BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)は、化粧品・食品・医薬品で広く使われる代表的な合成の酸化防止剤で、化粧品表示名は略称の「BHT」、医薬部外品表示名は「ジブチルヒドロキシトルエン」、INCI名もBHTにあたる(出典: 化粧品成分オンライン)。化粧品・ヘアケアでの役割は、処方中の酸化されやすい油分や有効成分の身代わりにラジカルを受け止め、製品の酸化劣化・変色・変臭を防ぐ品質保持で、配合濃度はおおむね0.01〜0.1%とごく微量にとどまる(出典: 化粧品成分オンライン / CIR)。肌や髪への直接的な効能を担う成分ではない。本記事では汎用機能性単体成分クラスタの1本として、BHTの正体・配合目的、酸化防止剤全体の中での立ち位置、そして本成分で最も誤解されやすい「合成酸化防止剤=危険・発がん」という言説を、食品としての大量経口摂取の話と化粧品の微量配合を混同せず中立に整理し、あわせて紛らわしい「BHA」との名称混同も切り分ける。

1. BHTの基本

1.1 何の成分か

BHTは、フェノールの一種である2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールを正式な化学名とする合成化合物で、化粧品表示名は略称の「BHT」、医薬部外品表示名は「ジブチルヒドロキシトルエン」、INCI名もBHTにあたる(出典: 化粧品成分オンライン)。石油由来で工業的に合成される代表的な合成酸化防止剤で、化粧品だけでなく食品・医薬品でも品質保持の目的で広く使われてきた成分にあたる。

成分としての本成分の理解で押さえておきたいのは、その働きが「酸化防止剤」だという点にある(出典: 化粧品成分オンライン)。油脂などが空気中の酸素と反応して酸化(自動酸化)する過程では、ペルオキシラジカルと呼ばれる反応性の高い物質が生じ、これが連鎖的に油分を劣化させていく。BHTはこのペルオキシラジカルに自らの水素を供与してラジカルの連鎖反応を断ち切ることで、油分や有効成分の酸化を遅らせる(出典: 化粧品成分オンライン / 花王)。つまり本成分は、自らが身代わりにラジカルを受け止めることで処方を守る縁の下の役割を担う成分で、トコフェロール(ビタミンE)などの酸化防止剤と同じ立て付けにあたる。

性状面で本成分に特徴的なのは、熱に対して安定だという点にある(出典: 化粧品成分オンライン / 花王)。加熱を伴う原料の製造工程でも分解しにくいため、加熱工程を含む処方の酸化防止剤として有用とされる。また脂溶性で油分になじみやすく、油脂を含む製品の酸化防止に向く。この「熱安定性が高い脂溶性の合成酸化防止剤」という性質が、後述するトコフェロール等の他の酸化防止剤との使い分けの軸になる。

成分としての規制上の位置づけは、化粧品成分(cosmetic-only)にあたる(出典: 化粧品成分オンライン)。本成分は食品添加物の指定添加物・医薬品添加物規格2018・医薬部外品原料規格2021に収載される汎用の添加物だが、それ自体が「肌に効く」「育毛する」といった効能を標榜できる医薬部外品の有効成分ではなく、化粧品・薬用化粧品の処方の中で酸化防止・品質保持を目的に配合される添加物の位置づけにあたる。配合製品の効能訴求は、本成分とは別に配合された有効成分や、化粧品の標準効能の範囲にとどまる。

1.2 どんな製品に配合されるか

BHTの配合製品は、酸化されやすい油分を含むあらゆる製品にわたる(出典: 化粧品成分オンライン)。スキンケアではクリーム・乳液・美容オイル・日焼け止め、メイクアップでは口紅・化粧下地、ヘアケアでは洗い流さないヘアオイル・トリートメント・整髪料(ワックス・ジェル)・香水・ネイル製品など、油性成分を含む幅広い製品に汎用される。本記事の文脈であるメンズ製品では、ヘアオイル・ワックス・ポマード・男性化粧品・香水など、油分の比率が高く酸化による劣化(変色・変臭・べたつき)が起きやすい製品の品質保持役として配合されることが多い。

