マルチトールは、麦芽糖(マルトース)を還元して得られる二糖の糖アルコールで、INCI名はMaltitol、化粧品表示名称は「マルチトール」にあたる。医薬部外品では「マルチトール」「マルチトール液」のどちらの表示も使われる(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版 / 化粧品成分オンライン)。化粧品では水酸基で水を抱えるヒューメクタント(吸湿性保湿剤)として、また製品自体の水分を保って乳化・可溶化の状態を安定させる目的で配合される。
本記事では、糖・糖アルコール系保湿クラスタの1本として3点を整理する。1点目は、商品の成分表で一律に「保湿」とされる糖系成分のなかでの位置づけで、還元されているか、環か鎖か、何とつながっているかという骨格の違いで読み分ける。2点目は、単一化合物のマルチトールと、還元水あめ・加水分解水添デンプンとの関係。3点目は、化粧品と医薬部外品で表示名が切り替わる仕組みにあたる。配合例の多くが洗顔料であるため、洗い流す製品に保湿成分を入れる意味も、確認できる範囲で扱う。
1. マルチトールの基本
1.1 何の成分か
マルチトールは、ブドウ糖(グルコース)とソルビトールがグリコシド結合でつながった二糖アルコールで、化学名は4-O-α-D-グルコピラノシル-D-グルシトール、分子式C12H24O11・分子量約344にあたる(出典: Wikipedia『Maltitol』 / ChemicalBook)。CAS番号は585-88-6。「還元麦芽糖」と呼ばれることもある。
製法は名前のとおりで、デンプンを分解して得た麦芽糖に水素を添加(還元)して作る(出典: Bフードサイエンス / Wikipedia『Maltitol』)。麦芽糖はブドウ糖が2つつながった二糖で、片方のブドウ糖の端にアルデヒド基が残る「還元糖」にあたる。水素添加でこの端のアルデヒド基が水酸基(-OH)に置き換わり、その側のブドウ糖はソルビトールの形になる。もう片方のブドウ糖は環の形のまま残る。つまりマルチトールは「環状のブドウ糖1個+鎖状のソルビトール1個」という、半分が糖・半分が糖アルコールの構造を持つ。
この還元によって、本成分は還元末端を持たなくなる。化粧品成分オンラインの整理では、還元基がないため熱やpHの変化に比較的安定で、アミノ化合物との褐変反応による着色が起きないとされる(出典: 化粧品成分オンライン)。Wikipediaも、化学的に不活性なため加熱してもカラメル化やメイラード反応を起こさないと記している(出典: Wikipedia『Maltitol』)。この性質は、処方の中で色やにおいが変わりにくい原料として扱いやすいことにつながる。
化粧品原料としては、固形分75%前後の液体グレードで流通するものがある。原料メーカーのBフードサイエンスは、化粧品自主規格・医薬部外品規格・医薬品添加物規格のそれぞれに適合する75%液製品を案内している(出典: Bフードサイエンス)。化粧品成分オンラインでは、化粧品での表示が「マルチトール、水」と水を併記する形で整理されている。EUの化粧品成分データベースCosIngでは、機能としてhumectant(保湿剤)・moisturising・skin conditioning・maskingが登録されている(出典: CosIng)。
規制上の位置づけは、有効成分ではない添加成分にあたる。医薬部外品の処方にも配合されるが、それは有効成分としてではなく、保湿・保水を担う「その他の成分」としての配合である。本成分それ自体に承認効能はない。
1.2 どんな製品に配合されるか
化粧品成分オンラインは、配合される製品としてメイクアップ、化粧下地、洗顔料、クレンジング、スキンケア、ボディケア、ハンドケア、マスク、シャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアスタイリングを挙げている(出典: 化粧品成分オンライン)。原料メーカーはスキンケアとヘアケアの両方を用途に挙げ、医薬品・医薬部外品にも使われるとしている(出典: Bフードサイエンス)。
