エキスペパーミント・スースーする香料・皮膚コンディショニング剤・閉塞剤
レモンエキスビタミンC・光毒性登録なし(配合目的の欄が空欄)

(出典: 各成分の Cosmetic-Info.jp 化粧品表示名称)

有名な話の多くは、飲む・食べる・生の植物に触れる・精油として使う、といった化粧品の外の文脈から来ている。化粧品の成分表で名前を見かけたときは、まず登録された配合目的を確認し、有名な話はどの文脈の話かを分けて読むとよい。

葉のエキスという点で近いのは、チャ葉エキスやビワ葉エキスである。いずれもお茶や果物といった化粧品の外での知名度が先に立ちやすく、成分表での読み方は本成分と同じく、登録された配合目的から入るのが基本になる。

5. よくある質問

Q1. 成分表の「イチョウエキス」と「イチョウ葉エキス」は同じものですか?

定義の上では同じ葉のエキスです。化粧品の「イチョウエキス」は、定義もINCI名も同じまま「イチョウ葉エキス」に名前が改められた旧名で、医薬部外品の「イチョウエキス」も本質は葉から抽出したエキスです(出典: Cosmetic-Info.jp)。化粧品では主に「イチョウ葉エキス」、医薬部外品では「イチョウエキス」と書かれます。ただし、個々の商品が同じ原料を使っているかまでは表示から分かりません。

Q2. サプリメントのイチョウ葉エキスと同じ働きがありますか?

同じ働きを期待する根拠はありません。サプリメントの話は飲む場合の話で、化粧品に配合された本成分の登録された配合目的は皮膚コンディショニング剤(肌を整える)だけです。サプリメントとしての有効性についても、米国のNCCIHは、どの健康状態にも有効という決定的な証拠はないとしています(出典: NCCIH『Ginkgo』)。

Q3. 銀杏でかぶれたことがあります。イチョウ葉エキス入りの化粧品は使えますか?

一概には言えません。かぶれの原因物質とされるギンコール酸は主に銀杏の外種皮の話ですが、葉にも少量含まれるとされます(出典: Hausen 1998)。米国CIRは葉由来の成分を「感作を起こさないよう処方すれば安全」としつつ、化粧品中のギンコール酸に懸念を示し、不純物として抑えるよう求めています(出典: Burnett 2024)。化粧品原料中の量は表示から分からないため、初めて使う商品は少量から試し、赤みやかゆみが出たら使用をやめてください。

Q4. 医薬部外品に入っているイチョウエキスは有効成分ですか?

配合例の2品では、有効成分ではなく「その他の成分」として表示されています(出典: オルビス公式商品ページ)。厚生労働省の『いわゆる薬用化粧品中の有効成分リスト』にもイチョウの語での掲載はありません。医薬部外品の効能は、承認された有効成分について認められた内容で、イチョウエキスの働きとして読むものではありません。

Q5. 「イチョウ種子エキス」とは違うものですか?

違う成分です。イチョウ種子エキス(Ginkgo Biloba Nut Extract)は銀杏にあたる種子のエキスで、化粧品表示名称でも別の名前として登録され、配合目的も違います。米国CIRの評価では、葉エキスが条件付きで安全とされた一方、種子エキスはデータ不足で判断が保留されています(出典: CIR Quick Reference Table)。

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本記事に関する注記

  • 本記事は特定商品の効果を保証するものではありません。成分の働きには個人差があり、体質・肌質により合わない場合があります。肌に赤み・かゆみ・刺激等の異常が出た場合は使用を中止し、症状が続く・悪化する場合は皮膚科等の医療機関にご相談ください。傷・炎症のある肌への使用は避けてください。
  • 本記事で扱うイチョウ葉エキス(医薬部外品表示名称: イチョウエキス)は、化粧品および医薬部外品にその他の成分(添加成分)として配合される状態を前提としています。この成分自体に承認された効能はなく、医薬部外品の効能効果は承認された有効成分と承認内容の範囲に従います。
  • サプリメント(経口)としてのイチョウ葉エキスの有効性・安全性は本記事の対象外です。服用中の薬との飲み合わせなど、サプリメントについては医師・薬剤師にご相談ください。
  • 米国CIRの評価は、刊行版(International Journal of Toxicology 2024)の抄録とCIRの一覧表(Quick Reference Table)の範囲で記載しています。報告書本文の試験データ・使用濃度は引用していません。
  • メーカーの商品ページ・原料製造元の一覧から引用した説明(「保湿成分」等)は、商品・原料を供給する側の説明であり、化粧品の効能として認められた内容ではありません。
  • 本記事に含まれる製品数・配合の集計は DappNotes 商品マスター(2026年9月時点・スキンケア54製品/ヘアケア78製品)に基づく自社集計であり、市場全体の分布を示すものではありません。化粧品の全成分表示は1%以下の成分が順不同、医薬部外品の「その他の成分」の記載順は企業の判断のため、表示順位から配合量を断定することはできません。