本成分は肌への効能を打ち出す訴求成分ではなく、成分表示の下位に少量記載されるのが通常にあたる。海外の配合実態調査でも実際の配合濃度は高くて0.5%程度、化粧品では一般に0.01〜0.1%程度とされ、表示順でも末尾近くに置かれることが多い(出典: 化粧品成分オンライン / CIR)。成分表示で本成分を見かけても、それは「製品の酸化を防ぐための微量配合」と理解するのが現実的にあたる。逆に言えば、油分の多い製品に本成分のような酸化防止剤が入っているのは、品質を保つための合理的な設計でもある。

医薬部外品(薬用化粧品)でも本成分は使われ、薬用石けん・育毛剤・薬用口唇類・染毛剤などで配合上限1.0%が示されている(出典: 化粧品成分オンライン)。ただしこれは「上限」であって、実際の配合は前述のとおりごく微量にとどまるのが一般的にあたる。

1.3 メンズ視点での見方

メンズ製品の観点では、BHTは「整髪料・ヘアオイル・男性化粧品などの油分を含む製品の酸化を防ぐ縁の下の品質保持役で、肌や髪への直接的な効能は担わない微量の合成酸化防止剤」という読み方ができる成分にあたる。

メンズが日常的に使う製品には、ワックス・ジェル・ポマード・ヘアオイル・ヘアバーム・髭剃り後のアフターシェーブ・男性用化粧品など、油分の比率が高い製品が多い。これらの油分は時間とともに空気・熱・光で酸化(酸敗)し、変色・嫌な臭い・べたつきの原因になる。本成分はこうした油分の酸化を防いで製品の品質を保つために微量配合される成分で、メンズ製品の使い心地・日持ちを縁の下で支えている(出典: 化粧品成分オンライン / 花王)。

一方でメンズが押さえておきたいのは、本成分が「肌や髪に良い効能を発揮する成分」ではないという点にある。本成分の働きはあくまで製品そのものの酸化を防ぐ品質保持で、配合量も微量のため、肌の抗酸化ケアや育毛・エイジングケアといった効能を本成分に期待する根拠は乏しい。そして本成分でメンズが最も惑わされやすいのが「合成酸化防止剤=危険・発がん」という言説にある。これは本成分が食品添加物としても使われ、大量に経口摂取した動物試験で肝臓・腎臓への影響が報告されることに由来する話で、皮膚に微量塗布する化粧品とは用量・経路が異なる別の議論にあたる(詳細は §3.4)。CIR・EUのSCCSはいずれも現行の化粧品配合濃度での安全性を認めており、合成か天然かだけで安全性が決まるわけではない(出典: CIR / SCCS / 関連: メンズ頭皮ケアガイド)。本成分は製品の品質保持役と割り切って理解するのが、メンズが過不足なく付き合う前提になる。

2. 期待される働き・効果

2.1 メカニズム

BHTの働きの中心は、ラジカル連鎖反応を断ち切る「ラジカル捕捉型酸化防止剤」としての化学的なメカニズムにある(出典: 化粧品成分オンライン / 花王)。

油脂などの不飽和脂肪酸を含む成分は、空気中の酸素・熱・光の影響で自動酸化を起こす。この過程ではまず脂質ラジカルが生じ、それが酸素と反応してペルオキシラジカルになり、さらに別の油分から水素を奪って新たなラジカルを生む——という連鎖反応が進み、油分が次第に劣化していく(酸敗)。BHTはこのペルオキシラジカルに対し、自らのフェノール性水酸基の水素を供与してラジカルを安定な物質に変える。これによりラジカルの連鎖が断ち切られ、油分の酸化が遅延される。本成分自身は身代わりにラジカルを受け止めて消費される側に回る。