DappNotesの商品マスターで本成分の配合を確認できた商品は4本ある。
| 商品 | 区分 | 剤形 | 表示名 | 配合順位/全成分数 |
|---|---|---|---|---|
| キュレル 潤浸保湿 泡洗顔料 | 医薬部外品 | 泡洗顔料 | マルチトール | 5/15 |
| オルビス ミスター フォーミングウォッシュ | 医薬部外品 | 泡洗顔料 | マルチトール液 | 10/18 |
| ONE BY KOSE ポアクリア スクラブ ウォッシュ | 化粧品 | スクラブ洗顔料 | マルチトール | 14/34 |
| ギャツビー EXパーフェクトローション | 化粧品 | 化粧水 | マルチトール | 6/26 |
(出典: 各社公式サイトの全成分表示。医薬部外品は有効成分を含めた並び)
4本のうち3本が洗顔料で、洗い流す製品に偏っている点が特徴にあたる。どの商品でも同じ処方にグリセリンが入っており、マルチトールより上位に並ぶ(キュレル・オルビス・ONE BY KOSEは3位、ギャツビーは2位)。ONE BY KOSEにはBGも並ぶ。本成分が単独で保湿を担うというより、グリセリンを主に据えた多価アルコールの組み合わせの一部として入っている、というのが実データから読める配合の形である。
配合順位は、1%を超える成分は多い順・1%以下は順不同という表示ルールに従う目安にとどまる。順位から配合量%を推定することはできない。
なお、本成分を化学的に変えた誘導体も別の成分として存在する。2008年版の医薬部外品表示名称リストには、マルチトールにアルキル鎖を付けた「マルチトールヒドロキシアルキル(12,14)エーテル液」や、ラウリン酸とのエステル「ラウリン酸マルチトール」が載っている(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。これらは性格の異なる別成分で、本記事の対象ではない。
1.3 メンズ視点での見方
男性の肌は皮脂分泌が多い一方で、洗顔や髭剃りのあとにつっぱりや乾燥を感じやすい。べたつきを嫌って洗浄力の強い洗顔料を選んだり、1日に何度も洗ったりすると、その乾燥感はさらに強まりやすい。
マルチトールがメンズ製品で出てくるのは、主に2つの場面になる。1つは泡洗顔料・スクラブ洗顔料で、洗浄成分と一緒に配合されている。もう1つは化粧水で、グリセリンなどの多価アルコールと並んで保湿の構成要素になっている。
読み方の要点は、本成分を「保湿の主役」ではなく「補助役」として見ることにある。原料メーカー自身がソルビトールよりやや穏やかな保湿性と説明しており(出典: Bフードサイエンス)、配合例でもグリセリンの下に並ぶ。洗顔料に入っている場合は、肌に残る量がさらに限られる(§2.3)。洗顔料の成分表に本成分があっても、洗顔後の化粧水・乳液での保湿を省いてよい理由にはならない。
2. 期待される働き・効果
2.1 メカニズム
マルチトールの働きは、分子に多数ある水酸基(-OH)が水分子と水素結合し、水を引き寄せて抱え込むことに基づく。グリセリン・BG・ソルビトールと同じ多価アルコールの保湿機構にあたる。二糖アルコールの本成分は1分子に水酸基を9個持ち、鎖状部分(ソルビトール側)と環状部分(ブドウ糖側)の両方に水酸基が並ぶ。
化粧品の中での役割は、大きく2つに分けて読むと整理しやすい。
1つ目は、肌や髪に対するヒューメクタントとしての保湿である。角層に水分を保ち、しっとりした感触を与える。保湿の強さについて原料メーカーは「ソルビトールよりやや緩和」と説明しており(出典: Bフードサイエンス)、強い吸湿で水を集める成分というより、穏やかに水分を保つ側に位置づけられる。