この機序はトコフェロール(ビタミンE)など他のラジカル捕捉型酸化防止剤と共通するが、本成分が合成のフェノール化合物で熱に対して安定だという点が特徴にあたる(出典: 化粧品成分オンライン)。加熱を伴う製造工程でも分解しにくく、安定して酸化防止効果を発揮できるため、油脂を多く含む処方や加熱工程のある原料の品質保持に用いられる。

ここで重要なのは、本成分の働きが「製品(処方)の酸化を防ぐ」ことであって、「肌の上で抗酸化作用を発揮する」「肌の酸化ストレスを軽減する」ことではない、という点にある。微量の本成分が果たす役割は、ボトルの中・チューブの中で油分が酸化するのを防いで製品の品質を保つことに尽きる。肌への抗酸化ケアを目的とする設計とは前提が異なる。

2.2 一般的な効能範囲

化粧品成分としてのBHTの「効能範囲」は、酸化防止による製品の品質保持に限られるのが正確な理解にあたる(出典: 化粧品成分オンライン / 花王)。

本成分は化粧品の枠組みで「肌に効く」「育毛する」「シミに効く」といった効能を標榜できる医薬部外品の有効成分ではない。本成分が処方に貢献するのは、配合された油分・有効成分・香料などの酸化劣化を防ぎ、製品の変色・変臭・効果低下を抑えることであって、これは製品全体の品質・安定性を支える働きにあたる。間接的には、本成分により配合中の他の機能性成分(酸化されやすい油分やビタミン類など)が安定に保たれることで、それらの成分が本来の働きを発揮しやすくなる、という見方もできる。

一方で、本成分単体が肌や髪に与える効能を化粧品の枠で謳うことはできない。本成分配合製品の効能訴求は、本成分とは別に配合された有効成分や、「うるおいを与える」「毛髪・皮膚をすこやかに保つ」といった化粧品の標準効能の範囲にとどまるのが正しい理解にあたる。

2.3 限界・誤解されやすい点

BHTで誤解されやすいのは、主に「効能の過大評価」と「危険性の過大評価」の両方向にある。

第一に、効能の過大評価の方向では、本成分を「抗酸化成分だから肌のエイジングケアに効く」と捉える誤解がある。本成分は確かに抗酸化(ラジカル捕捉)の働きを持つが、その対象は製品中の油分であって肌ではなく、配合量も微量にとどまる。肌の酸化ストレス対策・エイジングケアを目的とするなら、それを目的に設計・承認された成分や剤形を選ぶべきで、品質保持目的で微量配合された本成分にその効能を期待するのは過大評価にあたる(詳細は §2.1)。

第二に、危険性の過大評価の方向では、本成分が合成酸化防止剤で食品添加物としても使われることから「合成=危険」「発がん性がある」とする言説がある。しかしこれは食品としての大量経口摂取の動物試験を、皮膚に微量塗布する化粧品の文脈に取り違えたもので、用量・経路が大きく異なる(詳細は §3.4)。CIR・EUのSCCSは現行の化粧品配合濃度での安全性を認めている(出典: CIR / SCCS)。本成分は「肌に効く魔法の抗酸化成分」でも「避けるべき危険成分」でもなく、製品の品質を縁の下で保つ微量の酸化防止剤、という中立的な理解が実態に即している。

第三に、名前が紛らわしい「BHA」との混同がある。酸化防止剤のBHA(ブチルヒドロキシアニソール)、角質ケアのBHA(サリチル酸系のβ-ヒドロキシ酸)という別物が同じ「BHA」の名で呼ばれ、本成分BHTとも混同されやすい(詳細は §3.5)。

3. 安全性・注意点

3.1 既知の刺激性・アレルギー報告

BHTの皮膚刺激性・アレルギーについては、CIR(Cosmetic Ingredient Review)の安全性評価が参照点になる(出典: CIR)。CIRは各種データを検討した上で、BHTを化粧品での使用方法において安全(safe as used)と結論している。