2つ目は、製品そのものに対する保水・安定化である。化粧品成分オンラインは、本成分が大気中の湿度に比較的左右されずに水分を保つ性質を持ち、製品自体の水分を保って乳化系・可溶化系の安定性を保持する目的で配合されると整理している(出典: 化粧品成分オンライン)。こちらは肌への効果ではなく、製品の品質や使用感を支える処方上の機能にあたる。原料メーカーはこのほか、柔らかさを与える可塑性の付与も特長に挙げている(出典: Bフードサイエンス)。
還元末端を持たないことも、処方上の性質として意味を持つ。還元糖はアミノ酸などのアミノ化合物と反応して褐色に着色することがあるが、本成分は還元基がないためこの褐変を起こしにくく、熱やpHの変化にも比較的安定とされる(出典: 化粧品成分オンライン / Wikipedia『Maltitol』)。
2.2 一般的な効能範囲
マルチトールを配合した化粧品で表現できる効能は、化粧品の効能範囲のうち「皮膚にうるおいを与える」「皮膚の乾燥を防ぐ」「肌を整える」「毛髪にうるおいを与える」といった範囲にとどまる。本成分は医薬部外品の有効成分ではないため、「肌荒れを防ぐ」「バリア機能を改善する」「ニキビを防ぐ」といった効能を本成分の働きとして示すことはできない。
医薬部外品の洗顔料に本成分が入っている場合も、その製品の承認効能は別の有効成分に紐づく。今回の配合例ではキュレルとオルビスの洗顔料が医薬部外品で、どちらも有効成分はグリチルリチン酸2K(甘草由来の成分)である。マルチトールは「その他の成分」として並んでおり、製品の効能を担う成分ではない。
洗顔料の場合、化粧品の効能表現は洗浄が中心になる。洗顔料に配合された保湿成分について言えるのは、洗い上がりの感触を整える補助としての役割までで、洗顔料そのものが肌をうるおす製品になるわけではない。
2.3 限界・誤解されやすい点
誤解されやすい点は3つある。
1. 洗顔料に入っていれば洗顔でうるおう、という誤解。 本成分の配合例は4本中3本が洗顔料だが、洗顔料は泡立てて肌にのせ、すぐに水で流す製品である。肌に残るのは、すすいだ後にわずかに残る分に限られる。化粧品成分オンラインが挙げる配合目的は、肌への保湿に加えて、製品自体の水分保持と乳化・可溶化系の安定性保持である(出典: 化粧品成分オンライン)。洗顔料での配合には、泡や液の状態を保つといった処方側の役割も含まれていると読むのが自然にあたる。
洗い流す製品での保湿成分の効果を示す研究として、原料会社が2025年に、オリーブ発酵由来の保湿剤とマルチトールを組み合わせた素材を角層の洗浄実験で評価し、BGと比べて水分保持量が4.0倍以上だったと発表した例がある(出典: プレミアアンチエイジング ニュースリリース)。ただしこれは独自の組み合わせ素材の結果で、マルチトール単独の試験ではない。市販の洗顔料に入っているマルチトールに同じ効果があることの根拠にはならない。
2. 甘味料と同じ成分だから肌にもよい、という誤解。 マルチトールは食品でも甘味料として使われるが、食品で知られる性質(甘さ、虫歯の原因になりにくいこと、血糖値の上がり方など)は、口から摂った場合の話にあたる。肌に塗る化粧品の働きとは関係がない。本記事では食品での性質を外用の効果の根拠として扱わない。
3. 糖系の保湿成分はどれも同じ、という誤解。 商品の成分表では、マルチトールもトレハロースもイノシトールも「保湿」とひとまとめにされがちである。しかし分子の骨格は、還元されているか、環か鎖か、何とつながっているかで大きく異なる。骨格の違いはそのまま製品での性能差を意味するわけではないが、成分表を読むときの解像度は上がる(§3.3)。
3. 安全性・注意点
3.1 既知の刺激性・アレルギー報告
マルチトールは、皮膚刺激性・眼刺激性・皮膚感作性がいずれもほとんどない成分として整理されている(出典: 化粧品成分オンライン)。
化粧品成分オンラインがまとめている安全性データは次のとおり。
- 皮膚刺激性: 高濃度の水溶液を用いたヒトの24時間閉塞パッチ試験で、刺激は見られなかったと報告されている
- 眼刺激性: ウサギを用いたDraize法の試験で、非刺激性と判定されている
- 皮膚感作性: 詳細な試験データは示されていないが、ほとんどないと扱われている
- 使用実績: 化粧品で40年以上
- 規格: 医薬部外品原料規格2021に収載
米国のCosmetic Ingredient Review(CIR)は、2026年の専門家パネル会合でマルチトールを審議対象にしている(出典: CIR『Maltitol』成分ページ)。本稿執筆時点で、その結論は確認できていない。
以上から、本成分そのものが刺激の原因になる可能性は低いと考えられる。ただし配合製品には洗浄成分・防腐剤・香料なども含まれるため、製品として合うかどうかは別の問題である。洗顔料で肌が赤くなる、ひりつくといった反応が出た場合は、使用を中止する。原因を特定したいときは、洗浄成分など他の成分も含めて疑うのが現実的にあたる。
3.2 推奨配合量と過剰使用時のリスク
マルチトールには、化粧品での配合量について法的な一律上限は設けられていない。配合量は、目的とする保湿感や処方の安定性にあわせて各メーカーが設計する。
原料には固形分75%前後の液体グレードがあり、化粧品では「マルチトール、水」のように水と併記される(出典: Bフードサイエンス / 化粧品成分オンライン)。成分表示の順位からは配合量%を読み取れないため、本記事では配合量の数値を示さない。
過剰配合によるリスクとして一般に考えられるのは、刺激よりも感触面の変化である。多価アルコールを多く入れた処方は、しっとり感が強まり、人によってはべたつきとして感じられることがある。これはマルチトールに限らず、グリセリンなどを含む多価アルコール全般に当てはまる傾向にあたる。
食品での多量摂取による緩下作用(お腹がゆるくなること)が知られているが(出典: Bフードサイエンス『還元水あめの種類と特性』)、これは口から大量に摂った場合の話である。肌に塗る化粧品での使用とは関係がない。
3.3 「保湿」とひとまとめにされる糖系成分を骨格で読み分ける
商品マスターでは、糖系の保湿成分の役割がほぼ一律に「保湿」「保湿(糖アルコール)」と書かれている。しかし分子の骨格で見ると、少なくとも3つの系統に分かれる。
- 糖(還元糖を含む): アルデヒド基やケトン基を残した糖。例として異性化糖(ブドウ糖・果糖が主体の糖混合物)がある
- 糖アルコール: カルボニル基を持たない糖由来の多価アルコール。鎖状のもの(糖のカルボニル基を還元して水酸基にしたもの)と、炭素だけで環を作る環状のもの(イノシトールなどのシクリトール)がある
- 配糖体: 糖の還元末端を、別の分子とのグリコシド結合でふさいだもの
見分けるときの問いは3つで、「還元されているか」「環か鎖か」「何とつながっているか」になる。
| 成分 | 系統 | 骨格の要点 | 還元末端 |
|---|---|---|---|
| マルチトール(本成分) | 糖アルコール(二糖アルコール) | ブドウ糖(環)+ソルビトール(鎖)。麦芽糖を還元 | なし |
| ソルビトール | 糖アルコール | 炭素6の鎖状。ブドウ糖を還元 | なし |
| エリスリトール | 糖アルコール | 炭素4の鎖状 | なし |
| イノシトール | 糖アルコール(シクリトール) | 炭素6の環状 | なし |
| 加水分解水添デンプン | 糖アルコールの混合物 | デンプン分解物を水添。ソルビトール・マルチトール等を含む | なし |
| 異性化糖 | 糖の混合物 | ブドウ糖・果糖が主体 | あり |
| トレハロース | 糖(非還元二糖) | ブドウ糖2個が還元末端どうしで結合 | なし |
| グリセリルグルコシド | 配糖体 | グリセリン+ブドウ糖がグリコシド結合 | なし |