皮膚刺激に関しては、100%原体を用いた48時間のパッチテストで約29%にわずかな皮膚刺激が報告された一方、実際の化粧品配合濃度(0.01〜0.1%)では皮膚刺激はほとんどないと評価されている(出典: 化粧品成分オンライン / CIR)。これは、高濃度の原体では刺激の可能性があるが、化粧品に実際に配合される微量では刺激リスクが小さい、という用量依存の関係を示している。感作性(アレルギー)についても、化粧品の使用濃度において重大な懸念は確立されていない。EUのSCCS(消費者安全科学委員会)も2021年に、適正な濃度での化粧品使用は安全と結論している(出典: SCCS)。

ただし、どんな成分でもアレルギーの可能性がゼロになるわけではない。ごく稀に接触皮膚炎の報告がある成分でもあり、敏感肌・アレルギー体質・トラブル既往のある人は、新しい製品を使う際にパッチテストを行うのが無難にあたる。これは本成分に限らず化粧品全般に共通する基本的な注意にあたる。

3.2 推奨配合量と過剰使用時のリスク

BHTの化粧品での配合量は、酸化防止に必要十分なごく微量にとどまるのが一般的にあたる(出典: 化粧品成分オンライン / CIR)。

化粧品では一般に0.01〜0.1%程度、海外の配合実態調査でも実際の配合濃度は高くて0.5%程度とされる。医薬部外品では薬用石けん・育毛剤・薬用口唇類・染毛剤などで配合上限1.0%が示されているが、これは上限であって実配合はずっと少量にとどまる(出典: 化粧品成分オンライン)。酸化防止剤は配合量を増やせば効果が比例して高まる類の成分ではなく、処方の酸化を抑えるのに足りる量があれば十分なため、過剰に高配合する設計上の必要性も乏しい。

使用者側の「過剰使用」という観点では、本成分は微量の品質保持剤であり、製品を多めに使ったからといって本成分由来のリスクが顕在化する設計にはなっていない。むしろ留意すべきは、本成分のような酸化防止剤を配合した製品であっても、開封後は適切に保管し、変色・変臭が出た製品の使用は避けるという基本にある。酸化防止剤は油分の酸化を遅らせるが永久に止めるわけではなく、本成分自身も身代わりに消費されていくため、製品には使用期限・開封後の使用目安があると理解しておくのが現実的にあたる。

3.3 汎用機能性単体成分の配合目的別整理

BHTを含む汎用機能性単体成分クラスタの6成分は、いずれも「肌への直接的な効能を主役で担う成分」ではなく、保湿・品質保持・収れんなどの補助的・機能的な役割を、しばしば微量配合で担う成分群にあたる。それぞれ系統も配合目的も異なるため、横並びで配合目的・実際の役割・中立解像すべき俗説を整理しておく。

成分系統主な配合目的頭皮・毛髪での実際の役割中立解像する俗説
尿素保湿・角質保湿・角質軟化(水分保持/ケラチン軟化)化粧品濃度では穏やかな保湿。高濃度の角質ケアは別剤形「尿素=強力な角質除去・かかと薬」イメージと低濃度配合の混同
アスコルビン酸抗酸化・ビタミン抗酸化/医薬部外品では美白有効成分(L-アスコルビン酸)不安定で処方が難しく誘導体が主流。原体配合は限定的「ビタミンC=シミに効く」を洗い流す製品・低濃度に過大適用
BHT酸化防止剤処方の酸化防止(品質保持)油分の劣化を防ぐ縁の下。微量。肌への効能は担わない「合成酸化防止剤=危険」という用量・経路の誤解
ピロ亜硫酸Na還元・酸化防止酸化防止・還元(パーマ/染毛補助・処方安定)処方安定・還元の補助。微量配合「亜硫酸塩=アレルギー・危険」食品経口の話との混同
タウリンアミノ酸保湿・コンディショニング・抗酸化補助NMF類似の穏やかな保湿・感触改善。微量「タウリン=栄養ドリンクで元気」経口イメージの外用混同
硫酸亜鉛無機塩(亜鉛)収れん・抗菌補助引き締め・皮脂/におい対策の補助。製品により微量「亜鉛=育毛・AGAに効く」経口サプリと外用塩の混同