| グリセリン(参考) | 多価アルコール | 炭素3の3価アルコール | ― |
(出典: 各成分の一次情報。系統分けは本クラスタで共有する整理)
この表から見えるマルチトールの特徴は、糖アルコールの中で唯一「半分が糖のまま」という点にある。ソルビトール・エリスリトールは分子全体が鎖状の糖アルコールで、イノシトールは環全体が糖アルコールになっている。これに対してマルチトールは、還元されたのは麦芽糖の片方の端だけで、もう片方のブドウ糖は環の形で残る。
還元末端を持たないという点では、トレハロースやグリセリルグルコシドとも共通する。ただし、ふさぎ方が違う。マルチトールは水素を添加して還元末端そのものを水酸基に変えている。トレハロースはブドウ糖どうしが還元末端で結合し、グリセリルグルコシドはグリセリンとの結合で還元末端をふさいでいる。
ここで注意したいのは、骨格の違いから製品での保湿力の優劣を推測しないことである。どれが「よく効く」かは、配合量・処方全体・使う人の肌で変わる。表は優劣表ではなく、成分表示を読むときの地図として使うのが適切にあたる。
3.4 マルチトールと還元水あめ・加水分解水添デンプンの関係
マルチトールと混同されやすいのが、食品でいう「還元水あめ」と、化粧品表示名「加水分解水添デンプン」である。3つの関係を一次資料で整理しておく。
還元水あめ(食品の呼び名): 原料メーカーの解説によると、還元水あめは水あめに水素を添加して作る糖アルコールで、単糖から多糖までの糖アルコールの混合物にあたる(出典: Bフードサイエンス『還元水あめの種類と特性』)。原料の水あめの糖化度によって、高糖化・中糖化・低糖化に分けられる。さらに、固形分あたりのマルチトール含量が50%以上のものを「マルチトールシラップ」、75%以上のものを「還元麦芽糖水あめ」と呼ぶ。同資料は、これらをすべて食品扱いの甘味素材としている。
加水分解水添デンプン(化粧品表示名): DappNotesの加水分解水添デンプンの記事で整理しているとおり、デンプンを加水分解して水素を添加した、ソルビトール・マルチトール・マルトトリイトール等を含む糖アルコールの混合物の総称である。食品でいう還元水あめと近縁にあたる。
マルチトール(化粧品表示名): 麦芽糖を還元した単一の二糖アルコールを指す。
3つの関係をまとめると、次のようになる。
| 呼び名 | 何を指すか | マルチトールとの関係 |
|---|---|---|
| マルチトール(本成分) | 単一の二糖アルコール | ― |
| 還元水あめ(食品) | 水あめを水添した糖アルコールの混合物 | 成分の1つとして含む。含量50%以上でマルチトールシラップ、75%以上で還元麦芽糖水あめ |
| 加水分解水添デンプン(化粧品) | デンプン分解物を水添した糖アルコールの混合物 | 成分の1つとして含む |
(出典: Bフードサイエンス『還元水あめの種類と特性』 / 加水分解水添デンプン記事の一次情報)
つまり、加水分解水添デンプンや還元水あめの中にマルチトールが含まれることはあるが、逆に「マルチトール」と表示された成分は混合物ではなく、マルチトールそのものを主体とする原料を指す、という関係にあたる。
ただし、原料の純度がどこまで高ければ化粧品表示が「加水分解水添デンプン」から「マルチトール」に切り替わるのかを定めた一次資料は、本稿では確認できていない。成分表示に「マルチトール」とあっても、原料に微量のソルビトールなど他の糖アルコールが含まれている可能性はある。この境界については断定しないでおく。
3.5 化粧品と医薬部外品で表示名が切り替わる
同じ成分でも、化粧品と医薬部外品では成分表示に使う名前の体系が異なる。化粧品は日本化粧品工業連合会の化粧品表示名称、医薬部外品は医薬部外品の成分表示名称で書かれる。