この整理で見ると、BHTは酸化防止剤の系統に属し、同じく品質保持を担うピロ亜硫酸Na(還元・酸化防止)と隣り合う立ち位置にある。ただしピロ亜硫酸Naが水系・還元寄りで処方安定やパーマ・染毛の補助に使われるのに対し、BHTは油分の自動酸化を防ぐ脂溶性のフェノール系酸化防止剤という違いがある。また、この6成分に共通するのは「経口・サプリ・食品としてのイメージ」や「高濃度・別用途のイメージ」が、化粧品への微量配合に過大適用されやすいという俗説のパターンにあり、BHTの「合成酸化防止剤=危険」言説もまさに食品経口の話と化粧品微量配合の混同という同じ構図にあたる。各成分とも、配合目的(品質保持・保湿・収れん等)と肌への直接効能を切り分けて理解するのが共通の鍵になる。

3.4 「合成酸化防止剤=危険・発がん」言説の整理

BHTで最も多く語られるのが「合成酸化防止剤だから危険」「発がん性がある」という言説にある。これは否定でも擁護でもなく、用量・経路という観点で整理するのが中立的にあたる。

まず、この言説の出どころを押さえる。BHTは化粧品だけでなく食品添加物・医薬品添加物としても広く使われており、食品としての安全性研究の中で、大量に経口摂取した動物試験で肝臓・腎臓への影響が報告されたことがある(出典: CIR)。「BHTは危険・発がん性が疑われる」という話は、主にこの食品・経口摂取の文脈に由来する。一方で、化粧品としての本成分は、皮膚にごく微量(0.01〜0.1%程度)を塗布する使い方で、経口で大量に体内へ取り込むのとは用量も摂取経路も大きく異なる。

CIRはこの点を踏まえ、経口大量摂取での肝・腎への影響は化粧品でのBHTの使用範囲の外の話だとした上で、化粧品の配合濃度(0.01〜0.1%)では皮膚を透過して血流に吸収される量はごくわずかで、化粧品での使用方法において安全(safe as used)と結論している(出典: CIR)。EUのSCCSも2021年に、最新の知見に基づき適正な濃度での化粧品使用は安全と結論している(出典: SCCS)。つまり「食品として大量に食べた場合の毒性研究」と「化粧品として微量を肌に塗る場合の安全性」は別の評価軸であり、前者を根拠に後者を一律に「危険」と断ずるのは、用量・経路の混同にあたる。

他方で、「だから合成酸化防止剤は無条件に安心」とまで言い切るのも一面的にあたる。合成酸化防止剤を避けたいという選好を持つ人がいること自体は尊重されるべきで、敏感肌で不安があれば本成分不使用の製品を選ぶ、パッチテストをするといった選択は合理的にあたる。ただしその判断は「合成だから危険」という根拠の弱いラベルではなく、自分の肌の反応や好みに基づくのが実態に即している。なお、合成か天然かと安全性は直接結びつくものではなく、天然由来の成分にもアレルギーや刺激のリスクはある。本成分については「現行の化粧品配合濃度での安全性評価は確立しているが、選好として避けることもできる」という二段構えで捉えるのが中立的にあたる。

3.5 BHT・BHA・サリチル酸系BHAの名称混同の整理

BHTをめぐってもう1つ整理しておきたいのが、紛らわしい「BHA」との名称混同にある。世の中で「BHA」と呼ばれるものには、BHTと混同されやすい全くの別物が複数あり、ここを切り分けないと議論がかみ合わなくなる。