手元で確認した『医薬部外品の成分表示名称リスト』は平成20年(2008年)版で、マルチトールは次の2つの連番で載っている(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。
| 連番 | 部外品表示名称 | 本質(リストの記載) |
|---|---|---|
| 2245 | マルチトール | 「マルチトール液」を結晶化・粉末化したもの |
| 2246 | マルチトール液 | でんぷんより得られる「マルトース」を還元して得られたものの水溶液 |
つまり部外品の世界では、水溶液のグレードが「マルチトール液」、それを結晶化・粉末化したグレードが「マルチトール」として、原料の形態ごとに名前が刻まれている。化粧品表示名称は「マルチトール」の1つで、水溶液の原料では「マルチトール、水」と水を併記する形で整理されている(出典: 化粧品成分オンライン)。
実際の商品表示もこの体系に沿っている。
| 商品 | 区分 | 表示 |
|---|---|---|
| ONE BY KOSE ポアクリア スクラブ ウォッシュ | 化粧品 | マルチトール |
| ギャツビー EXパーフェクトローション | 化粧品 | マルチトール |
| キュレル 潤浸保湿 泡洗顔料 | 医薬部外品 | マルチトール |
| オルビス ミスター フォーミングウォッシュ | 医薬部外品 | マルチトール液 |
(出典: 各社公式サイトの全成分表示)
同じ医薬部外品の泡洗顔料でも、キュレルは「マルチトール」、オルビスは「マルチトール液」と表示している。どちらも2008年版リストに実在する部外品表示名なので、表示の誤りではない。使っている原料の形態(粉末か水溶液か)の違いが名前に反映されていると読むのが、リストの本質欄とも整合する。ただし各社がどちらの原料を使っているかは公開情報からは確認できないため、本記事では推定にとどめる。
同じクラスタでは、イノシトールが部外品で「イノシット」、グリセリルグルコシドが部外品で「グリセリルグルコシド液」と表示されるなど、化粧品名と部外品名が異なる成分がある。マルチトールは、化粧品名と同じ「マルチトール」が部外品名としても存在するため、部外品でも化粧品と同じ表記になりうる点が特徴にあたる。
なお手元のリストは2008年版のため、現行版での収載状況は別に確認が必要である。
4. 相性の良い・悪い成分
4.1 併用される成分
マルチトールは水に溶ける多価アルコール系の保湿剤で、ほかの水溶性保湿成分と組み合わせて配合されることが多い。
多価アルコール・水溶性保湿成分: 配合例の4本はすべてグリセリンを上位に含み、ONE BY KOSEにはBG、ギャツビーにはプロパンジオールやヒアルロン酸Naも並ぶ。グリセリンを主に据え、マルチトールで保湿と感触を補う、という組み合わせ方が一般的にあたる。
洗浄成分: 洗顔料では洗浄成分と同じ処方に入る。キュレルの泡洗顔料ではラウロイルアスパラギン酸Naなどのアミノ酸系洗浄成分、ONE BY KOSEやオルビスではミリスチン酸などの脂肪酸を水酸化Kで中和した石けん系の洗浄成分と組み合わされている。ONE BY KOSEにはココイルグリシンKも入る。
同じクラスタの糖系成分: 本成分とソルビトール・トレハロースなどを同じ処方に入れることも可能で、糖系保湿成分どうしで配合を避けるべき組み合わせは知られていない。
4.2 注意したい組合せ
マルチトールについて、化粧品処方で特に避けるべき組み合わせは、本稿で確認した一次資料では報告されていない。還元末端を持たず、アミノ化合物との褐変も起きにくいとされるため(出典: 化粧品成分オンライン)、アミノ酸系の成分と同じ処方に入れることも問題になりにくい。
実用上の注意は、成分どうしの相性よりも期待の置き方にある。
- 保湿を本成分だけに頼らない: 保湿性は穏やかで、強い乾燥には油分でふたをする乳液・クリームなどとの組み合わせが前提になる
- 多価アルコールの重ねすぎ: グリセリン・BGなどを多く重ねた処方は、しっとり感が強くべたつきとして感じられることがある。これは成分の相性問題ではなく、配合バランスの問題にあたる
5. 使い方
5.1 推奨される使用シーン
マルチトール配合の製品は、剤形ごとに役割が違うと考えて選ぶのが現実的にあたる。
洗顔料: 泡洗顔料やスクラブ洗顔料では、洗浄成分に加えて洗い上がりの感触を整える補助として入っている。洗顔料を選ぶときに見るべきなのは、マルチトールの有無よりも、主な洗浄成分の種類と自分の肌で洗い上がりがつっぱらないかである。皮脂が多いからといって洗浄力の強さだけで選ぶと、乾燥感につながりやすい。
化粧水: 化粧水では、洗顔後の肌に残る製品の中で水分を保つ構成要素になる。グリセリンなど他の多価アルコールと一緒に入っていることが多く、しっとりしすぎない保湿感を求めるときの選択肢の1つになる。乾燥が強い場合は、化粧水のあとに乳液やクリームで油分のふたを重ねる。
使い方の基本は、洗顔料なら泡立てて肌にのせ、こすらずにすすぐ。化粧水なら洗顔後や髭剃り後の肌になじませる、という各製品の標準的な使い方に従えばよい。
5.2 期待できないこと・避けるべき使い方
マルチトールに期待できないことは、次のとおり。
- 洗顔料だけで保湿を完結させること: 洗い流す製品では肌に残る量が限られる。洗顔料に保湿成分が入っていても、洗顔後の保湿は別に必要になる
- 肌荒れ・ニキビ・バリア機能の改善: 本成分は有効成分ではなく、これらの効能を本成分の働きとして期待することはできない
- 食品での性質を肌に当てはめること: 甘味料としての性質や、虫歯になりにくいといった食品での特徴は、肌に塗ったときの効果とは関係がない
避けたいのは、「糖由来でやさしそう」「食品にも使われているから安心」というイメージだけで製品を選ぶことである。本成分自体の刺激性は低いとされるが、製品が肌に合うかどうかは処方全体で決まる。
6. メンズ実用視点まとめ
メンズの成分表示でマルチトールを見かけたら、次の3点で読むと整理しやすい。
- 穏やかな保湿の補助役: ソルビトールよりやや穏やかな保湿性を持つ二糖の糖アルコールで、グリセリンの脇で水分を保つ。保湿の主役ではない
- 洗顔料では処方を支える側: 配合例の多くが洗顔料で、洗い上がりの感触調整や製品の安定化も担う。洗顔料に入っていても、洗顔後の化粧水・乳液は省けない
- 表示名の揺れは形態の違い: 医薬部外品では「マルチトール」と「マルチトール液」の両方があり、どちらも正しい表示である
皮脂が多くテカリが気になる一方で、洗顔や髭剃りの後につっぱる肌は、メンズによくある状態にあたる。本成分はその乾燥感を穏やかに補う成分の1つだが、効果を大きく左右するのは、洗いすぎない洗顔と、洗顔後に保湿を重ねる習慣のほうである。
7. よくある質問(FAQ)
Q1. マルチトールはどんな働きをする成分ですか?
主に保湿の働きをする成分です(出典: 化粧品成分オンライン / Bフードサイエンス)。麦芽糖を還元して作る二糖の糖アルコールで、分子の水酸基で水を抱えるヒューメクタントにあたります。肌や髪にしっとりした感触を与えるほか、製品自体の水分を保って乳化・可溶化の状態を安定させる目的でも配合されます。保湿性はソルビトールよりやや穏やかと説明されています。
Q2. 「マルチトール」と「マルチトール液」は違う成分ですか?
同じマルチトールで、原料の形態の違いです(出典: 医薬部外品の成分表示名称リスト 平成20年版)。2008年版の医薬部外品表示名称リストでは、マルトースを還元したものの水溶液が「マルチトール液」、それを結晶化・粉末化したものが「マルチトール」として別の連番で載っています。化粧品では「マルチトール」と表示し、水溶液の原料は水と併記されます。医薬部外品の商品では、どちらの表示も実際に使われています。
Q3. 還元水あめや加水分解水添デンプンとは何が違いますか?