整理すると、紛らわしい名称は次の3つにあたる。1つ目が本成分のBHT(ブチルヒドロキシトルエン/ジブチルヒドロキシトルエン)で、油分の酸化を防ぐ合成酸化防止剤。2つ目がBHA(ブチルヒドロキシアニソール)で、これはBHTと化学構造が類似した、やはり合成の酸化防止剤にあたる。BHTとBHAはどちらも食品・医薬品・化粧品で酸化防止・品質保持の目的で使われる近縁の成分で、用途も似ている。3つ目が、角質ケアの文脈で言われるBHA(β-ヒドロキシ酸=Beta Hydroxy Acid)で、これはサリチル酸に代表される角質ケア・ピーリング成分の総称にあたる。AHA(α-ヒドロキシ酸=グリコール酸・乳酸など)と対で語られるあのBHAで、酸化防止剤のBHA・BHTとは化学的に全くの別物にあたる。

つまり「BHA」という3文字が、酸化防止剤としてのBHA(ブチルヒドロキシアニソール)と、角質ケア成分としてのBHA(β-ヒドロキシ酸)という、用途も化学も全く異なる2つを指して使われており、さらにそのどちらも本成分BHTと1文字違いで混同される、という三つ巴の名称混乱が起きている。本成分BHTについて調べる際は、「酸化防止剤としてのBHT・BHA」と「角質ケア成分としてのBHA」を取り違えていないかを確認すると、情報を正しく読み解ける。本記事が扱うBHTは、あくまで油分の酸化を防ぐ品質保持の合成酸化防止剤にあたる。

4. 相性のよい成分・組み合わせ

4.1 併用される成分

BHTは品質保持を担う酸化防止剤のため、「酸化されやすい成分」と一緒に配合されることで本領を発揮する成分にあたる。

最も典型的なのが、不飽和脂肪酸を多く含む酸化されやすい植物油・油脂との併用にある。たとえばアルガンオイルスクワランをはじめとする油性成分や、月見草油など酸化安定性の低い植物油を含む処方では、油分の酸敗を防ぐために本成分のような酸化防止剤が併用される。本成分は脂溶性で熱に安定なため、こうした油分の品質保持に適している(出典: 化粧品成分オンライン)。

同じ酸化防止剤であるトコフェロール(ビタミンE)とは、役割が近く併用されることもある。トコフェロールが天然系の酸化防止剤であるのに対し、本成分は合成で熱安定性が高いという違いがあり、処方の設計意図に応じて使い分けられる。複数の酸化防止剤を組み合わせることで、より幅広い条件で油分の酸化を抑える設計もある。また、同じく品質保持に関わる成分として、水系の酸化防止・処方安定を担うピロ亜硫酸Na(亜硫酸Naと同系統)などと役割を分担して処方全体の安定性を支えることもある。

4.2 注意したい組合せ

BHTについて「この成分と一緒だと危険」という明確な配合上の禁忌は、化粧品の通常使用の範囲では特に知られていない(出典: 化粧品成分オンライン / CIR)。本成分は微量の品質保持剤であり、他の成分の働きを妨げたり、特定の成分と反応して有害物質を生んだりする懸念が広く指摘されている成分ではない。

実用上の留意点としては、本成分が配合されていても油分の酸化を完全に止められるわけではないという点にある。本成分自身が身代わりに消費されていくため、開封後に長期間放置した製品では酸化防止効果が次第に失われ、油分の変色・変臭が進むことがある。これは本成分の限界というより酸化防止剤全般の性質で、開封後は適切に保管し、変色・変臭が出た製品の使用は避けるのが基本にあたる。また、合成酸化防止剤を避けたい選好がある場合は、本成分不使用でトコフェロール等の天然系酸化防止剤を使う製品を選ぶ、という選択肢もある(詳細は §3.4)。

5. よくある質問(FAQ)

Q1. BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)とはどんな成分ですか?