マルチトールは単一の二糖アルコールで、還元水あめと加水分解水添デンプンは、マルチトールを含むことがある糖アルコールの混合物です(出典: Bフードサイエンス『還元水あめの種類と特性』)。食品では、マルチトールを固形分あたり50%以上含む還元水あめをマルチトールシラップ、75%以上を還元麦芽糖水あめと呼びます。化粧品表示の加水分解水添デンプンは、ソルビトール・マルチトールなどを含む混合物の総称です。どの純度から表示が切り替わるかを定めた一次資料は確認できていません。
Q4. 洗顔料にマルチトールが入っていると、洗顔で肌がうるおいますか?
洗顔料だけで肌がうるおうとは言えません。洗顔料はすぐに水で流す製品で、肌に残る量は限られます。洗顔料での配合は、洗い上がりの感触を整える補助や、泡・液の状態を保つ処方上の役割も含むと考えるのが自然です。洗顔後の化粧水・乳液での保湿は別に必要です。
Q5. マルチトールは肌に安全ですか?
刺激性は低いと整理されている成分です(出典: 化粧品成分オンライン)。高濃度水溶液のヒトパッチ試験やウサギの眼刺激試験で刺激なしとする報告があり、化粧品で40年以上の使用実績、医薬部外品原料規格2021への収載があります。米国CIRは2026年に審議対象としていますが、執筆時点で結論は確認できていません。製品には他の成分も入るため、合わないと感じたら使用を中止してください。
Q6. 甘味料のマルチトールと同じものですか? 食品に使えるなら肌にもよいのでしょうか?
化学的には同じ物質ですが、食品での性質を肌への効果に当てはめることはできません。甘さや虫歯になりにくい性質、多量摂取時にお腹がゆるくなる作用などは、口から摂った場合の話です。肌に塗る化粧品では、水分を保つ保湿成分としての働きで評価します。
Q7. ソルビトールとは何が違いますか?
ソルビトールはブドウ糖1個を還元した鎖状の糖アルコール、マルチトールは麦芽糖(ブドウ糖2個)の片方の端だけを還元した二糖アルコールです。マルチトールの分子の半分はソルビトールの形、もう半分はブドウ糖の環の形をしています。原料メーカーは、マルチトールの保湿性をソルビトールよりやや穏やかと説明しています(出典: Bフードサイエンス)。詳しくはソルビトールの記事を参照してください。
8. まとめ
マルチトールは、麦芽糖を還元して得られる二糖の糖アルコールで、ブドウ糖の環とソルビトールの鎖がつながった構造を持つ。水酸基で水を抱えるヒューメクタントとして肌や髪を保湿するほか、製品自体の水分を保って乳化・可溶化の状態を安定させる目的でも配合される。還元末端を持たないため熱やpHに比較的安定で、アミノ化合物との褐変も起きにくい(出典: 化粧品成分オンライン / Bフードサイエンス)。
糖系保湿成分を骨格で読み分けると、本成分は「半分が糖のまま残った糖アルコール」にあたる。鎖状のソルビトール・エリスリトール、環状のイノシトールとは同じ糖アルコールの仲間で、トレハロース・グリセリルグルコシドとは還元末端を持たない点が共通する。還元水あめや加水分解水添デンプンは、マルチトールを含むことがある混合物で、単一化合物のマルチトールとは表示名が分かれる。
化粧品表示名は「マルチトール」、医薬部外品では「マルチトール」と「マルチトール液」の2つの表示名があり、原料の形態の違いに対応する。刺激性は低いとされるが、配合例の多くを占める洗顔料では肌に残る量が限られるため、保湿の主役として期待するより、洗顔後の保湿ケアと組み合わせて読むのが実用的な理解になる。