化粧品・食品・医薬品で広く使われる代表的な合成の酸化防止剤にあたります(出典: 化粧品成分オンライン)。化粧品表示名は略称の「BHT」、医薬部外品表示名は「ジブチルヒドロキシトルエン」、INCI名もBHTです。化粧品での役割は、処方中の酸化されやすい油分や有効成分の劣化(変色・変臭)を防いで製品の品質を保つことで、配合量はおおむね0.01〜0.1%とごく微量です。肌や髪への直接的な効能を担う成分ではなく、製品の品質保持を支える縁の下の成分です。

Q2. BHTは肌や髪に効果がありますか?

肌や髪に直接的な効能を発揮する成分ではありません(出典: 化粧品成分オンライン)。本成分は抗酸化(ラジカル捕捉)の働きを持ちますが、その対象は製品中の油分であって肌ではなく、配合量も微量です。「抗酸化成分だから肌のエイジングケアに効く」と捉えるのは過大評価で、肌の酸化ストレス対策が目的なら、それを目的に設計・承認された成分や剤形を選ぶのが前提です。本成分はあくまで製品の酸化を防いで品質を保つ役割と理解するのが正確です。

Q3. BHTは危険・発がん性があると聞きましたが本当ですか?

「危険・発がん性」という話は、主にBHTを食品として大量に経口摂取した動物試験で肝臓・腎臓への影響が報告されたことに由来します(出典: CIR)。これは皮膚に微量(0.01〜0.1%程度)を塗布する化粧品とは用量・経路が大きく異なる別の議論です。CIRは化粧品での使用方法において安全(safe as used)と結論し、EUのSCCSも2021年に適正な濃度での化粧品使用は安全と結論しています(出典: CIR / SCCS)。一方で、合成酸化防止剤を避けたいという選好で本成分不使用の製品を選ぶことも合理的です。「現行の化粧品配合濃度では安全評価が確立しているが、選好として避けることもできる」と二段構えで捉えるのが中立的です。

Q4. BHTとBHAは何が違うのですか?

紛らわしい「BHA」には2つあり、まずそれを区別する必要があります(出典: 化粧品成分の解析サイト各種)。1つは酸化防止剤のBHA(ブチルヒドロキシアニソール)で、これはBHTと化学構造が類似した近縁の合成酸化防止剤で、用途も似ています。もう1つは角質ケアのBHA(β-ヒドロキシ酸=サリチル酸系)で、これはAHAと対で語られるピーリング成分の総称であり、酸化防止剤のBHA・BHTとは化学的に全くの別物です。本記事のBHTは油分の酸化を防ぐ酸化防止剤で、角質ケアのBHAとは無関係です(詳細は §3.5)。

Q5. BHT配合の整髪料・ヘアオイルは避けたほうがいいですか?

避けなければならない理由は、現行の安全性評価からは特に見当たりません(出典: CIR / SCCS)。むしろ油分の多い整髪料・ヘアオイルに本成分のような酸化防止剤が入っているのは、製品の酸化(変色・変臭・べたつき)を防ぐための合理的な設計でもあります。本成分は微量配合で安全性評価も確立しているため、通常は気にしすぎる必要はありません。ただし、合成酸化防止剤を避けたい選好があれば、本成分不使用でトコフェロール等の天然系酸化防止剤を使う製品を選ぶ選択肢もあります。

Q6. BHTは敏感肌でも使えますか?

化粧品の実際の配合濃度(0.01〜0.1%)では皮膚刺激はほとんどないと評価されており、CIRも化粧品での使用を安全と結論しています(出典: 化粧品成分オンライン / CIR)。ただし、どんな成分でもアレルギーの可能性はゼロではなく、ごく稀に接触皮膚炎の報告がある成分でもあります。敏感肌・アレルギー体質・トラブル既往のある人は、新しい製品を使う前にパッチテストを行うのが無難です。これは本成分に限らず化粧品全般に共通する基本的な注意です。

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